「スズキ…ごはん作って…」
「スズキ…お風呂入らせて…」
「スズキ…お着替えできない…」
体長1メートルちょっとの妙ちきりんなナマモノ達が、右から左から服を引っ張ってくる。
こいつらはたぬき。最近巷を賑わせている、妖精のような存在だ。
「スズキ…銀紙で鶴作って…」
世間では誰もが諸手を挙げてこいつらを愛で、果てにはテレビCMにまで出演させている有様だが、私はもはやこれらを可愛い存在だと思えなくなっていた。
「スズキ…Switch欲しい…みんなで遊べるくらいたくさん…」
要求がとにかく多く、しかも際限がないのだ。ゆるふわもちもちの愛らしい見た目も、十匹二十匹と増えれば段々何も感じなくなってくる。
初めは一匹だけだった。どこからか家の中に入ってきて、仕事帰りの私にごはんをねだってきた。
その頃の私はテレビで知ったたぬきの存在に夢見ていたから、二つ返事でそれはもう豪華な食事をご馳走してあげた。
次の日には二匹になっていた。聞けば友達を呼んだらしい。私は歓喜して二匹のたぬきの願いを叶えた。
21/08/01(日)22:49:22 ID:PtSv.xJU
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