『ア、... のスレッド詳細
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21/08/01(日)13:52:39 No.829944739
『ア、アァ、ァァァ……、ァ…………』 私の周囲に蜂団子のように群がる悪霊が、雨に濡れて溶けていく。 さながら雨に濡れて雪だるまが形を失っていくかのように。 「高天原に坐まし坐まして、天と地に御働きを……」 私はそれを見ながら手を差し伸べる事をせず、否、差し伸べられず、再び祝詞と舞いを最初からやり直した。 全く、彼も意地悪だ。迂闊に触れれば命が危ない事は分かっていても、私は彼らを助けたいと思ってしまった。それをさせないために、こうして巫女としての働きをさせているのだろう。 分かってる、彼らを救う術は無い。彼らはずっと昔に亡くなったロクデナシ。私のやるべき事は、悪霊が消えたら彼と指揮官を交代して怪異を倒す手伝いをする事だけ。
1 21/08/01(日)13:53:02 No.829944874
『リッちゃんはさ、悪霊って感じの成り立ち知ってる?』 『まず「悪」。これは「亜」と「心」だ。それぞれ前者が墓石または墓の土台、後者はそのまま心臓。2つ合わせると墓前に臨んだ時の心情、心につかえがあるって意味になるんだ』 『同時に「悪」には「突出した」「力強い」という意味もあるんだ。ここまではOK?』 『そして「霊」だけど、この感じは元々「靈」と書く。「雨」と「口」3つと「巫」だね』 『あ、こっちは勘付いた? そう、これは雨ごいをする巫女さんを現した形成文字なんだよ。後に簡略化されて「霊」となり、「神の心」という意味を経て、今では「肉体を支配する精神的なモノ」という意味になっている』 『だから「悪霊」を古来の意味を使って表現すると「墓前で雨ごいをする巫女」ってワケだね』
2 21/08/01(日)13:53:44 No.829945126
「フジ君、指揮ありがと! こっからはバトンタッチ! 誰か彼と重傷者に治療を!」 「りょ……う、かい……ッ」 「意識があるけど戦えない人はこっちに来て! バックで控えてるサーヴァントは前へ! この神気タップリの雨で怪異達も弱まってる! 今なら倒せるハズだよ!」 フラフラの足で立っている彼を支えつつ、巫女服を脱いでサーヴァントの皆に指示を出していく。悔しいけど、彼の戦闘指示は的確だった。私も同じような指示をしただろうし、舌を巻くような指示もあった。終わったら意見交換の1つでもしたいかもね。 瀕死のモルガン様とバーヴァン・シーは下がらせ、ダディと俵さんとアキレウスも控えに。代わりに待機班の皆に出て貰う。これで戦線は維持できる。 「良いよ、雨で溶けた悪霊が地下に流れて回路を汚染してる! 今なら何とかできる! A班は最前線で状況を維持! B班は呼吸整えて次の攻撃スタンバイ、準備できたらA班と交代して! D班はB班に全バフ集中! C班は波状攻撃準備、一気に薙ぎ払うよ!」 「「「イエス・マスター!!」」」
3 21/08/01(日)13:54:50 No.829945527
『さて魔術ってのは、場を作れれば後は概念と、そして魔力の量の勝負になる。当然、後者じゃ俺らに勝ち目は無い』 『だから、前者で勝負する。バーヴァン・シーの「陣地作成A」、モルガンの「陣地作成B」と「道具作成EX」、卑弥呼の「陣地作成A」、エレシュキガルの「陣地作成A+」、その他諸々。これを使ってこっちに有利な土地を作る』 『とはいえあんま極端のだとやっぱり悪霊が勝つ。だから悪霊は悪霊のままに勝つしかない。そこでさっきの「墓前で雨ごいをする巫女」の概念を使う』 『その陣地の中では、悪霊は君自身を指す言葉になる。そこでは意味の違う悪霊は生存できない。概念同士が食い合えば、後は弱い方、つまり元々いた悪霊が消える。消えた奴らは土地の魔術回路を使って復活し、再攻撃してくる』 『だが君は雨ごいをしている。そこで雨が降れば、「墓前で雨ごいをする巫女」の概念はより強化され、また同時に君に教えた龍神祝詞も力を帯びる。霧散した悪霊の魔力は雨によって大地に降り注ぎ、土中の回路を穢す』 『更に雨を降らせるのは伊吹童子と卑弥呼様、神気に満ちた雨だ。不死だけが取り得の怪異が陣地内に入ったら、これに抗う術なんてないよ』
4 21/08/01(日)13:55:01 No.829945597
目に見えて怪異達は弱体化していく。 両断された犬の怪異は復活できず、焼かれた目玉の怪異は不快な臭いと共に沈黙。ゾンビはその場で崩れ落ち、鬼もどきは断末魔の悲鳴と共に斃れた。 「悪霊は!?」 「白鳥礼装のルーンで見てるけど、回路に染みついて次第に薄くなってってる。作戦成功だ」 致命傷を負ってる人が濁流に吞まれれば死んじゃうように、悪霊も強すぎる土地の魔術回路に魔力の粒として呑み込まれようとしているらしい。 悪霊の持っていた穢れはそのまま大地に反映され、土着の怪異に悪い影響を与えている。一方でカルデアから来た私達には何の影響も無い。概念で勝負する陣地だからなのか、土地という概念そのものが汚染されたようだ。 当然だろう、何せ100年1000年単位の魔術の集大成という異物を突っ込んでやったのだ。土地のサイクルやシステムにエラーが出て貰わないと困る。
5 21/08/01(日)13:55:19 No.829945720
怪異は目に見えて減っていく。悪霊も殆ど消え、後はほんの一欠片くらいしか残ってない。 『ワガ、ヒガン……、ワレラノ、コンゲン……、アト、スコシ、デ……』 「トドメは、お前が刺してくれ」 「フジ君?」 「右腕がもう上がらない、戦線に参加するために無理しすぎた。おっと」 ガゥンッ!と重めの音を立て、彼が盾ごとよろける。悪霊が最後の力で石を飛ばしたようだ。 「……うん」 ワルキューレの光の槍を受け取り、悪霊の残滓を眼前に振り被る。 ごめんなさい、貴方達の悲願を壊してしまって。でもそれを放置したら、私達の未来が駄目になっちゃう。 だから言い訳はしない、私達の未来と野望と世界のために、ここで死んで下さい。 「――真名解放、『終末幻想・少女降臨』もどき」 刹那だけ逡巡して振り下ろした槍の穂先は、過たず悪霊の破片を砕いて水に流し。 この戦いはそっと幕を閉じた。
6 21/08/01(日)13:57:01 No.829946290
【Notice】 特異点の悪霊を倒した 聖杯を回収してカルデアに帰ろう