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2021-08-12のスレッド一覧 5788件

昭和20年8月15日、我が家に残った衣装は弁慶一ツきりであった。父は徴兵から帰るなり軍服を弁慶の衣装に着替えて稽古をはじめたというからただ者ではない。 役者はほとんどが徴兵され、それなりの数戻った。一人戻るごとに私と弟は鎌やら錐やら、GHQに取られずに済んだ刃物を母に持たされた。ぴるす君を狩るのである。弟は正統派好みでもっぱら芋毛の山に駆けたようだが、私は変わり種好きであの頃ノブと呼ばれたあたり(現在の荏原中延)が好きだった。 狩ったぴるす君を母に渡すと、大きな裁ち鋏で細切れにして火を灯す。これを夜なべの共に古着を繕い衣装を作るのである。 あの夏最後の入道雲もその頃だ。急な夕立に、稽古を終えた父たちが我が家に駆け込んできた。ここも私と弟の出番で、古新聞を丸めて各々の靴に詰め込み湿気を取っておく。物のない頃だから、その後もまた取り出して干しておき使い回すのだが、それを見た父が「馬鹿者ッ」と叫んでぴるす君を真っ二ツにしてしまった。 全く身に覚えがない、という顔が分かったのだろう、父が無言で新聞を指差すと、湿気を吸いに吸ったり御真影が坐していた。 積乱雲の記憶は父の怒声とともにある。

21/08/12(木)21:47:18

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