虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/08/12(木)23:30:02 No.834276381

    前回までです sp93400.txt

    1 21/08/12(木)23:30:18 No.834276516

    もうこれで何度目のため息だろうか。 考えれば、シンボリルドルフとハルウララが入れ替わってしまったあの日から、自分の中の平穏はなくなってしまったのかもしれない。エアグルーヴはそう考えると、またもため息をついてしまった。 手に取るタブレット、その画面にはシンボリルドルフ─ハルウララのトレーニング結果が表示されていた。 端的に言えば、まさにデビュー前の未熟なウマ娘のような数値だった。ランニングのタイムも、自重トレーニングの回数も、はっきり言ってプレオープンのレースに出場する水準にすら至っていない。 無論、中身のハルウララがまだメイクデビューしていない事を考えると当然の結果ではある。だが、宝塚記念でトウカイテイオーを倒すためにはまるで時間も実力も足りなかった。 「エアグルーヴ、タブレットいいか?」 すっと伸びた手がエアグルーヴの視界に入る。 手の主は、シンボリルドルフのトレーナーのであった。目線は昨日と同じくグラウンドを走るシンボリルドルフに向けたまま、手だけでタブレットを催促していた。

    2 21/08/12(木)23:30:39 No.834276693

    その手にタブレットを渡すと、そのままトレーナーの目の前まで移動し何かを打ち込まれた。その間もずっとシンボリルドルフから目を離すことは無かった。 「…トレーナー、流石にこのままでは…」 「エアグルーヴの言いたいことは分かっているつもりだ。だが、まあ…色々と考えはあるさ。とにかく今はルドルフの現状を正確に把握したいんだ。」 なるほど、伊達に七冠バを育て上げたわけではない。その目に宿っていたのは諦めでも不安でもなく、勝ちへの執念だった。 「…なるほど。失礼しました。私が口を挟むことではありませんでした。」 「いや、そんなことはない。エアグルーヴのサポートには助かっているよ。君のようなサブトレーナーがいてくれれば…なんてな。」 ハッハッハ、とルドルフトレーナーが軽く笑った。 かつん、かつんと地面を硬いものが突く音がする。 いち早くそれに気づいたエアグルーヴが振り向くと、ぎょっとして小さく叫んだ。

    3 21/08/12(木)23:30:57 No.834276851

    「な…ブライアン!?貴様、どうした…その杖は?」 「フン…ちょっと野暮用でな。」 よたつく足元を木の棒を杖代わりにして、何とかエアグルーヴの元にナリタブライアンがやってくる。 明らかに様子のおかしいナリタブライアンの様子に、エアグルーヴは動揺した。 「…貴様、それはまさか昨日の用事とやらが原因なのか?」 「その件について話がある。…おい、トレーナー。エアグルーヴを借りていくぞ。」 ルドルフトレーナーは前を向いたまま肯定の意味で手を振った。 ナリタブライアンがエアグルーヴの手を取ると、グラウンドの外へ引っ張っていった。

    4 21/08/12(木)23:31:08 No.834276954

    ~~~ 【体育館裏】 「…それで、何のためにここまで来たんだ?」 エアグルーヴがじっとナリタブライアンを見つめる。 おぼつかない足取りへの心配と、勝手に帰った昨日の行動の説明を求める感情が入り交ざったような顔だった。 「実は昨日、テイオーのトレーナーが妙な男と会うところを見たんだ。」 「妙な男…?」 「距離が遠いからはっきりとは見えないだろうが、動画もある。」 ジャージのポケットから取り出したスマートフォンを操作し、動画を再生してエアグルーヴの目の前に突き出した。それから、動画を再生しながら昨日の出来事を説明した。 テイオートレーナーが黒服の男にドーピングを強いられていたこと。テイオートレーナーを守るために黒服の男と戦ったこと。何とか撃退はしたものの、今度はテイオートレーナーに警察への連絡を止めてほしいと懇願されたこと。

    5 21/08/12(木)23:31:31 No.834277167

    「…………貴様の向こう見ずな行動には呆れ果てるぞ。」 エアグルーヴのため息カウンターがまた1つ加算される。 ナリタブライアンの行為は100%正しかったわけではない。が、間違ってもいなかった。部分的には。 「だが、テイオートレーナーが警察に黙っていて欲しいなんて…妙な話だ。」 「ああ。普通なら被害者だからな。何か警察に話せない訳でもあるのか…。」 「あれっ!!ぶらいあんちゃんもいる~!!」 後ろからいきなりの声に振り向くと、汗まみれのシンボリルドルフがペットボトルを片手にニコニコとそこに立っていた。さらに、そばにはハルウララ─シンボリルドルフもいた。 鞄を持ったままで、恐らく授業が終わってからすぐにグラウンドに向かってきたのだろう。

    6 21/08/12(木)23:31:55 No.834277360

    「ウララ、さっきまでトレーニングしていたんじゃないのか?」 「とれーなーがきゅうけいだって!で、るどるふちゃんもちょうどきたの!さっき、ふたりともここにむかっていたの、はしりながらみてたの!」 「うむ、だから私もウララと一緒に来たんだ。ここで2人は何をしているんだ?」 「…別に、会長には関係ない話だ。」 ナリタブライアンがスマートフォンを仕舞おうとする。その瞬間、ハルウララの表情から笑みが消えた。 「…!? な、なんでぶらいあんちゃんがそのひと…!?」 「…何?お前、この男を知っているのか?」 「うん…まえにごはんごちそうしてくれたひと、そのひとだよ。」 「それは本当か?」 「まちがいないよ。なんかいもあったし…。」

    7 21/08/12(木)23:32:21 No.834277544

    怯える表情のシンボリルドルフを見る限り、嘘を言っている可能性は限りなく低いとナリタブライアンは感じた。 動画に移る黒服の男の顔を拡大し、もう一度じっと見つめた。 (ウララに接触した男が、今度はテイオーのトレーナーに…?なんだ、この妙な感じは?) 奇妙な一致点。そして、それは更に広がることになる。 「…!?この男…まさか…!」 「会長も見たことあるのか!?」 「ああ…あれは感謝祭で模擬レース開始前にウララに会おうとパドックを歩いていた時だった。例の地方のウマ娘と共に、この男が何かを話していたんだ。」 「なんだって…!?」 シンボリルドルフの靴を入れ替えたウマ娘。そのウマ娘にすらこの男の影はあった。 考えてみれば、ここ数か月の間に起こったあらゆる事件に、黒服の男の姿が見え隠れしていたことになる。

    8 21/08/12(木)23:32:38 No.834277683

    「まさか…全ての黒幕はこいつだっていうのか?昨日の事も…」 「昨日?なにがあったんだ、ブライアン。」 まだ話を知らないハルウララに、ナリタブライアンは面倒だと思いつつもエアグルーヴへ話した通りに説明した。 「…つまり、この男がウララを罠に嵌め、更にテイオートレーナーを強請っている、ということか?」 「断言出来んが…多分そんなところだろう。」 ハルウララはわなわなと震え始め、拳がぎゅっと握りしめられる。 その表情には、見た事も無いような怒りが現れていた。 「もし、本当にこの男が全てをやったとしたなら…私はこの男を許せない…!!ウマ娘を、自分以外の人間を道具の様にしか見なさない男を野放しにはできないッ!!」 溢れ出る怒りに、ナリタブライアンとエアグルーヴは圧倒されていた。シンボリルドルフに関しては完全に怯え切っていた。

    9 21/08/12(木)23:33:01 No.834277904

    「か、会長!ブライアンも言っていた通り、まだ証拠がありません!決めつけるにはまだ…」 「エアグルーヴ!だからといって野放しにするつもりか!それならば、この男を捕まえて聞き出してやろうじゃないか…!!」 「聞き出す、って…おい会長、どうやってこの男を捕まえるつもりだ!?手掛かりはこの動画しかないんだぞ!」 「ブライアン!それならば、テイオートレーナーに聞いてみれば良いじゃないか!」 「それは…多分無理だ。あそこまで警察への関与を嫌っていたんだ、仮に情報を持っていたとしても私達に流してくれるとは到底思えない。」 「クッ…ならどうすれば…いや、アレがあるか!」 ハルウララが何かを考え突くと、急に駆け出した。 エアグルーヴとナリタブライアンも慌てて後を追いかけ始めた。 「み、みんな~!ウララはどーすればいいのーっ!?」 「ウララはトレーニングだッ!!」 ナリタブライアンが飛ばした檄が空にこだましたまま、3人はそのまま駆け抜けていった。

    10 21/08/12(木)23:33:26 No.834278114

    ~~~ 【生徒会室】 「急に駆け出してどこに行くのかと思ったら…なんで生徒会室なんだ?」 ナリタブライアンの問いかけを無視しながら、ハルウララはカタカタとパソコンのキーボードを叩く。パスワードを入力してログインすると、あるソフトウェアを起動した。 「実はトレセン学園には人事管理用のデータベースが存在するんだ。そこには現在在籍しているウマ娘とトレーナーの情報が全て登録されている。当然、中央だけでなく地方の情報もここに入っているという訳だ。」 エンターキーを叩くと、検索用の画面が表示される。 検索条件がチェックボックスで表示され、条件に一致するウマ娘やトレーナーが表示されるエリアがあった。 「本来は一部の権限を持つ教員しか使えないが…実は私にもその権限があるんだ。とはいっても更新と削除は出来ず、リードオンリーだがね。」

    11 21/08/12(木)23:33:48 No.834278304

    得意そうな顔のハルウララとは対照的に、やや不安げな顔のエアグルーヴが問う。 「会長…このソフトウェアを生徒会の業務以外で使用するのは…その…職権乱用では?」 「…正直に言えば、ギリギリグレーというところだろうな。とはいえ、今はそんなことを言ってはいられない。」 どこら辺がギリギリなのかよく分からないと言わんばかりに、ナリタブライアンがフンと鼻を鳴らした。 「で、会長。どうやって検索するんだ?言っておくがこの男の名前は分からないんだぞ?」 「検索するのはその男じゃない。あの感謝祭で男と話していたウマ娘の方だ。」 地方のウマ娘の名前を検索欄に打ち込み、検索ボタンを押下する。数秒すると、顔写真付きでウマ娘の情報が表示された。 「このデータベースにはウマ娘の情報が全て載ってある。氏名、生年月日、出身地、入学年…そして、担当トレーナー名も。」 「…!そうか、その手があったか!」

    12 21/08/12(木)23:34:14 No.834278527

    エアグルーヴがポンと手を叩く。 マウスポインタを「担当トレーナー」の欄に移動しクリックする。数秒すると、トレーナーのデータが顔写真と共に表示された。だが。 「…おい、こいつ誰だ?この動画の男とは似ても似つかないぞ。」 表示された写真は、全くの別人のものだった。男であること以外、どこも一致していなかった。

    13 21/08/12(木)23:34:26 No.834278612

    「少なくともデータベース的にはこの男があの地方のウマ娘の本当のトレーナーだという事か…。それならば、直接確認するしかない。」 「直接確認するって、どういうことだ。」 「この男の住所…F県K市、ここだな。直接会って情報を掴むんだ。」 「本気か!?」 「当然だ。今まで黒服の男には何度も後手を打ってきた。今度はこちらが先手を打つ番だ。そのためには、もっともっとこの男の情報が欲しい。」 ハルウララの目には闘志が宿っていた。 未知の脅威への反撃の狼煙が、遂に上がり始める。

    14 21/08/12(木)23:34:44 [s] No.834278740

    次回に続く

    15 21/08/12(木)23:42:57 No.834282833

    毎回毎回気になるヒキをしやがって…

    16 21/08/12(木)23:47:27 No.834284960

    あの男は一体誰なんだ...?