21/08/12(木)12:30:35 「気持... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1628739035501.jpg 21/08/12(木)12:30:35 No.834033161
「気持ちいいな……」 「そうだな」 僅かに底面を擦る音がして、彼女の体が深々と胸に沈み込む。 湯面に広がる艶やかな黒髪が、否が応にも彼女の女性性を掻き立てる。 くるりとすぐ下で揺れる尻尾は、果たしてどのような感情の発露か。 「風呂に入りに行こう」 彼女がこういった息抜きを好むことは知っていた。だから、いつものそれだと安請け合いしたのは、間違いではなかっただろう。 そうして彼女に案内されるがままに車を走らせれば、到着したのは何時ぞやのそれと比肩するであろう立派な建屋。
1 21/08/12(木)12:30:51 No.834033240
「予約していた——」 そうして気がつけば、質素ながらも上品さを感じさせる部屋に荷物を降ろしている。 「嫌だったか?」 「いや、不思議な気分なだけだよ」 「そうか、なら良かった」 全く普段と同じ素振り、全く普段と同じ態度の彼女からは、その真意を読み取ることはできない。 本当に、ただいい風呂に入りにきただけなのか。 ふわりと揺れる尻尾が、幾分楽し気であった。 一心地ついてから部屋を検分すれば、果たして備え付けてあったのはそれなりの広さの露天風呂。 一人では贅沢にすぎ、3人も入れば手狭といったところだろうか。 「私は風呂に行ってくる」 後ろからの声に振り返れば、着替えらしきものを小脇に抱えた彼女の姿。 ずっとここにいてもしようがない、慌ててこちらも用意を済ませて廊下に出ると、ドアの脇で待っていた彼女がくすりと笑った。
2 21/08/12(木)12:31:08 No.834033332
「なんだ、別に急がなくてもよかったのに」 「一人で行っててもよかったのに」 「そう言われるのは、流石に心外だな」 適当な事を喋りながら、大浴場の入り口に到着する。 時間など決めはしない、どうせ部屋に戻れば会えるのだから。 手を振って暖簾を潜り、いざ浄土に。 ああ、いい気分だった。 別れて1時間もしない程度だろうか、ゆっくりと体を温め、再び入り口に戻ってくる。 暖簾をくぐるとそこでは、まるで葉巻でも燻らせているかのように牛乳の瓶を遊ばせる彼女がいた。 「わざわざ待っていてくれたのか」 「随分と長湯だったな」 小さく息を吐き、彼女が立ち上がる。 いこう、そう言って差し出された手のひらは、普段より幾分赤みが差し、しっとりとした触感を讃えていた。
3 21/08/12(木)12:31:24 No.834033433
我が身の頬が熱い。 そんな錯覚を覚えるのは、湯上がりだからか、はたまた浴衣を纏い少女から大人になる寸前のアンビバレントな色香を醸し出す彼女のためか、今の私には断言出来なかった。 互いに元より口数が多い方ではないが、殊更に言葉も少なく部屋まで戻っていく。 さりとてディスコミュニケーションの懸念を抱くこともないのは、繋いだ手を通して互いの気持ちがぼんやり伝わる程度には築き上げてきた信頼の賜物か。 部屋までの長くはない道のりを、けれど一瞬で消費してしまうのも勿体無く、ゆっくりゆっくりと歩いていった。 部屋につけば自然とその手は離れ、短い逢瀬は終わりを告げる。
4 21/08/12(木)12:31:40 No.834033509
手のひら残る熱がじんわりと消えゆく事に一抹の寂しさを覚える頃に、先んじて奥に入った彼女の声が耳朶に届く。 「おぉ、これはすごいな……」 遅れて鼻が、その先に素晴らしいものがある事を伝えてくれる。 数歩も歩けば視界に広がるのは贅を尽くしたかのような普段とは数段格が違う料理の数々。 一方が随分と量が多いのは、彼女のものだろう。 「これ、いくらしたんだ?」 口から出るのがその程度の言葉のあたり、私は心底小根が小市民らしい。 呆れたような口ぶりで彼女が続ける。 「なんだ、そんな事を気にしていたのか。普段の礼とでも思ってくれればいい」 なるほど彼女の方が私よりよほど稼いでいるのは明らかである。 僅かばかりのプライドが、卑屈な心がそれを断ろうとしてしまうが、それは却って失礼であろう。 それがわかる程度には、大人であった。
5 21/08/12(木)12:31:58 No.834033592
「「いただきます」」 手を合わせてから、料理の山に手をつける。 一品一品が見た目に違わず丁寧に作られていることは味からも明らかで、恥ずかしながら箸を動かす手が止まらない。 ふと顔を上げると、これまた嬉しそうな顔で、耳と尻尾をぴこぴことさせながら舌鼓を打つ彼女が映る。 なんだかそれが嬉しくて箸を休めて彼女を眺めていると、不意に目が合う。 それがなんだか面映くて、再び意識は料理へと戻っていった。 30分もする頃には、机の上はすっかり綺麗になっている。 いかなる手段をもってしてかそれを知り、速やかに中居の手によって片付けられた後には、ただ食後の幸せな倦怠感が漂っていた。 「美味しかったよ、ごちそうさま」 「ん……それなら良かった」 結局これは、彼女なりの私への慰安だったのだろうか。 血流が減り、ぼんやりした頭でそんな事を考えていると、また彼女が立ち上がる。
6 21/08/12(木)12:32:15 No.834033685
「もう一度風呂にはいってくる」 「そうか、いってらっしゃい」 流石に動く気力も湧かず、声だけで彼女を見送る。 ああ、そういえば部屋に備え付けもあった。寝る前に汗くらい流そうか。 重い腰をどうにか押し上げ、乱雑に浴衣をそこらに放り投げて湯船に向かう。 ざぶりと勢いよく浸かれば、それは大浴場に併設の露天風呂の縮小版だというのに、また格別の喜びを私に与えてくれた。 5分か、10分か、ぼんやりと月を眺めつつ思考を散らしていると、不意に部屋に繋がる扉の開く音が聞こえる。 彼女が戻ってきて、入るつもりだろうか。鉢合わせてはまずいと声を上げる。 「今入ってる!すぐ出るから!」 返事はないが、了解してくれたであろう。そうして振り向けば、タオルを巻いた彼女がぺたぺたと足音を立てながらこちらへくるところだった。
7 21/08/12(木)12:32:32 No.834033772
「なんだ、普段から私の水着くらい見てるじゃないか。折角だから、このまま一緒にどうだ」 提案の体ではあったが、これは言外にそうしたい意思を込めているものだと判断できた。 そうして視線を自身の足先に戻すと、ちゃぷりと彼女が横に座る。 「ん……月も綺麗じゃないか。こういうのも悪くないな……」 一つ深く息を吐き、彼女が肩まで身を沈める。 恥ずかしながら少年のように経験の浅い身としては、彼女の一挙一投足の全てに目を奪われてしまい、とてもさっきまでのように景色を眺める余裕もない。 そんな私を知ってか知らずか、彼女はくすりと笑い、肩を寄せてくる。 穏やかに揺れる水面の下、すっと手を差し出すと、向こうから伸びてきた指がほんのりと重なり合い、湯の濁りも相まって輪郭が溶け合っていく。
8 21/08/12(木)12:32:52 No.834033879
「気持ちいいな……」 「そうだな」 僅かに底面を擦る音がして、彼女の体が深々と私の胸に沈み込む。 湯面に広がる艶やかな黒髪が、否が応にも彼女の女性性を掻き立てる。 くるりとすぐ下で揺れる尻尾は、果たしてどのような感情の発露だろうか。 立場や、これまでの、これからの関係性、様々な想いが去来し、いつしか私は彼女を抱きしめていた。 タオル越しの体から僅かに伝わる震えが、次第に落ち着いていく。 「なんだ、ようやく手を出してくれる気になったのか」 おかしそうに微笑む彼女に、腕に力を入れる事で返事をした。
9 21/08/12(木)12:33:07 No.834033938
ああ、私は狼どころか狐に嵌められてしまったのだ。その事に漸く気づいたものの、不思議と悪い気はしなかった。 何よりも、私自身が彼女を好いているのだから。 気がつけば彼女はその姿勢のまま顔だけをこちらに向けており、その唇は月光を受けて誘うように鈍い輝きを放っている。 なんと、蠱惑的な誘蛾灯だろう。いい加減、甲斐性というものを見せる時であろうか。 そのまま吸い寄せられるがまま、自らの顔を寄せ——やがて、水面に影が重なりあった。 「すっかりテープも剥がれてしまったな……今度からはアンタが、つけてくれ」 「ああ……これからも、ずっと」
10 21/08/12(木)12:33:32 No.834034063
ウワーッ!しっとり!
11 <a href="mailto:sage">21/08/12(木)12:33:44</a> [sage] No.834034124
みたいなブライアンがもっとあってもいいと思うんだが、貴様は?
12 21/08/12(木)12:34:34 No.834034366
貴様!?
13 21/08/12(木)12:35:47 No.834034730
ここでも野菜はナチュラルに押し付けてるんだろうな…
14 21/08/12(木)12:35:58 No.834034787
>みたいなブライアンがもっとあってもいいと思うんだが、貴様は? 全面的に同意する
15 21/08/12(木)12:36:39 No.834035006
ブライアンとトレーナーはこのくらいしっとりと自然な距離感でくっつくの実に解釈一致です でもブライアンが予約してたりトレーナーが意外と初心だったりで双方初々しくていいですね
16 21/08/12(木)12:36:47 No.834035044
アグネスデジタルはいいと思います
17 21/08/12(木)12:37:22 No.834035209
>タオル越しの体から僅かに伝わる震えが、次第に落ち着いていく。 ここ余裕そうに見えて少女らしい動揺があっていいですね
18 21/08/12(木)12:39:52 No.834036009
いいねえ…
19 21/08/12(木)12:41:38 No.834036585
いい意味で週刊誌で連載してるタイプの小説感ある
20 21/08/12(木)12:42:49 No.834036996
デジタルは生命活動を停止 死んだのだ
21 21/08/12(木)12:44:37 No.834037532
ここ最近どんどん出てくるしっとりトレブラ怪文書本当にありがたい…
22 21/08/12(木)12:46:23 No.834038137
丁寧に情景を描いてるのが凄くいい
23 21/08/12(木)12:49:02 No.834039004
いいねえ…愛する人のためなら狐になる狼… 今夜は犬になるかも…