金木犀は雌雄異株である。日本に持ち込まれたのは雄株のみであり挿木によって増える。
水野愛の頭部に生えた金木犀も当然雄株である。
彼が物心ついたときには既に、水野愛の頭部から生えていた。
どうも自分は他の同種とは違う場所に花開いてしまったらしい、と気付くのにそう時間はかからなかった。
彼は思い悩んだ。何故自分は人間の頭などに生えてしまったのか。
そもそもこの雄株しかいない異国の地に生まれ、花を咲かせて何になるというのか。
彼が悩んでいる間も宿主である水野愛は忙しなく動いた。
ダンスレッスン、ボイストレーニング、ジムに通い基礎体力をつけ、夜間はアイドルを研究した。
歌はともかく運動は水分に余計な塩分が混じるし、夜にモニタの光が当たると体内時計が狂う。
彼は辟易した。彼女のように手足があれば脱走してやろうと思った。
だが手足のない彼は彼女から離れられなかった。内省に行き詰まった彼は彼女を観察することにした。
彼女と周囲の人間を比較しても別段傑出しているとは思えなかった。
それでも、誰に見られずとも彼女は努力をやめなかった。
彼はいつしか彼女が少しでも注目を浴びるよう花を咲かせるようになった。
19/08/06(火)23:24:23
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