虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。

  • iOSアプリ 虹ぶら AppStoreで無料配布中
  • 気がつ... のスレッド詳細

    削除依頼やバグ報告はメールフォームにお願いします。 個人情報,名誉毀損,侵害等について積極的に削除しますので、メールフォームより該当URLをご連絡いただけると助かります

    19/08/06(火)22:34:55 No.612573683

    気がつくと、私は真っ白い世界に立っていた。前後の記憶が連続していない。私はなぜこんなところにいるのだろう、思い出そうとしても答えは帰ってこないまま。 ここにずっと居ても手がかりもないので、私は歩き始めた。歩き始めた、といっても本当にそうしているのかはあやふやだった。だって、ここには本当に何もない。人も、生き物も、建物も、空も、太陽も、月も、大地さえも。足を動かし続けるけど、前に進めているのか自信はなかった。 どれくらい歩いただろう。数分か、数時間か。もしかしたら、数秒ぽっちか。ここは時間の流れさえ曖昧だ。時間が止まっているのかも、なんて下らない冗談のようなものを思いついたけど、この状況だと荼毘に付すこともできなかった。 「……あら?」 突如、人影が現れる。言葉通り、本当にいきなり現れた。こんな何もない世界に誰かが居たら、見逃すはずもないのだから。 あるかどうかも分からない地面に腰を落として、こちらに小さく手を振ってくる人物。それは、私が一番良く知る人。 「やあ、アナスタシア」 リツカだった。

    1 19/08/06(火)22:35:47 No.612573959

    彼は、自分の隣の地面?を手で叩く。ここに座れ、ということか。だけど私は、リツカの隣で、座らずに立ったまま会話を始める。座らないことを咎めてくることはなかった。 「ねえリツカ、ここはどこなのかしら?」 今一番知りたいことを口に出す。記憶がはっきりしない上になんの手がかりもないこの白の中では、もう彼しか頼るものはなかった。 「ここはね、あの特異点の中枢と言ってもいい場所なんだ。周りを見て。何もない真っ白だよね」 周りを見渡す。見渡したかどうかもハッキリとしないくらい、変わることのない白。上を見ても、下を見てもそれは同じだった。 「シグルドが言っていたんだ。ここは『なにも始まっていない特異点』。なにも始まってないから、何もかもが起こり得るし、繰り返される」 リツカはどこか視線を宙に向けながら、言葉の続きを紡いでいく。

    2 19/08/06(火)22:36:08 No.612574060

    「この状態はね、この特異点の本当の姿なんだ。どうやら世界の軸みたいなものが複数あるらしくて、それが切り替わる時、一度すべて初期化されて、切り替わった軸の続きからがこの白に書き込まれるんだ」 まるでゲームのセーブとロードみたいにね、なんて言って笑うリツカ。 「でも、いくつかの軸は収束を迎えた。この特異点は観測される事で存在を維持してきたけど、そうなってしまえば存続のリソースが足りなくなってしまって、綻びが出始める」 アナスタシアがここに来たのも、そのエラーのせいなんじゃないか、というのが彼の出した結論。なるほど、なら私がここに来たのは本当に偶然なんだろう。 「でも、俺はアナスタシアがここに来たのは運命だと思ってるよ」 「あら、そう?でも確かに、世界を超えて出逢う二人、というのはとてもドラマチックね」 「そうだけど、そうじゃなくて。……この特異点は直に崩壊する。でも、どこかの強固な軸さえあれば、完全には消滅し切らない。わだ、ここに残れるんだ」 その声はどこか切羽詰まったような色で。私を諭そうとしているのが良くわかった。

    3 19/08/06(火)22:36:25 No.612574140

    「俺はもう、戦いたくない。相手を殺さなきゃ生きていけない世界には戻りたくないんだ」 それは、そうだろう。リツカはただの、普通の少年だ。ただ自分がやるしかないから、戦っているだけに過ぎない。そんな彼がここに留まりたいと言うのも、ごく普通のことだろう。 「だからアナスタシア。この特異点で、俺と一緒に、例え二人だけになってしまってもずっと平和に暮らそう」 「ごめんなさい。それはできないわ」 でも。頷くことはできない。してはいけなかった。 「……なんで?アナスタシアも、俺に戦えって言うの?」 「そう、私たちは戦わなくてはいけないわ」

    4 19/08/06(火)22:36:45 No.612574246

    私たちには戦わなくてはならない理由がある。ここで投げ出すには、背負っているものが多く、そして大きすぎる。 「……酷いんだね。アナスタシアも俺にそんな事言うなんて」 「だって、それが貴方の為だもの」 「俺の為……?」 「そう、フジマルリツカの為じゃなくて、他でもない貴方のため。だって貴方――――」 ――――リツカの『弱い心』なんでしょう? ズバリと言われた彼は、図星だったのか心底驚いた表情をしていた。やっぱり、そう。 この特異点は何か害がある訳でもなく、ただ遊ぶことが解決の糸口となっていた。その割には、『夏休み帳』を埋めて完成に近づくほど、空白のページが増えて、見たことのない生物も出現するようになった。まるで、ずっとここにリツカを留めるかのように。 そう願ったのは、他でもないリツカなんだろう。偶然聖杯を手にしたリツカが、無意識にその願いを叶えてしまったからこの特異点は発生した。 だから、ここに居るリツカは、進みたくないと言うリツカは、聖杯が彼の弱い心を纏った姿なのだろう。 気づいたのはつい最近だった。夜、リツカの慟哭を聞いた日。私は、この特異点の真相に気がついた。

    5 19/08/06(火)22:37:09 No.612574367

    でも、リツカはもう、その願いを失った。彼は、また前に進む決意をしたんだ。 「ここで立ち止まってしまうと、リツカは投げ出してしまった自分を責めるわ。きっと、戦いの中で傷つくよりも、もっともっと深く傷ついてしまう。そんな姿は見たくないもの」 だから私は、彼の隣に立って、支え合いながら、一緒に前に進むんだ。 「そっか、やっぱりそうなっちゃうか。藤丸立香は、どうしてもそこにたどり着くんだ」 彼は、私の言葉に納得したのか、うんうんと頷きながら立ち上がった。そして、私にリツカとまったく一緒の笑顔を向けて―――― 「――――じゃあやっぱり、こうするしかないか」 瞬間に、一切の表情が消える。 ゾクリ、と嫌な空気を感じたが、気づいた時にはもう遅かった。 彼が右手を掲げる。そこには、人の身には遥かに余る恐るべき魔力が、湛えられていた。それを解き放ったと思った瞬間、世界を埋め尽くしていた白が深淵のような黒に染まって。 私の意識も、深い闇に飲まれて、そこで途絶えた。

    6 19/08/06(火)22:40:17 No.612575405

    夏休み特異点も終わりっぽいので最終章始めます 今日はここまでだけどな!

    7 19/08/06(火)22:45:07 No.612576951

    それでも鯖達が応援しちゃうからマスターが止まれなくなった というのはあると思うんだ…マシュは未だに分かってないけど

    8 19/08/06(火)22:49:24 No.612578356

    不穏だ…すごく不穏だ…

    9 19/08/06(火)22:52:59 No.612579577

    コメディネタ書いてた 気づいたら夏休み特異点が終わりそうになってた ギャグやってる場合じゃねえ!

    10 19/08/06(火)22:58:39 No.612581535

    まあ前半戦だから大丈夫よ 後半戦のラスベガスでも祭りは続いてるし…

    11 19/08/06(火)23:01:24 No.612582398

    >後半戦のラスベガスでも祭りは続いてるし… イベント始まったら怪文書書く時間が無くなってしまう… てかエンドまで書くつもりだからこの流れに乗っからないと

    12 19/08/06(火)23:20:18 No.612589584

    コメディもシリアスも美味しいから遠慮なく供給してください…

    13 19/08/06(火)23:21:45 No.612590161

    とりあえず完結まではコメディ待ってくだち… 俺も書きたいネタはまだあるんだ 夏休み特異点でなくても書けるネタだけど

    14 19/08/06(火)23:31:22 No.612593858

    シリアスの先にコメディがあってもよい