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2021-04-12のスレッド一覧 4919件

『アイドル仮装歌唱ショー』は、いくらなんでも言いづら過ぎじゃないだろうか。 右腕に巻きつけた包帯をぶらつかせていたにちかは、ゾンビ衣装の最終確認を続ける自身のプロデューサーを眺めながら今更そう思った。 「似合ってますか」 「似合ってるよ」 「可愛いですか」 「可愛いよ」 幾度と無く繰り返した合言葉のような問答には、もう何の感情も籠もっていない。未だ目線を合わせられない二人は、だからこそお互いの悲痛な表情を直視せずに済んでいた。 「背中、押してください。強めで」 振り向かずに言うにちかの背を、プロデューサーはスポットライトへ突き飛ばす。 舞台袖から見えるとびっきりの笑顔は、当たり前に苦しそうだった。 音楽が鳴り、熱狂が始まり、七草にちかが燃えていく。 透き通るような悲鳴を上げて、不可視の操り糸で細い手足を滅茶苦茶に捻じ曲げられながら。 崩れていく身体を置き去りに、見開いた両目だけを爛々と輝かせるアイドルはたった一人、最期まで焼かれ続けた。 審査員が彼女から目を逸らせなかったのは、決して技術に魅了されたからではない。ただ、命が目の前で焼け落ちていく光景から目を離すことが出来ないだけだった。

21/04/12(月)21:08:27

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