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2019-11-08のスレッド一覧 5460件

些、という摩擦音がした。燐寸が舘の顔を暗闇に浮かび上がらせる。咥え煙草の白さと先端の蛍火だけが、わずかに光を照り返していた。 暗闇の中から笑い声がした。声の主は夜に溶け姿は見えない。 舘は目尻に茶目っ気を漂わせ、闇に向けて赤ら顔の生首を振った。笑い声が重なる。残響が消えぬうち、首は溶けて消え果てた。 それからは沈黙だった。ちりちりと煙草が灰に変わる音だけがあたりに響いていた。 蛍火が消え、舘は吸殻を灰皿の口の中に捩じ込む。 「君が増えたねぇ。終わりが始まった?未来は閉ざされたかい?」 灰皿に向けて引き金を絞る舘の声は、どこか軽い。 闇が応えた。浮かび上がるのは、腕だ。 瞬間、舘は天地創生を見た。腕が天を刺し落ちた。地を貫き割れた。東を撃ち西を裂き南を折り北を潰した。 天地東西南北、これ即ち飛び六方である。 …幻覚じゃない。俺だって歌舞伎学ぐらい齧ってる。今のは演技だ、そうだろ? 闇の中に男はいた。それは白く赤く半々で、そして歌舞伎だった。…再び闇と静寂が其処を満たした。 負けられないさ、そうだろう。舘は満足そうに新たな煙草を咥えると、砕けた天地を翠色のダストシュートに放り投げて笑った。

19/11/08(金)23:05:09

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