ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/05/29(日)23:48:29 No.933005886
「ブルー、誕生日おめでとう!」 「ありがとう!みんな!」 大勢の仲間に囲まれた誕生日。 そこには両親もいる。 幼い頃に夢見た誕生日パーティー。 いや、その時に思っていたよりも多くの人に囲まれている。 これが幸せなのだ。 かつて求めてやまなかった幸福。 温かな家庭。 それが今、自分の手にあるのだ。 この状況に満足感が溢れている。 だから自分も満面の笑みでみんなに応えた。 自然と涙が溢れ、それを手で拭う。 改めて目を開ける。 と、そこには何もなかった。
1 22/05/29(日)23:48:42 No.933006003
「…え?」 気づけば暗闇の中にいた。 自分の身体は幼い頃に戻っていて。 周りには誰もおらず、何もない。 「そんな…」 お前の今までの出来事はまぼろし。 本当は何も手に入れていない。 何者かにそう言われているようで立ちくらみを起こしそうになる。 先程拭ったはずの涙すらも手に残っていない。 例え何かを手に入れていたとしても、こうしてすぐに消えていく。 そんな事実を突きつけられ、膝に力が入らなくなる。
2 22/05/29(日)23:49:00 No.933006123
「どうして…、どうして…」 自分は幸せを手に入れてはいけないのか。 何も守ることはできないのか。 そんな弱気な考えが頭を支配していく。 自分の今いるところすらもあやふやになっていく。 平衡感覚すらも失って、視界が歪んでいく。 落ちていく。 足元すらも崩れて、どこまでも落ちていく。 そうして自分はどこに行くのだろう。 もうあの幸せに手が届かないのだろうか。 景色が歪んで見えるのはそれ自体が実際に歪んでいるのか。 それとも自分の涙のせいか。 ブルーには判断ができなかった。 いや、それすら行う気力を失っていた。
3 22/05/29(日)23:49:15 No.933006228
何も喋れない。 何も動けない。 自分の運命への敗北感に心が折れる。 自分の無力感に打ちのめされる。 もう、このまま流れに身を任せよう。 そう思いながらブルーは目を閉じた。
4 22/05/29(日)23:49:44 No.933006446
「…え」 瞼を開く。 そこには自分の部屋の天井があった。 慌てて起き上がり、自分の身体を見る。 きちんと成長した肉体だ。 あちこちを触って、感触を確認する。 ちゃんとある。 現実。 自分のいる部屋も、景色も、身体も、全て実在しているものだ。 「…夢」 頭に浮かんだことを口にしてみる。 実際にそうしてみて、ようやく実感が湧いてきた。
5 22/05/29(日)23:50:00 No.933006550
先程のことは、夢。 ブルーの心にその事実が染み渡っていく。 ちゃんと自分には多くの仲間がいて、両親もいる。 その事実を確認して、大きくため息をついた。 安堵感が胸に広がっている。 自分はちゃんと大事なものを手に入れている。 それと同時に不安にも思う。 その幸せは儚いもの。 誰かの悪意ですぐに消えてしまうもの。 何かのきっかけで奪われてしまうのかもしれない。 かつての自分がそうだったのだ。
6 22/05/29(日)23:50:16 No.933006687
「…怖い」 夏が近くなり、暑くなってきたはずなのに震えが来る。 また何もかも失ってしまう。 そんな経験は二度としたくない。 だけど、自分はそれに対抗できるだろうか。 そんな局面に立ち会っただけで、また倒れてしまうかもしれない。 そうなったらどうしよう。 そんな気持ちに押しつぶされそうになる。
7 22/05/29(日)23:50:32 No.933006805
両親と朝食を終えて、自室に戻る。 そこでまた一人に戻る。 言いようのない孤独感が身も心も侵食していく。 未だに悪夢を見た時の恐怖は消えない。 震えもまた訪れてくる。 誰かに会いたい。 自分一人ではこんな気持ちに耐えられない。 両親、では心配をかける。 年下の後輩でも同様だ。 自分の都合に巻き込むわけにはいかない。 なら、どうするか。
8 22/05/29(日)23:50:47 No.933006935
思い浮かぶのは一人の男だ。 同期で付き合いの長い彼。 同じ街で過ごしていて、会う都合のつきやすい人。 頼りないけど、頼れる男。 そう思ってブルーは手元のポケギアを操作する。 彼の名前を探し出し、通話ボタンを押した。 待機音を耳にしながら、彼が出るまで待つ。 実際の時間はわずかなのかもしれないが、 ブルーにはじれったく、長く感じていた。 「もしもし、レッド?」 「おう、どうかしたか?」 なるべく平静を装って声を出す。
9 22/05/29(日)23:51:00 No.933007020
「暇なら会えない?急で悪いけど」 「おう、今日は予定もないし別にいいよ」 「ありがと。じゃ、喫茶店で会いましょう」 通話を切ってため息をつく。 レッドに会うまでにどれだけ落ち着けるだろう。 ワガママに付き合わせることに罪悪感を抱きつつ、 ブルーはまたため息をついた。
10 22/05/29(日)23:51:15 No.933007111
「急にごめんね」 「気にしないでいいよ。オレもヒマだったし」 マサラタウンの喫茶店。 呼び出したレッドと共にブルーはコーヒーを飲んでいた。 ケーキをフォークで刺して、口にする。 口の中に甘味が広がっていく。 糖分が脳に行き渡る。 悪夢を見た心理的ダメージも癒えてしまいそうだ。 「やっぱりケーキは最高よねー。 アタシの心を癒やしてくれるわ」 「ここってホント、ケーキ美味いよな。 テイクアウトとかしてるかな」 レッドも別のケーキを食べる。
11 22/05/29(日)23:51:30 No.933007217
「もうすぐブルーの誕生日だろ?」 「そうよ?誕生日プレゼント奮発お願いね♡」 ウインクするとレッドが頬を赤くして動揺する。 「う、うん…」 照れる彼の顔を見るのは楽しい。 出会った頃からこの人はよくこうやって照れる。 こういうリアクションを見ると自分がそういう気持ちにさせるほどの魅力を感じてもらえているということだし、 その程度には心を許してくれるとも思える。
12 22/05/29(日)23:51:54 No.933007383
「…で、何かあったのか?」 ケーキを食べ終わると、レッドから質問された。 「どうして?」 ぎくり、と内心思いつつ質問で返す。 「いつもより声に元気がなかったからさ。 なんか、無理して取り繕ってるって気がして」 「…レッドは、たまに鋭いわね」 苦笑して言うと、レッドは目を丸くした。 「たまに、なのか?」 「そうよ。いつもは鈍いけど、たまに確信ついてくるの」 「そうなのか…。オレって、そうだったんだ…」 ショックを受けているようだが、それは置いておいて彼に経緯を説明する。
13 22/05/29(日)23:52:37 No.933007692
「…ということなの」 「…そっか」 レッドがそう言って見つめてくる。 先程の照れた様子はもうなく、こちらを気遣っている優しい目をしていた。 単なる夢の話なのに、彼は真剣に聞いてくれた。 「ダメね。アタシの都合で呼んでこんな暗い話するなんて」 何度目かわからないがため息をつく。 「昔と同じかもね。アタシのワガママでレッドを振り回して」 「さすがに前よりは良くなってると思うけどな。 裏切ってるわけでもないし」 「そう?」 レッドが頷く。
14 22/05/29(日)23:52:55 No.933007836
「それに、頼られるのも悪いことじゃないよ。 それだけオレのこと必要としてくれるってことだし、 それがどんな形でも嬉しいよ」 レッドが軽く笑ってくる。 その言葉に気持ちが軽くなった気がして、感謝する。 「で、その夢のことなんだけど」 「…うん」 レッドの顔が真剣なものになる。 「それがもし本当になったら、絶対助けに行くよ。 オレだけじゃない。 みんなそう言うと思う」 「…うん」
15 22/05/29(日)23:55:33 No.933009057
自分とてそういう答えは考えていた。 だけど、自分以外から実際に言ってもらえた。 それが自分の都合の良い妄想ではなく、事実だという保証になる。 「ブルーだって、幸せになる権利はある。 いや、もう幸せになってるんだ。 だから、それを奪おうとする奴は絶対に許さないし、守るよ」 目つきが若干鋭くなりながら、レッドが言う。 自分のことで彼がこんなに真剣になっている。 自分のことをここまで想ってくれている。 それがブルーにはありがたく思えた。
16 22/05/29(日)23:55:47 No.933009148
「…ありがと」 手をレッドの手に重ね、礼を言う。 「う、うん…」 また照れる彼の手は熱い。 いや、ひょっとして自分の体温かもしれない。 自分も頬が紅潮してる気がする。 いつもならからかうだけなのに、今は恥ずかしいという気持ちに侵食されていた。
17 22/05/29(日)23:56:13 No.933009332
「ご馳走様。奢ってくれてありがと♡」 「いいよ、これくらい。それでブルーが元気になるなら」 店を出て、話をする。 「じゃ、お昼ご飯も奢ってくれたらもっと元気になるかも」 「そこまではちょっと…」 「あら残念」 冗談だったので潔く引き下がる。 「んー、まだ予定空いてるならレッドの家に行っていい?」 「いいよ。昼飯はどうする?」 「アタシが作るわ。相談のお礼もあるしね」 「本当か?ならお願いしようかな」
18 22/05/29(日)23:56:38 No.933009491
談笑しながら歩き出す。 レッドの隣で、彼に歩調を合わせて。 「それにしてもレッドはやっぱり頼りになるわ。 いっそ守ってもらうために一緒に住んじゃおうかな?」 「ええ!?」 冗談を真に受けたのか、レッドが今までよりもさらに赤くなる。 ふと、気がつく。 自分の心から不安が消えていることに。 間違いなくレッドのおかげだ。
19 22/05/29(日)23:58:15 No.933010105
彼といると心強い。 落ち着けるし、楽しい。 不安な気持ちも、彼となら立ち向かえる。 そんな彼と、もっと一緒にいたい。 「ホントに一緒に暮らそうかな…?」 今度はレッドに聞こえないように呟いた。 本気になってしまう。 そんな考えが出たことに内心照れながら、ブルーは彼と歩いていた。
20 22/05/29(日)23:58:40 No.933010279
以上です 閲覧ありがとうございました
21 22/05/30(月)00:02:42 No.933011936
今回はブルーの誕生日間近の話にしました ブルーの誕生日には何書こうか…と現在構想中です いっそカントー4人でカップリングとか抜きでひたすら駄弁る話になるかもしれませんし、 普通にレブルの話になるかもしれませんがご了承ください
22 22/05/30(月)00:27:09 No.933021531
>「そうよ。いつもは鈍いけど、たまに確信ついてくるの」 核心の誤字でしょうか >「昔と同じかもね。アタシのワガママでレッドを振り回して」 >「さすがに前よりは良くなってると思うけどな。裏切ってるわけでもないし」 この辺を踏まえての >両親、では心配をかける。 >年下の後輩でも同様だ。 >自分の都合に巻き込むわけにはいかない。 >なら、どうするか。 >思い浮かぶのは一人の男だ。 >頼りないけど、頼れる男。 ここが昔カモにしてた時のそれと考え方がまるで違ってて好き!
23 22/05/30(月)00:37:54 No.933025549
>>「そうよ。いつもは鈍いけど、たまに確信ついてくるの」 >核心の誤字でしょうか うわ誤字ってた… 指摘すみませんでした…