虹裏img歴史資料館

1 21/12/31(金)21:35:26 No.882190362

──時は遡ってその日の午前 「わぁ、すご……」 「気に入ったか？」 「うん。なんだろ、いつもより肺の奥まで酸素が入ってくるっていうか。呼吸が深くなる感じ、気持ちいいかも」 やって来たのは湖畔のキャンプ場 当初表示されていたカーナビの到着予定時間は20分前である 景観は良いが喫茶等は併設しておらず、周辺に同施設の多いエリアなためか、車は多くない 「ほら、やっぱ過ぎた。道の駅でゆっくりしすぎだって」 スマホをしまったまま、わざわざトレーナーの腕時計を見るために腕を引く 運転中に横顔を盗み見る事しか出来なかった腹いせ、要は憂さ晴らしだ 宥めるように大きな手がゆったりとしたストロークで頭を数回撫でる 数度ひくっと耳が動いたが好きにさせる気らしい。好きにさせるのはもっとしろというサインだ

2 21/12/31(金)21:35:55 No.882190555

「帰りはサービスエリアの方寄ろう！」 「……アンタ好きだよね。あっ、ちょっと！テント入ってるのはアタシが持つって、重いでしょ」 ワンポールテントは2人で用品店に足を運び新調したばかりのものである 「軽くはないけど、よっと。タイシンはそっちのザックとか頼む」 「せめてそれ以外のは渡してよ！ねぇ、トレーナー！」 「いいからいいから。トレーナーじゃなくて男として、な。格好つけたいだろ？そういう練習でもあるんだしさ」 「それはっ、……あとで腰痛めても知らないから！」 「そしたら痛いツボ押し頼むな！」 何度も2人で設営動画を見ていた成果だろう、タープも含め手早く今宵の我が家が完成した キャンプ初心者にしてはタイシンも手際の良さが光る。さっそくテント前で一息 「なんか似合うね。こういうの」 「ん？まぁ学生の頃よくしてたからなぁ、ソロキャンプ」 「へー意外……でもないか。アウトドアブランドの持ち物多いし。だからキャンプだったんだ」 どこを切り取っても途方もなく広がる光景の中で、そこが定位置とばかり寄り添うローチェアがギシッと音をたてた

3 21/12/31(金)21:36:16 No.882190715

「それに羨ましくなって。あんな恋しそうに落ち葉焚きしたいって言うから」 「は？」 「ついでに言うと、この間渡り鳥を熱心に見つめてた時は俺も鳥になりたいって思った」 「は？」 「変か？……俺だってタイシンが何かに興味を惹かれてると、羨ましくなったりするんだからな」 「いい歳した男がなにむくれた顔してんの。それに、そういうのって違くない？何で焚き火とか鳥とかに嫉妬するワケ？」 「普通にパートナーとしては俺が1番だから、かなぁ……」 「ふふっ、何ソレ。下手な嫉妬する癖に自信過剰じゃん」 布製の背もたれの下から伸びている尻尾がご機嫌に揺れた。どうやら自信は不足でもないようだ 映えに無知なりにサイト内をレイアウトして撮影したり、音楽を聴きながら寝転がったり、自由に走る愛バを見つめたり ウマ娘とそのトレーナーとして激動の日々を共に重ねてきたが、そうした激しさとは無縁のただ穏やかな時間を過ごした

4 21/12/31(金)21:36:46 No.882190969

日が傾いて来た頃、焚き火台に火が灯る 「落ち葉焚きとは少し違うけど、いいもんだろ？発火材とか小さい枝からな、少しずつ薪をくべて火を大きくするんだ。」 どこか得意げなその横顔をタイシンは見つめる 「最初から真新しい薪を投げても炎は育たない。トレーナーとは焚き火を育て見守るのと似たようなもんだと思ってたなぁ」 「……ふーん、今は違うってこと？」 「誰かの夢や人生の傍にいる事は、穏やかに眺めてられる炎の比じゃなかったよ。だけど今はもっとこの職が好きになった！」 「そっか。……アタシもさ、炎みたいに心を燃やして灰になって、自分の走りはそれしかないって、それで良いって思ってた」 「そうだったのかもな。でも、タイシンが今は違う事を知ってるよ」 「うん。燃え尽きる炎じゃない、アタシはアタシだ。ただ走る事が好きなだけの……」 パチッと一際大きく薪が鳴った。炎が揺らめく 見つめる瞳には強い光が宿り、見据えたものに揺らぎはなかった

5 21/12/31(金)21:37:20 No.882191272

その後、これぞキャンプの醍醐味とばかりに焚火を前に披露したコーヒーは、読んで字の如し泥水であったが それでもタイシンが笑ったのでトレーナーも笑った。その時タイシンが笑っていた理由もトレーナーが笑っていたからである 「どうだ、いい練習になったか？」 コーヒーのお供にしたスモアで情けなく火傷負いながら男は口を開いた 「べつに予想通り、というかいつも通り。アンタは何か違った？」 「いや、一緒だよ。どこで何をしててもやっぱりタイシンはタイシンだし、オレはオレだ」 タイシンの卒業までいよいよ半年もなかった そこから先は一緒にいる為の理由にトレーナーと担当という肩書きが通じなくなる ──久々にやろうかな、落ち葉焚き ──じゃあ、せっかくならそれと一緒に、トレーナーでも担当でもない時間の練習をしよう キャンプはこうして提案されたものだった

6 21/12/31(金)21:37:54 No.882191579

実際タイシンはキャンプを気に入っていた ここには喧騒も人混みもなければ、あるのはただ自分に干渉せず、こちらからも干渉できない自然のみ いつもより暑苦しい男に素直になれる気がしたのは、外的要因による緊張が無いせいだろうか 本人の自覚以上にタイシンにとってその熱はもう自分にとって内側の存在らしい 「どうせ卒業したら一緒に住むんだし。練習とか言って、お気に入りの場所に来たかっただけでしょ」 「まぁな、ただタイシンが望んだものを見せたかったのも、トレーナーと担当じゃない時間を過ごしたかったのも本当だ」 「いつもアンタの部屋ではそうだったじゃん。あの時までアンタはトレーナーのつもりだったワケ？……そうなら蹴るけど」 「それはないっ！ただ、これからはトレセンの外が俺たちの日常になっていくだろ？」 きっと多かれ少なかれ誰もがそうだ。見慣れぬ新しい日々の始まりに慣れた靴で慣れた地を足踏みする、そういう時期である 「だから学園の外で、ただのオレがキミの横にいる練習がしたくなった。思えばこれはタイシンを理由にしたただの我儘だな」

7 21/12/31(金)21:38:07 No.882191695

ギッ……と、音が鳴った 横にいたはずのタイシンが見下ろすようにトレーナーの目の前にいた 「じゃあ、今度はアタシが聞いてあげる」 ギッ……と、先ほどより重たく音が鳴る タイシンがトレーナーの膝の上に乗り上げて来たのだ 「担当でもなんでもないアタシと過ごしてどうだった？いい練習になった？」 「タイシンといる時間に練習なんてなかったよ。今までもこれからも、俺にとっての本番は、レースはタイシンと一緒に続いてる」 「ん……」 「これから先も一緒に走ろう。そうだな行先は……いや、ゴールだっていらないな、一緒ならきっと何処へでも行ける」 「……ん」 「「……ぅ、不味"っ……」」 練習の成果は然程得られなかった2人だが、不味いコーヒーを飲んだあとに唇を合わせるべきではないという教訓は得たのだった

8 21/12/31(金)21:38:57 No.882192126

──翌日 キャンプ場を後にし、正午にはサービスエリアで昼食をとった 出発前に飲み物補充。2人ともコーヒーを選択したのには思わず顔を見合わせて笑ってしまう 100円ちょっとで何処ででも美味しいコーヒーが飲める時代、わざわざ遠出して不味いコーヒーを飲んできたのだから皮肉な話だ 「次はこれよりうんと美味いのを淹れるからな！」 「アタシも。次はキャンプご飯とか、もっといろいろと覚えるから」 だが皮肉すら約束に変えてしまうのならそれ以上は野暮というもの 車に乗り込む 帰宅ルートの自宅設定はトレセン学園 これから先帰る場所は変わろうと、2人の帰り道は同じであり続ける

9 <a href="mailto:s">21/12/31(金)21:39:26</a> [s] No.882192401

秋ボイスに影響されてキャンプタイシンを書いてました 年末に出すもんじゃないけど年越したら更に出せなくなるなと思ったので許して…

10 21/12/31(金)21:40:32 No.882193017

いいんだ

11 21/12/31(金)21:41:34 No.882193512

いい話だ

12 21/12/31(金)21:41:58 No.882193723

一行目で火遁を疑った俺を許してほしい

13 21/12/31(金)21:42:17 No.882193864

しっとりキャンプ怪文書とても読みたかった…良い…

14 21/12/31(金)21:42:22 No.882193919

いい…

15 21/12/31(金)21:43:19 No.882194409

>一行目で火遁を疑った俺を許してほしい 同じく懺悔します 今だけ心が秋になった

16 21/12/31(金)21:44:43 No.882195168

火遁疑われすぎててダメだった

17 21/12/31(金)21:46:15 No.882195972

ラストまで身構えてしまってすまない…

18 21/12/31(金)21:47:14 No.882196543

体の接触が多いわけじゃないのにいちゃいちゃってこういうのだと思うくらいにはキュンときた

19 21/12/31(金)21:47:54 No.882196869

よかったファイアタイシンじゃなかった

20 21/12/31(金)21:49:08 No.882197617

怪文書なら真冬に水着話を書いてもいいし真夏に雪合戦させたっていいんだ

21 21/12/31(金)21:50:15 No.882198264

どこでウマ娘イーターという記述が出るか身構えててすまない…

22 21/12/31(金)21:51:04 No.882198670

このしっとり静かに寄り添う感じがとても良い あとふーふーでほら来た！ってなりかけてすまない…

23 21/12/31(金)21:51:48 No.882199041

タイトレがサービスエリアとか好きそうなのなんかめっちゃ分かる

24 21/12/31(金)21:53:21 No.882199919

身構えすぎだろ！！

25 21/12/31(金)21:54:22 No.882200531

あいつらうまぴょいしてきたんだ！

26 21/12/31(金)21:54:58 No.882200861

書き込みをした人によって削除されました

27 21/12/31(金)21:56:19 No.882201628

こういうファイアタイシンも良いんだ

28 21/12/31(金)21:56:24 No.882201670

将来はファミリーでキャンプするんだよね

29 21/12/31(金)21:58:38 No.882202833

>身構えすぎだろ！！ タイシン怪文書の温度差が激しいから… どっちも好きだししっとりキャンプよかった

30 21/12/31(金)21:59:47 No.882203483

許すからもっとください

31 21/12/31(金)22:01:15 No.882204407

寒空なのに暖かな情景が思い浮かぶ…良い年越しができそうｄ

32 21/12/31(金)22:04:00 No.882206283

>寒空なのに暖かな情景が思い浮かぶ…良い年越しができそうｄ 途中で昇天するな

33 21/12/31(金)22:04:47 No.882206749

秋ネタだけど年末に読みたくなるしっとり感だったよ

34 21/12/31(金)22:06:00 No.882207590

>タイトレがサービスエリアとか好きそうなのなんかめっちゃ分かる お土産とかお揃いのキーホルダーとか買いたがるしサービスエリアグルメ好きそうだよな

35 21/12/31(金)22:06:53 No.882208158

消えな！エッチな展開に期待するトｒ

36 21/12/31(金)22:07:45 No.882208766

>消えな！エッチな展開に期待するトｒ 消えたべ…

37 21/12/31(金)22:08:42 No.882209416

妄想の余地がある空白と行間を読んでにやにやするよ…

38 21/12/31(金)22:10:46 No.882210774

ずっとこんな感じの夫婦するんだろうなと手に取るように分かる2人

39 21/12/31(金)22:14:21 No.882213185

>>タイトレがサービスエリアとか好きそうなのなんかめっちゃ分かる >お土産とかお揃いのキーホルダーとか買いたがるしサービスエリアグルメ好きそうだよな タイシン！！！この龍が絡まった剣のキーホルダーお揃いで買おう！！！！

40 21/12/31(金)22:17:02 No.882215121

当然のように同棲するのいいよね…

41 21/12/31(金)22:19:23 No.882216470

ずっと同じ帰り道っていいよね…