21/11/01(月)01:23:44 「トレ... のスレッド詳細
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21/11/01(月)01:23:44 No.862173054
「トレーナーさん、トリックオアトリート!」 仕掛け文句に相応しい、イタズラっぽい笑みを浮かべて。フジが手をこちらへ差し出した。 外からは、部屋の中でも聞こえる喧噪、笑い声。 今日はハロウィン。朝からポニーちゃんを相手にお菓子を求めたり、求められたり。 甘い物が苦手なフジには大変そうだと思っていたが、流石というか、笑顔が崩れる事は一度も無かった。 まぁ、敢えてフジからのイタズラを待っていた生徒が多かったのもあるんだろう。 問いに答えた生徒の……恐らく七割ほどが、トリックを選んでいた。彼女たちらしい。 そうして多くの生徒を相手に、フジらしく楽しませて、楽しんで。 一日ハロウィンを楽しみ抜いたその勢いのまま、笑顔で俺の元へ現れた。 「トレーナーさん?お菓子は無いのかな~?」 声を少しだけ低くして、さぁ、もし無かったらどうしてやろうか。という意思を伝えてくるフジ。 しかし、俺もイタズラ好きなフジのトレーナーだ。当然、対策というか用意をしてある。
1 21/11/01(月)01:23:56 No.862173104
「ハハッ。絶対来ると思って用意してたよ」 予め買っておいた市販のチョコ。甘さ控えめのビターだ。 背後の鞄に入れておいたそれを取り出すために、視線は向けず手を突っ込む。 「へぇ~。じゃあ、お返しのトリックオアトリートを警戒しなきゃいけないかな?」 フジの言葉に笑って返して、まさぐる。まさぐる。 「……ん?」 もう一度大きくまさぐって、慌てて振り返り鞄の中を覗き込んだ。 「あれっ!?」 無い。 間違いなく入れたはずのチョコが、何処にも無い。 「トレーナー、さん?」 今、背を向けている方から、心底楽しそうな声。 ……冷や汗が、頬をたらり。 これは、間違いなく逃げられない。
2 21/11/01(月)01:24:07 No.862173148
「フジ、その、今何か買って」 捲し立ててどうにか収めようと、振り返った俺の目前に、フジの顔。 「ダ~メ」 待っていたのは、万人を魅了する魔性の笑みだった。 それは俺も例外ではなく、瞳に、視線が吸い込まれる。 思わず見惚れて動けずにいた俺へ、フジの手が伸びた。 俺の胸に触れ、優しく撫でるように手を這わせるフジ。 陶器のようなその手が触れれば触れるだけ、胸が高鳴っていく。 「トレーナーさん……」 甘い囁き。全てを虜にする笑みは、今は俺だけに向いていて。 しかし、俺を見上げていた美しい瞳は閉じられた。名残惜しいと感じる間も与えず、フジは動く。 ……俺の胸に頭を埋めた。 「……どんなコト、しちゃおうかな……」
3 21/11/01(月)01:24:21 No.862173204
「フ、フジ……」 理性を越えた物が、身体を勝手に動かしていく。 垂れていた腕を上げ、手はフジの肩を目掛けてゆっくり進む。 掴む?掴んでどうする?多分、引き剥がす?多分?じゃあ、それとも……。 考えが纏まらないまま動く身体。ジリジリとフジに近づいていく手。 そして、触れる……。 「アハハ!なーんてね!」 ……触れる、寸前、フジが勢い良く俺の胸から離れていった。 その勢いで走るように扉の下へ。ドアノブに手を掛け、こちらへ振り返る。 「ちゃんとお菓子を用意しないとダメだよ?それにトリックオアトリートだって言わないとね」 フジがよく見せる、快活な笑顔。だけど、少し赤い顔。 「それじゃあまたね、トレーナーさん!」 変なポーズのまま固まった俺にウインクを一つ飛ばして、フジは外の喧噪の中へと去って行った。
4 21/11/01(月)01:24:34 No.862173246
対象を失った手から力が抜けて、追う様に腕もだらりと垂れた。 何かできるわけでもなく、ただフジが出て行った扉を棒立ちで見つめる。 ……暫くして、ふと、気になった。 振り返って、鞄を見る。 ……何故かファスナーが閉じていた。さっき中を漁って、それから触れていない筈なのに。 不思議に思いながらも、ゆっくりと開く。 「うおぉおお!?」 開ききった途端、羽ばたく音と共に白が視界を埋め尽くす。 堰を切ったように鞄から続々と飛び出してくる鳩。間違いなく鞄の収容量を越えている数だ。 「痛っ!あ痛ぁっ!?」 顔や身体中にぶつかる鳩。慌てて窓を開け、部屋の中を飛び回る鳩を外へ出してやる。 俺の頭の上に陣取り、居心地良さそうに座る最後に残った鳩も外に放してやり、再度部屋は静寂。 ……もう一度、鞄を覗き込んだ。 中には、ハート型のチョコ。 俺が買った物ではないチョコが一つ、確かに入っていた。
5 21/11/01(月)01:24:46 No.862173287
そのチョコを取り出して、包装を破き、口に咥える。 パキッ。子気味良い音と共に、甘さが身体に染み込んでいく。やはり、ビターではない。 チョコを噛みしめつつ、椅子に座り天井を仰いだ。 「これ、来年もかなぁ……」 重い呟きが、外から僅かに聞こえる喧噪に飲まれて、消えていった。
6 21/11/01(月)01:28:29 No.862174078
イケメンだ…