虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/10/22(金)00:44:00 No.858798072

     多分、見たい夢ではなかったと思う。唐突で、後味が悪い。線路に飛び出たトレーナーさんが、そのまま引きちぎられる。それだけ。その後がなかったのは、きっと想像できなかったから。  苦悶に目を覚ました時、びっしょりとかいてしまっていた汗。あまつさえ流してしまった一筋の涙。それが私にとってどれほど苦しくて、悲しい夢だったのか。いつものように考えることすらなく、私は理解させられた。  その夢の残像が、5時間経っても残っていた。眼の裏に焼き付いていた。何度瞼を開閉しても、消えなかった。自ずとあなたのことしか考えられなくなった。  もし。異性を常に想ってしまい、視界から離せないことを恋と呼ぶのなら。  これはきっと、恋なのだろう。

    1 21/10/22(金)00:44:28 No.858798189

    「眠れなかった…」    早朝、ベッドの上で私はひとりごちる。重い瞼を擦ると、見たくもない残像が暗闇に映る。有り体に言えば悪夢を見た。昼寝名人の私からすれば、悪夢というのはそれなりに親しんだものであったはずなのだが。 「…なんでかな」  無感情かつ簡潔に見た夢を説明すれば、急にトレーナーさんが死ぬ夢。悪趣味で冗談でも考えたこともない話だったが、夢というのは不条理なもの。そう受け入れればいいはずだった。なのに、私の心は受け入れていない。夢についてひたすらに思考を巡らせてしまう。  …まだ時間は早い。現実のトレーナーさんに会う前に、不謹慎な想像を上書きしてしまおう。そう思って、私は自然とトレーナーさんのことを考える。  トレーナーさんはいつも優しい。たとえば私が煙に撒くような発言を四六時中していても、時に騙され、時に真に受け、時に…。うーん、これは私が悪いな。

    2 21/10/22(金)00:44:57 No.858798301

     …ともかく、トレーナーさんは優しい。それはなんとなくわかる。これは感覚の問題で、それなりに理論を尊ぶ私らしくはない結論かもしれないけど。それでいいのだ。多分。  じゃあ、そんな優しいトレーナーさんを私は残酷にも電車に轢かせたのか。夢の中とはいえとんでもない話じゃないか。僅かに流した涙を思うと、自分で自分に申し訳なくなる。当たり前な話だが、私はトレーナーさんに死んで欲しくはないのだろう。  死んで欲しくないというのは、当たり前のようで結構難しいことだ。それこそいつ電車に轢かれるかわからない。こうして過ごすなんでもない毎日の裏で、無辜の民が無常な事故に遭い悲劇を呼んでいる。生きているということは毎日回されるロシアンルーレットを突破することに等しいのだ。  そういう思考を続けると、自分なりに残酷な夢を見た理由がわかるのかもしれない。つまり、memento moriというやつで。死を想うからこそ、親しい人を亡くす夢を見た…いやいや。  そんな哲学的なことを考える柄ではないだろう。知ってはいても、それは私にとって道具に過ぎない。道理の働きや、心の動き。それらは策を練るために使うもので、私自身が浸かるべからず。

    3 21/10/22(金)00:45:19 No.858798419

     うーん。こんな雑多なことを考えていれば、少しは気が紛れるような。そう思っても、目と心にはまだ残酷な残滓が貼り付いているのだが。  夢というのは理屈に合わないとわかっている。それでも納得できないのは、やはり私も感情豊かな人の子なのだろう。…はて、この先私はどうしたいのだろう。将来の話ではなく、この夢の調理の仕方だ。  どうあがいてもポジティブには捉えられないだろう悪趣味な夢を、何度も何度も咀嚼する意味。見方を変えれば、こんなことを考えているから残像が剥がれ落ちないのではないか。  とはいえ私の思考は、依然としてトレーナーさんを惨殺した夢から離れられない。ついつい、考えてしまう。なんで殺した、どうして夢見た。そんなこと、望んでないくせに。  …その結論が間違ってるのかも。もしかして、実は私は。 「トレーナーさんを殺したいと思っている」  そう虚空に仮説を吐き出してみる。いつものように嘘偽りの口八丁を書き出してみる。…なんとなく背筋を駆け巡るものがあったのは、否定できない。え。まさか。  私本当に、トレーナーさんを殺してみたい──?

    4 21/10/22(金)00:45:44 No.858798556

     トレーナーさんを殺したい。そんな突拍子もない発想。それが案外しっくりきてしまったのだからさあ大変。私は急いでそれを否定しなければならない。でないと私はとんだサイコパス、残酷極まりない異常者だ。  んー、んー…。まずトレーナーさんには幾らかの恩義があるわけで、その時点で死んで欲しくはないはずだ。ましてや自ら殺すなんてとんでもない。全くもって無礼な奴だ。ぽかん、と自分の頭を軽く叩く。  でも、恩義以上に何かしらの理由がある場合もあるかもしれない。無駄に頭の回る私はそんなことを考える。そもそも知人を殺していない殺人なんて一握りなわけで、そこにはなんか色々な理由がある。  うむ。金銭トラブルだって最初は恩義から始まるだろうし、痴情のもつれなんかはもう…。って。私とトレーナーさんにもつれる痴情があるとでもいうのか。恥じろ私。  もう何度目かの失礼な思考をして、心の中でトレーナーさんに謝る。仕方ない、仕方ないのだ。これも夢に出てきてずっと頭から離れないトレーナーさんが悪いのだ。ああ、ムカムカする。  いっそ本当に殺して──。

    5 21/10/22(金)00:46:06 No.858798675

     そこまで思考を伸ばすと、また背筋がぞくりとした。冗談のはずなのに、身体がそれを冗談と許さない。そこで、漸くわかる。この激情の正体。  ああ、トレーナーさんを殺そうなんて考えた自分が許せないんだ。殺すことへの昂りではなく、殺そうとすることへの防衛反応。身体が直感的にそれを拒む。…参ったな。自分はそんなにトレーナーさんのことを大事に思っていたのか。  少しはにかむ。誰も見ていないから、もう少しにやける。なんだか心が急に暖かくなって、野原に開けた気がした。このまま残酷悪夢も消えてくれないだろうか。  …さて。それはさておき。表情を整え、真面目な思考再開。クエスチョン。何故そこまで大事なトレーナーさんが死んでしまう夢を見たのか?正夢?冗談じゃない。誰もいない脳みその中だから言うが、あなたが死ぬことなんて絶対許したくない。  願望?それは歪みすぎではないだろうか。殺すわけではないけど、死ぬ瞬間を見たい…というような…自分で言ってておかしいな。  …ここまで考えてもまだ朝は来ず。早朝は永きこと那由多の如し。結論は、まだ先なのだ。まだ、あなたのことを考え続ける。

    6 21/10/22(金)00:46:34 No.858798805

    「…ふぁ~ぁ…」  欠伸が漏れる。夜中流した涙はとうに乾いて、汗の跡だけが残っている。…シャワーを後で浴びなきゃな。  うつらうつらの夢現は、却って夢の残骸を頭に残し続けるきっかけになってしまっている。それどころかこのままだと、夢を忘れられなくなってしまう気がする。それは嫌だ。あなたを見るたびに、幸せを感じるのではなく残酷な幻覚を視ることになるなんて。  そうやって、そうして。また私は思考を尖らせる。悪夢を切り裂く刃とするために。  なんでトレーナーさんが死ぬ夢なんだろう。代わりに私が死ねばいいのに。私が死んで、あなたが悲しむ。…どれくらい悲しんでくれるかな。嫌な想像だけど、悲しんでくれないのも嫌だ。贅沢を言えば、ずっと引きずって…欲しい、かな?  なんと傲慢な思考だろう。しかし自分の気持ちに嘘を吐くのは良くない。いやいつも嘘を吐いているけど、だからこそだ。…なんだか考えを巡らせすぎて、今の自分はすごく素直になっている気がする。  うん。白状しよう。どうやら自分は結構トレーナーさんのことを重く重く考えているらしい。こんな気持ち知られたらどうしよう、というくらいに。

    7 21/10/22(金)00:47:17 No.858799020

     だからこんな夢を見てしまった。そして、泣いてさえしまった。自分で自分に見せた夢で泣いていたら世話がないのだが。  いやしかし、もちろん死んで欲しいはずがない。ずっと生きてて欲しい。…ずっと、見ていたい、かも。…あーだめだ!  顔が熱くなってきた。こんなに自分の心を開けっ広げにするのは初めてだ。外に広がる空が陽に照らされて徐々に青空になるように、私の心も徐々に照らされてきている気がする。何に?トレーナーさんに。  そんな言葉には出せないほど小っ恥ずかしい思考がぽんぽんと出てくる。我ながらそんなにトレーナーさんを大事に思っているとは。いやしかし何故だろう。理屈を考えねば。自分のことはしっかりと。  まず、優しい。これは先程も出てきた話題である。しかし優しい人というのは友人達もいるではないか。彼女らのことは大切ではない…はずがない。しかしたとえばスペちゃんのことを考えても、ここまで心が熱くはならない。なんというか、ジャンルが違う気がする。

    8 21/10/22(金)00:47:40 No.858799124

     じゃあ…他。殺したいか殺したくないかというやつが、そこまで関わってきているのだろうか。しかしこれについては結論が出ている。トレーナーさんを死なせるなんて絶対ありえない。なんというか、絶対、を付けないといけない気がする。  なんだか今度は他の人に失礼な気がしてきたが、実際これは感覚的な話なのでなんとか許して欲しい。許してもらえないだろうか。ねえキング許して。グラスちゃん。  空想上に友人を並び立て様々に謝る。これで禊は完了。あとは存分にトレーナーさんのことを考えよう。  さて、では。やっぱりそれくらい特別だ、というまたなんとも恥ずかしい結論が出てしまった。  …特別。特別って、なんなんだろう。不意に、熱を持った思考が冷静さを取り戻す。死ぬ夢を見るくらいの人は、確かに今までトレーナーさんだけ。でもそれくらいしかトレーナーさんに特別なことを私は出来ていない。仮にも担当ウマ娘とトレーナーの関係なのに、なんだかかなり薄情だ。

    9 21/10/22(金)00:48:44 No.858799431

     そうではない。きっとそうでないと信じたい。私は私の欲求に気づく。これはきっとかけがえのないもの。私にとって特別なもの。それはきっとあなたのことで。  特別なことがあなたのどこかにあるのなら、それを見つけてあなたに教えたい。そうして私はあなたの特別になれるのかもしれない。やっとお互いを特別と実感できて、その第一歩は私から歩まねばならないのだ。なぜって、私が先にあなたを想ってしまったから。  それが、私があんな夢を見た理由。私はここまで思考をとどかせるために、夢を見た。そんな気すらした。  苦笑する。もし本当にそうだとしたら、随分と回りくどいやつだ。…と、私自身なんだからある意味当たり前か。だから、きっとこの結論が正しいのだ。  漸く、朝が来る。青空は天の隅まで広がる。

    10 21/10/22(金)00:49:39 No.858799697

     眠い。眠い。残酷な夢の欠片はほぼ消え失せて、それに紐付けられたもう一つの感情が大きくなってきた。眼を擦り、寮を出る。今日はなんてことないトレーニングの日。いつもの日常。けれど、これから毎日やってくる幸せの日々。  とんとん。ドアをノックする。いつもはこんなことしないけど、今日はなんとなく、なんとなく。 「はーい…お、おはようスカイ」  その瞬間。 「おはようございまーす」  夢は花弁の如く散り。 「珍しいな、早いじゃないか」  新たに焼き付くものは、あなた。 「…にゃはは。…たまには、ね」  あなたのことしか、頭になくなる。 「さ、今日も頑張るか」  もし。異性を常に想ってしまい、視界から離せないことを恋と呼ぶのなら。 「ええ、ほどほどに♪」  これはきっと、恋なのだろう。

    11 21/10/22(金)00:53:10 No.858800669

    恋の自覚が怖いけど可愛いからいいか…