虹裏img歴史資料館

画像ファイル名:1634013993854.png 21/10/12(火)13:46:33 No.855570403

困った。鋼の意志がもうない。 「何をやっているのですか、全く…」 私のせいでもありますがとボソリと呟き、理子さんは鞄を漁った。 「…参りました。こちらもです」 まずいことになった。最初の頃は彼女が長く保たなかったので、鋼の意志はひとつあれば事足りた。 ところが最近は2つか3つ使うことがザラだったので、今日こうして不足したというわけだ。 「…ふぅ、年甲斐もなく張り切りすぎてしまいましたか」 「むしろ若返ったと言うべきでしょう」 初めて会った時の理子さんは、日頃眉間にシワを寄せることが多かったのか年齢以上に老け込んでいる印象だった。自分より一回りは年上の女性だと思っていたが、案外そうでもなかったことに驚いた記憶がある。 体力の無さについては言うに及ばず。ここ3年、俺はある意味彼女のトレーナーでもあったと言えるのではないだろうか。いや、俺の方が教わることも多々あったし、互いを指導し合っていたとするのが正しいか。 「どうもお互い、まだ足りていないようですね」 「足りていないから互いに補い合うんですよ。ほら、こうやって」 ──二人は薄壁を取り払い、ひとつとなった。