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  • 泥夜 のスレッド詳細

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    21/10/12(火)00:24:22 No.855451631

    泥夜

    1 21/10/12(火)00:25:31 No.855452037

    刺し貫いた刃を通じて、命を絶つ厭な感触が掌に滲んだ。倒れ伏した身体はまだ生暖かく、しかし二度と動かぬ屍に成り果てていた。 漸く。周りが張り詰めた緊張を解き、満足に吸えさえ出来なかった空気を肺に送ろうとしたのを感じた。けれど。 視野が弾ける、その火花が再び刃に火を起して。一息に屍へ焔を突き入れた。 もう一度、もう一度。誰も止めはしない、ただ呆気に取られているだけで。ならば、こちらも止める必要などない。 早く、早く。早く真っ黒に焦げてしまえ。早く真っ白の灰になってしまえ。お前なんて、塵も残さず消えてしまえばいい。 その亜麻色の髪が、ずっと目障りだったんだ。ラモラック。 お前はあの男にそっくりだ。騎士の様に振る舞ったって、本質の野生は隠せるはずもない。 父が、オークニーのロット王が加わった諸侯の反乱に、あの男は現れた。颯爽と王を助けた輝かしい味方だ。 そして、そのまま反乱軍の父を殺めた。私達がロットの子であると承知の上で、父を捕らえるでもなく殺し、その上で仲間になった。 だから、殺した。 王に刃向かったのが父の方であったとしても、私自身が王に与する道を選んだとしても。私はあの恐ろしい男を許せなかった。

    2 21/10/12(火)00:25:51 No.855452206

    お前も同じだ。その武芸はただ周囲を捩じ伏せるばかりで、何を守りもせず傷をつけるだけのもの。 いや、お前が守りたかったのは……よりにもよって、あの女だったんだ。狂っている、あの女は夫を殺した男の息子を誘惑したのだから。 お前のせいで、私達の名誉は地の底まで踏み躙られた。あんな女であっても、この身にはあれの血が流れている。 お前はその血を犯して、何が楽しかったんだ?モルガンの子が―――娘が騎士を名乗るなどと笑っていたのか? ならば、満足だろう。4人がかりで殺されて、1人では勝負にならなかった臆病者だと確信したことだろう。 ……その通りだ。お前が簡単に焼き殺せる相手なら、こんな恥辱を味わうこともなかった。現に、お前は私を一蹴して、 同じく王の騎士に叙されてから、お前は敵を知らず登り詰めて、私は幾度となく敗北を重ねて。今や、ランスロットとトリスタンに次ぐ騎士の名は。 ―――なぜお前が、なぜ私だけが。 消えろ。 消えろ。 消えろ。 お前なんて、お前なんて早く消えてしまえ。その姿、その髪、もう一瞬たりとも視界に入れたくはない。 焔が地を焼く。 あぁ、漸く、漸く―――

    3 21/10/12(火)00:26:20 No.855452397

    小川の側に、長槍が一つ。 いいや、それほど長い槍であれば、ひとりでに立つはずもない。その根の方には、人影がそれを支えて立ち止まっていた。 おそらく、人影は騎士の姿であっただろう。見かけたガウェインはそう考えた。おそらく、と頭につけたのは、 その体躯が、知古の騎士たちのそれに似つかぬまだ年若い少女のものであったことと、身につける鎧姿に些か不慣れを感じたからだ。 勿論、装具一式を纏う姿が素人なはずもないのだが、こればかりはガウェインが名だたる騎士の中でも古株の一人であり、 女性の身で鎧の重量を負う辛苦を、自らの長い記憶としてよく知るが故の視座であった。 あれが例の騎士か。目当ての人物を見つけたガウェインはそのまま少女の佇まいを推し測った。 王妃ギネヴィアを侮辱する素行の悪い悪漢が現れ、その討伐を任ぜられたのが、キャメロットにやってきた森の野生児だという。

    4 21/10/12(火)00:26:31 No.855452473

    サー・ケイが無礼な言葉で焚きつけたというのだからどうなるかと思ったが、件の悪漢は見事に射殺されていて、 その後当人を探しに行ったら、あんなところで瞑想中の様子だった。よほど思いを巡らせているのか、若い騎士とケイがちょっかいをかけて叩き伏せられた。 見かねた王の頼みで、次に彼女に話しかける番になったのがガウェインだった。無論、先の轍を踏む気はない。 彼女の在り様は既に騎士の気品あるものに変わっていた。ならばこちらも丁寧に挨拶を交わさねば応えてくれるはずもない。 鎧姿は、やはり応えた。まだ慣れていない様子で兜を外す。 現れた姿は、亜麻色の髪の少女だった。

    5 21/10/12(火)00:27:20 No.855452774

    ウワーッ!?

    6 21/10/12(火)00:29:11 No.855453372

    ガウェ姉さんの闇と光が一度に!

    7 21/10/12(火)00:38:08 No.855456334

    ペリノアパパとロットパパは遺恨残しすぎだな!

    8 21/10/12(火)00:39:57 No.855456883

    深夜SSの時間が来たな…

    9 21/10/12(火)00:40:31 No.855457115

    ガウェインの栄光と影が描けていて素晴らしい

    10 21/10/12(火)00:43:52 No.855458190

    ケイが口が滑って即死する原典でも有名なシーン

    11 21/10/12(火)00:45:15 No.855458653

    >モルガン・ル・フェイ >魔女。実母を含む存在でもあり、理解し難く拒絶すべき怪物。 >ガウェインに優れた騎士の素質、魔術の才と共に、他者を深く憎悪する嫉妬の気質を受け継がせた。

    12 21/10/12(火)00:51:23 No.855460540

    ケイニーサンはこんな時でも笑いを忘れない

    13 21/10/12(火)00:53:01 No.855461029

    かっこいいなあ こんな文を書けるようになりたい

    14 21/10/12(火)00:53:48 No.855461288

    >その後当人を探しに行ったら、あんなところで瞑想中の様子だった。よほど思いを巡らせているのか、若い騎士とケイがちょっかいをかけて叩き伏せられた。 >見かねた王の頼みで、次に彼女に話しかける番になったのがガウェインだった。無論、先の轍を踏む気はない。 あー…これ雪の上に落ちた血にマント被せたっていうガウェインとの初顔合わせてエピソードか…

    15 21/10/12(火)00:55:59 No.855461948

    こっそり近づいたパーシヴァルは気配を殺し、後ろからじっとその手元を見つめた。 椅子に腰掛け、ナイフで野菜の皮をするすると剥いてる。手つきに澱みはない。刃物を扱い慣れた動きだ。 もっともキャメロットの厨房担当となれば嫌でも身につく技術でもある。 なんせ毎日膨大な量の野菜や肉を捌くのだ。激しい訓練は大食漢の騎士を多く生んだ。 彼らの胃袋を賄うために大量の食事を作るのは大変な激務であり、この厨房もまたひとつの戦場だった。 中ではまだ小姓身分の若人たちが忙しそうにそれぞれの作業に没頭している。 立ち込める蒸気で厨房の中は蒸し暑く、立っているだけで服の内が汗ばんでいくほどだった。 パーシヴァルにここでの労働体験はない。こういう下積みを経て騎士見習いとなるルートは通らなかった。 なので訪れたことも殆どない。物珍しそうに周囲を見回すパーシヴァルに声がかかったのは焼かれる豚肉の脂の香りが漂ってきて唾を飲み込んだ頃だった。 「私に何か御用でしょうか」 「あ…」 「申し訳ありません。いらっしゃったのが例え円卓に名を連ねるお方であろうと作業の手を止めるなというのが厳命です。  このままの体勢で失礼します」

    16 21/10/12(火)00:56:12 No.855461992

    パーシヴァルの目当ての人物は背を向けたままそう言って次の野菜に手を伸ばした。 素っ気ない返事だったが殊更無愛想という感じでもない。突然やってきたパーシヴァルに驚いているという気色があった。 解けばそれなりに長いだろう髪を後ろで短く縛り、顕になっているうなじには汗の水滴がいくつも浮いている。 ケイと並んでいる時は小柄に見えたが、近くで見ると自分と同じくらいの背格好のようにパーシヴァルには思えた。 「はじめまして…でいいのかな。私はパーシヴァルといいます」 「パーシヴァル様。こうしてお会いするのは初めてですがその勲は存じています。昨今活躍目覚ましいお方と」 「え?私、そんなふうに噂されてるの?困っちゃうなぁ、えへへ…」 つい相好を崩しかけたパーシヴァルはいかんいかんと首を振って戒める。 こんなことで浮かれていたらまたケイに調子に乗るなと笑われてしまう。こほんと咳払いをひとつ。 それで気を取り直して、背を向けたまま作業をする姿に務めて穏やかに話しかけた。 「それで、あなたの名前を教えてくれませんか?」 「名前…申し訳ありません。私に名前はないのです」 「は?ない?え、名前がないんですか?」

    17 21/10/12(火)00:56:24 No.855462044

    「はい。ある方は私のことをボーメインと呼ぶので、それに倣ってそう呼ぶ者も少なくありませんが」 やや俯いて野菜の皮剥きを続けながらその背中はそうぽつりと言った。 ちらりとパーシヴァルはその手を見遣る。ボーメイン───白い手。なるほど、形の整った美しい手だ。 ケイが厨房の前でボーメインと口にしてこの名無しを呼んでいたのが思い出される。 意地悪なケイのことだから剣も握れなさそうなお綺麗な手とか、そういう揶揄も込みだろうが。 ともあれ、ふぅん、と唸ってパーシヴァルがその白い手が次々に野菜の処理をしてくのをぼんやりと見つめていたからだろう。 名無しの小姓はいよいよ居心地が悪くなってきたのか、その手元の動きを鈍らせて言った。 「あの…本当に、パーシヴァル様は私へ何の御用なのでしょうか」 「ああ、ごめんなさい。特別な用事があるわけじゃないんです。ただ、あなたに会ってみたくて」 「私に、ですか」 「はい。この前あなたを見かけた時に思ったんですが───あなたが騎士ではないことがなんとなく不思議に思えて」 その時だった。 厳命されていると言ったはずの手を止め、野菜剥きの小姓がゆらりと椅子から立ち上がった。

    18 21/10/12(火)00:56:36 No.855462095

    パーシヴァルへと振り向く。やはり想像通り背丈はおおよそ同じくらい。 金髪が張り付くほどに額から滝のような汗を流し、衣服も粗末で薄汚れた調理服だったが、その顔立ちに漂う高貴さは隠しきれていない。 むしろその赤ら顔の中でも瞳だけがきらきらと力を帯びて輝いていた。 パーシヴァルは直感によって確信した。───やはり只者ではない。 「申し訳ありませんパーシヴァル様。先程の言葉は訂正させていただきます。  “今は名乗るべき名前が”ありません。…いずれお伝えできるようになる日が来ると思います。  その時まで、どうか名乗らぬ無礼をお許しください」 そう言って名無しはぺこりと頭を下げた。 微かに呆気にとられていたパーシヴァルは実直に下げられた頭を見ていたが、やがてその唇は綻んでいった。 「お仕事中にお邪魔しました。ではちゃんとした挨拶はあなたの名前を知った時に。  いつかそんなあなたと晴れてお会いできる日を楽しみにしています」 「…」 名無しが顔を上げる。その頑なな表情が微かに緩み、パーシヴァルと同じようにほんのりと微笑んだ。 ───この名無しがガレスという名であるのを知るのはもう少し後の話になる。

    19 21/10/12(火)00:57:55 No.855462488

    髪の色で血縁を悟りながらも彼女だけは手にかけなかったガウェインの心中にあるのが葛藤だったのか悔恨だったのか想像に任せる感じなのがなかなかいいな……

    20 21/10/12(火)00:59:43 No.855462970

    ぱしガレキテル…

    21 21/10/12(火)01:03:04 No.855463775

    因縁深いのが急に複数来て脳が混乱してる

    22 21/10/12(火)01:03:56 No.855463982

    ぱっしー・ガレス・ギャラハッドの若人グループいいよね

    23 21/10/12(火)01:06:02 No.855464483

    さらに若いモードレッド

    24 21/10/12(火)01:06:05 No.855464491

    増えろ…円卓生前SSもっと増えろ…

    25 21/10/12(火)01:06:21 No.855464559

    https://seesaawiki.jp/kagemiya/d/%bd%bd%b1%c6%c5%b5%c0%a4 遅くなりましたてんかパパです

    26 21/10/12(火)01:06:51 No.855464687

    おつ

    27 21/10/12(火)01:08:11 No.855464991

    見る泥が...見る泥が多い!

    28 21/10/12(火)01:09:55 No.855465367

    ぱっしーは泥円卓だと主人公みたいなとこあるねぇ

    29 21/10/12(火)01:13:34 No.855466166

    >ぱっしーは泥円卓だと主人公みたいなとこあるねぇ 元々アーサー王伝説がイギリス中の伝承の英雄集めたスーパーイギリス大戦みたいなところがあるしね トリスタンとかそれが顕著で単独作のトリスタンとイゾルテからゲスト参戦って感じ

    30 21/10/12(火)01:16:22 No.855466718

    ヒリはこんな複雑人間関係の中でアハハハ笑って仲を取り持っていたのかと思うと苦労が忍ばれる

    31 21/10/12(火)01:17:09 No.855466873

    >元々アーサー王伝説がイギリス中の伝承の英雄集めたスーパーイギリス大戦みたいなところがあるしね ジェネリック武将が揃う水滸伝と大体同じ

    32 21/10/12(火)01:19:54 No.855467477

    パーシヴァルもランスロットも定説ではクレティアンが創案したと考えられている それぞれ最初の形からアーサー王との接点はあるけど独立した詩の主人公として 神秘的な試練の中で片方は愛を、片方は贖罪あるいは謎めいた何かを見出すという似たプロットもクレティアンの手癖かもしれない

    33 21/10/12(火)01:20:04 No.855467508

    >マスターとしての心構えが整っておらず、ゆえに苦戦を強いることが多いが、その心優しく正道を重んじる態度から関係性は良好といえる。 >しかし、心変わりが起こってからはアーサーへの忠誠心よりグィネヴィアへの愛を選んだ彼を一方的に「愛を守るために道を外れる」ことを選んだ者として理想化、その理想を押しつけ始める。 >これによりすれ違いが多くなってゆく。 良いマスターだなって思ってたところで豹変はつらい… 最期に和解できるといいね…

    34 21/10/12(火)01:23:55 No.855468258

    ちなみにクレティアンはパーシヴァルの話は未完のままエタってて パーシヴァルの物語のバリエーションが多いのはこれも一因かもしれない 自称続編も複数確認されている

    35 21/10/12(火)01:32:59 No.855469948

    このスレが落ちたらまたSSが投げられるんだ 俺には分かる