ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/09/26(日)10:31:52 No.849897752
京都レース場のターフを降りて地下道に入ると、やけに見覚えのある影が私の目に飛び込んできた。 幾分か低い上背に、短く切って揃えた癖のある芦毛が乗った容姿。鮮やかな碧眼が、地下道の照明に照らされながら、こちらを正視している。 「や、お疲れ」 「……来てたなら言いなさいよ。追い返すから」 柔らかく笑みを浮かべる彼女、セイウンスカイに向かって、思わずつっけんどんな返しをしてしまう。 他の人ならいざ知らず、彼女が純粋な労いでもってわざわざ現地に足を運ぶなどそうある事ではなく、大抵はなにかのついでだの、含みがあるような事が多い。 それ故なんとなく素直に受け止められない事も多く、2人の間では、こう冷ややかに対応してしまう事も、なんとなく増えている。 「言っても良かったんだけどね。機嫌悪そうだったらそのまま帰ってあげようかと」 「今、機嫌が良いように見えるかしら」 「悪くは見えないかな」 軽薄ながら優しく笑う彼女に向かって怒った素振りをした後、釣られて少し、口角が上がる。そう結果の良くなかったレースの後、こうして彼女が身を呈するのも、珍しくなくなってきた。
1 21/09/26(日)10:32:07 No.849897817
そんな彼女の顔がすいと目の前に来て、私の視界を埋め尽くす。 透き通る白肌、マリンブルーの目、揺れる綺麗な芦毛の前髪が私の目を奪って、他の何者も立ち入らせないとばかりに主張する。 「ところで、さ。ずいぶん気に入られてたね」 「……放っておけなかっただけよ、私からは、それだけで」 そう言って目を逸らす事を禁ずるかのように、少しばかり不機嫌な彼女の目が、私を突き刺す。 赦すようでいて嫉妬深く、それでいて我が道を曲げる事は良しとしない彼女の、ただ深いところを見る目が、じっと私を、覗き込んでいる。 「キングは人が好いから、また勘違いさせちゃったかもね」 「そんな風に思うの、あなただけよ」 「マリアナ海溝より深い愛を語らせといて、ね」 「それは、そういう意味じゃないでしょう」
2 21/09/26(日)10:32:22 No.849897878
「にゃはは、分かってる」 ぱっと彼女の表情が和らいで、いつもの明るい、何者でもないような表情に戻る。 からりとした笑顔。何も考えていないようで、大きなものを覆い隠した笑顔が、今日は何を隠しているか、ぱっと見では想像がつかない。 「でも、さ。きっと私の方が、深く愛してるよ」 「……それは、誰でも分かって────」 そんな彼女の目が、笑っていない事に、はたと気付いた時には、減らず口を叩く私の唇は覆い塞がれていた。 さっきまで飲んでいたと思わしき蜂蜜とレモンの入り混じったジュースの味がする唇が、私の唇を通り過ぎて、その感覚ばかりを残していく。 「……ずうっと深く、愛してる。誰より、何より」 「わかった、から……っ」 唇を離すなり、耳覆いを通してそう囁く彼女の声に、どこかぞわりとした感覚をおぼえる。そのせいで息が詰まって、上擦った声が出たのが、彼女に聞かれてしまう。
3 21/09/26(日)10:32:36 No.849897948
その時、ぱちん、と金具の鳴る音が近くで聞こえて、意識がそちらに僅かに逸れる。 もう一度聞こえた時には、その音は私の、右の耳元で、彼女の手の内から聞こえて、 「……だから、勘違いされないように」 「……おばかっ」 飾り結んだ右側のリボンのそばに指を伸ばすと、そこには硬い感触。 先まで見えていた彼女の前髪には目立つヘアピンの姿はなく、代わりに私の指に伝わるのは、花を象った形のヘアピンの存在。 「あとで返してもらいに行くから、ホテルの部屋番、教えてね」 「なっ、ちょっと」 「……同じホテル、取ってるから」 そう言って意地悪に笑う彼女が、徐々に距離を離していく。 ばいばい、と言わんばかりに手を振って、段々とその姿を小さくしつつある彼女に向かって、思わず声を張り上げて、
4 21/09/26(日)10:32:50 No.849898017
「これからまだっ、ライブあるのよっ!?」 「ちゃんと見といてあげるから!」 「そうじゃないわよっ!おばか!」 満面の笑みでそう返した彼女に、思わず地団駄を踏んだが、それすらも彼女には可愛く見られた気がして、どこか腹が立ってしまう。 リボンと一緒に揺れるヘアピンが、鹿毛にはやたらと目立って、その姿を彩っていた。
5 21/09/26(日)10:33:09 [s] No.849898085
サークル名 : アナログ原稿燃え太郎 作家 : Dagu 種別 : 同人誌-漫画 判型 : B5 ページ数 : 46 イベント : いざ参ル!26 作品種別 : 成人向け タグ : 甘々・和姦 専売