虹裏img歴史資料館

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21/09/19(日)00:01:00 「発達... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1631977260777.png 21/09/19(日)00:01:00 No.847487338

「発達した台風は、今日の夜にも関東一円を直撃する見込みです。市民の皆さんは、強い風と河川の増水に警戒を──」 居間のテレビからは、どこのチャンネルに合わせても同じ文言が流れてくる。先程まで晴れていた空も、その言葉に従うように頓に雲で覆われ始めた。 「…どうするかな」 折角の連休を狙い澄ましたように、大型の台風を示す予報円は日本列島をべったりと真横に塗り潰していた。担当の趣味のおかげで休日に少し外出するよい習慣がついたと思った矢先に、この仕打ちである。少し肩を落としながらも、狭いマンションの一室で何をしようかと思案していた矢先、呼び鈴の音が部屋に響いた。

1 21/09/19(日)00:01:49 No.847487657

「え?はーい」 独り暮らしの男の家をわざわざ訪ねる客などそうはいない。せいぜいが宅配便の受取くらいのものだが、特に最近買い物をした覚えもない。では一体誰だろうと訝しみながら、そのままの格好で玄関へと向かった。 「トレーナーさーん、いますかー?」 ──部屋着のまま出てきたことを、直ぐに後悔することになった。 「びっくりしたよ、なんで外に?」 「いやー、ちょっと外せない用事があったんですよー。本降りになる前に戻ってこれるかなーと思ってたんですけど、ちょっと間に合わなかったみたいでして。 そうしたらあら不思議、雨宿りさせてくれそうなところが帰り道にあるじゃないですか」 我が愛バ──セイウンスカイの言い分は、概ねそんなところだった。手にはその用事とやらの証拠なのか、買い物袋が2つ握られていた。 「ならいいけど、濡れてるじゃないか。 待ってろ、今タオル取ってくるから」 「はーい。すみませんねぇ、何から何まで」 そんな彼女の言葉を背にして洗面所に歩を進める。風邪を引かれては困るので、濡れた髪と何処か困ったような表情をもう少し楽しみたいという欲は、努めて抑えることにした。

2 21/09/19(日)00:02:44 No.847487990

「いやー、悪いですねぇ、シャワーまで使わせてもらっちゃって」 風呂から上がった彼女はすっかり満足したようで、鼻唄混じりに冷蔵庫を漁っている。 着替え代わりに引っ張り出したTシャツも存外気に入ってもらえたらしい。肩や胴の周りが少しだぼついて、シャツに着られているような格好になっているけれど、それもどこか可愛らしい。 「おやつとかは今無い気がするけど」 「違いますよー。お夕飯の材料とかないかなーって」 厚い雲がかった暗い空は時間を伺うことも難しいが、時計の針と腹の虫は雄弁に時が経ったことを知らせてくる。手際良く物を出してキッチンに並べてゆくセイを見遣ると、どうやら向こうも同じことを考えていたらしい。 「おっ、セイが作ってくれるのか?」 「…最初はそう思ったんですけどー、せっかくお家に来たんだったら、トレーナーさんの手料理も食べてみたいなー?」 「俺だってセイの手料理は食べたいぞ」 こう言うと思っていたし、彼女もきっと同じようにわかっていただろう。初めから答えは決まっているけれど、こんな押し問答をしてふざけてみせるのも楽しいのだから、本当にしょうがない。 「じゃあ、一緒に作ろうか」

3 21/09/19(日)00:02:54 No.847488056

「お米あります?」 「あるよ」 「なるほど…ではでは、セイちゃんらしく海鮮丼でも」 「おー。じゃあ、俺は汁物で行くか」

4 21/09/19(日)00:04:22 No.847488606

「いただきまーす。では、お点前頂戴いたします」 「いえいえ、こっちこそ」 示し合わせたように、お互いの料理を一口含む。 「美味いな、すごい味染みてるけど、何使ったんだ?」 「ふふー、企業秘密でーす。でもこれもよくお出汁出てるじゃないですか」 彼女の魚釣りに付き合ううちに、自然と魚に合う料理のレパートリーも増えていった。野菜と薬味を刻んで昆布出汁で煮ただけのものだが、味の濃い魚と漬け汁には薄いくらいの味が丁度よいだろう。 「さささ、一杯いかがです?おつまみもありますし」 気が利くというのか、ませているというのか。冷蔵庫の奥の秘蔵の品が、いつの間にか食卓に登っていた。 「何の記念でもないけどな」 「いいじゃないですか、なんでもない日に乾杯、ってことで」 生徒の前で飲酒、というのはよろしくはないのだろう。まあしかし、この嵐の夜に態々咎め立てしに来る者もいるまい。 「じゃあ、乾杯」 「乾杯ー」 またひとつ、新しい音が増えた。

5 21/09/19(日)00:05:04 No.847488897

「なんかいいな、こういうの」 美味しい食事に舌鼓を打って、ほんの少しの贅沢をして。 それが終わったら、二人一緒にテレビを見て、また笑って。 そうして、穏やかに一日を終える。 「えー、なんかおじさんくさいですよ?」 「うるせぇ。大人にも色々あるんだよ」 酒のせいか、随分と口が軽くなる。 「寂しがり屋だったのかな、俺」 怪訝そうに、セイが聞き返す。 「全然そんなこと思ってなかったんだけどな。大学からずっと独り暮らししてきたけどさ」 独り暮らしを始めた頃は、親元を離れてようやく自由が手に入るなんて、無邪気にはしゃいでいたこともあった。知らぬ間に忙しさに追われるようになっていって、そのうち独りで寝泊まりすることに、何の感傷も抱かなくなっていったけれど。 「でも、今日セイが来て、一緒にご飯食べて。 …ずっと嵐でもいいのになって思っちゃった」 嵐が去れば、きっと彼女はいるべきところに帰ってしまうのだから。

6 21/09/19(日)00:06:25 No.847489405

「ふふふ」 「笑うなよ、俺だって恥ずかしい」 甘えてしまっているな、と思う。 そんな情けない自分を見ても、きっと彼女は呆れずに付き合ってくれるのだろうと、勝手に期待している。 「やっぱり、似ちゃうんですかね。同じこと考えてました」 彼女もきっと、何処かで寂しさを抱えて生きているんじゃないかと思っているから。

7 21/09/19(日)00:07:14 No.847489715

「明日にならなきゃいいのにな」 「…明日は来ちゃいますけど。セイちゃんは、ずっとここにいてもいいですよ? …もちろん、トレーナーさんがいいなら、ですけど」 やっぱり、似た者同士だ。こんな胡乱なやり取りでしか、寂しがり屋のふたりの距離は埋まらない。 「…じゃあ、お願いしようかな」 「…いいんですか?お酒の勢いで言っちゃって、あとで後悔したりしません?」 だから、一度縮まった距離は、そう簡単に離したくはないのだ。 「そのときはセイに癒やしてもらうかな。 大丈夫。セイと一緒にいることを後悔したことなんて、一度もないよ」

8 21/09/19(日)00:07:26 No.847489783

奇妙なこともあるものだ。 嵐の夜が運んできた時間が、こんなにも穏やかで、幸せなものだなんて。

9 21/09/19(日)00:08:17 No.847490074

「そういえばさ」 あぐらの中にすっぽり収まったセイを抱きかかえながら、ぽつりぽつりと話を繋ぐ。 「あの丼の具になるような魚なんて、冷蔵庫になかったよな?」 少しばつの悪そうな顔をして、彼女が此方を向いた。 「…ばれちゃいました? 実はですね、昼間買ってあった袋の中身なんです。トレーナーさんに食べてほしくて」 種明かしをするセイはすっかり縮こまっている。そんなことをしても、嗜虐心を擽るだけだというのに。 「セイちゃんもトレーナーさんに会いたいな、って思ってました。でも、勇気が出なかったんです。 そしたら、台風が来るっていうじゃないですか。せっかくだから、この機会にトレーナーさんに釣ってもらっちゃおうかな、って。 セイちゃんの作戦成功、ですかね」 耳を絞って俯いてしまった彼女を、逃がさないと伝えるように強く抱きしめる。 「…悪い子だなぁ、セイは」 けれど敢えて乗った俺も、やはり共犯なのだろう。 ずっとここにいてくれたらいいのにと、思ってしまったのだから。

10 21/09/19(日)00:08:27 No.847490138

「今日は寝なくてもいいか?明日も休みだからさ」 「ほんとは寝かせてくれるつもりだったんですか?」 「…ごめん、する気満々だった」

11 21/09/19(日)00:09:10 No.847490430

「さっきは明日にならなきゃいいって言ったけど、今は楽しみだよ」 「えー、明日もきっと雨ですよ?」 「だって、朝起きたら一番に、セイに好きって言えるから」 雨と風は止むことも知らずに、今も窓を叩いている。 でも、今は堪能しようじゃないか。 ──嵐の夜が運んできてくれた、最高の贈り物を。

12 21/09/19(日)00:10:04 No.847490765

おわり トリックスターセイちゃんはつよつよなので台風にかこつけてトレーナーさんのお家に上がり込むことができる

13 21/09/19(日)00:11:10 No.847491216

素晴らしいものを見た

14 21/09/19(日)00:11:15 No.847491247

トレーナーはこれくらい担当のこと好きでちょうどいい

15 21/09/19(日)00:11:29 No.847491324

いい…

16 21/09/19(日)00:11:46 No.847491436

しっとりしててよかった…

17 21/09/19(日)00:12:01 No.847491536

セイちゃんはつよいな…

18 21/09/19(日)00:12:02 No.847491542

この二人常にお互いの距離感探ってるよね…

19 21/09/19(日)00:12:12 No.847491594

いい…

20 21/09/19(日)00:12:30 No.847491728

素晴らしい…こういうのが見たかったんだ…

21 21/09/19(日)00:13:41 No.847492177

(トレーナーさんには食べられる)

22 21/09/19(日)00:14:07 No.847492343

>しっとりしててよかった… 台風だからな…

23 21/09/19(日)00:14:45 No.847492590

セイちゃんぎゅっとして寝ような……

24 21/09/19(日)00:15:20 No.847492807

ちゃんとトレーナー釣りあげてるつよつよセイちゃんいいね

25 21/09/19(日)00:15:32 No.847492873

フグって初めて捌きましたけどなんとかなりましたね

26 21/09/19(日)00:16:03 No.847493054

なんだい…最近はトレーナーさんと一緒に台風を過ごすセイちゃんをよく見るが…

27 21/09/19(日)00:16:26 No.847493195

>ちゃんとトレーナー釣りあげてるつよつよセイちゃんいいね (釣り餌は自分)

28 21/09/19(日)00:17:05 No.847493447

セイちゃんがトレーナーさんを想っているときトレーナーさんはそれ以上にセイちゃんを想っている

29 21/09/19(日)00:17:52 No.847493751

セイちゃんと一緒に作ったごはんを食べる 食後にセイちゃんも食べる

30 21/09/19(日)00:18:11 No.847493886

最高だ…

31 21/09/19(日)00:19:03 No.847494249

隣人は出かけてた方がいいぜー! 今日この部屋は戦場と化すんだからよ!

32 21/09/19(日)00:19:42 No.847494505

(風が止んだのに部屋がまだガタガタ言ってる)

33 <a href="mailto:隣">21/09/19(日)00:20:18</a> [隣] No.847494760

>隣人は出かけてた方がいいぜー! >今日この部屋は戦場と化すんだからよ! 台風で出られないです…

34 21/09/19(日)00:21:29 No.847495195

たまにはつよつよセイちゃんもいい 古事記にもそう書かれている

35 21/09/19(日)00:22:12 No.847495462

釣れないなら釣ってもらえば一緒にいられる セイちゃんはかしこいな…

36 21/09/19(日)00:23:04 No.847495766

一日中セイちゃんをギュッとしてなでなでして過ごす

37 21/09/19(日)00:23:47 No.847496046

結婚生活の予行演習ですよね?

38 21/09/19(日)00:25:12 No.847496642

>一日中セイちゃんをギュッとしてなでなでして過ごす 大丈夫?それだけで我慢できる?

39 21/09/19(日)00:25:53 No.847496930

すごく良い... しっとりしたセイちゃんがまた見れてうれしい

40 21/09/19(日)00:28:06 No.847497741

ごはんも作ってくれるし抱きまくらにもなれる

41 21/09/19(日)00:29:51 No.847498315

毎日セイちゃんかわいいしてもいいのか!?

42 21/09/19(日)00:30:16 No.847498448

>>一日中セイちゃんをギュッとしてなでなでして過ごす >大丈夫?それだけで我慢できる? 我慢というか 何もしないでそうやって惰眠貪ってるのは良い贅沢じゃないか? ぴわわってしてるセイちゃんを眺めてるのも含めて

43 画像ファイル名:1631979081393.png 21/09/19(日)00:31:21 No.847498824

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

44 21/09/19(日)00:31:48 No.847498947

頭をうりうりと擦り付けてくるセイちゃんとかに対しては性欲よりも愛情の方が勝ると言うか……

45 21/09/19(日)00:33:04 No.847499322

性欲は夜でいい 昼はひたすらだらだらするのもいいと思うんだ

46 <a href="mailto:s">21/09/19(日)00:33:16</a> [s] No.847499392

>No.847498824 ありがとう…いいね

47 21/09/19(日)00:36:17 No.847500316

>頭をうりうりと擦り付けてくるセイちゃんとかに対しては性欲よりも愛情の方が勝ると言うか…… それはそれとして抱きました

48 21/09/19(日)00:36:31 No.847500387

セイちゃんはよわくてもつよくてもかわいいな…

49 21/09/19(日)00:36:55 No.847500520

高度に発達した愛情は性欲と区別がつかない 「」-サー・C・クラーク

50 21/09/19(日)00:38:06 No.847500880

雨音とセイちゃんの寝息を聞きながら抱きしめて過ごすのが一番だよ

51 21/09/19(日)00:39:45 No.847501367

雨の日にセイちゃんと1日お部屋で過ごしたい欲を文章化してくれた作品

52 21/09/19(日)00:39:48 No.847501383

セイちゃんと雨の音を聞きながら過ごしたい

53 21/09/19(日)00:43:38 No.847502471

雨音だけが響く部屋でセイちゃんとくっついていたい

54 画像ファイル名:1631979832566.png 21/09/19(日)00:43:52 No.847502528

>あぐらの中にすっぽり収まったセイを抱きかかえながら、ぽつりぽつりと話を繋ぐ。

55 21/09/19(日)00:44:18 No.847502648

気温はさほど高くないが湿度が高いからな 除湿をかけてセイちゃんを抱くとちょうどいい温度だろうて

56 21/09/19(日)00:46:05 No.847503136

筆が乗りに乗ってる…

57 21/09/19(日)00:47:12 No.847503482

別の日のあるとき、静かな雨を聴きながら。 「ふー」 ホットココアを冷ます彼女の隣に腰掛けて、コーヒーを啜る。確かに窓際の空気は少し冷たいけれど、雨が庇を打つ音を聴きながら外を眺めるのは中々に風情がある。 「コーヒー派なんだ」 「甘い物摂ると眠くなるからな」 「カフェイン摂りすぎると寝たいときに寝られないって聞いたよ?」 「お前には死活問題かもな」 「言ったなー?今度はトレーナーのソファーの上で寝ちゃうからね」 コーヒーの香りの中に、他愛もない会話が溶けてゆく。 この時間もまた、幸せのひとつだ。

58 <a href="mailto:s">21/09/19(日)00:48:05</a> [s] No.847503728

おまけ お手書きありがとうね…

59 21/09/19(日)00:53:59 No.847505280

かわいいセイちゃんがどんどん出てくる

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