21/09/12(日)23:27:59 前回ま... のスレッド詳細
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21/09/12(日)23:27:59 No.845511243
前回までです sp94349.txt
1 21/09/12(日)23:28:21 No.845511445
黒服の男のが煙草に火をつけ、口に咥える。ふわりと吐き出た煙が天井へ狼煙の様に昇り、空に消えた。 『ウマ娘の強靭な膂力、毒耐性、そして高い知能…生物兵器として、これ以上ない程に適している。』 向かいのグレーのスーツに身を包む男が、頷きながらも口を開いた。 『しかし、実際には世界中でそのような生物兵器としてウマ娘が使用されている例は存在しない。理由は2つで、1つは国際条例でウマ娘の生物兵器利用が禁止されているから。ただしこんなものはどうでもよい。条例で守れるのはせいぜいお偉方の金だけだ。』 『そう、問題はもう1つ…量産体制が敷けないって事の方だ。 ウマ娘が生まれ落ちるのは完全なランダムだから人工的な生産が効かない。兵器にとってこれは致命的だ。どれだけ殺傷能力が高くとも、一品モノの兵器を高い金を出して買うバカは居ねえ。壊れちまったらそれきりだし、敵からも最も狙われるから守備も難しい。』 『ええ、この”安定した供給”が不可能に近いことから、実際に兵器としては見られなかった訳だが…ミスターには何か当てがあるという事か?』
2 21/09/12(日)23:28:44 No.845511665
『ふふ…日本にはそのウマ娘どもが集う場所がある。そこを乗っ取り、掌握する。』 黒服の男がぐしゃり、と手の煙草を握りつぶすと、灰皿に擦り付け火を消した。 『そんなことが本当に出来ると?』 『既に計画は進めている。全て順調だ。』 『…それを聞いて一安心したよ。冗談と思っていたとはいえ、君の依頼もあってこちらも既に用意はしてある。その言葉を聞けたから、本格的に準備を進めさせてもらうとしよう。』 机の上に鈍く光る”物”を、黒服の男が懐に収納する。立ち上がると、今一度帽子を真深く被りなおした。 『話は終わりだ。俺も忙しいんでね、ここらで解散だ。』 『ふふ…それにしてもミスターの計画もそうだが…なぜそこまでして彼女たちを憎む?』 『お前には関係ない話だ。お前は俺が必要なものを売ればいい。御託を抜かすんじゃねぇ』 『ふーむ、復讐は儲かるが敵討ちにはならないとは思うがね。
3 21/09/12(日)23:29:10 No.845511891
ウマ娘に殺されたミスターの父の敵討ちには、ね。』 黒服の男の足が止まる。張りつめた空気の中に、男から発せられる針のような殺気が部屋中を満たした。身体は扉の方を向いたまま、ドスの効いた声を発する。 『……人の過去を暴いて優位に立ったつもりか?』 『ああ、気を悪くしたなら済まない。だがこちらも職業柄、取引先の事は事前に調べるたちなのでね。』 『二度と語るな。次は無い。』 視線を向けることも無く、黒服の男は部屋を後にした。
4 21/09/12(日)23:29:39 No.845512180
~~~ 【倉庫】 「はっ…はっ…」 呼吸を整えようと、ナリタブライアンが努めて息を整える。だが、目の前の現実を認識することを脳が拒否するように目眩を起こす。 じゃら、と天井から伸びる鎖の擦り合う音が不定期に繰り返す。その鎖で腕を縛られたウマ娘は哀れな程に痩せこけ身体中が汚れていた。 部屋奥に見える太いホースを上半分切ったようなものから漂う悪臭で、それがこの監獄の中での便所なのだと理解すると、ナリタブライアンは吐き気がした。 「あ…アンタ…誰…というか、いつから…こんな…」 口から溢れ出る疑問が溢れるが、猿轡で縛られたウマ娘の口からその答えは得られない。兎に角も目の前のウマ娘を助け出すのが第一だった。 目を瞑り、深呼吸を一、二度繰り返す。ぱん、と頬を両手で叩くと、抜けた腰のせいでよろつきながらも立ち上がった。
5 21/09/12(日)23:29:51 No.845512302
「待ってろ…直ぐに助ける!」 部屋の中に入り、鎖を掴む。全力で引きちぎろうと引っ張りあげるが、まるで効果がなかった。 そもそもウマ娘を束縛している鎖なら、普通のものであるはずもない。恐らくは特殊な合金ででも作られた、対ウマ娘用のものなのだろう。 程なくして腕力による破壊は諦めざるを得なかったが、その鎖をまとめる南京錠が目に入る。 こちらも引きちぎろうとしても壊れなかったが、南京錠があれば鍵もあるが道理。すぐさま先程のパソコンが置かれたデスクへ戻る。 「どこか…引き出しにないのか…ッ!あった!」 上から二番目、その引き出しの奥にキーチェーンに繋がれた鍵の束。そこには律儀に名称をシールで貼り付けられており、「拘束用」のものは直ぐに見つかった。 再び南京錠の元へ駆け寄ると、鍵を差し込み回す。果たして、解錠され鎖が緩み、それと同時に釣り上げられたウマ娘の身体も重力に従いへたりこんた。 猿轡を解き床へ捨てると、ナリタブライアンは肩を貸し立ち上げさせた。
6 21/09/12(日)23:30:11 No.845512491
「おい!大丈夫か!?」 「……ぅ……。」 「クソっ、衰弱が激しい…!病院まで間に合うか!?」 担ぎ、駆け出そうとするナリタブライアン。だが、その足はすぐさま停止した。 「…め……て…。」 「ッ!おい!どうした!!」 「やめ……て……。」 「…ハッ!?なっ…私はアンタの敵じゃない!というか、アンタ今すぐ病院に行かないと死んじまうぞ!」 「だ……め……わた、し………。」 「〜〜〜ッ!! 文句は後からだ!兎に角今はここから…!!」 その続きは、重い金属音に遮られる。軋むようなその音は、ナリタブライアンも先程聞き覚えがあったものだった。
7 21/09/12(日)23:30:26 No.845512629
(この音は…倉庫の入口の扉が開く音…ってことは、まさか!?) かつーん、かつーん。 革靴が床を打つ音が耳に入る。暫くして、部屋の扉が開かれた。 「…………。」 黒服の男が部屋を一瞥する。暫くして、部屋の中に入ると手に持つ鞄をデスクの上に無造作に置き、椅子に座った。 (あいつ、黒服の男…ってことは、ここはあの男のアジトか!) 咄嗟にウマ娘が監禁されていた部屋に飛び込んだナリタブライアンだったが、その心臓は破裂せんばかりに動悸していた。 一枚扉を隔てただけの状態は、隠れたと言うには余りにも杜撰なものだった。呼吸さえ伝わりそうな、刹那さえ数時間に希釈されたような、耐えうるにはあまりにも過酷な空間がそこだった。 黒服の男はパソコンを立ち上げ、何かを打ち込んでは手をキーボードから離して腕を組んだり首を回したりして、再びキーボードを叩き始める。それを繰り返していた。
8 21/09/12(日)23:30:48 No.845512855
(……なにか、パソコンでやっているのか…?もしかして…今なら奴の隙を着いて倒せるんじゃないか!?) 危険とは理解しつつも、それ以上に自分と壁一枚先の男との力量差を確信しているナリタブライアンにとって、こちらに気づいていない今こそが男を確保する最大のチャンスだとも思った。 身を屈め、呼吸を最低限に、しかし最大限に酸素を吸い込む。クラウチングスタートの体勢をとり、重心を前へ落とす。 (この扉一枚程度ならぶち破ってあいつまで届く……1秒あればケリがつく!) あと5つ数えたらスタートする。 ナリタブライアンが心でカウントを始める。 (5…4…) 刹那に命を賭ける。全身の筋肉を縮め、一瞬の爆発に備える。
9 21/09/12(日)23:31:03 No.845512979
(3…2…) 腰を僅かに上げ、すぐ先の未来に起こる筋肉の爆縮を予感しながら集中を練り上げる。 失敗すれば二度目はない極限の緊張と、一撃で仕留める為のかつてない集中力が、ナリタブライアンの全身の感覚を至高の次元へ昇華させていた。 (1…!!) だからこそ。 その身を弾丸として打ち出す直前、通常の数千倍の感度を得た鼻孔は普段なら感じえぬはずの匂いを嗅ぎ取った。 その匂いは、かつて姉と小さい頃に過ごした夏休みの記憶を呼び起こした。 『ねーちゃん、この花火をほぐしたら変なのが出てきたよ?』 『ああ、それは火薬だ。花火はそれに火をつけて色んな色の火を吹き出すんだ。』 『へーっ!ねーちゃん、物知りだ!頭がでかいだけあるな!』 『なっ…私の頭はでかくないっ!』
10 21/09/12(日)23:31:27 No.845513208
なんの事は無い、思い出の一コマ。 だが、それは今のナリタブライアンにとって、まるで違う意味を持っていた。 (この匂い…火薬…?金属の匂いもする…まさか…拳銃!?) この男の今までの所業を考えれば銃の一丁や二丁持っていてもおかしくはない。しかし、今まで思考すらしなかったのはあの男が妙な光を出す銃のようなものしか使ってこなかったからだった。 (銃…なぜ今更!?まさか、私が居ることがバレて…じゃあこの打鍵音は罠!? 飛び出した瞬間に銃で…いや私の方が早くあいつに飛びかかれる…待て、あいつがデスクにいるかも怪しい! 音だけなら録音したものを流せばいい!あいつはそれくらいはやってくる!もしそうなら私が飛び出した瞬間に蜂の巣か? …だか、もし本当に気づいていないなら今しかチャンスは…!) 爆発のタイミングを拭いきれぬ疑惑で失った身体は、徐々に力も抜ける。 結局のところ逡巡には結論を出せず、ただ床に膝を着くのみになった。
11 21/09/12(日)23:32:01 No.845513514
(ダメだ…まるで答えが出ない…!こんな状態じゃ集中なんて出来るはずもない!) 暫くして、打鍵音が鳴り止む。そうして、扉が再び開閉する音がした。 ナリタブライアンがそっと扉を開くと、そこには男の姿は存在しなかった。 「…クソ…!!」 握りしめた拳がわなわなと震える。千載一遇のチャンスを逃した後悔が、自分を許さなかった。 と、ふと疑問に思う。あの男はどこへ向かったのか?もしこの部屋ではないどこかであるならば、そこは。 (まずい…エアグルーヴはこの男の事を知らないかもしれない!いや、流石に扉が開く音は聞こえているだろうが…銃を持っていることは分からないはずだ!)
12 21/09/12(日)23:32:21 No.845513684
息を潜め、デスクの前を忍び足で横切りながら扉までたどり着く。 ゆっくりとドアノブを回し、静かに扉を押し開けた。 (どうにかあの男に見つからないようにエアグルーヴに伝えないとヤバイ…!) 体を半歩先に進めたその瞬間。 か細い音が空を切る。 外開きの扉と壁の間に生まれた影から、銃口が伸びる。先に付けられた消音器から放たれた弾丸が、ナリタブライアンの足を撃ち抜いた。 「ッ…あ…!!」 床へ倒れ込む間際、視界が右へ高速に流れる瞬間、黒服の男の歪んだ笑顔が目に焼き付いた。
13 <a href="mailto:s">21/09/12(日)23:32:33</a> [s] No.845513780
次回に続く
14 21/09/12(日)23:52:30 No.845524555
なんか…エライことになってるな…
15 21/09/13(月)00:11:08 No.845532290
しばらく見てないうちにすげえ方向に行ってるな...