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21/08/31(火)01:57:30 No.841027645
5月初旬。トレセン学園。ある日の平日、正午。 マーベラスサンデーはトレセン学園の屋上にいた。お弁当を持って、屋上に座りこみ、ただ空を眺めている。蒼穹が高く、その青さを誇るようにただ広がる。雲一つないそんな空をただ彼女はぼんやりと見ていた。 そんな最中青空に轟音が響く。 (あ…飛行機…) マーベラスサンデーがエンジン音が響くその方向を見ると、一機の飛行機が左から右へ、何もない空を飛び去って行った。白い飛行機雲が、チョークで引かれたようにまっすぐにたなびいている。 「マベちゃん」 そんな最中、彼女の後ろから、彼女を呼びかける声がした。 マーベラスサンデーがその聞きなれた声に振り向き 「先輩☆」 とにっこり笑って、彼女に呼び掛ける。 屋上にもう一人現れたウマ娘。彼女の名前はスリゼローレル。G1ウマ娘であり、今年の天皇賞(春)では二着に好走した誰もが知る実力者である。
1 21/08/31(火)01:57:44 No.841027690
「待った?」 「ううん☆」 短い会話を経て、彼女はマーベラスサンデーの隣に腰を下ろした。 そして 「「いただきます」」 と2人は声を揃えると、お弁当箱を開き、昼食を一緒に摘まみ始める。 マーベラスサンデーは思い出していた。 「大事な話があるの」 春の天皇賞が終わった翌日の事。スリゼローレルにマーベラスサンデーはそう話しかけられた。 話したいことがあるならすぐに話せばいいと彼女に問いかけたが、どうも彼女からすればそうではなかったらしい。 結局彼女が改めて話をしたいと言い出すまで、2週間ばかりの時間が必要になり今日に至っている。
2 21/08/31(火)01:58:09 No.841027751
「いい天気ね」 「そうだね☆」 2人は青空を眺めながら昼ご飯を食べ進める。 「あの後ね、天皇賞の後、トレーナーさんにすっごく怒られちゃった」 「そうなの?」 「うん、無茶しすぎだって」 苦笑いしながら話すスリゼローレル。温厚な彼女のトレーナーが目を釣り上げ激怒したのは、後にも先にもこれきりだろうとスリゼローレルは思い出す。 「マベちゃんはどうだった?」 「別に☆」 涼しい顔をして答えるマーベラスサンデー。しかしその言葉にはつかれていない嘘が含まれていた。
3 21/08/31(火)01:58:29 No.841027810
あの天皇賞の後、彼女のトレーナーはマーベラスサンデーを気遣うことが非常に増えた。そして練習内容も、より怪我のない慎重なものに変わり始めていた。どこか憔悴しているその態度を見るたびに、どうしてこんなに心労が溜まっているんだろうとマーベラスサンデーは思ってしまう。骨折なら3回もした。しかし全て治って今に至っている。 (怪我しても治るんだから、そんなに心配しなくてもいいのに) トレーナーの過保護な態度を見るたびにマーベラスサンデーはそう思う。ただそれを口には決して出さなかった。こういうことは口に出してよかった試しがないからだ。 適当に雑談を続けるうちに 「マベちゃん、大事な話があるの」 神妙な顔をして、スリゼローレルはついに話し始めた。 「挑戦することになったの、私。凱旋門賞に」
4 21/08/31(火)01:58:48 No.841027857
「凱旋門賞!?」 凱旋門賞。フランス・パリロンシャン競バ場、芝2400m。世界の頂点を決める伝統と名誉あるレースの一つ。すべてのウマ娘の憧れであり、すべてのトレーナーが夢見る舞台。 流石のマーベラスサンデーもこの言葉には驚きを隠しえなかった。 「そう。それでまずは前哨戦のフォア賞から。フォア賞は9月にある予定だけど…フランスの芝は長くて重たいから、8月下旬には向こうに行くつもり」 前哨戦とされるフォア賞は、G3レースではあるが、場所はパリロンシャン競馬場の芝2400m。つまり凱旋門賞と全く同じコースなのだ。そして凱旋門賞の1ヶ月前に実施されることもあり、リハーサルとしては最高のレースである。 「そこでマベちゃんにお願いがあります」 そこまで話して、スリゼローレルはマーベラスサンデーの方を見つめなおした。その瞳には強い意志を抱え。しかしその口はどこか緊張しているように、中々動こうとしなかった。 だが 「帯同ウマ娘として、フランスまで一緒に来てくれない?」 震えた声で、彼女は遂に想いを口にした。
5 21/08/31(火)01:59:07 No.841027919
帯同ウマ娘。それは海外レースに挑戦するウマ娘に同行するウマ娘のことである。海外レースに参加するウマ娘が、慣れない土地に晒されることで、興奮や孤独感を覚えることがある。そのメンタルの波を抑える目的より、海外レースに出る際には帯同ウマ娘を連れていくケースも時にはあるのだ。 また、海外でのバ場は芝が長かったり、良バ場とされていても日本の芝より重たいことも多い。帯同ウマ娘がいれば、レースの前に併せウマをし、バ場の特性を知り、コンディションを整えることもできる。言わば、海外に挑戦するウマ娘を支える役である。 通常は同じトレーナーのもとで指導を受けるウマ娘が選ばれるのが一般的だが、今回、スリゼローレル個人としては、マーベラスサンデーを帯同ウマ娘にしたいようだった。勿論、帯同ウマ娘を選ぶのは、彼女のトレーナーが行うこと。それにマーベラスサンデーのトレーナーにも話をしなくてはならないことを考えると、彼女の希望はかなり無茶なものだった。
6 21/08/31(火)01:59:23 No.841027979
「凱旋門賞は例年10月の第一日曜日だから、マベちゃんからすると秋の天皇賞に出走するのがかなり厳しくなるよ。海外から帰ってきて、いきなり日本のレースって身体がかなり辛いと思う。だから…、ここは、私の練習ばかりに付き合わず…海外のレースに出るっていうのもいいし…」 そこまでスリゼローレルは言葉を紡いだが、それは段々と尻すぼみとなり、最後には口ごもった言い方となった。 「…ううん、違うね。マベちゃんの日本でのキャリアを…狭めるお願いだね…」 言葉の先が、彼女の心配事の核心へと向かった。 すぐにスリゼローレルが話をしなかった理由。それはマーベラスサンデーの将来を考えたから。 10月に帰ってきて調整を取って間に合うレースはジャパンカップか有マ記念。G1級の実力があるにも拘わらず、G1レースのタイトルのないウマ娘のマーベラスサンデーは、少しでも多くのG1レースに出る必要があると思っての事。自分のわがままが、ライバルの栄光の目を摘むことになりかねないと、そう考えているからこそ出た迷い。 そして、それにも拘わらず、貫き通したいわがままだったからこそ、マーベラスサンデーに話を彼女は持ち掛けたのだ。
7 21/08/31(火)01:59:56 No.841028069
「そっか…」 一通り話を聞いた後、マーベラスサンデーは空を仰いだ。 吸い込まれそうな青い空。雲一つない青色のキャンパスに、ただ一つ、飛行機雲だけが一直線に走っている。 「うん…行きたいな、フランス」 「え?」 その言葉を聞いて、スリゼローレルは戸惑いの声を上げた。自分が願った答えを彼女が言ってくれたにも拘わらず。 「先輩と一緒にフランスに行きたい☆」 そう笑顔で話すマーベラスサンデーに 「で、でも…マベちゃんは…」 と食い下がるスリゼローレルだが 「大丈夫だよ☆」 マーベラスサンデーの笑顔は変わらなかった。
8 21/08/31(火)02:00:21 No.841028148
「G1のタイトルなら間に合わせるから☆」 そしてそう彼女は言い放った。 昼のチャイムが鳴った。もうすぐ授業が始まる合図。それはまるで、新たな始まりを告げるような音のように、スリゼローレルの耳には聞こえてならなかった。
9 21/08/31(火)02:00:36 No.841028195
6月下旬、阪神競バ場。 日曜日、第10レース。G1、宝塚記念。芝2200m。 天候は晴、バ場は良。 『さぁ今年もやって参りました春のグランプリ。あなたの夢、私の夢が走ります。梅雨にも拘わらず、ここ阪神競バ場は最高の快晴に恵まれました。バ場の芝も緑一色。天が微笑んだかのような良バ場です。上半期の総決算、熱き夏の風が吹く宝塚記念。いよいよ始まろうとしています』 実況の声が響く中、マーベラスサンデーが地下バ道から姿を現した。 途端、観客席からの大声援が巻き起こる。轟音のような大声援に、 「マーベラース☆」 と彼女は満面の笑顔で手を振った。 今回マーベラスサンデーは堂々の一番人気。観客からの熱い視線が彼女に注がれている。 しかしその反面、彼女の脳内は非常に冷静だった。冷めていると言っても過言でないほどに。
10 21/08/31(火)02:00:55 No.841028246
「え!?マヤノ、宝塚記念出ないの!?」 2週間前、マーベラスサンデーはマヤノトップガンの言葉に驚きを隠せずにいた。 「うん、ごめんね、マベちん☆」 申し訳なさそうにマヤノトップガンは舌を出す。 「トレーナーちゃんがね、天皇賞ですっごく頑張ったから休んだほうがいいって」 春の天皇賞、レコードタイムで優勝を手にしたマヤノトップガン。その脚色はライスシャワーが作ったレコードタイムを2秒7も縮める劇的なものだったが、その分彼女の消耗も激しかったようである。 「だからね、秋のジャパンカップを目標にして、しばらく休んだほうがいいって!心配性なんだから!トレーナーちゃんったら!」 そうぷりぷりと話すマヤノトップガン。マーベラスサンデーはそれを呆けたように聞いていた。 今年の宝塚記念、スリゼローレルも当然出ない。凱旋門賞に向けて少しでも練習を積みたいとの理由からである。 ともなれば、今回の宝塚記念、天皇賞で死闘を演じたライバルが誰一人出ないということ。それはマーベラスサンデーにとってかなり拍子抜けする出来事だった。
11 21/08/31(火)02:01:11 No.841028300
「そっか…」 明らかに落胆するマーベラスサンデーに 「大丈夫だよマベちん☆また一緒に走ろう、ね?」 マヤノトップガンは笑顔でそう声を掛けた。 「うん」 苦笑いをして答えるマーベラスサンデー。そして 「マーベラスなレースが…また出来ると思ったのにな…」 とどこか寂しそうに彼女はつぶやいた。 その言葉を聞き、マヤノトップガンは思いだしていた。 『ウマ娘ってさ、みんなそれぞれ走る理由とか、なんかあるじゃん!だからボクは他の人がどうなるかは分からないけど…。』 それはトウカイテイオーの言葉。何をもってレースに臨むのかは人それぞれ。 そしてマーベラスサンデーにとってレースとは何か、少しだけ分かった気がしたマヤノトップガンだった。
12 21/08/31(火)02:01:38 No.841028384
観客席に向けて手を振るマーベラスサンデー。 そんな様子を見て、怪訝な顔をしているウマ娘がいた。 「何怖い顔してんの、ローゼン」 春の天皇賞五着のローゼンシュバリエである。春の天皇賞ではスリゼローレルとマーベラスサンデーのペースに乗ったはいいものの、気が狂ったような2人の走りに巻き込まれ、最後の直線で文字通りすべてを出し切ることになったウマ娘の一人。 「何って…バブル。こえーんだよ、マーベラスさん」 声を掛けてきたミスバブルガムにそう彼女は言葉を絞り出すように答える。 「ふーん…」 そんな彼女の言葉はどこ吹く風で、風船ガムを膨らますミスバブルガム。 長距離適性がない彼女である。春の天皇賞はそもそも参加するつもりもなかった。だからだろう、あまり彼女に抵抗意識がなかったミスバブルガムは、ずかずかとマーベラスサンデーに歩を進める。
13 21/08/31(火)02:01:53 No.841028421
「お、おい…!」 ローゼンシュバリエがそれを止めようとするが一切聞くことなく 「マーベラスさん」 と彼女はマーベラスサンデーに話しかけた。 「何☆」 「今日はよろしくしゃッス」 と言い、右手を前に出す。 自分は秋の天皇賞ウマ娘だ。G2タイトルしかないウマ娘に何を恐れる必要がある。その態度が、まるでそう言っているかのように。 「うん☆よろしくね☆」 そしてそれに躊躇なくマーベラスサンデーは応え、手を握り返した。 もうすぐ宝塚記念が始まろうとしていた。
14 21/08/31(火)02:02:11 No.841028476
『さぁ、真っ青な絨毯のようなターフを踏んで!今スタートしました!』 12人のウマ娘が一斉にスタートを切る。出遅れたウマ娘がいない好スタートである。 宝塚記念は第四コーナー出口にあるスポットから始まり、1689mのコースを1週するレース。第4コーナーからのスタートであるため、自然とその直線は長い。 『まず外をついてハネダエンペラー!内を回ってはマウンテングレース!果敢に先頭争いを繰り広げます!』 先頭を争うように2人のウマ娘が抜け出した。 『そしてミノステイヤー!中からはスベシャリストも前に!そしてフェーズジェム!先団の5人!差がありません!』 それに続くように3人のウマ娘が先団争いに加わる。これも当然のことだった。阪神競バ場の直線は、約500m弱。そしてゴール板200mまで下り坂。200m地点からゴール板までは高低差2mの急坂がある。 そのためスピードが乗りやすい平坦なスポットから下り坂の直線コースまで思いっきり走り、そして勢い任せに坂道を登り切るのは道理に適っていた。
15 21/08/31(火)02:02:31 No.841028520
『天皇賞ウマ娘!ミスバブルガムは中段七番手!そして注目のマーベラスサンデーは十番手につけています!』 先を急ぐ5人とは裏腹に、ミスバブルガムは中段にて腰をつけた。一方マーベラスサンデーはペースを上げず、十番手。 (何だ…出てこないのか…) スタートダッシュをしないマーベラスサンデーの様子をミスバブルガムは見て、少し落胆した心持を覚えた。天皇賞ではマーベラスサンデーと一緒に走った彼女だが、その時も最初から最後まで彼女はミスバブルガムの前に出てこなかった。 (ホントにすげーんかな…あのウマ娘…) 世間ではやたら評価されているようだが、いまいちその強さに実感が持てない彼女である。 そう彼女が考えているうちに、ウマ娘たちは最初のコーナーに差し掛かろうとしていた。 『さぁ第一コーナーに入りまして先頭を取ったのはマウンテングレース!』 先頭を取ったウマ娘がレースを引っ張り第二コーナーに向かう。 先団と中団は差が縮まるが、依然としてマーベラスサンデーは十番手。さらに完全にバ群とは差ができた後方を走っていた。
16 21/08/31(火)02:02:54 No.841028580
(なんか…すっげぇ差が開いてるんだけど…) 六番手に位置したミスバブルガムが後方を確認し、マーベラスサンデーの姿を見てそう思った。 (もういいや…) と彼女は思うと前だけを見てレースを進めることにした。マーベラスサンデーは敵ではない。この宝塚記念でも1着を取ろうとそう心に決めて。 ふと思い出したのは苦い苦いジャパンカップの思い出だった。天皇賞で1着を取った1か月後、ジャパンカップに出た彼女の成績。15人中十三位という惨敗だった。控室にびくつきながら帰り、トレーナーから怒られるかと思ったら、何も言われずただため息をついてうな垂れるトレーナーの姿を今でも彼女は覚えている。それからは大阪杯にも安田記念にも出ず、ただ英気を養い実力をつけることにすべてを注いできた。 (今日こそは…アタシの日だ…!) そう心に決めて彼女は走る。第二コーナーを抜け向こう正面に差し掛かろうとしていた。
17 21/08/31(火)02:03:34 No.841028687
『さぁ向こう正面に入りました!12人の優駿たち!レースも佳境!そろそろ仕掛けてくるウマ娘が出てくる頃合いです!!!』 実況の声に応じるかのように一人のウマ娘が徐々に差を縮めていた。 『後方につけましたマーベラスサンデー!いよいよ加速して参りました!!!』 マーベラスサンデーが徐々に加速し始めた。そして第三コーナー手前で遂にバ群に追いつく。 『さぁ第三コーナーに入りまして、ここからが勝負所!先頭の動きはどうだ!外からフェーズジェムが差を詰めて参りました!しかし先頭は依然としてマウンテングレース!』 先頭争いをする2人のウマ娘。 それを見て (よっしゃ!行くかぁ!) 『おおっと!ミスバブルガムも上がってきた!』 ミスバブルガムも足色を輝かせ始める。流石のG1ウマ娘。弧線のプロフェッサーと言って遜色のない走り。彼女が外側から前を伺い始めた、そんな最中だった。 『そして!来ました!来ました!マーベラスサンデー!バ群の中から位置取りを押し上げて参りました!』 バ群の中をかき分けるように強いトルクでマーベラスサンデーが駆けあがってくる。その動き、まさに曲線のソムリエ。
18 21/08/31(火)02:04:01 No.841028776
(うぅわ!!!来た来たきたぁ!!!) あっという間に六番手まで順位を上げたマーベラスサンデー。それを見て必死に並走するローゼンシュバリエ。 『600の標識を通過!第四コーナーへ差し掛かります!フェーズジェム先頭で半バ身ぐらいリード!そしてミスバブルガム上がってきた!ミスバブルガム上がってきた!』 (アタシが勝つ!!!) 強い脚色で外側から抜け出そうとするミスバブルガム。その刹那だった。 「マーベラァァァァス☆」 その叫び声に驚きミスバブルガムが右側を見た。 そこにいたのはマーベラスサンデー。 (ウソだろ!?) 先程まで後方をトロトロ走っていたように思えたウマ娘がすぐ内側にいることに驚愕する。 『さぁ悲願のG1制覇なるか!!!マーベラス!!?』 実況の声が響き渡る。大観衆が興奮の叫びをあげる。 遂に阪神競バ場の最後の直線が目の前に迫ってきていた。
19 21/08/31(火)02:04:34 No.841028875
『先頭はフェーズジェム!!!依然としてフェーズジェム先頭!!!』 先頭を必死に粘る彼女に 『そして!!!そしてそして!!!ミスバブルガム!!!』 大外からミスバブルガムの脚が迫る。 『マーベラスサンデーは中段真ん中!バ群の中から抜けるのを狙っているのか!?』 前が塞がったマーベラスサンデーだったが 「あはっ☆」 余裕の表情で笑って見せると 『マーベラス外に出た!!!マーベラス外に出た!!!』 臨機応変に大外に抜け出した。 『先頭はフェーズジェム!!!しかしフェーズジェム食い下がる!!!フェーズジェム食い下がる!!!』 必死に前を走る先頭のウマ娘。汗がほとばしり末脚を繰り出す中 『外からはマーベラスサンデー!!!外からはマーベラスサンデー!!!大外からはダンツパートナーもやってきている!!!』 大外から迫りくるマーベラスサンデー。完全に抜け出し準備を整えて迫っていく。
20 21/08/31(火)02:05:01 No.841028975
そして 『200を切った!!!先頭争いは外からはマーベラスサンデー!!!内を回ったミスバブルガム!!!マーベラスサンデー!!!ミスバブルガム!!!2人の競り合いだ!!!』 先頭に立ったのはミスバブルガム、それを追うマーベラスサンデー。完全に2人のレースとなった。 (マジかよ!!!こいつマジかよ!!!) 同様の心を抱えてもミスバブルガムの脚色は衰えなかった。末脚を炸裂させ、必死に前をむいて走り抜けようとする。 そんな最中 「マァァァベラァァーーース☆」 マーベラスサンデーの脚色がさらに輝いた。一文字にターフを駆け抜け、そして 『マーベラス抜けた!!!マーベラス抜けた!!!遂に!!!遂に!!!マーベラスサンデー、悲願のG1制覇!!!』 完全に抜け出したマーベラスサンデー。 (待てや!!!おまえ!!!!!待てや!!!!!) 必死に食らいつくミスバブルガム。しかしその差が縮まらない。抜けられない。
21 21/08/31(火)02:05:22 No.841029040
懸命に走るミスバブルガム。その時だった。 (あ”…?) ミスバブルガムは信じられないものを見た。マーベラスサンデーが一瞬、彼女の方を振り向いて微笑んだのだ。 (何って…バブル。こえーんだよ、マーベラスさん) その時彼女は不意に思い出した。レース前に聞いたローゼンシュバリエの言葉を。 その瞬間 『やった!!!やったぞマーベラス!!!遂に…遂に!!!夢にまで見たG1制覇!!!』 マーベラスサンデーがゴール版を一着で駆け抜けた。
22 21/08/31(火)02:05:37 No.841029094
レースが終わり、大歓声がマーベラスサンデーに送られる。 長かった戦いに初めて手にした栄冠を祝福するその声に、マーベラスサンデーは両手を振って応えている。 「あの…」 そんな彼女を見ながら 「マーベラスさん、アタシじゃダメなんスか?」 二着だったミスバブルガムが声を掛けた。 「え?」 その言葉に振り返るマーベラスサンデーの顔を見て 「いや…いいっス」 ミスバブルガムは少し寂しそうな顔をして、すぐに彼女の顔から眼を逸らした。 「ただ…その…。もう少し、嬉しそうな顔をしてくださいよ」 その暗い声色に充てられて、マーベラスサンデーは初めて気づいた。 自分が心の底から喜べていないことに。
23 21/08/31(火)02:05:54 No.841029137
レースが終わり、地下バ道を一人歩くマーベラスサンデー。 初めてのG1レースでの制覇。初めてのグランプリでの栄光。その勝利と名誉とは裏腹に、彼女の心はどこか身の入らないものとなっていた。 ミスバブルガムに言われた言葉が思い出される。 『もう少し、嬉しそうな顔をしてくださいよ』 その言葉を噛み締める度に、彼女は気づく。気づいてしまう。 (こんなものが…G1レース?) 決してミスバブルガムが実力不足な訳ではない。今回集まったウマ娘たちが実力不足な訳でもない。ただ足りないのはライバルの姿。この宝塚記念にはスリゼローレルも、マヤノトップガンの姿もない。 (こんなものが…頂点?) そしてそれに気づくたびに心にもたげてしまう。退屈な気持ちが顔を出してしまう。 彼女が望んだような、高揚するものは、このレースにはなかった。 多くのウマ娘たちが焦がれる、いつかその舞台に立ちたいと願う春のグランプリ。
24 21/08/31(火)02:06:15 No.841029215
数多の想いを踏み台にし、頂点に立ったにも拘わらず、そこから見える光景は、マーベラスサンデーが一顧だにしないようなもの。高き塔から瓦礫の街を見下ろすような、そんな感情ばかりが胸の中に渦巻いていた。 (でも、よかった。これで先輩のフランス行きに同行できる。これならローレル先輩も心配ないと笑ってくれるな…☆) そう思いなおし、すっかり興味の失せた阪神競バ場のターフを背に、控室への足取りをすすめようとした。 そんな最中である。 「マベちゃん」 ふとマーベラスサンデーが顔を上げると、そこには小さな若い女性の姿があった。 「トレーナーちゃん」 マーベラスサンデーがようやく彼女の存在に気づき、声を掛ける。 「宝塚記念、優勝おめでとう」 「うん、ありがとう」 トレーナーの目には涙が浮かんでいた。そんな涙をぬぐいながら彼女は話す。 「よかった…本当によかった…」 しかしその涙はとめどなく流れ続ける。決して悲しいわけではない。その顔には笑顔が浮かんでいるのだから。
25 21/08/31(火)02:06:31 No.841029265
(大げさだなぁ…) マーベラスサンデーは思った。高々ただの一勝じゃないか。そう思い彼女に声を掛けようとしたその時、彼女の身体をやさしくトレーナーは包み込んだ。 そして 「マベちゃんが…ちゃんと無事に帰ってきてくれて…本当によかった…」 トレーナーの口から安心しきった声で、言葉が紡がれる。 その零れ落ちた言葉に、マーベラスサンデーの思考は停止した。 トレーナーはG1レースでの勝利に涙を流していると、彼女は思っていた。 しかし彼女が第一に案じていたのは、マーベラスサンデーの体調だった。 暖かいトレーナーの腕がマーベラスサンデーを包み込む。広い地下バ道にすすり泣くような嗚咽の音がただ響いている。 その音を聞きながら 「トレーナーちゃん…ありがとう」 とマーベラスサンデーは、彼女の胸の中で、ぽつりと言葉を口にしたのだった。
26 21/08/31(火)02:08:22 No.841029596
こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する G1タイトルを取ったマーベラスサンデーですがもう少しだけこの話は続きます あと3回位で終わる気がします かなり長くなりましたがお付き合いいただけますようお願いします これまでのやつ fu297550.txt
27 21/08/31(火)02:10:40 No.841030012
いいもんじゃった…
28 21/08/31(火)02:36:27 No.841034097
どう終わるんだろ…
29 21/08/31(火)02:42:46 No.841034932
てっきり物見のクセを治す展開かと思ったが マベちゃんにとっては…レースとは…
30 21/08/31(火)02:44:17 No.841035128
ライバルも、トレーナーも、自分の体すら見えなくなってる気がする
31 21/08/31(火)02:51:33 No.841036008
うn…怖い というか心配通り越してもうマベちゃんが見えない
32 21/08/31(火)03:02:37 No.841037285
何かに飲み込まれてる、というか いいレース、を目指す中でマベちゃんが希釈していく感じ あんなに一心同体だったトレーナーの存在感まで消えてる…
33 21/08/31(火)03:05:07 No.841037573
テイオーの言ってた「おかしくなる」感じ