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21/08/17(火)22:17:08 前書き ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1629206228209.jpg 21/08/17(火)22:17:08 No.836245243

前書き この前書いたタマモクロスの怪文書でいたキーストンの怪文書です 後半かなり圧縮させましたがそれでもめちゃくちゃ長いので幾つかに分割して載せます 存在しないウマ娘の内容ですが許してください

1 21/08/17(火)22:17:38 No.836245477

トレーナーとしての腕は非常に高い、何なら数年いる熟練トレーナーに匹敵する程 ただ…スカウト能力はとにかく乏しい。 同僚のトレーナーから忖度無しで評価するならこうだ、と言われた。 「自覚はあるんだけどね」 「魅力という物が無い訳では無いけど、如何せん押しが無いな、もう少し踏み入って話せればいいんじゃないか」 それが中々難しいんだよ、と言いたかった。 (できないから仕方ないで済む話でも無いか) 呑気に過ごす訳にもいかず、俺は今日も担当探しを始める。 誰か…と話せば皆チームに入ることを決めてるウマ娘ばかり。俺はそういう運もスカウト力も無いからか、話すウマ娘全員に断られ続けた。

2 21/08/17(火)22:18:03 No.836245693

「どうすりゃいいんだよ…」 ちょっとした休憩室の一角で、俺は頭を抱えながらボヤく。 「えっと……その…」 あっ、先客がいた事を完全に見てなかった。 小さな女性の声が聞こえて思わず俺はハッとなった。 「ごめん、…情けない所見せちゃった」 小さな鹿毛の少女はいいんですよ、と軽く笑った。 「トレーナーさんが悩んでる姿、私、初めて見ました」 「うっ…なんかごめんね…」 「いえ、悩まない人なんていませんよ」 優しく微笑む彼女を見て、俺は何となく…今この愚痴を話してもいいかなと思う。 「担当が見つからないんだ、どの子もやっぱり新人よりも数年入ってるトレーナーに行くし…まあ、恥ずかしい話だけど俺のスカウトが下手なのもあってさ」 「…奇遇ですね、私も同じです」

3 21/08/17(火)22:18:26 No.836245865

「へ?」 彼女は話した。スカウトがされないと。 …己はウマ娘としてのレースの道よりも、ひとつ大学に行って就職した方が良い道になるのではとトレーナーに話されたらしい。 「ひどいな、…君の走りを見てないけど、そんなこと言うやつがいるなんて」 「言われる理由があるからだと思います、…今度、レースがあるので見ていただけますか?」 「うん、絶対見に行くよ」 彼女は日付と時刻をキチンと話し。予鈴がなったのに合わせて席を立って居なくなってしまった。 「あ、………名前聞くの忘れてた」 そういうところだろ!!と自己嫌悪に陥りつつ、俺は明日彼女のレースを見てみることにした。

4 21/08/17(火)22:18:51 No.836246044

「キーストン……」 不思議な名前だ、ウマ娘らしくないと言えばそうかもしれない。 ターフの奥、辺りにはチームトレーナーばかりでたぶん落ちこぼれは俺だけだ。 「よう、大丈夫か」 心配して見てくれた同期で同僚のトレーナーだった。 「大丈夫じゃないかな、…キーストンの情報とかある?」 「ああー、…あんまり情報ないぞ、そうだな…お前もわかると思うけど、体格はひ弱だし、性格は凄く内気だし。…前に行こうとはするけど…うーん…いいところデビューできたら御の字ってとこだろ」 「………そうだよな」 残酷な言葉だったが、俺もその評価を下さざるを得なかった。 (幼なじみと違ってパワーがあるようにも思えないんだ)

5 21/08/17(火)22:19:05 No.836246148

ゲートが開くと同時に、彼女は出遅れる。 フォームは寸分なく構えてたのに…意識を向けすぎだ。 ペース無視でとにかく追い抜こうと必死に、必死に走るが、戦法や走法は常に変わることをまるで分かってないような走りだった。 …まるで、キチンと走る電車のような走りである。 (あれじゃ落ちるな、…教科書通りの走りをしてるだけだ) 彼女はみるみる最後の加速で余力が残りすぎており、着順は4着で終わった。

6 21/08/17(火)22:19:19 No.836246253

「……キーストン…」 彼女の元へと向かうが、そこには彼女はいない 先にいた同期のトレーナーに聞くと、彼は直ぐに俺に答えた。 「……すぐに練習に行ったらしい、真面目な所が本当に取り柄だろう。…真面目だけで勝てるウマ娘は結構少ないが」 「…そうか、探してみるよ」 その日…結構彼女を見つけることはできなかった。

7 21/08/17(火)22:20:35 No.836246907

それから3日が経った。 「…もう無理か」 期限は限界寸前、俺はサブトレの手続きをする。 「…結局、だれも見つけれなかった。今年はサブトレとして1年過ごすのか…」 残念だが、受け入れるしかない。 「…トレーナーさん、見つけました…」 「君は…!」 恐ろしいほど身体はボロボロだった、個人の練習で誰も止めなかったのかと怒りの感情が沸く。 だが…そんな事ではないほど。彼女は真っ直ぐな瞳で微笑む。 「担当、見つからないのですか?」 「うん、ああ…君は…久しぶり?でもないな」 「ならーーー」 彼女は…ぎゅっと口を閉じて、そしてゆっくりと開く。 「余り物同士、一緒に走りませんか」 震える声で、俺と同じ、自己嫌悪が少し混じったような言葉で。それでも真っ直ぐ、強く俺を見ていた。……その姿をもう一度見て、確信する。

8 21/08/17(火)22:21:25 No.836247319

「…………君は、余り物なんかじゃないよ」 「……えっ」 その手を掴み、そして泥で傷だらけの脚を見る。 「頑張りすぎだ、…ちゃんと、手入れをしないとダメだ。その為のトレーナーなんだ」 「………すいません」 「絶対勝たせてみせる…だから…その…」 …ああ、くそっ、俺はやっぱり言えないのか、最後の1押しが。 だけど、彼女はそれを見て嬉しそうに笑う。 「はい、スカウトしてください」 最後の1押しを…彼女が押してくれた。 「ああ……もちろん!」 担当とのスカウトとは、多くがロマンチックな喜劇のような形だという。 俺達の形はそんな喜劇では無いかもしれない、…どちらかと言えば、下流の者共の慰め合いにも見えた。 それでも……努力をし続けて、ずっとがんばろうとする彼女を支えたい…支えなければならない。そう強く誓うのだった。

9 21/08/17(火)22:21:49 No.836247517

メイクデビューまでに、彼女は恐ろしい程の速さで学習していた。 「本当にすごいな」 「ありがとうございます」 誰よりも賢い…そして誰よりも実践する力がある…間違いなくこれは武器になる。 そう確信し、俺はデビュー前の段階で実践的な立ち回りを指導させた。 (これ程基礎の動きが固まってる子はいない。早めに誰よりも力任せで勝てる走法をーー、そして誰よりも最適な走りを習熟させるべきだ) 程なくして、彼女はそれらを僅か1年でほぼ全ての技術をマスターした。 「今日が本番だ、正直、情報を渡さない為にも練習レースをさせなかったことは間違いだったとは思ってる」 「トレーナーさん、…大丈夫ですよ、もう、前までの私じゃないと証明します」 優しい笑顔と共に、彼女はターフへと走り出す。

10 21/08/17(火)22:22:29 No.836247857

~~⌚~~ 「10馬身差だと……………バケモンだ…」 「……想像以上だよ…」 同期と一緒にに俺は彼女のレースを見守っていた。 彼もまた心配だったらしい、自分の担当は来週デビューするから、視察がてら見たいのだ、と。 キーストンは余裕の顔ではなく、完全に出し切った姿だ。 …それは正しく…今まで走り失敗を重ねた彼女と確実に違う事の証明だった。 「間違いなくこのデビューはメディア問わず激震が走るだろ、…ただ。1000m程度であの息切れか」 キーストンは走りきったあとも、かなり長い時間息を整えていた。 「配分を正しかったとはいえ、やはり小柄な所はあるのかも、うーん…単純に場数不足な部分も絶対あるかもしれない」 「…ああ、丁寧に扱えよ、あの子は恐らく他のウマ娘よりもデリケートに扱わないと直ぐにダメになるタイプだ」 同僚はどこか不安そうな言い方で俺にその事を話した。 「分かってるさ」 俺もまた、どこか彼女の走りに不自然さを感じていた。 それが何か、俺にはまだ分からない…

11 21/08/17(火)22:22:52 No.836248032

その日は、初勝利を祝って彼女が望む物を用意すると決めていた。 「何か欲しいものある?」 「いえ…それなら…もっとレースに出たいです」 この感覚を失いたくない、もっと安定させたいと彼女は話していた。 「…そうだな」 いきなり難しいレースに参戦させる訳には行かない、俺はまず早めに次のレースを組み、その後はひと月の合間をいれてレース日程を組むことを決めた。 「最後は期間を開けてg3に出る、無理だったら直ぐにキャンセルするから」 「…分かりました。経験を積めば、きっと…」

12 21/08/17(火)22:23:22 No.836248303

それから、彼女は想像以上の走りを連発した。 最後のg3まで全戦全勝。内3つレコード更新。 彼女のウィニングライブはその清楚で穏やかな雰囲気が特徴で人気が出ていて。あっという間に世間の話題になっていた。 「いぶし銀の少女…か」 新聞の一面に載せられたその文を読む。 たしかに他の名だたる名レースに出走するウマ娘と違い、彼女は堅実に勝ち続ける。 その姿を好む一定のファンが出来たことも含めて。…それはまた、俺はのトレーナーとしての評価も大きく上がっていた。 「…トレーナーさん、えっと、次はどのレースに…」 しかし、そこで奢るべきでないと俺は噛み締める。 彼女の脚を見た。…かなりボロボロだ。このまま何度もレースに出せば間違いなく限界が来る。

13 21/08/17(火)22:24:10 No.836248669

「ダメだ」 俺は強く首を振る。 彼女は少し驚いて…しかし、己の体と向き合って、すぐにその意味を理解したのか頷く。 「…分かりました」 ……あまりにも…従順すぎる。 都合が良くも見えるが、それがとても心配だった。 「…3ヶ月、練習メニューにしよう、…その代わり、次はもっと凄いレースにでよう」 「はい……!」 彼女がどこまで俺を知ってるかは分からない。 ただ、それでもこんなに信頼を寄せてることに責任感が強く増し続けていた。

14 21/08/17(火)22:27:00 No.836249972

それから月は経って、3ヶ月後の弥生賞の日。 彼女は相変わらずの走りで圧倒して見せて、3馬身での勝利を収めた。 初のg2、それも圧倒した勝利となり、まさにいぶし銀の輝きは更に高まる。 そんな状況なのに彼女はファン対応にメディア対応まで本気でこなす。増え続けるこれは彼女の負担になるから、来月は減らすべきだと俺は考えていた。 そうして、弥生賞から1週間も経ったある日のこと… 「トレーナーさん、あの…」 彼女が俺にゴニョニョと耳打ちする。 「え?インタビュー?うん、わかった、行ってらっしゃい」 彼女はとある雑誌のインタビューを受けることになった。俺なしでやるらしい (しっかりものの彼女は着実に人気者になっている。全て、いい方向に向かっているとも言える。…だが、こういう時だからこそ細心の注意を払わないとーー) …1人でぶつくさと彼女の為になる様々な事を思考して、ただ俺は彼女の帰りを待った

15 21/08/17(火)22:27:31 No.836250178

~~~~~ 「それで、…なるほど…新人の彼が全てを教えてくれた技術があったからと…」 「はい……!…最初は余り物どうしと話しました。でも、彼は言ったのです。『君は余り物なんかじゃない』と」 「…ふふっ、やはり貴方に相応しいすごいトレーナーですね」 「はい…そうなんです…!」 記者は次の質問をする。 「となると、トレーナーさんの評価もどんどん上がってるのですね、お互い高めあう関係としどう思いますか?」 「えっ」 彼女は固まり、…凍りついた。 「ふふっ、そうですよ、貴方の勝利はトレーナーさんの勝利とも言えます、有名なレースに勝てば勝つほど、沢山勝つほど。彼もまたその人気が高まるのです」 「…………そう…ですね…はい…!私、もっと勝ちたいです。あの人の為に……!」

16 21/08/17(火)22:27:44 No.836250259

帰り際、夕方、彼女を迎える。 タクシーの中で、俺は彼女に次のレースの話をした 「キーストン、次のレースなんだけど…」 「トレーナーさん」 「ん?」 「…三冠、取りたいんです」 「……そうか、わかった!」 インタビューを終えたあと、確かにキーストンの目は変わっていた。 彼女の闘志…そしてここまでの素晴らしい成績…持っていた責任感は、俺の心を熱く煮えたぎらせる。 「…よし!早速練習メニューに移るぞ!」 「はい!」 夕焼けに染まる彼女の後ろ姿は、とても表現出来ないほど美しかった。

17 21/08/17(火)22:28:14 No.836250482

……だが、彼女の真意を俺はまだ知りもしなかった。

18 21/08/17(火)22:29:22 No.836250987

スカウト~弥生賞まで終了 次は スプリング→皐月賞→ダービー→菊花賞まで 深夜テンションで書いてたものなのでかなり読みづらいと思いますが許してください

19 21/08/17(火)22:31:59 No.836252158

昨日書いてた「」か 有難い…

20 21/08/17(火)22:36:26 No.836254229

弥生賞前、時間は空いてると思っていたが彼女はひと月の間隔をいれて更なるレースに出走した。 スプリングステークス、2着に入着できたものの。彼女のスタミナの限界を俺は感じていた。 「無理があるんじゃないのか」 同僚は話しかける。 「この日程は彼女の希望だ、…あんまり許可はしたくなかったけど…」 「そうだな…ひと月のスパンを3回も繰り返して皐月に出るのは…流石に連続出走の疲れが出てくるぞ」 「…分かってるんだ、だけど…あの目を止めたくはない」 彼女の目は今までの静かな目とは違う。 どこか燃えていて、闘志を感じていた目なんだ。 「それと…俺の担当も三冠を狙うんだ、今回は勝たせて貰うが、…次の勝負も楽しみにしてるぞ」 「…ははっそうだな…負けだよ、今回は、な?」 彼は手を振り、…すぐにいなくなった。 「負けられないんだ、…俺も彼女も」 皐月賞がーーー始まる。

21 21/08/17(火)22:36:42 No.836254338

「行ってきます」 「キーストン」 「はいっ…?」 「……大丈夫か、疲れてないか」 出走前に聞くわけに行かなかった、彼女の真意を。その熱意の意味を。 「…疲れてなんかいませんよ」 ニコッと笑い、彼女はすぐにいなくなる。 「……………」 (無理があるんじゃないのか) 「……じゃあ、どう止めれば良かったんだよ」 彼女のその笑顔が…作り笑いだったことくらい、俺は解っていた。

22 21/08/17(火)22:36:58 No.836254468

大敗を喫した。 14着、大敗とも言えるその結果に、彼女は初めてないていた。 「…無理のし過ぎだ 」 「勝ちたかった…勝ちたかったんです…私、あなたに…こんなに走れるようになった恩返しをしたかった……!」 ただ泣き、それを俺は抱きしめる。 「その体、何も食べて無かったんだな」 「……っ!」 「肉体の激変に加えて、連続出走の疲れまで入ってる。君は特にストレスに対してはきちんとん管理しないとだめだ…俺が悪かった」 彼女に優しく撫でて、俺は厳しい管理の必要性を再確認した。 「…トレーナーさん…」 「大丈夫だよ」 次のレースに出すために…俺は俺ができることをやらないとならないんだ。

23 21/08/17(火)22:38:31 No.836255225

「…無理が祟ったか」 「そっちも惜しかったね」 「ダービーでるからな」 「分かってる」 「…お前も絶対出せるようにしろよ」 「ははは…そっちか…」 「それくらい、あの子は真面目で無理する子だからな」 同僚は笑顔で俺を見て、その後に話す。 「キーストンがなんであんなに走りたがるか知ってるか?」 「……実は、あんまり分かってない」 「そうだな…じゃあ、俺から具体的に答えることはしないけど…」 「…うん」

24 21/08/17(火)22:38:54 No.836255398

「お前の為に走ってるんだよ」 「何となく、恩返ししたいと言っていた事を知ってるから、…分かってはいた」 「そうか、ならいい」 「…ありがとう」 本当は違うさ、…だけど、今は知らなくていい。 いずれ、分かるようになるのだから。わ

25 21/08/17(火)22:39:09 No.836255510

「次はg2を出るべきだと俺はおもうんだけど…」 彼女は首を振った。 「オープンレースに、出させてください」 不思議と、名声よりも確実に勝てる堅実さが彼女にはあり、…俺はそれを承諾した。 ダービーは…それこそ、本当に名誉だという。 彼女はオープンを勝利し、いよいよダービーに出走する。 「…今度は前と違う、ちゃんと…抜群の状態で来れた」 「はい、…勝って見せます…!絶対…絶対……!」 内気なキーストンが、絶対という言葉を繰り返すほど、その闘志は誰よりも溢れてると俺は確認する。 「行ってこい!」 「はいっ!」

26 21/08/17(火)22:39:35 No.836255723

彼女は、俺の同僚の担当馬と死闘を繰り広げた。 しかしーー 「不良馬場に脚を取られたか。クソッ!」 「…行ける…キーストン…そのまま…!」 彼女に与えた知識、強さ、それだけじゃない どんな場所でも戦える対応力を持った彼女は、この悪いレースコンディションを味方に付けていた。 それはまさに…進行方向を掌握できる逃げにおいて、彼女の最大の武器となる。 「そうだ、…そのまま逃げ切れ」 その疾風は、誰よりも早く、誰よりも追いつけない速度でーーー 「……いっ………たぁっ!!!」 俺は今までにないガッツポーズを決めて、彼女の勝利を喜んだ。

27 21/08/17(火)22:39:46 No.836255796

「ただいま戻りました」 泥だらけの姿を見て。初めてスカウトしたあの日を思い出す。 泥だらけで傷ついた脚、誰よりも努力をする姿。 賢くで、誰よりも優しい彼女が勝利したその証は、まさにいぶし銀等では無い。 「…とりあえず、シャワー浴びてらっしゃい、…綺麗な君の方が良い」 「…はいっ…分かりました…」 静かな彼女の声には、抑えきれないほどの喜びを感じ取れていた。

28 21/08/17(火)22:39:59 No.836255908

「…勝てた…」 それだけで嬉しいのに。 「…私…ようやく…あの人にダービートレーナーの称号を…」 嬉しくて、ただ…ただ…この鼓動を感じる事に喜びを覚えていた。 「もっと勝たないと、あの人に私ができる限りで…」 この感情は友愛を超えている。 それを実感すると共に、最後の縛鎖を切らねばならない時が来ることを知る。 「あの人に勝利を与えて、私は最も良いタイミングで引退し、全て彼の糧になるように」 それができる限りの愛情であり、それ以上を踏み込んではならないと誓う。 「次は菊花賞、…その前に、少しでも勝てるレースは勝たないと」 小さく、そう呟いた。

29 21/08/17(火)22:40:24 No.836256095

日本ダービーを超えて、本来なら夏合宿含めた練習期間…にするはずが、彼女はすぐに言った。 「もっとレースに出たいです」 「わかった、ただ夏終了までは禁止だ」 「それは……分かりました…」 彼女に無理をさせる訳には行かない。…日本ダービーで勝利した後に走れなくなったウマ娘を知ってるいるからというのもある。

30 21/08/17(火)22:40:36 No.836256182

ただ…夏合宿を抜けても彼女の勝利は止まらない。 オープンを2つ、京成杯を勝利し、また5連勝と世間に彼女の名を知ら閉めた。 「ジュニア級の段階で戦績2桁か、飛んでもない存在だぞ、お前」 「キーストンのおかげだよ」 「そうか…いや…何も言わない方がいいか」 同僚は口篭り、話すべきでないからと言われる。 だが、彼は口を開いた。 「キーストンは…お前の想像するよりもずっと、己に対して優しくしない子だぞ」 「知ってるよ、最初に出会った頃からそうだったし…まったく……いい時期だってのに…」 菊花賞はーー近い

31 21/08/17(火)22:40:53 No.836256328

菊花賞。 「流石にもう無視できない存在だ、徹底的に調べさせてもらったよ」 「……そうか、俺もお前のデータをかなり調べたんだ、お互いいいレースになることを祈ろう」 彼の担当が1番、キーストンは2番。 レースが始まると、彼女の進行を徹底的妨げる展開になった。 キーストンはそれでもいなし続けた、いなして…いなして…それでも、そこに現れるロスは確実に彼女にダメージを与える。 後一歩のところで彼女は減速し、2着になった。

32 21/08/17(火)22:41:09 No.836256458

レース終わりに、彼女に近づくと、1着を取れなかったことを憂いて無かった。 「2着でも、十分です」 「…強くなったね」 「いえ。…もっと…もっと勝ちたいんです、でも、今回は全力を尽くせたから…」 キーストンはどこまでも優しい微笑みでそう答えるだけだった。 大阪杯までの間、彼女は毎月オープンレースに出走した。 オープン1勝、g31勝になり、その戦績の数は俺のトレーナーとしてのランクを更に上げていく。 理事長からも時折呼び出され、感謝の言葉を述べられることも多くなる。 「…電話番号まで貰えるとは…」 困ったらいつでも言えと言われ、俺はその話が1番困ると言い出せず、もやもやした気持ちが常に充満し続けていた。 キーストンに…キチンと向き合えて無いんじゃないのか。

33 21/08/17(火)22:41:29 No.836256626

シニアに入り、その予感は…大阪杯と天皇賞・春に結果が現れた。 彼女は笑顔のまま、5着という戦績なのにファンに対応をし続ける。 いつのまにかG1にほとんど勝利してもないのに、キーストンの人気は相当なものになっていた。 「また、勝ちましょう」 そうキーストンは言い、彼女はいくつものオープンレースと目標を俺に渡してくる。 「どうしてこれを…?」 「このレースに出たいです、…勝つ事が…好きですから」 「キーストン…うん、そうだな!」 それでも、俺は担当を強く信じることにした。 キーストンはG1に1度しか勝ててないし、…菊花賞を除けばそのほとんどは良い結果とも言い難い。 …だが、そんな状態の彼女は何も嫌な顔をせず、ただたくさんのオープンレースに出走したいと言い続けていた。

34 21/08/17(火)22:42:20 No.836256982

オープン全勝、とにもかくにもキーストンが選ぶレースはどれも彼女が絶対に勝てるようになっている好条件を確実に選りすぐっていて、それら全てを勝利する。 だが、…その裏に、全くと言っていいほどG1レースを出ようとはしてなかった。 …なんでこう、出ないんだろうか 勝たないことがトラウマになってるのでは?それなら、俺は…俺はトレーナーとしてひとつ失格だったのかもしれない。 「なんだ、随分と思い詰めてるな」 同僚の彼が俺に話しかける。 「ごめん。…俺、トレーナーとしてこれでいいのかってな」 「…キーストンが重賞レースを嫌うから?」 「…あはは、よく分かるね…」 彼はふむ、と顎を撫でて、そして答える。 「…勝てるだけ凄いことだと忘れるなよ」 「…っ…」 ……そうだ、そうだな、…トレセン学園の何人もが勝ててない、大半が酷い結果に終わってて、勝てるやつは常に勝つ世界だ。

35 21/08/17(火)22:42:34 No.836257093

「…俺の担当も、今年で引退だ、ドリームリーグにはたぶん出られない」 「……そう、か」 「お前は恵まれてるぞ、キーストンが勝てるってだけでどれだけ凄いのかをちゃんと分かってない。…勝てるだけで本当に凄いことなんだぞ」 「……そうだね、…俺は馬鹿だったな…」 キーストンが勝ててるのに何を心配してるんだ。 彼女の希望は間違いなく成功している。信じて、信じて、そして彼女のゴールを見届けないとならない。

36 21/08/17(火)22:42:53 No.836257250

そうして、冬の有馬記念が近づく。 「有馬記念はいいのか」 「…選ばれましたが、辞退しました」 「そうか」 だが、どこか彼女のおかしな感触に俺は気づいていた。 明らかにG1を狙っていない。勝てるレースに出て必ず勝つという動きをしてるようにも感じていた。 (本当に、なんでだろうな) あの闘志の目は変わってない、俺はもしかしたら……何か、勘違いをしていたのではないか? 「それと…引退レースをしたいのです」 彼女から言われた言葉は、とにかく意外な物だった。 「いや、今年の12月の有馬記念にすべきだ」 少なくとも今のこの子の実力なら勝てる、勝てるチャンスがある!…それを俺は教えてやりたかった。 「いいえ、…阪神大賞典は、最も私に適したレースです、だからこそ…華やかに終わりたい」 彼女はただ、…決意を固めた視線で俺を見ていた。

37 21/08/17(火)22:43:09 No.836257367

「それでいいのか」 「それでいいと思ってます」 「はは…参ったな、君が希望するレースは全て勝てるレースだもんな…、止めないよ、いつも通り、勝っておいで」 彼女はまたあの優しい微笑みを見せ……突如、ゆっくりと俺に抱きついた。 「すいません」 「どうした」 「言い出したものの、…やっぱり寂しくて」 「…なら、やめた方がいいんじゃないか」 「いいえ、この気持ちは変えたくないんです」 「……わかった」 真っ赤な夕焼けに照らされた俺たちは、どこか優しく深い絆を感じていた。

38 21/08/17(火)22:43:25 No.836257491

そして、阪神大賞典が訪れる。 キーストンがたぶんこのレースを選んだのは、彼女の走りやすいというだけでなかった。 多くの強いウマ娘は皆有馬記念に向けて練習している。阪神大賞典は非常に少ない人数で始まることとなり、もちろん有力な者も居るが… それ以上に。少ない人数なのが彼女の走りやすさに最も適していたのは、俺が言うまでもない話だった。 ゲートが開き、キーストンはいつもの美しい逃げをする。 ああ、早い、逃げて、止まらない この速さが…俺はずっと好きだった。 止まらない、止められもしない。…ただ美しく、凄く俺の好きな走り。 (これで引退になるなんて…早いと思ったが、彼女らしいな)

39 21/08/17(火)22:43:38 No.836257609

どこかウマ娘にしては珍しい堅実さをもっている。逃げウマだというのに、…豪快さを好まず、勝てるレースを勝つというスタンスは最後まで貫くのは、一見してむしろ美しく感じていた。 2週目の最終コーナー、後続がスピードを出すなか、それすらも追いつけない速さでキーストンは走り続ける。 ……行け、お前ならーーー 俺はすっと目を瞑りーー

40 21/08/17(火)22:43:51 No.836257739

…突如鳴り響く轟音に俺はすぐに目を開いた。

41 21/08/17(火)22:44:21 No.836258010

………転倒した 時速数十キロの彼女の転倒は十数メートルにも転がり、脚が異常な程に曲がって…そのまま倒れる。 「キーストン!!! 」 思わず俺は叫んで、ターフの中に入る。 彼女は…俺の声を聞いて、よろよろと…両足がねじ曲がっていたにも関わらず、立ち上がろうとした。 「ダメだ!!動くな!!」 ついに…立ち上がる。 「…な…さい…」 バタッと倒れて、緊急の警鐘が鳴り響いた。 彼女は搬送され…俺は膝を着いて放心状態になり、そのまま立ち尽くすしか無かった。

42 21/08/17(火)22:45:01 No.836258327

競走中止となり、彼女は病院に搬送される。手術室は点灯し続けて、看護師たち含めて病院は彼女1人に全集中している。 「…大丈夫か、そろそろ寝ないとやばいだろ」 かれこれ、もう6時間は経ったのか 「…いや、待てる」 「ならいい…」 隣で同僚がやって来て、静かに座る。 「気づく前にこうなってしまうとは思わなかった。これを渡しておく、…読んでおけ」 「…これはなんだ」 彼が手渡したのは…随分と汚れたノートだった。 「…キーストンが自分の授業を受ける時の机に隠してた物だよ、……内容はお前が読みな」 「なんで知ってるんだ」 「放課後、あの子が静かに書いてたのさ」 勝手に読んだのかよ!と俺は叫びたかったが、…それほど読ませたい物だったのかもしれないと…思い直す。最後に、しっかりと読んでおけと彼は一言いって、そのままいなくなった。 「こんな時に読む余裕なんてないのに…!」 俺は怒りを感じたが、それでも時間を有効に扱うのはトレーナーとしての筋であると脳裏に過ぎって、静かにノートを開いた。

43 21/08/17(火)22:45:23 No.836258518

そこにあったのは…キーストンが、勝てるレースをひたすら選別して残していた物だった。 それだけじゃない、…短い期間で行える公立的な練習、俺の出したメニューの個人で改造する方法。 …仮想敵や、出てくる全てのウマ娘に対しての対策法。 …最初は俺の指導で動くはずだったのに、三冠を得る辺りから…徐々にキーストンの希望でレースを決めることになっていた。 そして三冠以降、彼女がG1レースよりも勝てるレースを意識したのが顕著に現れていた。 「どうして…ああなったんだ」 ノートをめくると、途中、最後の4ページに日記と思われし彼女の文が残されていた。

44 21/08/17(火)22:45:41 No.836258653

『7/12 デビューをする。息も絶え絶えだったけど、私は初めて勝つことができた。…勝利は思ったよりも心地よい物ではなかったけど、喜んでくれた彼を見てやりがいを強く感じた』 『3/2 …勝つ理由なんて最初から無い、勝てて気持ちいいとかそういう気持ちが無かったのかもしれない、でも…、インタビューを受けた時、私の勝利は彼の勝利になり、そして彼の実績になる、そう言われた時、自分の勝つ意味がわかった、あの笑顔に、大切なあの人に価値が付けられる。それだけで充分な物だった』 『4/3 皐月賞、日本ダービー、菊花賞、どのレースも1着を取れば莫大な名誉があるという、私の目標は三冠としたけど、本当の目標は違う。どれでもいい、1つでも。2つでもーーあの人に最高の名誉を与えてあげたい』 「………キーストン…」

45 21/08/17(火)22:45:57 No.836258773

『4/18 大敗 …14着 勝つことが目的だったのに、目先の勝利にばかり囚われた私に対する結果はこれだった。彼のいない所で行った努力が全て裏目になったことも含めて…あの人を裏切ってしまったという気持ちで心が押し込められそうだった』 『5/30 日本ダービーは天候という運に助けられた。彼にダービートレーナーという称号を与えてあげれたことが一番嬉しい、同時に…己はG1で勝つにはかなりの限界が存在してる事もわかった』 「……」 同僚のいう、俺のための意味は違った。 恩返しで三冠を取りたい、そんな物でない、キーストンは俺に最もいい結果を残すために走り続けていた……。

46 21/08/17(火)22:46:12 No.836258881

『11/2 …この関係は3年間、またはドリームリーグで担当を続けるか、…いずれにしても、必ず終わりが訪れるのは間違い無い、それでも今は勝ち続けたい、勝って、勝って、あの人の実績を少しでも…捧げたい』 『11/14 菊花賞 2着 あと少しだった、でも、その道は程遠かった。…不意にも…終わったあとの肉体の感触で酷く限界を感じるレースだった』

47 21/08/17(火)22:46:27 No.836258985

次の年のページに写る、…それが最後のページであった。 『3/20 7着、己の強さの限界を知る。それでもあの人の願いを聞いてあげたい、彼のためにも、次の天皇賞・春を勝利しなければならない』 『4/29 5着 、ダービーが奇跡であり、G1どれほど私から程遠いのかを知る。同時に、このやり方を続ける訳には行かないと決意した』 『7/29 下調べは完璧だった、天候問わず、このレースなら勝てる、人は時に"夢は果たせぬ、掴み取る物"と言うでしょう。だけど、己をしっかりと見て、然るべき掴み取る物を取ることも、またひとつの答えだと私は確信していた』 『8/18 この勝ち方を意識した時、他のウマ娘には笑われることになった、それくらいは覚悟していたことだった、負けを恐れてる訳では無い、勝てるレースを勝つことで、彼に勝利をという実績を与えたい、最初に誓ったこの思いを譲るわけにはいかない』 「お前…だから…オープンばかりを…」

48 21/08/17(火)22:46:50 No.836259136

『12/3 4連勝、もう驚かれることも無いが、彼の実績は確実にできる限りを尽くすことができた、最後の5連勝目はg2にしよう、G1ではなく、キチンと勝てる算段のあるレースで終わらせよう、これで、円満な終わらせ方ができるから』 『12/16 …きっと、私は彼のことが好きなのでしょう、だけど、…仮にそれを成し遂げたら、あの人の人生の歯車を壊すことになる。だから、この縛鎖を断ち切らなければならない』

49 21/08/17(火)22:47:03 No.836259227

『12/17 覚悟は出来てる、私は私のやり方で、この道を綺麗な形で終わらせてみせる、それが…私の"夢"なのだから』

50 21/08/17(火)22:47:18 No.836259330

そこで最後の日記は終わり、彼女のオープンを走り続ける意味を知る。 最後まで…賢かった。 いや、情熱を冷やしきるほど…賢すぎた。 「……ああ…キーストン…お前……」 悔しかった、何よりも…腕が非常に高いと言われる自分に対する解答のようにも感じられた。 俺よりも早く"キーストンは己の実力に見切りを付けていた"のである。 同時に、誰よりも賢く、だからこそ起こりうる障害に対して先見を持って覚悟をしていた。 それは…トレーナーとして絶対にできない冷酷さを持ってるようにも感じて、それでもできる選択肢を誰より確実に行動するその強さが心を締め付ける。 キーストンは…最後まで、俺のために尽くし続けた、従順なウマ娘だった。

51 21/08/17(火)22:47:44 No.836259540

「……」 気づけば、俺がキーストンの部屋に入れる許可が降りたのは 翌日の夕方だった。 「先に、彼女の症状をお話します」 医師の方が俺の前にやって来て、簡潔に話す。 「キーストン様は…下半身不随です、脚に掛けての神経が完全に断絶されています、また、筋繊維や骨の大多数の破壊もあり、治癒した段階で神経が戻ろうとも、二度と走ることも歩くことも難しいでしょう」 「……」 「お伝えしました、…力添えできず、申し訳ありませんでした…」 「いえ…当事者である私が、あの時を見てた以上、この結果はまだ軽いのだと分かっています」 あの速さで何度も転べば、全身骨折で死亡なども有り得たのだ。それを取り留めてくれた彼らには感謝しかなかった。 「…ありがとうございました」 最後に彼はキーストンの部屋番号を教え、ふらふらとした姿で歩いて居なくなる。

52 21/08/17(火)22:47:57 No.836259630

「入るぞ」 「はい…」 ドアを開いて、キーストンの部屋に入る。 彼女は病室で、動かない脚を隠しながら俺に語りかけた 「…トレーナーさん、…大丈夫ですよ、心配しなくても…」 「……その、下半身、…もう動かないのか」 「……ごめんなさい、走ることも歩くことも出来ないようです」 俺は、項垂れて…彼女の残していたノートを見せた。 「……お前の手記を読んだよ、…最初から、ドリームリーグに行ったら俺の担当を切るつもりだったのか」 「はい、…だって、あなたに未練を残したくなかったから」 「そんな…」 彼女は優しく話した、ウマ娘とトレーナーの関係は1歩違えれば共依存の関係になる。 どこでその筋を切れるのか…己にちゃんと律する事が出来るのか、…最後まで彼女はそれをずっと決めていたという。

53 21/08/17(火)22:48:17 No.836259757

賢くて、誰よりも思いやりが深い彼女らしく…それを達成出来なかった罪深さが俺に重くのしかかる。 「…私には最後まで走ることはできませんでした。…本当、運命は残酷です、だけど…」 「全責任は俺にある、…お前の怪我をさせてしまった俺は…」 彼女は静かに首を振った 「諦めないで、貴方なら、きっと誰よりも素晴らしいトレーナーになれます」 「そんな…」 「最初の担当である私が証明しましょう。……貴方が担当で良かったと、例えこんな怪我したとしても、あなたは誰よりも素晴らしいトレーナーだったと証明してみせます」 ……結果は、確かに残っていた。証明は、…確かにされていた。 「……そんなこと…ないから…ごめん…」 「…だから…お願いです…どうか諦めないで…あなたなら、あなたなら誰よりも誇れるトレーナーになれます。…私は少なくとも、あなたがトレーナーで良かった。あなたがトレーナーであることが誇りです。」 彼女は優しく微笑み、俺は思わず泣きついた。 大人なのにわんわんと泣く俺に、小さな彼女は最後まで優しく鼻を寄せ、頭を撫で続ける。 その日、真っ赤な落日に映された彼女を、俺はきっと忘れることなんてできない。

54 21/08/17(火)22:48:28 No.836259848

彼女は俺が最高のトレーナーになれるよう、ただ名誉の証明するために走り続けていたのだーーーー

55 21/08/17(火)22:48:39 No.836259929

後日、1週間も経たないうちにキーストンの机も部屋も綺麗に無くなっていた。 キーストンの希望だという、もう戻ることはないから、気にされる前に無くして欲しいと。 「……理事長」 「…そうか、いや。何も言うまい」 俺は理事長に手渡した辞表を、ただ、静かに見つめていた。 「すいません、…お世話になりました」 去り際…理事長は。しっかりとした声で言った 「席は用意しておくぞ」 「そんなの、必要ないですよ」 俺のトレーナー業はここで終わるのだから それはキーストンへの裏切りでもあった。

56 21/08/17(火)22:49:09 No.836260135

「いいのかこれで」 「いいんだ」 「…そうか、そっちでも元気でな」 「うん」 「困ったら連絡しろ、…それと…必ず戻ってこい」 「無理な願いだな」 小さく呟き、やってきた新幹線にアイツは静かに乗り込んだ。 ベルがなり、扉が閉まり…俺を二度と見ることも無く、ぼんやりと空を見て…直ぐにいなくなってしまった。

57 21/08/17(火)22:49:26 No.836260260

「なあ、神様って奴が居るならよ」 「ウマ娘とトレーナーってのは良くその関係性を失敗するって話はよくある事だ、それはお前のイタズラだとしても分かるよ」 トレーナーとウマ娘の関係で失敗して…例えば結婚とかで円満退職ってなら分かるぞ、過ちだって言ってもそれはお互いに幸せだから。 「だけど」 キーストン。その姿は、余りにも賢くて、余りにも優しすぎたウマ娘だった。 彼女は……最後まで……トレーナーの未来のために走り続けていた。 そして、その夢が叶う、トレーナーの未来素晴らしい物に成就するその瞬間にーーーー 彼が辞める原因となるレースが、最後に訪れた。 はぁ、と俺は白いため息を着いて、ぼーっと空を眺める。薄暗く赤い夕空に俺は小さく呟いた。 「…こんな終わらせ方は、あんまりじゃねぇの」

58 21/08/17(火)22:49:38 No.836260371

新幹線の中で、俺は窓の外の景色を見ている。 街はあっという間に過ぎ去り、山が訪れたと思えばすぐにまた大きな冬の田畑を貫くように走り出す。 …その目まぐるしい景色の中、唯一…ただ変わらない、真っ赤な黄昏を見つめていた。 「……」 これで終わり、…理事長が最後に地元にひとつ就職先を用意してくれた。 手続きは終わり、俺の個人意志で来るかどうかを決めて欲しいと言っていた。 「…働かないと、食えないもんな」 どうしても…生きてて…五体満足である以上、俺に最後まで落ちぶれる選択肢なんて取れなかった。 「……」 夕焼けは暗くなり、…日は落ちて夜が訪れる。

59 21/08/17(火)22:49:48 No.836260445

運命は誰よりも残酷だ。

60 21/08/17(火)22:50:16 No.836260668

これで終わりです もんののっっずごく長文失礼しました 最後まで読んでくれた人がいれば幸いです…

61 21/08/17(火)22:51:29 No.836261131

お疲れ様 最後の日記の部分から始まる2人の伏線回収がよかった…

62 21/08/17(火)22:51:41 No.836261218

読んでるよ…これはちょっと続きがあると知っていなければ耐えられないよ…

63 21/08/17(火)22:52:23 No.836261500

俺は辛い…

64 21/08/17(火)22:53:34 No.836261989

タマの続きが有るのならばキーストンのその後も…このまま関係が終わるのはあまりにも…あまりにも

65 21/08/17(火)22:53:40 No.836262046

書いた私からの紹介というのはちょっとおこがましい話なんですけど こういう怪文書がお好きになったら サクラチヨノオーの怪文書の方でも昔一作品完成させてるので 良かったら「」ッチーで読んでみてください

66 21/08/17(火)22:54:11 No.836262248

全部読んだ これまでとは違う名作だ…本当に素晴らしい ただし一つだけ気になるのはスレ絵が違う馬ということかな…

67 21/08/17(火)22:54:47 No.836262501

夕陽よ急ぐな…

68 21/08/17(火)22:57:08 No.836263470

泣いた… 昨日でほろりとしたのに今日もほろりとなった… いい怪文書だ…

69 21/08/17(火)22:57:59 No.836263856

>全部読んだ >これまでとは違う名作だ…本当に素晴らしい >ただし一つだけ気になるのはスレ絵が違う馬ということかな… 実はこういう実在しないウマ娘のスレ画をどうしようか結局分からなくて 泣く泣くこれにしちゃったのよ… あってないのは分かってるので許してください

70 21/08/17(火)22:58:24 No.836264051

>サクラチヨノオーの怪文書の方でも昔一作品完成させてるので アレもあんたか!見てた見てた

71 21/08/17(火)22:59:58 No.836264743

最後の同僚のカッコ良さがめっちゃ染みる… というか最初嫌な奴と思わせておいて最後のシーンから読み返したらマジでこの同僚本当にいい人だった…

72 21/08/17(火)23:02:23 No.836265793

ジャスタウェイフレームは見実装のウマ娘総合になるときも有るから別に気にしないッス

73 21/08/17(火)23:03:47 No.836266395

最後のキーストンの会話とか 出会いのシーンの会話とかちゃんとタマモクロスで出てた回想の通りなんだけど 如何せんその後の回想の部分でトレーナーが良かったシーンがないようにタマちゃんの方で書いてたのを見て すごく自己嫌悪してる人間らしいと思った…これは凄い…

74 21/08/17(火)23:03:55 No.836266462

良い文章だった…「」ッチーでも見てみるか 多分txtファイルのURLとかじゃなきゃ多分見れるか

75 21/08/17(火)23:04:56 No.836266884

>最後のキーストンの会話とか >出会いのシーンの会話とかちゃんとタマモクロスで出てた回想の通りなんだけど >如何せんその後の回想の部分でトレーナーが良かったシーンがないようにタマちゃんの方で書いてたのを見て >すごく自己嫌悪してる人間らしいと思った…これは凄い… 凄い…気づいた「」ありがとう あの回想も実はこれを見た後に見返すと彼のものすごい自己嫌悪の部分が混ざったように作ってたんだ これは素直に嬉しい…

76 21/08/17(火)23:06:08 No.836267422

同僚トレーナーめっちゃ気にかけてるな… 敵情視察もあるんだろうけどよく見てくれてる

77 21/08/17(火)23:07:10 No.836267832

>同僚トレーナーめっちゃ気にかけてるな… >敵情視察もあるんだろうけどよく見てくれてる 最初の印象が単なるこのトレーナーの自己嫌悪がミスリードになってるせいで嫌味な奴なのかなって思ってたけど 実はめちゃくちゃ気にしてくれてキーストンも彼もどっちも心配してくれてる優しい人だった

78 21/08/17(火)23:10:14 No.836269142

タマの前日譚と言うには凄い濃ゆい話だ…

79 21/08/17(火)23:13:41 No.836270608

「勝てるってだけで本当に凄いことなんだ」 今までの怪文書で麻痺してた部分が急に目が覚めた感じがした G1G1の無双系が良いと思ってたけど…ちょっとこのキーストンのオープンを確実にっていう泥臭い強さ…凄い好きになった

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