虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

1 21/08/17(火)01:35:22 No.835972665

「鳴尾記念を走ると聞いた時は驚きましたが……本当に大丈夫ですか？ まだトラウマは……」 「……それでも、アタシは走りたいんです。走れば忘れられると思うんです」 「何を？」 「レース以外の何もかも」 それを聞いた桐生院さんは目を逸らして悲し気に目を閉じたけどをアタシに向けたけど、すぐに笑顔に変えて頷いた。 「そうですね！ 新しい目標が見つかるかもしれませんし、雑念を払うという意味でもいいことかもしれません。ただし、絶対に怪我はしないでくださいね！」 「……はい」 きっと桐生院トレーナーも他のトレーナーもそれは、何処にも続かない虚無のコースを走ることになるって伝えたいんだろう。でもそれはアタシも分かってて、それでもどうしようもない、答えのない問題を抱えているとも分かっている。

2 21/08/17(火)01:35:32 No.835972713

だから否定せずに応援してくれて、支えてくれようとしてくれる。それがありがたくて、そして申し訳ない。 全部アタシの我儘なんだ。 「ウォーミングアップ行きましょうか。不調を感じたらいつでも言ってくださいね」 「大丈夫ですって、此処まできてやっぱむりーなんて、言いませんから」 軽口を叩いて、笑ってみせても桐生院さんはやっぱり何処か心配そうな顔を崩さなかった。 大丈夫、やって見せる走ってみせてやる。そう思って脚を踏みしめても、やっぱり脚からはあの感触が湧いて出たのだった。

3 21/08/17(火)01:36:35 No.835972949

○ 「テイオー、レースを見ているのか？」 ベッドの上でスマホを開いていると、病室に入ってきたトレーナーが入ってきてボクに声をかけた。 「うん！ よく分かったねトレーナー」 「レースを見てる時のテイオーは少しなんというか違うんだ」 そっとボクのベッドの端に座ると、片手しか扱えないボクの代わりに画面を持ってくれたトレーナーが、そこで流れているレースを見て眉間の皺をぎゅっと寄せた。 きっと見ているレースにネイチャが走っているからだ。恨むということはボクのトレーナーにはないだろうけど、それでも複雑な感情を抱いてるには違いなかった。 「その、ネイチャが批判されたのって元といえばボクが転んだせいだから、応援してあげなくちゃなって思って……ダメ？」

4 21/08/17(火)01:36:58 No.835973031

「彼女は何のために走るのだろうか」 「えっ？」 トレーナーがそう呟くと同時にゲートの開く音がして、鳴尾記念が始まった。 ナイスネイチャは菊花賞なんかと同じように周りにプレッシャーをかけながらハイペース展開に持っていくような走りかと思いきや、真逆の周りの流れに合わせるような走り方をしている。 「今一番、周りの勝手に振り回されてるのは彼女だ。勝手に批判されて、勝手に期待されて、このレースだってネイチャ自身、本当に望んだ結果なのか……」 「どういうこと？」 「人間もウマ娘も追い詰められると、自分にはこれしかないんだと思い込んでしまう時がある。思い込まないとやってられないんだ」 最後に小さく兄さんと俺のように、と小さく付け加えられたのをボクは聞き逃さなかった。 画面では一番人気のネイチャの姿が中心に映っていた。普通のヒトから見れば、ただ必死に走っているように見えるだろうけど、ボクにはなんだか、辛そうに悲しそうに走っているように思えた。

5 21/08/17(火)01:37:44 No.835973223

「……ボクがあそこで転んじゃったからだ、ネイチャに踏ませちゃったから。トレーナー、ボクどうすればいいんだろう、ボクのせいでネイチャがこんなに苦しんでる。どうやったら、元気づけてあげられるかな」 「テイオー、これはネイチャが超えるべき壁で俺たちが解決できる問題じゃない」 何のごまかしもない言葉に、少しだけ俯くとトレーナーが言葉を付け加えた。 「でも、壁を超えられるように応援してやることはできる。アリマ記念までに退院が許されたのなら」 「あ……！ うん！ トレーナー今日の分の苦いやつ頂戴！」 トレーナーからボトルを受け取って一気に中の液体を飲み込むと、一気に苦みが襲ってきて、思わずうめき声を上げながらスマホに目線を向けるとネイチャがちょうど最初にゴールを超えたところだった。

6 21/08/17(火)01:38:05 No.835973311

○ 「ネイチャさん、ギリギリの所でしたが勝ちましたね」 カフェテリアのテレビの前でそういうと、兄さんは神妙な面持ちで顎を撫でていました。 鳴尾記念にネイチャさんが出ると聞いて、兄さんがネイチャの調子を崩したくないから現場には見に行かないと言ったのは予測できましたが、レース中、ネイチャさんの走りが全く違っていたのは予想外の行動でした。 「いつものようにペースコントロールはしなかったようですね。それでも勝てたのはネイチャさんの基礎能力の高さでしょうか」 「一々走り方をいきなり変えて勝てるウマ娘というのは極一部しかいない。今回勝てたのは、皆ネイチャのプレッシャーを意識しすぎて、スパートが遅すぎた結果だ。対策しすぎたのが裏目に出た」 「それをネイチャさんは狙って？」 「いや、偶然だな」 兄さんが頭をワシワシと掻いて、テレビから背を向けて歩き出しました。慌ててついていくと、その横顔はひどく落ち込んでいるようにも見えました。

7 21/08/17(火)01:38:56 No.835973497

「あんなに辛そうに走っちゃってな、ネイチャ。あんな顔を見るたびに弟がいないことを自覚してしまう」 「兄さんのせいではありません。それよりもあの走りがなかったらなかったで、またペースが乱れるなんてやっぱり未完成とはいえ厄介ですねネイチャさんの走りは」 これ以上兄さんを沈ませないために、無理やり話題を切り替えると兄さんは私にふっと笑うと頭をそっと撫でました。 「そうでもないさ。対策方法はもう練られつつあるだろうし、本番じゃ百回やって百回勝てない相手ってのもいる」 兄さんの意外な言葉に、脳内のクエスチョンマークを出しているとふと向こうの廊下から一人のトレーナーが走ってきて、兄さんの前で止まりました。 「おう、あんちゃん！ ウチのダイサンゲン見なかったか？」 「あーまだ飯食べてたような」 あまりにも適当な返事でした。大体今は何処もお昼時です。

8 21/08/17(火)01:40:33 No.835973879

「あんがとよ！ 今すぐに伝えにゃならんのだ、お前がアリマ記念で勝つ夢を見たってな！」 「そりゃまた」 驚く暇もなく、そのトレーナーはダイサンゲンと名前をまた呼びながらカフェの方角へと走っていきました。まるで嵐のようです。 「それで、ネイチャさんの天敵のような言い方をした相手とは？」 「さっきみたいなウマ娘。勝つかもしれないなホントに」 「えっ？」 先ほどはヒトのトレーナーだったはず、とまた脳内で疑問符を思い浮かべていると兄さんはくっくっと愉快なものをみたと言いたげに笑っていました。

9 21/08/17(火)01:41:35 [s] No.835974125

二日も開けちゃって長いですがこれもウチの玄関まで入ろうと溜まった大雨ととスリーゴッデスのせいなので私は悪くありません許してください大雨本当に怖い

10 21/08/17(火)01:42:49 No.835974428

大雨はお大事にして‥

11 21/08/17(火)01:44:48 No.835974915

雨気をつけてね…

12 21/08/17(火)01:45:43 No.835975122

オイオイオイ無事で何よりだわアイツ

13 21/08/17(火)01:55:46 No.835977318

まだ降りそうだから注意してくれよ…

14 21/08/17(火)01:59:23 No.835978086

お大事に 避難袋は用意しとくべきね…

15 21/08/17(火)01:59:58 No.835978223

またネイチャが湿気ってるのかと茶化せないくらい振ったからな…

16 21/08/17(火)02:00:32 No.835978351

続き読めなくなるの嫌だから命大事にな

17 21/08/17(火)02:07:36 No.835979903

ネイチャの翻弄されっぷりがひどい…そろそろ誰か救い出してあげて…

18 21/08/17(火)02:10:49 No.835980617

とりあえず勝ててよかった…かな？

19 21/08/17(火)02:56:46 No.835988222

へし折れた鋼材を繋いで叩いてひん曲げて削って 見てくれは元と同じように戻ったけど 中身はやっぱり折れる前よりひどく弱くなってるような

20 21/08/17(火)03:07:40 No.835989335

割れた茶の湯茶碗を金継ぎして違った味わいが出ることで価値が戻ることもあるけど それにしたって元の茶碗の良さじゃなく壊れたのを継ぎ直した茶碗に対する新しい価値だからなあ このまま勝ちを重ねたところで弟さんの目指したネイチャの走りではもうなくなっているんだから ネイチャが今後勝った所で死んだ人の正しさを証明するなんて不可能なんだよね

21 21/08/17(火)03:17:47 No.835990296

いっそ麒麟のような光り輝く才気あるウマ娘に技術や小手先では決して追い付けない領域があるんだと一思いに叩きのめされた方が幸せですらある