虹裏img歴史資料館

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21/08/04(水)02:26:07 カーテ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1628011567725.jpg 21/08/04(水)02:26:07 No.830921131

カーテン越しから窓に差し込む光で明るくなってくる寝室で、もう朝が来たのかと身を起こす。 マックイーンのトレーナーさんがまた明日、と部屋から出て行ったあとにそれからも少しだけ一人で泣いて、疲れた目を天井に向けながらぼーっとしていても眠くなる様子はなくて、そのまま日が昇ってしまった。 「シャワー…浴びたいな」 そう思ってベットから離れて、着替えを持ちながら寝室のドアを開けると、ふと部屋のすぐ前に何か奇妙な体操座りをしたオブジェクトが目に入った。 何かの芸術作品かと顔を近づけてみると、呼吸と共に胴体部分が上下していてそこでやっとそのオブジェクトが人間で、ライアン先輩のトレーナーさんだと分かる。あまりにも姿勢よく静かに寝ていたせいで全く生物とは思わなかった。 「あ、あの…か、風邪ひいちゃいますよ…」 「ん…んん……ん!?」 そのままにしておくというのも出来ないので、そっと肩を振れて声をかけると彼女は顔を上げて私を寝ぼけ眼で捉えると、二秒ほど置いてその場で起立した。思いっきり床を踏みしめたので、学校のように長い廊下に音が響いて反響していった。

1 21/08/04(水)02:26:31 No.830921206

「あ、その、なんだ、奇遇だな」 「えっと、奇遇です…ね?」 バレンタインデーでチョコを渡す相手を待ち伏せる少女が言いそうなセリフだったけど、とりあえずトレーナーさんに合わせる。 「その、体に痛みとかはないか? 脚首に違和感とか…」 そうすると、やっぱりかなりマッチョな体格をしている女の人は、アタシの身体を一通り眺めると少し言葉に詰まりながらそんなことを言った。 「は、はい。ハードでしたけど痛めるようなトレーニングじゃなかったですし、まぁ筋肉痛は少しあるけど…」 「なんだ、その…あの…すまなかった」 「へ?」 思ってみない言葉に、声をうわずらせてしまうと、トレーナーさんはショートカットの頭を掻いて、眉を下げながらアタシと目を合わせた。

2 21/08/04(水)02:27:11 No.830921321

「コーチだが新しい子を見れる嬉しさにいろいろやりすぎた。マックイーンのにも言われたが、私はネイチャはウマ娘だから走らせれば気分も明るくなるんじゃないかと短絡的に考えすぎていた。だから、その、すまなかった」 「もしかして、このためだけにずっと部屋の前に…?」 「朝イチで謝ろうと思ったんだが…君に起こされては元も子もないな」 「ライアン先輩のトレーナーさんって、こう…可愛いっていうか…柔軟なんですね」 「かわっ…」 ぼんっとトレーナーさんの凛々しい顔がみるみるうちに耳まで真っ赤になっていって、一から十まで厳しそうな指導者って印象がアタシの中でバラバラに崩れていく音がした。 「な、何を言いだすんだまったく…。だが、少しでも元気そうでよかった、もしかしたら部屋から出てきてくれないんじゃないかと思っていた」

3 21/08/04(水)02:27:26 No.830921374

「あはは…人の家でそんなことをやっちゃうと不法入居になっちゃうって言いますか…そんな勇気ありませんって…」 「そ、そうか。うむ、では私はこれで…昼からは学校なのでな…」 そういって背を向けるトレーナーさんの髪はぼさぼさで、スーツもどこかしわしわで。ただアタシに謝るだけに一日中、たぶんきっとアタシが寝ているときからずっと心配してくれたんじゃないかって分かってしまって。 「あのっ! お風呂行きませんか!」 そう思うとアタシはお礼を言う代わりに、そんな声をかけてしまっていた。

4 21/08/04(水)02:27:38 No.830921412

〇 「ん…くぅ~~…」 足先から伝わる暖かいお湯のぬくもりに、思わず声を上げながら身を沈めると、檜の湯舟から湯が溢れだす音がした。 思わず、お風呂と声をかけてしまってこんな朝にお湯張ってるわけないじゃんと思ってしまったけど、流石というかここには源泉かけ流しの温泉があるらしく、ライアン先輩のトレーナーさんとそちらに行くことになった。 いやもう、なんというかアタシの想像では収まり切れないですメジロ家。 「し、失礼する…ふぅ~…」 温泉の効能で早速ぬめっとしてきた肌を撫でていると、トレーナーさんも湯船に入ってきて隣に腰を下ろした。 スーツの上からでも分かっていたけど、本当にライアン先輩と同じくらいにそのトレーナーさんも筋肉が凄い。でもボディビルダーのようにモリモリッとしていなくて、何だろう文字通りガチっと引き締まっているって感じだ。 だけども、胸は湯にぷかぷかと浮くぐらい大きくて思わず自分の慎ましいものと見比べてしまう。 「その、トレーナーさんって何かやってたんですか? その、筋肉凄いしスポーツとか…」

5 21/08/04(水)02:28:09 No.830921499

「あぁ、陸上を。自慢ではないが中学まではよく全国大会だって連覇していてね、オリンピックで金を取ることが夢だったよ」 「すごっ…えっと、その…」 じゃあ何でウマ娘のトレーナーに? と失礼なことを言いそうになってどもってしまったアタシに、トレーナーさんの方は微笑むと、自分の手からすり抜ける水を懐かしそうに眺めた。 「高校に入るときに怪我をした。脚の腱がな、走ることはおろか歩くことだって無理だった」 「……ごめんなさい」 「謝る必要はない。私から話したんだ」 ウマ娘だけじゃない、この世に生きる人みんな何かの夢を持っている。 だけどそれを叶えられた人はきっと少ない。とても少ない。此処はそんな世界だ、厳しい辛い所なんだ。

6 21/08/04(水)02:28:34 No.830921567

「夢を、諦めなきゃいけないって…辛かった、ですか」 水面に反射する、ぐにゃぐにゃになった自分と目を合わせながら呟くようにトレーナーさんに聞いてみる。 失礼とは思ったけど、答えを聞かずにはいられなかった。 「辛いよ」 トレーナーさんは一つも気にすることなく、むしろアタシを気遣うようにそういった。 「とても辛い。認めたくなくて、怪我してる時でも走ろうとして、その前にグラウンドにもたどり着けなくて三日三晩以上泣いた。周りの同情の目線が辛かった、決まっていたスポーツ特待生も取り消されてそれまで私にかけたであろう両親の苦労と出費を思うと消え去りたくなった。それでも諦めきれずに誰に止められても走ろうとした」 ずしりと胸の奥で、吐き出すことのできない苦しさが詰まっていって、聞いてしまったことを後悔せずにはいられなかった。この人がどんな思いをしたかなんて、きっと誰が話を聞いたとしても想像もつかないだろう。

7 21/08/04(水)02:28:57 No.830921634

いや、トレーナーさんだけじゃない、きっとこの世には彼女のような経験をした人がごまんといるのだ。ただアタシたちがテレビで気軽に見てきた人たちの裏にはその何千倍の影が横渡っている。 それはアタシたちのレースも例外じゃない。G1一つだろうが、そのウイニングライブのセンターは何万の砕けた夢で彩られている。 マックイーンのトレーナーさんは、一緒に新しい夢を探すと言ってくれたけど本当に見つけられるのかと胸が締め付けられる気分になった。 アタシだけがそんなに気軽に夢を捨てて、レースに挑んでいいのだろうかと。日々胸の中で葛藤していた思いが膨れ上がって、水の泡のように消え去っていきたくなる。。 「だが、ある日のことだ」 その声に水底に沈んでいた意識が戻ると、先輩のトレーナーさんは両手で水をすくってその中の自分を見つめているようだった。しっかりとした器には水がまったく漏れていない。

8 21/08/04(水)02:29:13 No.830921664

「私の学校には毎日毎日グラウンドを走るウマ娘がいたんだ。これが背も小さくてフォームもぐちゃぐちゃなのにとても速い。まぁウマ娘の身体能力からすれば当たり前なんだろうが、これが必死に走っていてな。思わずどうして走っているんだと聞いたら中央のレースに出るのが夢だからと答えた」 ウマ娘なのにヒトと共学ということは、地方のトレセン学園にも入らなかった娘なんだろう。中には走りたくてもレースに向いていない娘もいて、レースにさえ出るのを諦める子だっている。 「靴はボロボロ、脚も傷だらけ、みんなから無駄だと笑われても走っていた。夢だから、と。その時気づいたんだ、私の夢は枷になっていたんだと」 「枷…?」 「夢というのはなネイチャ。諦めることができるから夢なんだ、それがどんなに辛くて人生の中で尾を引こうが、諦めて人生と次の夢の糧になる。それが夢なんだ。諦めることが許されない夢は、それは生きるということの脚を引っ張る枷だ」 諦められるから夢。アタシの夢は果たして本当に夢なのか、アタシの借り物の夢は、もう…。だけど、兄貴の夢を枷なんて思いたくなくて、思いっきり首を振って考えをかき消す。

9 21/08/04(水)02:29:31 No.830921716

「そう思ったら、あんなに執着していた自分の夢がすんなりと諦めきれて、体が軽くなって、新しい夢ができたんだ。なぁネイチャ、もしも君に枷があるのだとしたら、私はそれを夢にしたい。マックイーンのも言ったかもしれないが」 心が読まれたような言葉に、耐え切れずに目を逸らしてまたお湯の中を見つめると、トレーナーさんの綺麗な手がアタシの頭を一つだけ撫でた。 「強要はしない。君がただ相談できる気持ちになったら、私達はいつでも力になる。約束だ」 優しい声色がアタシの耳を撫でて、思わずまた涙がでそうになってしまう。本当に、本当に、みんなおせっかいだ。 「さて、もうそろそろ上がるとするか」 「…はい。あの、そのウマ娘さんも枷、だったんですか?」 体を湯船から出したトレーナーさんにそう聞くと、不思議と笑いながら頷いた。

10 21/08/04(水)02:29:50 No.830921776

「あぁ、体を壊しそうだったからある日、叶わない夢を追いかけるのはやめろ!といった」 「ひどい!」 「ははは、まぁ聞け。想像通り怒られたが、その代わりにまずは地方に入学できるようにコーチしてやるから、そのあと中央に行け!と言った、そして無理やりコーチをしてフォームから直して…なんと地方トレセンに合格させた!」 「すごっ!」 「これは私とあの子の自慢だ。そして新しい夢ができた、もっと色んな娘の手助けができる奴になりたいとな。皮肉にも走る夢を諦めたら、走らせる夢と才能が出てきたんだ、陸上もなんだか前よりもっと好きになった」 それが私のオリジンだと、今まで一番の明るい歯を見せた笑みを彼女は見せてくれた。 それは明るくて、楽し気で、後悔を良い思い出にしてて、ひどく羨ましかった。アタシも、アタシも、こうなれるのかな。思い出に、できるのかな。 「ちなみに、その子の名前はな」

11 21/08/04(水)02:30:00 No.830921798

そっとトレーナーさんが耳打ちした言葉に、尻尾が逆立つ。地方で中央を制したウマ娘。まさか。 「夢は一つじゃない。諦めても、それが巡り廻ってもっとすごい夢を叶うことだってある」 そういってまたトレーナーさんは笑った。

12 <a href="mailto:s">21/08/04(水)02:30:58</a> [s] No.830921982

隔日になったし遅くなったしめちゃ糞長くなりましたが全てはスリーゴッデスが悪いので私は全然悪くありませんどうか許してください

13 21/08/04(水)02:35:47 No.830922773

きたか!

14 21/08/04(水)02:36:44 No.830922952

このウマ娘ってもしかしてメイセイオペ…

15 21/08/04(水)02:52:39 No.830925109

ネイチャの胸は平均的でとても良い

16 21/08/04(水)02:55:50 No.830925484

メジロ関係はいい人ばっかだなあ

17 21/08/04(水)03:09:20 No.830926803

夢と枷の話とても良いね 諦めても次の夢の糧となるというのは希望があって好きな考え ごくわずかな者にしか夢を叶えられない厳しい世界で生きるにはそういう希望が必要なんだ

18 21/08/04(水)03:37:09 No.830929094

明らかに囚われてる側だもんな…

19 21/08/04(水)04:10:06 No.830931162

なんだかここならネイチャも復活できそうって環境だな...!

20 21/08/04(水)04:22:42 No.830931816

夢が呪いになるよりずっといい

21 21/08/04(水)04:49:03 No.830933147

これからネイチャが選ぶ道がどんなのか続きが気になる

22 21/08/04(水)05:19:15 No.830934669

どうせスリーゴッデスのことだからいい感じに持ち直したところでまたなんか爆弾埋めてくるんでしょ!?

23 21/08/04(水)05:23:35 No.830934859

>このウマ娘ってもしかしてメイセイオペ… どんな馬かと調べてみたら日本競馬史上ただ1頭て…

24 21/08/04(水)06:37:53 No.830938893

一歩一歩前をむこうとしてるのがいいな

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