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    21/08/03(火)21:15:33 No.830802356

    前回までです fu217385.txt

    1 21/08/03(火)21:15:56 No.830802608

    ゲートの開扉と同時に、ウマ娘達が一斉に飛び出す。 我先にと好位置を目指し駆け出す中で、ある一人が悠々と先頭に位置付けた。 『さあ始まりました!最初に先頭を陣取るのはやはりこのウマ娘、2番人気メジロマックイーン!!』 実況の声と同期するかのように会場が沸き立つ。声援を背に受け、メジロマックイーンが先頭集団のハナを突き進んだ。それと同時に、他のウマ娘達もメジロマックイーンの後方にぴったりと付いていく。 『そして…おや!?今レース最注目のトウカイテイオーがいない!どこだ!?…あっと、ここにいた!トウカイテイオー、後方集団に紛れて後ろから3番目!』 対して、トウカイテイオーはその身を隠すかのように後方集団に紛れていた。 先程までの歓声が僅かに動揺の声に変わる。しかし、トウカイテイオーはその様子とは裏腹に淡々と走っていた。

    2 21/08/03(火)21:16:20 No.830802854

    「…どういうこと?なぜトウカイテイオーがあの位置につけているの?」 双眼鏡でコースを見ながら、メジロマックイーンのトレーナーが呟いた。 今までのレース展開から考えれば、トウカイテイオーの主戦略は先行からの最終直線での抜け出し一着である。当然、先頭集団に位置を取るだろうという想定だった。 しかしながら、トウカイテイオーのポジションはどう見ても先行脚質のそれではない。出遅れた訳でもないにもかかわらず、自ら後方へ位置を下げていったのだ。 「まさか…差し?」 確かに差しだと考えれば、位置取りは合点がいく。寧ろ、バ群を盾にして空気抵抗を減らしながら脚を溜めるのは、長距離の適正にやや劣るトウカイテイオーにとってはベストの戦略とさえ言える。だが。 「ありえない…今までの戦略を捨てて、実戦でぶっつけだとでも言うの?」 これまでにトウカイテイオーが差しの戦略を取ったことは一度も無かった。即ち、この天皇賞で初めて見せる走りである。しかし、それは同時に今まで培った勝ちパターンを完全に捨てることを意味していた。

    3 21/08/03(火)21:16:53 No.830803152

    デビュー間もない時期で適正脚質を見極め切れていない状態ならいざ知らず、クラシック路線を制した戦略を全て捨てるなど正気の沙汰ではなかった。 「あなた、何を考えているんです?なぜトウカイテイオーを差しに?彼女の適正は先行でしょう。あまつさえGⅠレースで初めて差しで走らせるなんて…正直、理解に苦しみます。」 「…。」 トウカイテイオーのトレーナーは黙ったまま、腕を組んでレースを見続けていた。その様子を見たマックイーントレーナーはかぶりを振った。 (しかし…なんてこと!これでは先行を前提にしたトウカイテイオーへの対策は完全に無意味…!) ~~~ (…?テイオーが先頭集団に居ない…?) 先頭のメジロマックイーンが後方を確認する。しかし、後ろの集団にトウカイテイオーの姿は確認できなかった。

    4 21/08/03(火)21:17:20 No.830803375

    阪神レース場の外回り、第1コーナーに差し掛かる。 トウカイテイオーは未だに後方で息をひそめていた。 (テイオーがここで出遅れなどありえない…これは意図的な位置取り。つまり、先頭での叩き合いは避け、終盤の捲りで勝つ算段ですわね。) 前を向き、息を入れる。まだレースは始まったばかりだ。 内に身体を入れ、最短距離でコーナーを駆け抜ける。 (狙いさえ分かれば何の問題もない! その程度の作戦で獲れるほど、春の盾は安くありませんわ!)

    5 21/08/03(火)21:17:47 No.830803582

    ~~~ マックイーントレーナーがふっ、と息を吐いた。 (…落ち着きなさい、私。確かにテイオーが差しで来るとは予想外。ですが、それが何だというのです? マックイーンは変わらず先頭。であればいつもの通りハイペースで、終盤に他のウマ娘と共にテイオーをすり潰せばよいだけ。テイオーへの対策など無用!) 事実、レースはスタートから終始マックイーンが先導しペースを作る形になっていた。それはマックイーンが得意とする無尽蔵のスタミナによる横綱相撲の定石、勝ちパターンだった。 最初の1000mを先頭が通過する。マックイーントレーナーが手元のストップウォッチを止める。表示されたタイムに目を落とした。 (長距離レースで最も大事なことは、平均タイムをきっちり守って走ること。その点に関してはマックイーンには徹底的にトレーニングを積んである。心配することなどない!) だが、自身の目に入ったのは想像の外側の事実だった。 「…!?なっ…そんな!?」

    6 21/08/03(火)21:18:13 No.830803798

    思わず立ち上がる。その顔からは余裕が消え、つうと汗が輪郭を伝って落ちた。 急いで資料を鞄にまとめると、そのまま駆け出して行ってしまった。 「おっ、おい!トレーナー女史、どこに行くんだ!?」 慌ててシンボリルドルフのトレーナーも後を追う。 テイオートレーナーは相変わらず腕を組んだままレース場を見ていた。 だが、その表情は僅かに笑みが浮かんでいた。 「はぁ…どうしたんです、トレーナー女史!いきなり駆け出して…!」 マックイーントレーナーが向かった先は、コースに直接面する最前列の観客席だった。ここからであれば、ウマ娘達の走る姿が一番近くで見ることが出来る。 「何か、タイムを見て青ざめていたようだが…そんなに悪かったのですか?」

    7 21/08/03(火)21:18:35 No.830803969

    答える代わりにストップウォッチをルドルフトレーナーに差し出す。タイムを見て、ルドルフトレーナーもぎょっと息を飲んだ。 「……58.4秒!?なんだこのハイペースは…!?」 1000m 58.4秒。 それは逃げウマでさえ狂気と言われて然るべきタイムである。あまつさえ、3200mもの超ロングレースで出す1000mのラップタイムとしては余りにも速過ぎる数値だった。 「こんな速度で走っていればゴールまでスタミナが持つわけない…!」 「いえ、そうではありません。それだけではないんです。…ここで直接彼女たちを見て、はっきりとわかりました。」 マックイーントレーナーが震える声で語る。その目線は、先頭集団を見つめていた。

    8 21/08/03(火)21:19:01 No.830804158

    「この殺人的ペースも異常ですが…それにも増して、マックイーン…いえ、マックイーンだけではなく、恐らく走っているウマ娘達全員が…ハイペース展開になっていることそのものに”気付いて”いない…!!」 「なんだって…!?」 ~~~ 変わらず先頭を進むメジロマックイーン。スタミナも問題無し、好位置も譲らず全てが順調に進んでいるはずだった。 だが、それと同時に言葉にできない違和感があった。 (…なんでしょう、皆さんがいつもより前に出てきているような気が…?) 通常であれは他のウマ娘を突き放し、先を進むメジロマックイーンだったが、何故か今回は後ろの先頭集団が前に出てくる頻度が高い。 しかし、それ以外は何も変わらない。変わらないはずだった。 だが、後方にいるウマ娘達にはその違和感をよりはっきりと感じ取っていた。

    9 21/08/03(火)21:19:28 No.830804413

    (なんかいつもより呼吸がしんどい…足が重い…!) 口の中に鉄の味が濃くなってくる。しかし、その足取りは遅くなることはなく、寧ろ速度はどんどん上がっていった。 (ううっ…後ろにいるトウカイテイオー…なんなのあのオーラ…!近くに居たくない…!!) 未だに足を溜めたままのトウカイテイオーだったが、そこから発せられる強烈な闘気は周りのウマ娘を動揺させるのには十分だった。 後方集団の速度が僅かに上がり、中団、先頭の集団に近づく。 (うそっ…まだ中盤なのにそんな速度あげないでよっ…!) (ちょっと…!後ろが上がると私達も位置を押し上げざるを得ないじゃないっ…!!) バ群全体の速度が少しずつ上がる。個々で見れば僅かな加速も、全体で見れば大きくペースを上昇させていた。 先頭が2000mを通過する時点で、それは観客にすら目に見えて分かるほどになっていた。

    10 21/08/03(火)21:19:55 No.830804621

    「……な……なんなの、このレースは……!」 マックイーントレーナーは、ストップウォッチに表示された2000m通過時点での1000mラップタイムを見て愕然とする。 57.2秒。 前回の1000mラップタイムを1秒以上も上回る、ハイペースを超えた超ハイペース。 既にこのレースは常軌をとうの昔に逸していた。 「おいおい…!こんなタイム、見たことねーぞ…!!」 ルドルフトレーナーの頬にも汗が伝う。なにより異常だったのは、ここに至って未だにウマ娘全員がこの魔の展開を”認識していないこと”だった。 (このレース、ペースを支配しているのは間違いなくマックイーンだと思っていた…しかしそれは全くの間違い…!最初からこの展開を作っていたのは…紛れもなくトウカイテイオー…!!)

    11 21/08/03(火)21:20:22 No.830804817

    ~~~ この異常な展開のレースを、テイオートレーナーはただ見守っていた。その目線の先には、後方に隠れるトウカイテイオーがいた。 (確かにメジロマックイーンのスタミナは底知れない。 …しかし、”限界のないスタミナ”など存在しない。それならばどうすればよいか?簡単な事、全てのスタミナを食いつくすほどのハイペースにしてしまえばいい。) 既に先頭集団の多くが垂れ始め、更に中団、後方もスパートをかけることなく徐々に垂れつつあった。 トウカイテイオーが前方のウマ娘を避け、大外に飛び出す。 ゴールまでの距離は残り800m。 (パドックでのパフォーマンス、そして煽るような発言。当然、全てのウマ娘はトウカイテイオーをマークする。いや、”マークせざるを得ない”状態になる。 テイオーが速度を上げれば皆速度を上げ、テイオーが位置を上げれば皆位置を上げる。 意識するしないに関わらず、テイオーの一挙手一投足に行動を縛られることになる。自分の意志で行動しているようで、その実テイオーに全て支配されていることにすら気付かない。)

    12 21/08/03(火)21:21:02 No.830805189

    レースの悪魔は、遂にウマ娘達に牙をむき始める。 脚を重くし、呼吸を止め、満足なフォームすら取らせない。一人、また一人と魔の手によって後方へ引きずり落されていく。 (皮肉だが、もしメジロマックイーンが今よりスタミナが無ければ、もっと早くこの展開に気付いていただろう。そして、後半へ脚を残すためにクールダウンする選択も出来たかもしれない。 だが、メジロマックイーンの豊富なスタミナはこのペースでさえ”適応”してしまった。走れてしまった。だからこそ気付かなかったし、気付けなかった。) メジロマックイーンがついに最終直線に躍り出る。 (よし!ラストスパート、ここからが…本気ですわっ!!) しかし、悪魔の手は名優さえ逃しはしなかった。 踏み込みをかけるその脚が異常な重さになったことに、メジロマックイーンはようやく気が付いた。

    13 21/08/03(火)21:21:31 No.830805417

    (…!?なぜ…足が、動かないのですッ…!?) ぎちぎちと軋むように動かなくなった脚を無理やり前に押し出す。同時に、筋線維が悲鳴を上げて激痛を発した。 (うっ…!いえ…ここで止まる訳にはいきません…!メジロ家の名を汚すわけには…!!) メジロマックイーンが痛みに耐え更に前へ進もうとした瞬間、自身の後ろから影が飛び出した。 そこをどけよ、マックイーン。 青い弾丸が空を穿つ。そこには、全てを捻じ伏せる帝王が降臨していた。

    14 21/08/03(火)21:21:52 [s] No.830805562

    次回に続く

    15 21/08/03(火)22:12:04 No.830830047

    続ききてたのか 期待してる