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21/07/22(木)23:43:31 宝塚記... のスレッド詳細

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21/07/22(木)23:43:31 No.826354711

宝塚記念も終わり、夏が本格化してきて周りでは夏合宿の話で持ちきりになっている。そして私もその例に漏れていない。 「トレーナーさん、夏合宿の時の夏祭りなんですけど今年も一緒にどうですか?」 「あー……二日目はちょっと友達と回る事になってるから、初日だったら一緒に回れるよ」 「友達ですか?」 「うん、ファン感謝祭の時の」 「ああ、あの人ですか……では夏祭りは二日目に一緒に回るということでよろしいですか?」 「それでいいよー」

1 21/07/22(木)23:43:47 No.826354825

トレーナーさんの許可も取れたので、夏祭りの計画などを立て始めた。 正直宝塚記念にも勝利して浮足立っている所もあるが、去年は怪我のこともあり、夏祭りを全力で楽しむことが出来ていなかったので今回だけはと、自分へのご褒美としている所もある。 ……夏祭りに着ていく浴衣どうしましょうか。 ────────────────────────── 「あっ、こっちですよ」 「久しぶり、イツは?」 イツに誘われてトレセン学園の夏合宿にお邪魔する事になり、懐かしの合宿所に向かうとトキが待っていてくれたので、誘ってきた本人の所在を確認しておく。

2 21/07/22(木)23:44:02 No.826354927

「あの人は担当のグラスワンダーさんと一緒に泳いでます」 「……あいつトレーナーなのに何やってんの?」 「さあ、でもグラスワンダーさんのトレーニングに付き合っているという形なので大丈夫なんじゃないんですか」 「そうなんだ……」 軽く話をしてからトレーニングをしているという砂浜の方へ向かうと、他のウマ娘と同じ水着を着たイツが目に入る。 「本当に泳いでるし……あれ?あの水着あいつが昔着てたやつじゃない?」 「……あの人いまだに体操服着てるらしいですよ」 「えぇ……私は勝負服でギリなのに」

3 21/07/22(木)23:44:22 No.826355090

「あ、結局菊花賞再現で着る事にしたんですね、勝負服」 「あんなにお願いされちゃったらね、それに私が着なかったとしてもあいつは絶対に着てくるだろうし」 「まあ、普通の運動着で走るのもちょっとカッコつかない感じしますしね」 「──あっ、たづなさん、とミツさん!?」 「ん?ってマルゼンじゃん、久しぶり」 夏合宿に来ていたマルゼンにも出会い、意図せず懐かしい面子が集まってきていた。 「何でここに?」

4 21/07/22(木)23:44:37 No.826355195

「あれ」 イツの方を指さすと、不思議そうな顔をしていたマルゼンは一瞬で納得した表情に変わった。 「なるへそ……せっかくお久しぶりに会えたわけですし、少しお話しません?」 「私は大丈夫だけど、たづなとマルゼンは大丈夫なの?」 「あたしも今休憩時間だから問題ナッシングです」 「私も問題ないですね」 じゃあ、と近くのビーチパラソルの下に三人で行く事にした。

5 21/07/22(木)23:44:50 No.826355288

「そういえばマルゼンってさ、どのタイミングでイツに絡まれたの?」 「絡まれたって……学園に入ってすぐのトレーニングで、君速いねーって感じで」 「ああ、私たちと一緒なんだ」 「……パイセンってあれ色んな人にやってるの?」 「私が知る限り、私とたづなと元生徒会長……は違うっけ、だからマルゼン含めて3人は確定」 「グラスワンダーさんに聞いた話も入れると4人ですね」 昔と同じことをしているイツに少し呆れるが、時間が経っても変わっていないという事に少し嬉しさも感じてしまう。

6 21/07/22(木)23:45:06 No.826355397

そうして話を続けていると、話の流れはいつしかマルゼンの昔話へと変わっていった。 ────────────────────────── 最近できたという新しいサテンでパイセンとお茶を楽しんでいる時、話は今度の模擬レースの話に変わっていった。 「今度のレースさ、ぶっちゃけやる必要あるかなあ?」 「え?」 「いやさ、今度の模擬レースってデビュー前の娘と先輩の既にデビューしてる私達みたいな娘で走るけど、先輩の私達が勝って当たり前みたいな空気ない?」

7 21/07/22(木)23:45:21 No.826355520

「でもパイセンが走るのって、あたしと同じレースだから1600でしょ、なら気にしなくても良いんじゃ」 「そっちじゃなくてさ、一緒に走る後輩達の中で負けてもしょうがないみたいな空気があるのがちょっとね」 少しだけ納得しちゃった、今回の模擬レースで一緒に走る先輩達はパイセンだけじゃなく、ミツさんを始め生徒会長など華々しい舞台で一番を取ってきた人たちが相手なので、そう考えてしまう娘がいるのもしょうがないのかもしれないわね。 まあ、あたしはパイセンが相手でも負けるつもりはないのだけれど。 「でもここでいい成績を残したら後輩達としてはデビューに近づくからあった方がいいのかなあ」 「デビュー……」

8 21/07/22(木)23:45:40 No.826355703

デビューという言葉に心臓がどくんと跳ねる。 あたしの活躍が見たいと言ってくれた子達に応えて学園に来てすぐのトレーニング中にパイセンに話しかけられてから、色々な先輩達とも交流して気付いちゃったことがある。 あたしの走る理由が楽しい以外にないって。それが悪いことなのかはあたしには分からない、でも少しだけ自分が場違いなんじゃって考えてしまう。 「……パイセンの走る理由って何?」 「ん?そうだなあ……昔は楽しいとか勝ちたいとかだったけど今は違うなあ」 「今と昔で違うの?」 「あ、別に今が楽しくないとか勝ちたくないってわけじゃないよ。でも今は後輩達のためってのが大きいかなー……何か最近は自分が勝つより面倒を見てた後輩が勝つ方が嬉しくなってきちゃってるんだよね」

9 21/07/22(木)23:46:05 No.826355906

一瞬後輩が勝つ方が嬉しいと言った時のパイセンの表情が、学園であたし達を見ている時のトレーナーさん達と被った気がした。 「まあ、結局走る理由は十人十色でみんな違うかもしれないけど、そこに優劣なんてないと思うよ」 「そう……なの、かしら」 パイセンの言葉に多少の違和感を感じたけれど、それは言葉に納得できていないわけじゃなくて、その言葉と一緒に自分を受け入れるだけの器があたしにはまだないだけなのかもしれない。 ────────────────────────── コースの周りは、レースを見にきたトレーナーさん達や次のレースを待つ子達で溢れかえっていた。

10 21/07/22(木)23:46:18 No.826356000

「マルちゃん、今日は初対戦よろしくねー」 そういえばパイセンとは併走をすることはあっても、レースで一緒に走ったことはなかったなと思い起こす。 気付いてしまうと、やっぱりわくわくしてしまうものでゲートへの足取りも軽くなっていく。 呼吸を整えてゲートが開くのを待つ。 とくん、とくんと心臓の音が聞こえるが、それは全く不快ではなく心地が良い。がたん、ゲートが開くと同時に目の前が緑のターフで一杯になり、全ての雑音が消えると同時に、身体は反射的にターフへと駆け出した。 ハナを奪い先頭を走る、やっぱりレース上で感じる風は他とは違うものがある。 「──そろそろ最終コーナーに差し掛かりますが、先頭はいまだにマルゼンスキー!このままゴールまで逃げ切るのか!」

11 21/07/22(木)23:46:35 No.826356120

まだ、イケるっ! 全力で踏み込んで、更に加速をして後方との距離を突き放そうとした……その瞬間、聞こえた。 自分ではない誰かが全力で踏み込み、駆け出した音。別におかしな事ではない、聞こえて当たり前のもので誰が出したかなんて分かるはずもない音だ。事実、頭は偶然聞こえてしまったものとして処理しようとしている。 ただ、頭以外の全てが、感情が、本能が、踏み出した誰かの名前を叫んでいて、このままだと抜かれるぞと警笛を鳴らしてくる。 その警笛に全力で従い、全力で逃げる。逃げる。逃げる。逃げ──来た。 バ群を貫いて、あたしを抜きに来た。だからあたしはこのまま逃げて一番にゴール板を駆け抜ける、とてつもなく分かりやすく、とてつもなく難しい。

12 21/07/22(木)23:46:55 No.826356250

そして逃げて逃げて、残り50mというところで完全に並ばれた。その瞬間に見えた表情は、最高に自由で最高に楽しそうに見えた。 そこからは一瞬競ることは出来たが、ゴール板を駆け抜けた時の景色はパイセンの背中で埋まり切っていた。 「んー、あれだな──」 視界がパイセンの背中で埋まった時、後輩たちがあたしに抱いてくれているものが分かった気がした。まだ酷く曖昧で不透明で形を捉えられていないが、これはおそらく── 「──引退するか」 ──あこ……はい?

13 21/07/22(木)23:47:14 No.826356397

パイセンは一瞬何かを決意した表情になった後、すぐにあたしの方に駆け寄ってきた。 「マルちゃん凄いねー。何とか勝てたけどギリギリだったし、やっぱり私はもう駄目だねー」 「いや、え?引退?」 「あ、聞こえちゃった?……うん、引退するよ」 何で?そう聞こうとしたけれど、上手く言葉が出なくて、その間にパイセンは去ろうとしていた。 「そういうことだから理事長に話しに行くからまたね……そういえば今日は理事長の娘さんも見に来てるんだっけ」 そうしてパイセンが去った後に残ったのは、あたしと、酷く曖昧で不透明なナニかの残骸だけだった。 ──────────────────────────

14 21/07/22(木)23:47:27 No.826356497

「懐かしいですね、あの人自分が走る楽しさより、自分が関わった娘が走ってる方が楽しくなっちゃったとか言ってましたね」 「だからって直ぐに理事長の所に行って引退を宣言するのは、バカだと思うけど」 「というよりマルゼンスキーさん、結構あの時のこと根に持ってません?」 「へ!?」 たづなさんが揶揄うように言ってくるので、思わずおかしな声が漏れ出てしまった。 「ん?勝ち逃げされたのそんなに気にしてたの?……あいつ今鍛え直してるからお願いしたらまた走ってくれると思うけど」 「え、そうな──」 「──みんなで集まって何やってんの?」

15 21/07/22(木)23:47:43 No.826356608

「あれ?グラスワンダーさんはどうしたんですか?」 「今休んでる。で、マルちゃんまで集まってどうしたの?」 「パイセンが今鍛え直してるって聞いだんだけど」 「ん?ああ、細かい日程はまだ決まってないけど、今度菊花賞再現やるからみんなで鍛え直してるんだよねー」 驚いて他の二人を見ると、否定もせずに頷いていたので本当の事なんだろう。 「それであれだってよ、マルゼンはイツに勝ち逃げされたの気にしてたって」 「そうだったの?じゃあ約束もしてたし今度一緒に走ろっか」 「え?いいの?」

16 21/07/22(木)23:47:58 No.826356709

「流石に合宿中は無理だけど、その後だったら大丈夫だよ」 思ってもいなかった返事に、心が浮き立つのを感じる。 「次も負けないからねー……じゃないや、飲み物取りに来たんだった」 「そうだったんですか、なら用意してあるので付いてきてください」 「あたしもそろそろ休憩終わりだし、喉乾いたから付いて行きますね」 「ミッちゃんは何か飲みたいのある?」 「私は自分の持ってきてあるから大丈夫」

17 21/07/22(木)23:48:11 No.826356782

三人で飲み物を取りに行っていた時、パイセンから少し離れたところで聞こえないようにたづなさんに話しかけられた。 「勝ち逃げも悔しかったのかもしれないですけど、一番は寂しかったんですよね」 「ふぇ!?」 そう耳打ちすると、たづなさんは揶揄うような表情をした後にパイセンの方へ駆け出していった。 「もう、本当に」 恥ずかしさを感じたが、何年経ったとしても先輩達の前ではあたしは後輩なんだと意識して、少しだけ嬉しくもあった。

18 21/07/22(木)23:49:02 No.826357178

一旦おしまい 後輩マルゼンさんを書いていたら少し長くなってしまいました申し訳ありません これまでの sa80862.txt

19 21/07/22(木)23:51:38 No.826358368

トレーナーは天職だったのか

20 21/07/23(金)00:22:10 No.826371591

なるほど勝ち逃げを根に持ってるマルゼンと来たか

21 21/07/23(金)00:27:58 No.826373930

マルちゃんと走るって約束もちゃんと消化してくれて嬉しい 「現役最後のレース後のアレ」って話はマルちゃんと走る時にやるのかな?

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