21/07/22(木)01:24:17 途中コ... のスレッド詳細
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21/07/22(木)01:24:17 No.826015420
途中コンビニに寄ったり路肩に止めて休憩したりと紆余曲折あったが、ようやく目的の場所が近付いてきた。ちらりカーナビを確認、遠方に見えるは俺たちが目座していた水族館に違いない。 太陽を反射し美しく光る海岸線を横目に車を走らせていけば、駐車場にはすぐ辿り着いた。入り口から近いところに車を止めてエンジンを切る。やっと着いたかと独りごちて、とりあえず深呼吸。胸いっぱいに息を吸い込んで吐き出し、ぐっと一伸びして柔軟がてら肩を何度か回して、気持ち良さそうに眠っているスカイに声をかけた。 「着いたぞ~」 声を掛けても曖昧な相槌すらなく、寝息は穏やかなままだったから、肩口に手をやって軽く揺さぶる。 「おーい」 「ん、んん~……あれ、ついたあ?」 「おお、着いたよ」 寝ぼけ眼を擦っている彼女に、買っておいた緑茶をパスする。 「んふ。ありがとお。やっぱり気が利きますねえ」 「当たり前だろ、君のトレーナーなんだぞ」 「そうでした、そうでした」 ぱきん、キャップの開く小気味良い音が車内に響く。ごくごくと喉を鳴らしながらお茶を半分くらい飲んでスカイはふう、と一息吐いた。
1 21/07/22(木)01:25:36 No.826015710
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2 21/07/22(木)01:26:13 No.826015861
「よしっ眠気、覚めました! さ、いきましょ。トレーナーさん」 おお、と相槌を打って車から降りる。たった数分の距離を歩いて、券売機で大人と中学生一枚ずつ購入する。いくら江の島とは言え、平日の真っ昼間は人波も疎らだ。スカイにチケットを手渡しながら、ほっと胸を撫で下ろす。 「ああ、そういえばトレーナーさんも人ごみ苦手でしたっけ」 「はは、恥ずかしい話だが……まあな。でもま、空いてそうでよかったよ」 「お店からしたら散々ですけどねえ」 「それはその通り。ま、ゆっくり見れる今日に感謝するさ」 モギリのお姉さんがチケットにスタンプを押してくれる。適当に雑談しながら入り口を抜け順路に従って進んでいけば、青を基調とした明かりの下に、海を模したガラス越しのビオトープが広がる。 「おぉ~……」 二人して感嘆の声をあげ、その迫力をもっと間近にしたくて水槽の方へと歩み寄る。揺れる水草の合間を縫って、外敵の居ない入り江の中を魚たちが悠々と泳いでいる。そんな魚たちの足跡を追うように館内を散策する。川魚、近海魚、イワシの群れと水中トンネルを潜り抜けて、俺たちは一際大きい水槽の前へと辿り着いた。
3 21/07/22(木)01:26:51 No.826016008
「わー……おっきいですね!」 見上げるほどに大きい水槽の中へと目を凝らす。そこは人工の岩礁に取り囲まれた、小さくも理想的な内海だった。魚たちは太陽代わりの照明を受けながら、自らが持つ鱗を鮮やかに光らせ、俺たち相手へ勝手気ままなショーを繰り広げている。この海には外敵がいない。食べられる心配もなければ飢えることも決してない。風も立たない、平穏極まりないこの世界で。彼らは一体何を考えながら泳いでいるのだろうか。明日のご飯は何がいい、回りの水がほんのり温いな、今日はのんびり過ごそうか、お気に入りのスポットでゆるりとするかな。声が聞こえたり表情が読めたりするわけでは無いが、俺の想像ではそんな風に生活しているように思う。 「楽しいな」 「うん」 色とりどりの照明が水槽から差し込んで、俺たちの頬をやさしく照らす。回遊するカラフルな魚たちを眺めていれば、敢えて語るのも馬鹿馬鹿しく思えるような、本当にどうでもいいことばかりが頭の中に浮かんでは消えを繰り返し、やがて煌めく砂と共に海の底へと沈んでいく。
4 21/07/22(木)01:27:38 No.826016214
スカイの推定横顔を覗く。読み通りの横顔は水底みたいな光の加減のせいか涙色に染まっていた。みずいろした淡い光が頬の成分を組み換えているのだろうか。いつもとはどうも趣きが違う。爽やかなラムネを彷彿とさせる、いつものあの面差しはなく、冷やかでかすかに甘いミントアイスのような香りが漂っている。甘くて、水っぽくて、今にも溶けてしまいそうで、お気楽な水中遊泳が、今はまた遠くに見える。 「きてきてトレーナーさん、おっきなカニ!」 呼ばれて近くに来てみれば、暗い水槽の中でタラバの三回りはでかいカニが鎮座ましましていた。タカアシガニとか言う名称のそいつらは、何故か鋏を持ち上げたままこちらを窺っている。 「なんか、苦手だ……」 「あら、そうですか? けっこうかわいいのに」 じゃあこっち行きましょと、スカイは無邪気な瞳で次の水槽を目指してぱたぱた駆け出す。その姿に誘われるかのように彼女の背中を追う。 「はやくはやくーっ!」 館内を適当に散策しつつ順路に沿いながら歩いていけば、クラゲだけが展示された小部屋へと辿り着く。 「わあ、きれい……」
5 21/07/22(木)01:28:32 No.826016414
水中を漂うクラゲを見ながら、スカイは夢見るように呟く。俺に見えるのは彼女の後頭部と華奢な背中、あとは大きな水槽くらい。心の隅に置いていたはずの感傷がちらりと顔を覗かせる。水分過多な視界のせいか、語られるはずのクラゲへの感想なんか忘れてしまった。それだけで今日来た意味をペイ出来たような気がしているのだから、本当に。 「ちょろいなあ、俺……」 「えっ、もしかしてようやく気付いたんですか?」 からかい混じりの返答にうるせえと文句を投げ付ける。 「あー、トレーナーさんたら怖いんだ~」 「スカイが、からかうから」 「もーへそ曲げないで下さいよ~。あ、そうだ。じゃお詫びってことで何かひとつ。ひとつだけ質問に答えてあげますよ?」 スカイの着るクラゲの傘のような白いワンピースの裾が翻る。微笑みながらこちらへ振り向き、どこか呆れたふうに首を傾げて言った。 「唐突だなあ」 「じゃー、やっぱいらない?」 「待て待て……んじゃあ、朝から言ってるけどなんで水族館に、しかも俺と?」 「ずっとそれなんだあ、つまんないの」 「まあ、どうにも気になってさ」 仕方無いなあ、そう肩をすくめてスカイは俺に背を向ける。
6 21/07/22(木)01:29:21 No.826016609
「だってずっーと仕事してるんだもん」 連れ出してあげたの、だから感謝してね。スカイは間髪入れずにそう呟いた。熱っぽいような、慈しむような柔らかさの声色にようやく、ああ、俺のことを気遣ってくれているのかと気付いた。 「どんかんさんには直接デートしたいって、言わなきゃね?」 伝わらないかなって思ったの。スカイの指がガラスの上をつうっと走れば、真っ白なクラゲたちが軌跡につられて舞い踊る。ただの反射なのか、餌を求めて跳ねているのか、それとも彼女の指先につられているのか。いくつか考えられる線のどれかは分からない。けれど幻想的なのは確かで、担当のはずのウマ娘が、今にも消えてしまいそうな少女のように思えてしまう。 「かわいい」 ロマンス映画の女優のような、遠くの海を夢見る眼差しが瞳にうつる。海の底を模した群青の照明の中にあっても、スカイの瞳は半月の光のような、暗がりでまたたく四等星のような、はかなげなきらめきを湛えていた。
7 21/07/22(木)01:29:55 No.826016725
別のクラゲを前にしても、その瞳の輝きは何も変わることはなかった。巨大な円筒状の水槽を見つめていた時も、深海生物の住まうひどく暗く静かな水槽の前でも同じだった。夜明け前の眠たいような空気感を纏わせながら、どこか儚げで後ろ髪を引かれるような、淡い色彩の光を放っていた。 まるで。 「人魚、みたいだ」 見惚れながらに呟いた幻は、館内のわずかな喧騒へと紛れていく。仮に、もし仮に。俺にとってのスカイが人魚なのだとしたら。肉を食むことで不老不死になるとか、録でもない伝承はこの際どうでもいい。とりあえずカートゥーンに出てくるような、天真爛漫なマーメイドでは恐らくない。セイレーンかも知れない。それともメロウかも知れない。とりあえず分かるのは、ふれれたくてもさわれない、絵本の中の存在には違いない。 「人魚じゃないよ、私?」 囁きは空を舞い、俺を正気に戻らせる。気付けばスカイがこちらを向いていた。前を見ていたはずの彼女は、ほんの少し首を傾げて俺の方を見ている。穏やかな眼差し、柔らかな微笑み。目が、離せなくなる。
8 21/07/22(木)01:31:35 No.826017066
美しさは時に毒に変わる。薔薇に棘があるように、極彩色の羽の下に鋭い爪が隠れているように。人は人魚と交われば、幸せな結末を迎えられない。そう分かっているから。スカイは水中を舞うクラゲの水槽を背にして、どことない曖昧さを抱えたまま続ける。 「ただのヒト。ううん、たったひとりのウマ娘。トレーナーさん……あなたなら」 知ってるでしょ? そう、だよな。 不思議だ。二人とも口を動かして息を吐いたはずなのに、何故か声には出来なかった。いや、きっとしなくても伝わると信じていた。俺たちまで魚になる必要なんてないのだから、理由を求めるならそこにしか無い。酸素を取り込むのも忘れたまま青い照明の下で、揺蕩うこの景色の中でスカイへ回答を渡した。 きれいだな。 そうだね、きれい。 多分今現在において。俺たちが見ているものは同じではないと思う。俺のきれいはスカイのきれいとは交わらない。囁きは硝子を越して水に吸われ、さっきと同じような静寂をその代わりに齎した。
9 21/07/22(木)01:32:40 No.826017304
スカイの、星くずの散るコバルトブルーの眼差しを、見つめた。溶けかけた氷のような、独特の光沢感が俺だけの景色に映り込む。とろんとした彼女の瞳はしとやかに瞬く。けれど緩まない、スカイはまっすぐ俺のことを見つめている。三秒コンマ二十七のアイコンタクトに、ほんの少し涙に潤み、また、青を取り込み瞬いて。その眩しさに瞳を瞬けば、彼女の表情がふわり、華やいだ。 「うん」 悪戯っぽい微笑みに、どきりとさせられる。相手はティーンの学生だってのに、いつもいつもからかわれているだけだって知っているのに。今日だけは何かが違うような気がして、心臓が勝手に早鍾を打つ。 「スカイはさ、俺が……トレーナーで、本当に……」 「良かったですよ」 「本当に、か?」 「良くなきゃこんなところまで一緒に来てないですって。心配性なのは分かってますけどね」 苦笑する彼女に想うのは、よそ事染みたクエスチョンのアンサー。いつかさよならと告げられたら、俺はどうするのが正解なのか。意思の尊重、否さ引き留めるべき、その時が来たなら俺はどっちの道を選択するのか。なあ、スカイ。そう口にしようとしたとき。 「ねえ、私からも。聞いてもいい?」
10 21/07/22(木)01:33:33 No.826017492
俺の質問よりも幾分か早くスカイは言った。 「もしさ。ふかいふかーい海の底にさ。私がいっても……みつけて、くれますか?」 泡のように脆く甘い囁きに、ぼやけていたような気のする瞳の焦点が自然と合っていく。 そうだろう、きっと。もしかしなくても、俺は。 「見付けるさ」 スカイを泣かせたくない。だけ、なんだ。 今度はちゃんと声が出た。ああそうか、そう、だったんだ。分かる、今だからこそ分かる。感じるよりも前に勝手に出たのは、純粋な俺の気持ちに他ならない。 「ほんとう?」 スカイの発した言葉の裏にあるものは、恋情と呼ばれるものなのか、それとも少女ゆえの可愛らしい束縛なのか。その正体は朧気で掴めないから、明確な答えは俺には出せない。感情は数万マイルの海底だ。宇宙にすら手を届かせた人類が、未だ踏み入れることを許されていない、日の届かぬ意識の海だ。生半可な気持ちで潜り込めば、たちまちぺしゃんこ。斟酌、勘案、生きていたい俺たちは、おっかなびっくり他人の気持ちを確かめる。でも、本当の海とは違うところもある。数万マイルは固定じゃなく、様々な要因で可変する。絆という繋がりで、深くもなれば浅くもなる。
11 21/07/22(木)01:33:59 No.826017588
「嘘なんて、言いたかない」 心の海にはヒトの足引く魔物が潜む。踏み入れた地点が仮に浅瀬でも、溺れてしまう危険性をそこかしこに孕んでいる。けれど、俺は慎重にはなれど躊躇なんてしてはやらない。勇気と意志を持って一歩踏み出す。誰かの心に届かせたいのなら、それぐらいの覚悟は必要だ。どうか、どうか後生だから。幸せを遠ざけないでくれ。そう、祈りを込めながら、続けた。 「君のことが、大事だから」 俺たちは、世界でたったふたりきりだから。 「なるべく、早く、見付けるよ」 この絆を失いたくないから。 「約束だ」 俺たちを結び付けた偶然を、一度だって離さない。 「小指じゃあきっと、足りないよ?」 「構わないさ」 俺自身水っぽい感情について敏い訳ではないから、もしかすると推測することすらも野暮なことなのかも分からない。今はただ、この瞬間を。背景にあるみずいろの青を、ひたすらに尊く思う。 「大変かもよ?」 「それもいいさ、慣れてるから」
12 21/07/22(木)01:34:33 No.826017713
一人には、させないさ。それだけを言葉にしてスカイの隣に並ぶため一歩踏み出した。並んで、広い、水槽だ。片手で数えられる位の大きなクラゲが俺たちを見ている。青に揺らめく白い触手を眺めていると、俺の左手にこつん、と骨の響きがした。そして、すぐに柔らかく滑らかな感触に変わる。指先を絡める、互いの指紋が肌に混ざり合う、爪と肌のわずかな体温の違いを確かめて、手を。 「まあそもそも、離しゃしないけど」 「……ふふ」 優雅に泳ぐクラゲだけが、まだ俺たちを見つめている。他には誰もいない。静かな、静かな時間を過ごす。数分そう過ごして俺たちはクラゲの元から離れていく。静寂の湿度を保つ廊下を通り、鮮やかな熱帯魚たちの元へ訪れる。インディゴブルーからパールブルーへ。俺たちの背景が変わる。スカイは人魚じゃないと言った。ああ、ならきっと天使なんだろう。この幻に名前を付けるとしたら、きっとこれが正解だ。 「あ、そういやさあ、トレーナーさん。もういっこ質問」 「ん、何?」 「なーんで私のこと、セイって呼んでくれないの?」 突然そんなことを言われたもんだから、俺は考えてもいない真っ赤な嘘を喋ってしまう。
13 21/07/22(木)01:34:59 No.826017803
「……んー、こっちのが近さ? があるような気がして」 「にゃはは、答えになってませんよ」 「そうかなあ……」 「そうですよ、んふふ……」 どうも煙に巻かれたような感じがして釈然としない。ほんの少しだけ、鎌首をもたげる。負かしてやりたい、そんな気持ちが俺に軽口を叩かせる。 「手、握るの好きだよなあ……」 「ん? きらい?」 「いや……そうじゃ、ないが……」 「セイちゃんとバトろうなんて百年早いですよ、トレーナーさん?」 かにかに~とかカニのハサミよろしく指先を開いたり閉じたりさせながら、してやったりとばかりにスカイはにんまり笑っていた。ああもう、参った。お手上げだ。この日何度目かの降伏を半分ムキになりながら口にした。 「わーかった、わかりました! 俺の負け、スカイの勝ち!」 「じゃー、負けたから罰ゲーム!」 「ば、罰ゲーム?」 こくんとスカイは頷いて、床へと視線を落としてしまう。彼女の表情は見えない。覗こうとすれば、や、と小さい拒絶だけが返ってきて、代わりとばかりに俺の手が痛いぐらいに強く握られた。
14 21/07/22(木)01:36:15 No.826018083
「あ、の……セ……セイって、呼んで」 「……どうしても?」 「どーしても!」 スカイは意固地だ。一回こうなったら梃子でも動かない。仕方無い、負けたのは俺だ。俺が、覚悟を決めるべきなのだろう。 「ああ、もー……分かったよ、一回だけ。一回だけな」 「……うん」 咳払いひとつ置いて、恥ずかしさを超克して。スカイをセイと呼ぶことで、何かが変わってしまうんじゃないか。そんな無色透明の不安を振り切って。ゆっくりゆっくり、その愛称を、呼んだ。 「……セイ」 これでいいか。そうぶっきらぼうに言ってちらりとスカイの方を見れば。当の本人はさっきと全く変わらず、ひどく恥ずかしそうに俯いていた。 「反応してくれ、てか照れるな」 「いや~……だってさあ~……」 「言い訳しないの。どっちも照れてたら罰ゲームの意味ないじゃんか」 「ん~、それは確かに」 大声で笑うのは回りへの失礼になりそうだから、出来るだけ声を抑えて俺たちは笑った。ひとしきり笑って、スカイを顔をちゃんと、見た。
15 21/07/22(木)01:36:57 No.826018237
「なあ、ついでにカッコつけたようなこと、言ってもいいか?」 「お好きにどうぞ?」 「俺さ、スカイと……いや、セイと歩めて、嬉しいよ。ありがとうな、俺と来てくれて」 「う~……むう……! もうっ、トレーナーさんってほんとにかっこつけですよね!」 「せめてロマンチストとでも言ってくれ」 「一緒ですって、このとうへんぼく!」 「ええ~……そうかなあ……まあいいや。気持ち切り替えてさ、イルカ見に行こうよ」 「うーん、ま、しょうがないか。トレーナーさんだしね。及第点ってとこで勘弁しといてあげます。あ、イルカショーの前に、アイス食べたいなあ~」 「はいはい、分かったよ。とりあえず、進もうか?」 「は~い!」 手は繋いだまま、順路の先へと歩いていく。俺たちはまたひとつ思い出を作って、次なる未来へと歩んでいく。俺たちの絆はきっと、昨日よりも一層深まった。これは自惚れや思い違いなんかじゃない。嘘じゃないし偽れない。繋いだ手の熱さが、何よりも確かでしなやかな感触が教えてくれる。 「セイ」 「なんですか?」 「いつも、ありがとう」
16 21/07/22(木)01:37:26 No.826018330
「んふ、お互いさま。ですよ?」 「そう……かな?」 「そうですよ?」 弾むような返答に苦笑しつつ、俺はエスカレーターに足を乗せた。明日もきっと、この充実感は変わらない。この幸福感は、何物にも代え難い。俺たちは歩き出す、青を背にして前へ進む。今日も明日も明後日も。いつかの自分たちを思い返しながら、前へ前へと進める。 ああ、不思議だ。エスカレーターの先に広がる自然光が、なぜだろう。今までよりも、明るく見える。たったそれだけのことが、何よりも嬉しく思えてならない。左側に感じる仄かな温もりと、この眩しさが証明してくれる。靴の大きさも歩幅だって違うけれど、終わりを迎えるその時までずっと一緒に歩いて行ける。思い出が記憶に変わるその日まで、俺は、いいや俺たちは、そう信じている。 「ちゃんと、着いてきて下さいよ?」 だから、間違いないのさ。俺の人生は何よりも充実している。ああ、今も、これからも一分だって変わらない。 「置いてかれたくないからな、頑張るさ」 きっと、そう。この手を離さなければきっと。左手で握る幸せを噛み締めながら俺は、スカイの身体を一センチだけ俺の方へと引き寄せた。
17 21/07/22(木)01:42:44 No.826019391
強い…! トレーナーさんが弱ってる時はめちゃくちゃ頼りになるなセイちゃん
18 21/07/22(木)01:43:10 No.826019465
詩的な表現がとてもよかった いい…
19 <a href="mailto:s">21/07/22(木)01:43:42</a> [s] No.826019582
fu181424.txt 多分一ヶ月ぐらいぶりの幻覚 水族館デート完遂 まとめたテキスト置いておくので良かったらみてね
20 21/07/22(木)01:44:07 No.826019667
こいつらイチャイチャしてるんだ!
21 21/07/22(木)01:44:18 No.826019699
寝る前にキレエなもんが見れたじゃねぇか…
22 21/07/22(木)01:44:34 No.826019757
なんだいセイちゃん大勝利してるじゃないか…
23 21/07/22(木)01:46:28 No.826020112
両思いを前提にお互い仕掛けあい探り合いするのいいよね… まあただイチャイチャしてるだけなんですけどね!
24 21/07/22(木)01:51:02 No.826020968
たまにはつよつよでもいい
25 21/07/22(木)01:52:42 No.826021265
情景描写が美しすぎる…なんだこれ…
26 21/07/22(木)01:52:49 No.826021287
文章が巧い…
27 21/07/22(木)01:57:24 No.826022169
セイウンスカイはよわよわを演じている しかしひとたびトレーナーさんの危機になれば真のつよつよスカイになるのだ! あとすげえ地の文きれいっすね
28 21/07/22(木)01:58:08 No.826022283
必要ないかもだけど、いつかはちゃんとお互いに「好きです」って伝えてあげられたらいいね…
29 21/07/22(木)02:15:08 No.826025190
詩みたいだ…
30 21/07/22(木)02:31:15 No.826027878
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
31 21/07/22(木)02:31:42 No.826027943
ウワーッ!
32 <a href="mailto:s">21/07/22(木)02:32:42</a> [s] No.826028108
ヴアッ?! ありがたい…ありがたい…
33 21/07/22(木)02:36:22 No.826028645
相変わらずの名画だ…