虹裏img歴史資料館

画像ファイル名:1625320867841.jpg 21/07/03(土)23:01:07 No.819755596

君の死について考えていた。 何度殺しても、どれほど無残に殺しても、君の死が誰かの心を動かすことはない。 ならば私はなぜ君を殺すのだろう？君の死そのものではなく、君の死に様でもなく、過程や演出にこそ見る者の心を動かす何かがあるのではないか？ まるで舞台と同じだ。特に歌舞伎は現代の人にはセリフを聞き取ることすらままならぬ。 予め粗筋を知り、何が行われるのか、何が言われるのかすら知りぬいた上でお客様は現れる。 分かりきった結末に何を求めておられるのか？決まっている。歌舞伎だ。傾（かぶ）きなのだ。 逃れられぬ定めを、一寸たりとも変えられぬ脚本を、どれだけ傾いて見せてくれるのか。それが楽しみなのだ。 ああ、だれしもいずれ死ぬ。なればその死そのものに意味が求められないのは当然だ。等しい結末ではなく、それ以外のどこかに血沸き肉躍る何かを求めているのだ。 踊ろうぴるす君。千切れんばかりに手を振り足を振り。はち切れんばかりに心の臓腑を鼓動させて。死に様ではない、生き様とすら呼べない、奇矯な有様で客の無聊を慰んでやろう。 血濡れた舞台に音のない喝采。グランギニョルの幕は降りる。