虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/07/03(土)22:09:07 No.819726587

    前回までです sp92314.txt

    1 21/07/03(土)22:09:24 No.819726756

    仄暗い通路に、蹄鉄の音か響く。音の主は、息を切らしながら通路を駆ける。その両手は紙袋をしっかりと抱き、血走った眼で走り続けた。 「はっ…はっ…はぁ…!」 前方に黒服の人影が見える。影は吸っていた煙草を捨て、革靴で踏み消した。 「遅い。」 「はっ…これでも、いで…」 「口答えするな。それで、回収できたんだろうな。」 呼吸を整えてから、紙袋に手を突っ込む。中から取り出したのは─シンボリルドルフのレース用の靴だった。しかし、その靴は固定するためのパーツがぶっつりと切れていた。 「クク…ちゃんとその靴は”仕事”をしたようだな。」

    2 21/07/03(土)22:09:46 No.819726981

    【数時間前】 「な…何ですか、それ…?」 模擬レース前の待合室で、ウマ娘は自身のトレーナー─黒服のトレーナーの発言をうまく飲み込むことができなかった。 「二度言わせるな。この靴をシンボリルドルフの物とすり替えてこい。」 トレーナーが突き出した靴は、まさにシンボリルドルフのレース靴そのものだった。細部の作りこみさえ再現されており、蹄鉄すらも見分けがつかない程の再現度だった。 「というか…なんでその靴を。」 「ウマ娘の勝負服は全てオーダーメイド、なれど、製作するメーカーは同じだ。金に目の眩んだクズ社員を篭絡すれば、社内にある勝負服の設計書を引っ張り出す程度訳はない。設計書さえあれば靴の製造自体は他の工場でも可能だ。」 恐ろしいほど冷えた声で淡々と自分の悪行を語るトレーナーを見ると、心の髄まで凍るような気がした。

    3 21/07/03(土)22:10:09 No.819727201

    「とはいえこの靴に施した細工はそうおいそれと何処でも出来るようなものじゃないがな。」 「さ、細工…?」 「ここ。靴を足に固定するバンド部分だ。ここの内側に僅かに切れ目を入れてある。普通に引っ張ったり圧をかけたりしても何の変哲もない。しかし、ある一定以上の負荷…そうだな、必ず力が入るレース後半、スピードも十分に乗ったそのタイミングで、このバンドが切れる。そうなれば足元のバランスは大きく崩れることになる。」 「なっ…あ、あまりにも危険です!そんなこと…!」 そこまで言ってはっと気づく。トレーナーの射貫くような視線が私を串刺しにしていた。 「危険?そうだよ、これはシンボリルドルフを狩るための仕掛けだ。これでお前はこのレースで1着になれる。」 「わっ、私…そんなことしてまで、1着になんて…!」 「お前に選択肢は無い。それとも”母親”の事なんてどうでもよくなったか?」 「っ…!」

    4 21/07/03(土)22:10:33 No.819727449

    悪魔が私の心臓を冷えた手で握り締めながら囁いた。 「適当な理由で…例えばサインを書いてほしいとでも言って待合室に行って、靴を入れ替えてこい。それができなければ…分かるだろ?俺も手荒なことはしたくない。お前は1着を取って、母親も守れる。良いことずくめだ。うん?」 ああ、神様。もし、あなたが本当にいるなら、どうか─ 「…わかり、ました…。」 「それでいい。レース開始までもう時間がない。さっさと行ってこい。」 ─どうか、この男を殺してください…。

    5 21/07/03(土)22:10:52 No.819727631

    ~~~ 【現在】 シンボリルドルフの鞄を持ったまま、通路を歩くウマ娘─トウカイテイオーが、医務室の前で止まる。扉の前に手を伸ばし、少しだけ躊躇する。しかし、そのまま扉をノックした。 「…誰だ?」 中からエアグルーヴの声がする。 「テイオーだよ。カイチョーの荷物、持ってきた。」 少しして、僅かに扉が開く。中からエアグルーヴの目がトウカイテイオーを覗いた。 「…済まないな。」 「いいよ、全然。…じゃあ、これ。ボク、行くね。」 鞄と鍵をエアグルーヴに渡すと、トウカイテイオーはそのまま何も言わずに駆け出して行ってしまった。 「…テイオー?一体どうしたんだ…。」 尋常ではない雰囲気を感じ取ったものの、この場を離れる事は出来ない。エアグルーヴは引っかかりながらも扉を閉めた。 すぐさま鞄の中身を確認する。相手は何をしてくるか分からない以上、水筒の中身などは処分しておくに越したことはなかった。エアグルーヴが鞄を開くと、思いもしない物を見つけ、僅かに顔をしかめる。

    6 21/07/03(土)22:11:09 No.819727775

    「なんだこれは…?封筒?」 びくり、と毛布が跳ねる。そっと顔を出してエアグルーヴを見つめるシンボリルドルフ─ハルウララは、それを見た瞬間に一気に顔が青ざめた。 「なっ…なんでそれが…!」 エアグルーヴの耳がその声を聞きとり、振り向く。その手には封筒の中身の紙幣が握られていた。 「おい…ウララ、お前…!」 「しっ、しらない!!ウララしらないもんっ!!!」 再び毛布の中に逃げ込んだシンボリルドルフに、エアグルーヴが覆いかぶさる。 「ウララ!なんだこれは!?お前何か知っているのか!?」 「やだっ!!やだやだやだ!!ぜったいえあぐるーぶちゃんおこるもん!!!!」 「ッッッ……………………………………怒らん!何があったか離してくれ!!」 口まで上がった言葉をどうにかこうにか飲み下し、説得を試みる。シンボリルドルフが毛布から頭だけだし、弱弱しい目でエアグルーヴを見た。

    7 21/07/03(土)22:11:38 No.819728033

    「………ほんと?」 「本当だ……ちゃんと正直に話せば、な。」 「…わかった、でも、るどるふちゃんにはないしょにしてね…。」 そのまま首を伸ばし、エアグルーヴの耳元でそっと囁こうとした瞬間、勢いよく医務室のドアノブが暴れ出した。 「おいっ!!開けろエアグルーヴ!!」 声の主はナリタブライアンだった。ドアノブの揺れ方から見るに相当焦っているようだった。 「…ウララ、この話は跡だ。いいな?」 「う、うん…。」 エアグルーヴが鍵を開けると、ナリタブライアンとハルウララ─シンボリルドルフが入ってくる。どちらも息を切らしていた。

    8 21/07/03(土)22:11:53 No.819728190

    「どうした…犯人が見つかったのか?」 「…結果的には、な。」 「結果的には…?」 「まさか犯人が自首してくるとは思いもしなかったからな…。ご丁寧に靴まで持ってな。」 親指を立てた拳を後ろに振り指さす先に、件のウマ娘がいた。酷くおびえたような様子で、その両手は紙袋を抱きかかえていた。 「お前が、やったのか?会長の靴を…。」 「………はい。私が…………靴を、入れ替えました。」 消え入るような声のウマ娘は、そう言った後に顔を手で覆いさめざめと泣きだしてしまった。

    9 21/07/03(土)22:12:07 [s] No.819728340

    次回に続く

    10 21/07/03(土)22:22:06 No.819733703

    ある程度纏まってから読もうと思ってたがこれは… 大きく動き出すんだろうか

    11 21/07/03(土)22:37:12 No.819742226

    待ってたよ

    12 21/07/03(土)22:38:09 No.819742732

    これ犯人であるモブウマちゃんが自白しに行くとは考えてなかったんだろうか ここまで計算済みならかなり怖いトレーナだが

    13 21/07/03(土)22:48:33 No.819748520

    懲戒ッ!