ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/06/28(月)21:55:28 No.818089157
こんな日は喫茶店なり水族館なりでゆっくりしたい── 記録的な猛暑にもかかわらず無期限ストに突入した学園のエアコンを恨めしく思いつつ、俺にできることはトレーナー室のドアと窓を全開にして書類の山に埋もれることだけだった。 と―― 「だーれだ?」 突然ひんやりした感触とともに視界が奪われる。 「……どちら様ですか?」 「え~、ちょっとちょっと、それはひどくない?」 耳の後ろから不満げな声。自分にこんなことをしてくるのは夏の雲のように気まぐれな彼女しかありえなかったが、目を覆うしっとりした小さな手の感触が気持ちよく、つい意地悪をしてしまった。 「誰だろうな?うーん、セイ……いや、キングかな?」 おどけて返答したつもりだったが、期待していた「ぶっぶー、残念!かわいいかわいいセイちゃんでした!不正解だったトレーナーさんは罰として今日のメニューお休みで~す」くらいの軽口は聞こえず、背後からはかすかに息を飲む音だけが聞こえた。 「なんで……そこでキングの名前が出てくるのさ」 何かを押し殺すような声に慌てて振り向く。 「いやすまんセイ――」
1 21/06/28(月)21:55:51 No.818089304
「……なーんて。おや~びっくりさせちゃいました?」 そこにはニヤニヤ笑うセイウンスカイがいた。 「トレーナーさんのおふざけなんてセイちゃんにはお見通しなんだから。まだまだ甘いよ~。じゃあ私はこれで~」 よかった。いつものセイだ。回れ右してトレーナー室から出ていく背中に声をかける。 「セイ!」 「なぁに~」 「トレーニングには遅れるなよ?」 「はいはーい」 右手をひらひら振りながら、セイウンスカイは振り返ることなく廊下を歩いていった。
2 21/06/28(月)21:56:38 No.818089607
本音を言えば走り出したいところだったけど、意識していつもどおりの足取りでトレーナー室を出る。後ろから聞こえるトレーナーへの返答もいつもどおりに。意識しないと『いつもどおり』ができないってのも変な話だけど……。 そのまま廊下の角を曲がり、トレーナーさんから見えなくなったことを確認してふっと息を入れたら、目の前の階段を駆け下りる。 足早に1回まで降りてから、階段の下、影になっているスペースに体を滑り込ませてようやく深いため息。 左手に持ったままのパンフレット、色とりどりの魚とペンギンの親子のスナップに添えられた、青字に白抜きの文字にもう一度目を滑らせる。『大切な人と、大切な夏の想い出を――』
3 21/06/28(月)21:56:58 No.818089755
陳腐だが、都合のいい想像を掻き立てる見出しだ。暑い日が続いているし、トレーナーと一緒に出かけたら……巨大水槽を回遊するイワシの魚群、南の海にしかいないカラフルな熱帯魚、極彩色のウミウシを見て彼はどんな表情をするだろうか。 よちよち歩くペンギンとのふれあいコーナーもあるらしい。オタリアとイルカのショーは最前列だと水しぶきが危ないかな、私は大丈夫だけど、彼はいつものジャケットじゃ濡れたら大変。 街で見かけて手に取ってから踊った心はすっかり行き場を失っていた。 (別に他のウマ娘の名前が出てイヤな気分になったとかじゃないし) (それがキングだったからますます許せないとかそんなことないし) (でも――) ぽつり、と。 「誘えなかったな、水族館――」
4 21/06/28(月)21:57:48 [おわり] No.818090056
セイウンスカイがかわいすぎて20年ぶりに二次創作しました
5 21/06/28(月)21:58:32 No.818090374
もどかしい…セイちゃんらしくていいけど
6 21/06/28(月)21:59:53 No.818090917
永い眠りだったな
7 21/06/28(月)22:00:07 No.818091014
おはよう
8 21/06/28(月)22:07:26 No.818093819
階段勢い良く降りるのって青春だよね
9 21/06/28(月)22:08:11 No.818094083
御機嫌よう腕が疼いたんだろ 顔を見れば一瞬でわかるよ
10 21/06/28(月)22:20:10 No.818098592
緊急ッ!今すぐ担当ウマ娘を水族館に誘うべし!!
11 21/06/28(月)22:20:15 No.818098613
腕は錆びちゃいないようだな
12 21/06/28(月)22:26:07 No.818100793
良い文章だ...
13 21/06/28(月)22:33:54 No.818103828
もっと書けジイさん