21/06/28(月)19:29:05 「次は... のスレッド詳細
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21/06/28(月)19:29:05 No.818026971
「次は有マだ。」 12月に入って初めてのミーティング、トレーナー室に入ると開口一番それだった。挨拶は社会人のキホンって習わなかった? 「有マって、今年の?年末だよ。もう一月ないよ?なんでもっと前に言ってくれなかったのさ。」 「休養は取るためだ。」 「ちょっと待って、解読するから、えーっと……。ボクが休むのに集中できるようにあえて何も言わなかった、ってこと?」 「そう言っている。」 言われた?必要な部分も削ぎ落とした言葉を投げつけられただけに感じたんだけど。 「それで、休めたか?」 「今すぐ走り出したくてたまらないよ。ボクは準備オッケー、トレーナーは?」 ニヤリと笑って見せる、ボクが余力を残して走る目の前でタキオンが限界を超えて走らされてるのは、少し羨ましいところもあった。 やっぱり全力を振り絞って走るのが一番気分がいい。あの地獄はお互いのためにカンベンだけど。 「ふん、タキオンにかまけてお前を蔑ろにするとでも思っていたのか、ここから有マに向けてのプランは練ってある。」 「オッケー!今日からだよね、無敵のテイオー伝説、再始動だ!」
1 21/06/28(月)19:31:40 No.818028043
……⏰…… 『年末の中山で争われる夢のグランプリ、有マ記念!あなたの夢、私の夢は叶うのか!朝から降り続く雨が芝を濡らし、バ場は不良の発表となっています。』 それから一ヶ月はあっという間だった。トレーニング、コース取り、対戦相手への対策、やることは沢山あった。 『このレース、最も人気を集めているのは無敗の三冠、奇跡の名バ、トウカイテイオー。』 名前を呼ばれ、大きく息を吸いながら、いつものように、トレーナーの言葉を頭の中で繰り返す。 「誰が強敵かと問われれば、全員だと答える。だが、誰を注目すべきかと問われれば、その名は一つだ。マヤノトップガン、やつが来ている。」 シニア級も混じる中で一番人気を占めるボクに、ゲート越しの視線が突き刺さる。 マヤノは六番人気、でも真っ直ぐ前を見ている姿は、ボクのことをちらちら気にしている人たちより一段上に見えた。
2 21/06/28(月)19:32:17 No.818028290
「今日は雨だ、雨音に混じって足音が掴みづらく、冷えた体は思うように動かない。 お前の武器はスパートのタイミング合わせと全身のバネ、どちらも強みを出しづらい、厳しい戦いになるぞ。」 念入りなウォームアップと直前に飲んでいたホットミルクで今はまだ体の中に熱が残っているけど、スタートまでの間にどんどんなくなっていくのがわかる。 冷たい空気を一気に取り込まないように、浅い呼吸を意識しながら、スタートの姿勢。 ゲートが、開く!
3 21/06/28(月)19:32:40 No.818028440
「お前は菊花賞を走り抜いた、スタミナの面では問題ない。だからこの期間で鍛えたのはスパートのスピードと加速するパワーだ。 あとは基本的には同じだ、逃げウマの後ろにつけて最終直線でぶち抜いてやれ。」 団子になったバ群が脚質毎に固まるまで一度離れる、雨が体に当たって熱を奪っていくけど、それ以上の熱が足から湧き上がってきて全身を駆け巡るのがわかる。 G1レース、4つ目の冠、カイチョーに並び、そして追い抜くための次の一歩。 『先頭は譲りませんマヤノトップガン、続いて5番ジャラジャラ、3番ブラングリモア、その後ろトウカイテイオーがぴったりくっついています、菊花賞の再現なるか!2バ身開いて、続いて外からマストチューズミー――』 ペースを保つ。呼吸、蹴り出す足、両方のタイミングを合わせれば相手と同じペースで走り続けられる。 視界は目前の3番の背中が一杯、頼りになるのは耳だけ。目の前の足音、その前、ラチから少し離れた足音、そしてその先、先頭を走るマヤノの足音が……