21/06/28(月)00:24:44 まずい... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1624807484929.jpg 21/06/28(月)00:24:44 No.817816595
まずいまずいまずいまずい! トレーナー室までの最短ルートを最高速で駆け抜ける。もしかしたら、レースの時よりも足が速いかもしれない。 時刻は午後6時、日は沈みかけて、放課後のトレーニングを終えた子たちとすれ違う。道中必死の形相を浮かべたアタシを見てぎょっとする子もいたけど、今はなりふり構っていられない。それほどの緊急事態なのだ。 よりにもよって、なんであれを置いてきたんだ! いくら寝不足でぼーっとしてたとはいえ、あれをトレーナー室に置いてきたのはまずい! 「トレーナー! 忘れ物したんだけど!」 普段は出さない大きな声でトレーナー室のドアを勢いよく開ける。背中から吹く温い風が、室内の冷房と混ざって中和される。 「ドーベル、探し物はこれか?」 ソファに座っていた彼は一冊のノートを持っていた。それこそが、アタシが忘れた、そして誰にも見られてはいけない秘密のノートだった。
1 21/06/28(月)00:25:54 No.817817012
「そ、それ!」 良かった、やっぱりここにあったんだ!しかし、問題はまだ解決していない。大事なことは彼がノートの中身を見てしまったのかということである。ノートの中身の、自作の少女漫画を彼に見られたなら、アタシは今から自分が埋まるための穴を掘らなくてはならない。なぜなら、主人公のモデルは彼で、ヒロインはアタシだから。とにかく、絶対にバレてはいけない。 「……ちなみに、ノートの中身は見て、ないよね?」 恐る恐るといった様子で尋ねる。背中の汗が服と張り付いて気持ち悪い。緊張のせいか、体が強張る。体温が上がっているのは、ここまで走ってきたせいだけではない。 彼はアタシの質問を聞いて、無言のままノートを持って近づいてきた。アタシの前まで来ると、立ち止まった。 「ドーベル!」 「ひゃ、ひゃい!」 彼がアタシの左肩に手を置いたことに驚いて、思わず声が上ずる。さっき大きな声もそうだけど、普段の彼はそんなことはしない。アタシが男の人が苦手だってことを知っているから。それなのに、どうして。体温がますます上がって、もうオーバーヒート寸前だ。
2 21/06/28(月)00:26:26 No.817817196
「感動し゛た゛よ゛ぉ゛~」 「……へ?」 トレーナーは、どこかのウイニングチケットのようにおいおい泣き出した。 「勝手に見たのは謝る! でも、この漫画、すごく良いぞ! 俺、少女漫画なんて読んだことなかったけど心が揺さぶられたよ!! やっぱりドーベルは凄いなあ~! ヒロインの心理描写が丁寧でさ、こっちまでドキドキしちゃったよ! それに――」 「ちょ、ちょっと待って!」 このままだと延々と感想を続けそうなトレーナーを黙らせる。不測の事態に脳がフリーズしかけていたけど、何とか現実に帰ってこれた。今、彼は何を言っているんだ? 何を見て感動したと? アタシの漫画を見て? 何で? 無限に疑問が湧き出てくる。部屋に突入したころの恥ずかしさと緊張感は熱と共に抜けて、今の状況を分析し始めた。 「ドーベル!」 「今度は何!」 また大きな声で呼びかけられた。それに釣られてアタシの声も大きくなる。不思議と、彼との距離が近いことは気にならなくなっていた。 「これなら、きっとみんなにも読んでもらえるよ! 俺、出版社に勤めている友達がいるからさ、そいつにも見てもらおう!」 「出版社って……え!?」
3 21/06/28(月)00:27:07 No.817817414
そして時は流れ数年後、トレセン学園を卒業したアタシは壇上に立っていた。 「最優秀作作品は……メジロドーベル先生の『ストロボ・センター』です! おめでとうございます!」 会場の至る所から拍手が聞こえる。アタシのトレーナーは、最前列に座って大きな手で拍手していた。彼はあの時のように泣いていた。 「……なんか思ってたのと違う」 アタシの呟きは、会場の喧騒にかき消された。
4 21/06/28(月)00:29:53 No.817818377
おわり 偶然秘密の趣味がトレーナーにバレたドーベルのセカンドキャリアが決定する話です 鈍いトレーナーなので純粋に感動しています
5 21/06/28(月)00:30:32 No.817818622
何でチケゾーが?って思っちゃったよ…
6 21/06/28(月)00:32:07 No.817819171
>ぜなら、主人公のモデルは彼で、ヒロインはアタシだから。 なんでここからこうなるんだよ!
7 21/06/28(月)00:35:14 No.817820244
>>ぜなら、主人公のモデルは彼で、ヒロインはアタシだから。 >なんでここからこうなるんだよ! ドーベルの才能と少女漫画の面白さに気を取られてトレーナーは気づきませんでした ひどい人ですね
8 21/06/28(月)00:37:43 No.817821102
あの…2人の仲は…
9 21/06/28(月)00:37:46 No.817821116
才能が埋もれずに済んだという意味で社会のハッピーは増してるかもしれんが中心人物が不幸になっている…
10 21/06/28(月)00:39:21 No.817821604
自分がヒロインの夢小説まがいな漫画が全国拡散するのはちょっとした地獄では?
11 21/06/28(月)00:39:28 No.817821640
まぁ卒業後もトレーナーよろしく(?)やってるし… マックはどう思う?
12 21/06/28(月)00:40:31 No.817821989
クソボ…
13 21/06/28(月)00:41:10 No.817822197
>「これなら、きっとみんなにも読んでもらえるよ! 俺、出版社に勤めている友達がいるからさ、そいつにも見てもらおう!」 ここ出版社に送っておいたから!じゃなくて本当に良かった…
14 21/06/28(月)00:42:08 No.817822501
>自分がヒロインの夢小説まがいな漫画が全国拡散するのはちょっとした地獄では? セカンドキャリアに漫画家を選ぶならある程度覚悟しておく必要はあることだし…
15 21/06/28(月)00:43:36 No.817822936
>>「これなら、きっとみんなにも読んでもらえるよ! 俺、出版社に勤めている友達がいるからさ、そいつにも見てもらおう!」 >ここ出版社に送っておいたから!じゃなくて本当に良かった… そこのバランス感覚ない奴だったらそもそもここまでドーベルの心開いてないから心配する必要はないだろう…
16 21/06/28(月)00:47:42 No.817824311
クラス内回し読みとかが一番邪悪かなぁ…
17 21/06/28(月)00:50:33 No.817825215
>まぁ卒業後もトレーナーよろしく(?)やってるし… >マックはどう思う? これも一つの一心同体ですわ
18 21/06/28(月)00:53:07 No.817825994
>まぁ卒業後もトレーナーよろしく(?)やってるし… >マックはどう思う? クソボケですわね
19 21/06/28(月)00:55:42 No.817826802
どっちだよ
20 21/06/28(月)00:56:21 No.817827012
実はどっちかがりゃいあん…
21 21/06/28(月)00:56:34 No.817827078
すみませんこれ卒業後どうなるんですか?トレーナーさんはついてきてくれるんですか??
22 21/06/28(月)00:57:59 No.817827510
クソボケと一心同体になってもいい 自由とはそういうことだ
23 21/06/28(月)01:01:06 No.817828488
ネームの段階で主人公からヒロインへの吹き出しで『ベル』って呼ばせてそうなドーベル
24 21/06/28(月)01:01:17 No.817828537
>すみませんこれ卒業後どうなるんですか?トレーナーさんはついてきてくれるんですか?? トレセン時代と同じく一人目のファンとして支えてるよ
25 21/06/28(月)01:02:51 No.817828988
公私共にずっとサポートしてくれてるよ >「……なんか思ってたのと違う」
26 21/06/28(月)01:06:50 No.817830172
更に数年後には夫婦性活のエッセイ漫画でも描いてるよ…
27 21/06/28(月)01:10:31 No.817831254
漫画の連載が始まってから更に数年後。最終回、最後の原稿を編集さんに渡したアタシはぐーっ背伸びした。 「あっという間だったなあ…」 マンションの一室に借りた作業部屋は、今は自分一人だった。アシスタントの子たちは、一足先に暇を出した。また、次の連載が始まったら集まってもらう予定だ。 ふと棚に入っている自分の漫画を眺める。ありがたい事に、多くの人にアタシの漫画を読んでもらえたようで、もう次回作の話も頂いている。 連載中に送られてきた感想も嬉しかった。自分が描いた作品に、読者が応えてくれることがこれほどに幸せな事とは思いもしなかった。 恥ずかしがり屋の自分が、趣味で描いていた漫画は、トレーナーの一言がきっかけで世間に公開されてしまった。でも、結果としてそれは良かったのかもしれない。漫画を通して、自分に自信が持てた気がするから。
28 21/06/28(月)01:11:13 No.817831468
アタシを変えてくれた張本人の彼は、今も学園でトレーナーをやっているそうだ。アタシの気持ちを知ってか知らずか、未だに独身らしい。 自分の作業机の鍵がかかった引き出しを開ける。そこには、箱があった。箱を開けると何通もの手紙が入っていた。 大事に取ってあるこの手紙は、アタシの漫画の最初の読者が連載中毎月送ってくれたものだ。 「……やっぱアタシってあの人のことが好きなんだなあ」 あれから大人になって、熟した感情にまた熱が入る。気付いたときには、電話帳に登録してある彼の電話番号に掛けていた。 「もしもし、トレーナー? 久しぶり。 あのさ――」 電話口から聞こえてくれる彼の声は当時と変わっていなかった。 まだ間に合う。そう心に言い聞かせて、アタシは彼に話を切り出した。
29 21/06/28(月)01:11:20 No.817831505
>トレセン時代と同じく一人目のファンとして支えてるよ どこぞのにぶちん野郎の類族が再生産されてる…
30 21/06/28(月)01:11:51 No.817831652
おまけ 自信がついたドーベルは無敵なので積極的にいきます
31 21/06/28(月)01:12:26 No.817831796
続きありがたい
32 21/06/28(月)01:14:51 No.817832407
よかったこれで安心して眠れる…
33 21/06/28(月)01:15:08 No.817832483
クソボケに人生を狂わされたドーベルはいなかったんだ…
34 21/06/28(月)01:15:10 No.817832492
よっしゃいけー!
35 21/06/28(月)01:15:58 No.817832727
いけー!漫画家のウマ娘ー!
36 21/06/28(月)01:17:29 No.817833124
もうとっくに成人してるしグイグイ行ってもなんの問題もないな!
37 21/06/28(月)01:19:49 No.817833819
人生設計を変えさせた責任を取らないとね…
38 21/06/28(月)01:20:54 No.817834131
アタシの初恋の責任取ってもらうんだからとか言いそう
39 21/06/28(月)01:26:30 No.817835595
トレーナーと気の置けない仲になってるドーベルは健康にい
40 21/06/28(月)01:27:47 No.817835932
>トレーナーと気の置けない仲になってるドーベルは健康にい し、死んでる…
41 21/06/28(月)01:28:34 No.817836141
どうせデジたん
42 21/06/28(月)01:28:58 No.817836242
>アタシの初恋の責任取ってもらうんだからとか言いそう 「アタシの初恋」だけ声が小さいんだ