虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

1 21/06/23(水)20:56:44 No.816277839

「あいつだ、あの野郎のせいだ……」 膝に顔を埋め、歪んだ自身の表情を隠す。 誰も見ていない、それでも顔を見られたくなかった。 「あの野郎が、全部悪ィんだ」 浮かんだのは、ひょろっちい眼鏡野郎の姿。あいつはオレの担当なんだ。 選抜レースでオレの考えと『式』を理解してくれて、専属で、それで、それで…… 落ちていた端末が鳴り、肩が震えた。 画面は割れてるが、着信音だけで誰が相手かなんて分かっている。 出たくはない、けど出ない訳にもいかねェ……そして誘惑もあった。 恐る恐る手を伸ばし、通話モードへ。

2 21/06/23(水)20:57:54 No.816278312

「シャカール、俺だ。今から会えるか」 単刀直入に要件を切り出す、冷たい男の声。オレの担当だった。 　・　・　⏰　・　・ レース場近く、夜の街の喧騒から外れた待ち合わせ場所には、既にあいつの姿があった。 トレセン指定とは違う黒いジャージ姿の、オレの専属トレーナー。 鼻を擽る汗の臭いから、ランニングでもしてたんだろう。 徐々に距離を詰めるが、なんて言えば分からなかった。 以前はよくやっていたレース後の反省会も、当然今日もやってない。 胸が痛み、ムシャクシャして何も頭に入らねェから。 最近あいつの顔を見るとイラついて、集中できないのが原因だ。

3 21/06/23(水)20:58:10 No.816278402

……ならオレはなんでここに来たンだ？ てめェ自身の思考の狂いに、やや呆然としていると、あっちもオレに気付いたらしい。 眼鏡で街灯の光を反射させ、こちらに振り向く。 「……なんで俺の指示に従わなかった。計算データと指示書は渡したはずだぞ」 「……なんでオレが言う事を聞かなくちゃいけねェんだよ。イキってんじゃねェよ」 高圧的な担当の物言いに、反射的に吐き捨てた。 昔と言葉遣い変わってンのは、カッコつけか？ あっちは視線を険しくし、オレは続く言葉が出ずに、夜の闇に沈黙が下りる。 こんな事が言いてェ訳じゃなかった。 あいつの分析は正しく、逆らったオレが間違ってるなんて分かってる。 だから素直にわりィって頭下げりゃいいだけ、なのに出来ない。

4 21/06/23(水)20:59:04 No.816278750

先日までこんな関係じゃなかった筈なのに……。 もっと気楽にレースや軽口を言って、笑い合えてたのに。 今のこいつと組んでから、オレの調子は上がりっぱなしだった。 同じデータ理論派で、常に分析とシミュレーションを心掛ける相方。 なんだかんだと世話焼きな所も合ったんだろう。 『これなら三冠にも手が届くんじゃねェか？』 『あぁボクらなら、絶対に叶えられる。データは嘘を吐かない』 『ククク、確かに。オレ達ならやれる』 なんて反省会後にダラダラ喋ったりするのも、嫌いじゃァなかった。 けど、この間メジロ家の令嬢マックイーンと密会していたのを見て、何かが抜けた。

5 21/06/23(水)20:59:18 No.816278853

親しげに喋っている雰囲気から、そこそこ長い付き合いだって事は察した。この根暗野郎が、だ。 ちょくちょくタキオンと駄弁ってンのは知っていた。だが、あのマッドとの繋がりは、オレ経由のもの。 これは、メジロマックイーンとの付き合いなんて話は、オレは、聞いてない。 ずっと隠してやがったんだと思った時から、何かが今も胸が焼き続けてる。 その衝動に振り回されて、てめェの理性とあいつの指示に逆らって、結果無様を晒した。 けど、この胸を締め付ける気持ちが何なのか、確かめたくねェ……。 だって正体を認めたら、オレはとんでもない間抜けで、惨めな気持ちになるんじゃねェかって。 だからあいつを問い詰めることも出来なくて、ただイライラだけが募っていった。 「……俺をトレーナーと認めてないからだろ。シャカール、お前言ってたもんな、もやし野郎って」 「あァ……？」

6 21/06/23(水)20:59:59 No.816279112

一瞬あいつが何言ってるのか分からなかったが、ふと思い出す。 確かに出会った当初に『体力ねェのは情けねーぞ』とからかった事があった。 が、あれは冗談だった筈だ。あんなのが理由でオレが逆らったと思ってるとか、アホか？ 人間がウマ娘に勝てる訳ねェだろうが。 だけど、あいつのは目はマジだった。おそらく出会ってから今までで、一番。 「シャカール、勝負をしようガチンコで」 「――――へぇ」 ぞくりと、声の温度が下がった。目の前の人間を、じっと見据える。 「負けた方が勝った方の言う事を聞く、それでどうだ」 「……勝ったらマジで何でも言う事を聞くってか？」 「あぁ。蹄鉄を舐めろ言われたら舐めるし……もしトレーナーを辞めろと言うなら、辞める」

7 21/06/23(水)21:02:07 No.816280036

そう言ってジャージを脱ぎ捨てると、タンクトップの下から引き締まった筋肉が露わになった。 細身ではあった、しかし以前とは見違える程に鍛え上げられ、絞られている。 「驚いたか？　マックイーンに絞られたよ。マジで血の小便が出た」 忌々しい女の名が出たが、それよりも男の体を舐めるように眺める。 見せかけの筋肉ではない、闘争に特化し、そのように育てられていた。 今も匂い立つ獣臭を纏っている。それも自分との勝負の為だけに、だ。 たまらぬ、内心でほくそ笑み、体の奥底に甘い疼きを憶えた。 生物界の頂点に立つウマ娘としての本能、肉欲。 ふふん、と賞品を前にガラにもなく頬が吊り上がる。 そして嘘のようだが深い安堵もあった。 これまでのマックイーンとの密会は、甘い男女の物ではなく――――本当にか？

8 21/06/23(水)21:05:44 No.816281639

頭の冷静な部分が囁いた。 もしも向こうから解消を言い出されたら？　心当りはないか？ レースは不振、態度も従順ではなく、雌としてそそるウマ娘ではない。 であるなら……答えは？ 「それじゃあ――――」 「――――ッ！！！」 あいつが言い終わらないうちに、オレは動いていた。 よーいドンで始まる野試合があるものかよバァカ！！！　最初から全速力で踏み込む。 あいつの足をへし折って、何処へも行けなくしてやる、離れられないように管理してやるッ！ 向こうから言い出したことだ、録音もして言質もある。文句は言わせねェ！

9 21/06/23(水)21:07:46 No.816282444

でも完全にタイミングを外した筈が、あいつは既に構えていた。 オレの動きと呼吸を読まれている。 だから分かる。 あいつがオレをどれだけ分析し、シミュレーションしたのかを。 やや前傾気味の構えも悪くない、教わっていただけはある。 人間如きがウマ娘に喧嘩を売ろうと調子づく程度には鍛えたのだろう。 だが似ていた、マックイーンのフォームに、だ。 気付いた瞬間、全身が嫉妬と憤怒で燃え上り、毛が逆立ち、奥歯が悲鳴を上げる。 一刻も早くあのクソアマの痕跡を消し去りたい。 その一心で更に踏み込んだ。

10 21/06/23(水)21:08:01 No.816282560

　 　 ――――勝負は三秒とかからず決着した。 　 　

11 <a href="mailto:s　1/2">21/06/23(水)21:10:11</a> [s　1/2] No.816283515

（夢枕獏成分多めで）すまんな 適性がないのでこれで失礼する

12 21/06/23(水)21:10:56 No.816283803

おい待てェ

13 21/06/23(水)21:12:42 No.816284488

逃げんな追い込め

14 21/06/23(水)21:13:12 No.816284705

逃がさんぞ

15 21/06/23(水)21:18:34 No.816286971

>（夢枕獏成分多めで）すまんな トレーナーが脱ぐ辺りから急に餓狼伝みたいな空気になってだめだった

16 21/06/23(水)21:20:31 No.816287796

板垣挿絵書いてくれんかな…

17 21/06/23(水)21:26:05 No.816290082

>板垣挿絵書いてくれんかな… まさかウマ娘を！？

18 21/06/23(水)21:27:32 No.816290652

気になる男が他の女と親密そうなの見ちゃって誤解するのは王道だけど身体鍛えてるのはあんまり無いな…

19 21/06/23(水)21:30:58 No.816292015

ライアンといい好戦的すぎやしませんかね？ いいぞもっとやれ

20 21/06/23(水)21:41:28 No.816296571

書き込みをした人によって削除されました