21/06/23(水)19:02:01 輝くス... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1624442521068.jpg 21/06/23(水)19:02:01 No.816234380
輝くステージ、星一つない夜空のその下で一際眩い光を放つ存在があった。 「みーんなー！いっくよーっ☆」 スマートファルコン、私の担当バ。 ダートレースを主戦場とし、その可憐なルックスと力強い、泥臭ささえ感じさせる走りで世界中の人を魅了するトップウマドル。 その彼女の3周年記念野外ソロライブ、今日この場にはレース場一つ埋め尽くせるほどの人がたった一人の女の子を応援するために集結しているのだ。 私はそれを最後尾から腕を組んで見守るのが役目。昔なら最前列で喉を割いて応援しただろうが、まあそういう訳にもいくまい。 「───それじゃあ一曲目！───」 待ちに待ちかねたライブの開始宣言に、ステージの熱気は最高潮と化した。 男も、女も、子供も、老人も、この場の全員がこのライブの主役でもあるのだ──────
1 21/06/23(水)19:02:25 No.816234508
────全身を汗に浸し、、会場の熱気をそのまま纏ったように帰ってきた彼女に大判のタオルとドリンクを渡した。 無論ライブは大成功。2回のアンコールにも完璧に応えきった彼女は、なお元気いっぱいと言わんばかりにVサインを掲げて見せた。 お疲れ様。最高だったよ。拍手をもって彼女を称える。 「すっっっごく楽しかった！！！皆のとびっきりの笑顔も見れた最高の夜だったね！！」 ああ、きっと伝説の一夜になる。私も誇らしい。 「……っ、と、トレーナーさん！」 不意に顔色を曇らせたかと思うと、意を決した表情で私と向き合った。 なんだい、もう次のライブの─── 「ち、ちゃんと、"声に出して"褒めてほしい……ですっ！」
2 21/06/23(水)19:02:47 No.816234636
一瞬口が泳ぎ、けれどもやはり彼女に報いねばならぬと、その朽ちた喉をなんとか開いた。 「ｵ”…ﾒ”ﾃﾞ……ﾄ、ｳ。ﾄ”ｯ……ﾃ”…ﾓ……」 そこまで紡いで、むせてしまった。駆け寄る彼女の表情は哀しみと喜びの混ざった複雑な表情をしていた。
3 21/06/23(水)19:03:03 No.816234724
確か、それはとても暑い日だった。 暑い中ファル子のレースに駆け付けて、それで喉が渇いていたはずだ。 「はっ…はぁ……間に合ったぁ～……」 「もうトレーナーさん遅いよっ！」 「ごめんて…はぁっ……渋滞に巻き込まれて……」 自販機に脇目もふらず走ったせいでとても喉が渇いていたのだ。 それで、控室に置いてあったコーラに目を留めてしまった。 「あ……ファル子、これ貰ってもいい？」 「いいよー☆ファンからの差し入れだって☆」 ぷしゅ、と小気味良い音を鳴らした缶を口につけ一気にあおる。 ドリンクの差し入れとは有り難いことだ。普通はこちらでスポーツドリンクなど用意するものだが…… そこまで考えて、舌に慣れぬ酸味が乗り、そのまま喉を焼いた。
4 21/06/23(水)19:03:21 No.816234814
「！？ぶっ……ゴホッ、ガハッ……！？」 息ができない。喉が裏返って口から出てきた方がマシだと感じるほどに激痛が口蓋をのたうち回る。 喉を押さえ、うずくまる。薄れる意識の中で、絶叫する彼女の声だけが聞き取れた。 下手人はあっさり捕まった。何事もないように始まったレースに憤慨し客席で暴れまわっていたところを拘束された。 ファル子のライブによく来ていた人物で、汗ににじむギンガムチェックのシャツが不快な男だった。 彼女が人気になるにつれて自分の下から離れていくような気がした、なんて寒気のする言い分じゃないか。 その子供じみた動機とは裏腹にその手口は巧妙で、よくもまあ酸を仕込んだ缶コーラを未開封のように見せかけたものとそこだけは感心した。
5 21/06/23(水)19:03:36 No.816234889
私はそれでまともな声と味覚を失った。むしろ彼女の身代わりになれたのは不幸中の幸いだろう。 けど彼女はそうではないようで、ファンからの裏切りと私の重症を気に病んで一時的にメディアへの露出を拒んだ時期もある。 「ごめんね……ごめんねぇっ……！」 ベッドに座る私に縋りついて泣く彼女に言葉を掛けようとしても、爛れた喉では耳障りなかすれ声しか出せず、ただ黙って背中をさすることしかできなかった。
6 21/06/23(水)19:03:53 No.816234991
その後はと言えば、1週間泣きとおした後あっさり彼女は復活し、私も退院してトレーナー業に復帰した。 今の時代便利なもので肉声を介さずとも意思を伝える手段はごまんとある。 日常生活に支障がでることはほとんどなく、彼女もまた不安な顔を皆にみせまいと一層トレーニングに励んだ。 あとの顛末は既にご承知の通りだろう。私たちは頂点に上り詰めたのだ。
7 21/06/23(水)19:04:11 No.816235080
「……トレーナーさん、ファル子、頑張ったよね」 「ｶﾞﾝ…ﾊﾞｯﾀ……ﾖ”……」 帰りのタクシーの中、こちらの肩にもたれる彼女に声をせがまれるのがいつからかライブの後の恒例になっていた。 個人的にはこんな耳障りな音を彼女に聞かせたくないのだが、 「ううん、ファル子今のトレーナーさんの声も好きだよ」 と言わせてしまうのだから情けない。 「ｵﾂﾞｶﾞﾚ…ｻﾏ」 「……うん」 一言づつしか話せなくても、彼女は満足そうに耳を傾ける。 星一つない夜空の下、醜悪な子守唄のコンサートが、たった一人に向けて続けられた。
8 <a href="mailto:s">21/06/23(水)19:04:59</a> [s] No.816235314
私は通りすがりの女神だけど夏場の冷えた飲み物って麻薬みたいなところあるよね
9 21/06/23(水)19:06:44 No.816235877
えっと……硫酸？塩酸？
10 21/06/23(水)19:06:58 No.816235951
邪神じゃねーか！
11 21/06/23(水)19:07:33 No.816236139
劇薬でただれた喉って喉頭がんの確率100倍くらいに跳ねるらしいよ
12 21/06/23(水)19:08:05 No.816236324
>劇薬でただれた喉って喉頭がんの確率100倍くらいに跳ねるらしいよ もうすぐ永遠の別れに…
13 21/06/23(水)19:08:58 No.816236603
>>劇薬でただれた喉って喉頭がんの確率100倍くらいに跳ねるらしいよ >もうすぐ永遠の別れに… やめやめろ！
14 21/06/23(水)19:09:17 No.816236707
>>劇薬でただれた喉って喉頭がんの確率100倍くらいに跳ねるらしいよ >もうすぐ永遠の別れに… やめないか！
15 21/06/23(水)19:11:36 No.816237483
ファル子にも精神的に一生の傷がついてるじゃん！
16 21/06/23(水)19:12:13 No.816237682
>劇薬でただれた喉って喉頭がんの確率100倍くらいに跳ねるらしいよ 今時のガンは早期発見すりゃ完治も延命もどうにかなる 気にかけてれば早逝はないさ……
17 21/06/23(水)19:12:55 No.816237900
こういうのがあるから差し入れは忌避されるんだなぁ…
18 21/06/23(水)19:12:55 No.816237903
三日後100倍やなw