虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/06/23(水)01:24:33 No.816058543

     持ち帰った仕事のいくつかをパソコンでこなしながら、思う。  俺の毎日は本当に充実している。  これまでの人生の中でも、かつてないほどに。  トレーニングの内容を考え、スケジューリングをして、愛バと作戦を立てて、いつか夢見たレースを制覇していく。列挙した中の幾つもが俺が夢に描いていたステキポイントで、しかもそいつのクリアが着実に成されている事実は拭いようもなくて、端的に言って嬉しすぎる。日々の疲れも苦労も何もかも、格調高い幸福のためのエッセンス。うん、やはり、俺は充実していると思う。 「ま、俺のお陰ではないけどさ」  自分の成果のように独白したけれど、それは決して俺の手柄ではない。俺の担当が叶えた夢に相乗りさせて貰っているだけだ。なので今日も休みと称しつつ、担当とのこれからについて試算を行っている。これがまた楽しいのだ。  しかし、根を詰めすぎてもいけない。倒れたり風邪を引いたり怪我したり。日常の様々な場面で降りかかる災厄は、自分の事前努力である程度未然に防ぐことが出来るものだ。

    1 21/06/23(水)01:25:22 No.816058726

     あれはそう、釣りに出掛けたときのことだ。その日俺は徹夜明けで、うっかり足を滑らせ沢へと滑落した。幸い軽傷で済んだものの、一歩間違えば大事故に違いなく。それはもうこっぴどく叱られて、かれこれ三日ぐらいに亘って物凄く心配されたのだ。あんなこと、色んな意味で二度と御免だ。やはり、努めてケアしていかなければ。  とりあえず。仕事は一旦保留にして、気分転換にコンビニでも行ってくるか。重たくなりつつあった腰を上げて、財布片手に玄関へと向かった。 「なんだ、誰か居ないか?」  玄関の扉近く、飾りとして設置された磨りガラスの隙間から、何やら人影が見える。しかも玄関外からトレーナぁ~、となんとなく甘い、聞き覚えのある声が響いてくる。まさかな、スマホを手に取りメッセージ確認。新着、一件。タップして出てくる文字列は、今からいきます、もうついた。 「なんでぇ……?」  いつもみたいに入っておいでよ。じゃなくてもインターホン押しゃあ良いでしょ。いや待て、賢い彼女のことだ。俺の行動を読んだ故のアクションかも知れない。敢えて待機することで俺の心理的動揺を誘い…… 「……まあ、いいや」

    2 21/06/23(水)01:25:46 No.816058841

     考えても埒は明かない。ほう、と息を一つ吐く。居住まいを正して、よし。どんな顔をしているか想像しつつ、がちゃり。ドアを開けばやはりそこには、白いワンピースの良く似合う、俺の担当ウマ娘、セイウンスカイがいた。 「やほ~、おはようございまーす」  翠緑の髪をきらめかせながら、スカイは俺に笑顔で手を振った。突飛なのはいつものことだが、休日の彼女はそれが更に強化される。読めない、というよりは読ませてくれないと言った方が近いだろう。飄々とした風を崩さないスカイに、良くも悪くも俺は頭が上がらない。毎日毎度、一歩先んじたところを行かれ、気付けば彼女を追い掛ける側だ。要約すると、いつもからかわれてばかりってことだ。 「おはようスカイ。な、何用じゃ」 「にゃはは、何用じゃ~って。時代劇みたい」 「いや、なんかこういうの新し過ぎてなんか、な」 「緊張とか?」 「しません。しませんよ」 「嘘つきは、罰を受けちゃいますよ。ね、トレーナーさん?」 「うるせ、嘘じゃないっての! というか、妙に気合い入ったカッコだけど……」 「んふふふ、たまには着てあげようと思いまして。ど、似合う?」

    3 21/06/23(水)01:26:24 No.816058988

    「うん、似合う。新鮮だしかわいくていいね。でも俺の部屋に来るようなカッコでもないっしょ。かわいいけど。もしやこれからお出掛け?」  何気ない会話のつもりだったのに、俺の問いかけにスカイは、にまぁ、なんて擬音がぴったり嵌まるぐらいに相好を崩した。目を細め口許を上げて、何でか滅茶苦茶嬉しそうに、俺のことを上目遣いで見つめている。そして、たたんとリズムよく一歩二歩。俺の部屋、その玄関へと入り込んだ。 「んふふ、今日はおーひま?」 「なんだい藪から棒に」 「いいからいいから、まずはお上がりくださいな」 「はいはい……って俺の住まいだわ、君よか俺の方が入っとるわ」  企み混じりの雰囲気をまとう曖昧な微笑みは変えずに、スカイは俺の背中をぐいぐいと押した。ややもせず俺はリビングへと押し込まれる。抵抗できないというか、そも当の俺は単純に面食らっていた。スカイがここまで機嫌が良いことなんて稀有だし。それにスカイには合鍵を渡しているから、ドアチャイムを鳴らす必要なんてない。

    4 21/06/23(水)01:27:07 No.816059155

     そもそも、そもそもだ。  今から行きます、スマホにメッセージを送る殊勝さなんて、出会った頃から持ち合わせちゃいないはずなんだ。勝手知ったるで入り込んで、我が物顔で寛いでいるのが常なのに。なんで、今日だけは違うんだ。今日だけはと考えてはっとした。もしやこれは、スカイからの挑戦状なのでは。私の気持ちを当ててみて、的な。ぶるり、俺の背中にマイナス二十度の稲妻が走る。やはり、そうだ。俺はほんのり身構えた。 「今日は、いったいどうしたの?」 「えぇ~? 女の子から言わせちゃいますぅ~?」  それに反して、スカイの反応は気の抜けるくらいにいつも通りだった。 「え、普通に遊びにきた、とか?」 「ぶぶー、はずれでーす」 「えー……忘れ物を取りに来た!」 「ぶぶぶー。次間違えたらセイちゃん帰りまーす」 「あー、えー、んー……」  駄目だ、分からない。推測するための情報にノイズが多すぎるのもあるが、女っ気の一つもない俺に少女の乙女な気持ちを分かれという方が無理難題だ。 「……ギブ、お手上げ。答え、教えて……」

    5 21/06/23(水)01:28:09 No.816059402

    「しょうがないですねえ。じゃ、正解を教えてあげよっか。ね、トレーナーさん。もーいっかい聞くね。きょーは、おひま?」 「ん~……まあ急いでやるようなことはないよ。そりゃ捻り出せばあるけどさ」 「ふ~ん? ならさ……水族館、いかない?」  随分突飛な提案だったし、スカイから比較的人混みの多いところへ直接行きたいと言われるのは大変珍しくもあった。大抵は自然の多い場所か静かな場所、例に挙げるとテトラポット前の海とか渓流とかになるのだが、水族館とは。 「釣りじゃなくて?」 「そ。釣りじゃなくて、水族館。どう、行きたくありません?」  壁掛けカレンダーへ視線をやる。うん、間違いない。今は渓流釣りのラストシーズンみたいな時期だ。気になる、どうして水族館なんだろう、しかも俺と。スカイの考えが腑に落ちてくれなくて、腕を組んで唸った。 「えー、もしかして行きたくないんです? もったいないなあ、こんな機会逃したらトレーナーさん、二度とかわ……セイちゃんと水族館なんていけませんよ~?」 「ん~……そういう訳じゃないんだが……あ、もしかして」 「なあに?」

    6 21/06/23(水)01:29:34 No.816059674

     探偵ごっこに興じる俺の所作を、スカイはにやにやと見つめている。はあ、駄目だ。俺じゃワトスンにすらなれない。諦めよう、考えるのは。それに折角誘ってくれたんだ、無下にするのも男が廃るというものだ。 「んで、どうします?」 「……よし、行くか! たまの休日、楽しく休まなきゃ損だもんな。で、誘ってくれたんだ、ご希望の場所はあるのか?」 「んー、あんまり。でもね~ちょっとお出掛け、したいなあって思ってますよ~」 「じゃあちょっと調べてから行くか」 「ん、賛成!」  ノープランでぶらつくのも悪くはないが、どうせなら面白いところに行きたいものだ。事前リサーチは俺たちの華。スカイを伴ってパソコンへと座って…… 「よいしょ」 「は……?! なんで、膝に?!」 「いいじゃんいいじゃん」 「椅子引けねえ……まあ、いいけど……」  いいじゃんはスカイお得意の台詞だ。こうなると梃子でも動かないし、俺程度の舌戦能力じゃ力量差がありすぎて勝てっこない。仕方無いのでスカイの脇の下を通すように腕を伸ばしてマウスを掴む。

    7 21/06/23(水)01:33:34 No.816060509

    「うわ、ん、む……やりますなあトレーナーさん」 「仕方無いだろ、ここに座ったスカイが悪い」  軽口を叩きながら、全力で自分を律する。彼女の匂いが、温もりが、肌の柔らかい感触が、俺の全身に伝わる。が、そこは持ち前の鋼の遺志で防いで、検索画面へと集中した。 「いくじなし」 「ん? なんか言った?」 「んー、なんでも。あ、ここいいんじゃない?」 「ん~、流石に街中過ぎますねえ。もうちょっと開けたとこ、ないかな?」 「えーっと、どこがあるかな……」 「ん、ここ! トレーナーさん、ここいいと思いません?!」  ぱんぱんと腕を叩かれ、スカイの肩越しに画面を覗く。 「おっ、下走ってもそこまででもないし、水族館としての規模も悪くない……いいんじゃないか」 「じゃ、ここにしましょ!」

    8 21/06/23(水)01:33:54 No.816060572

     了解、と二つ返事で答えて、スカイと密着していることも忘れたままもう一度画面を見つめる。青を基調とした海原色のサイトを。地図と名称を確認していたら、スカイがぼそっと何かを呟いた。 「あれ? またなんか言った?」 「んーん。なんでも、ありませんよ~」 「そうか? ま、ちゃんと連れてくから安心してくれ」 「……んふ。はーい、期待しますよ?」  いつも通りの相槌を打ち合って、俺たちはもう少しだけパソコンを眺めた。とりあえず、目的地は決まった。江ノ島に向けての小旅行を始めるために、デスクに放り投げていた車のキーへと手を伸ばした。

    9 21/06/23(水)01:36:16 [s] No.816061049

    長くなってしまった水族館デートの幻覚です バカップルしたあとはドライブデートします 多分この幻覚含めて三分割の予定です

    10 21/06/23(水)01:40:01 No.816061774

    いいものだった…水族館でメジロかなとか邪推してすまなかった…

    11 21/06/23(水)01:42:21 No.816062208

    セイちゃん水族館似合うからね… 飼育員みたいな格好してるし

    12 21/06/23(水)01:50:21 No.816063717

    いいねぇ…

    13 21/06/23(水)01:53:23 No.816064269

    これは強いてメジロしなくてもこのまま逃げ切りそうな予感…

    14 21/06/23(水)01:56:10 No.816064744

    ウンス大攻勢助かる…

    15 21/06/23(水)02:11:08 No.816067366

    鋼の意志がちゃんと発動してる…

    16 21/06/23(水)02:47:34 No.816072396

    キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

    17 21/06/23(水)02:48:33 No.816072527

    ウワーッ!幻覚絵師まだ起きてる!セイと一緒にはよ寝て!