21/06/22(火)00:03:28 あの春... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1624287808013.jpg 21/06/22(火)00:03:28 No.815722760
あの春の天皇賞から数年経った、そんな6月のある日のこと。 数年経っても、トレセン学園にウマ娘たちがトレーニングに励んでいる光景は変わらない。 マンハッタンカフェを受け持った、あの若きトレーナーもすっかり落ち着き、中堅どころのトレーナーとして、複数のウマ娘を担当する立場となっていた。 「くそっ…くそっ…!!!」 練習に打ち込むウマ娘の中に、ひと際真剣な、というより追い詰められたようなウマ娘の姿があった。 「どうかしたんですか、あの子…」 トレーナーに話しかけるのは背の低い黒鹿色の髪をした女性。帽子をかぶっているため耳は見えないが、どうやらウマ娘のようだ。 「あぁ…この前のオークスで二着だったんだ」 「…立派じゃないですか」 「いや…桜花賞でも同じ相手に二着でな…」 「なるほど…」
1 21/06/22(火)00:04:08 No.815722980
「ちょっと、相談に乗ってあげてくれないか、マンハッタンカフェ副トレーナー」 と彼女、副トレーナーになったマンハッタンカフェに話しかけた。 「わかりました…」 金色の瞳に光をともらせ、彼女はそのウマ娘の方に向かう。 「レッドディザイアさん」 「…なんですか、あなた」 「副トレーナーのマンハッタンカフェです。あまり練習に打ち込みすぎては身体を壊します…。一回、何をすればいいか見直しましょう」 その言葉に目を怒らせたレッドディザイア。 そして 「駄目なんです!!!もっと練習しないと!!!そうじゃないと…そうじゃないと…ブエナビスタに勝てないんですよ!!!」 とマンハッタンカフェを怒鳴りつけた。
2 21/06/22(火)00:04:34 No.815723140
そんな彼女に 「立派ですね」 と、どこふく風な涼しい顔をして、マンハッタンカフェは返した。 「なっ!?」 馬鹿にしてるのかこいつと、口から怒りの言葉が出そうになったその時 「貴方と同じ立場のころ、私はクラシック路線に進みましたが、まともに1勝クラスにも行けませんでした。皐月賞にもダービーにも出られませんでした」 「えっ…」 突然の言葉に戸惑うレッドディザイア。 「ですが、冷静してくれた指導者がいて、4か月間自分や環境と向き合った結果、最後の一冠の菊花賞を戴冠することができました」 その言葉は静かで、落ち着いたもの。怒鳴りつけた自分が恥ずかしくなってしまうくらいに、心の広さを物語る声。
3 21/06/22(火)00:04:50 No.815723245
「貴方は私より優秀です…。ちゃんとオープンクラスに進み、そしてティアラ路線で2着を2回も取っている…。それだけでも十分貴方はすごい」 「副、トレーナー…」 彼女の声が少し緩んだものになった。 その間際、マンハッタンカフェは彼女の肩に手をやり、 「苦難は、分かち合いましょう」 と静かに微笑んで語り掛けた。
4 21/06/22(火)00:05:24 No.815723459
10月中旬。日曜日。 京都競バ場、第11レース。芝2000m、秋華賞。 バ場は良、天気は晴。 大歓声に彩られた秋の華の舞台。遅咲きの栄光の秋桜の花。それが遂に咲き誇った。 「カフェトレーナーぁぁああ!!!やりましだぁあぁ!!!」 控室に戻ってくるなり、マンハッタンカフェに抱きついてきたのはレッドディザイア。 この日、ついにレッドディザイアはティアラ路線最後の一冠を手にしたのだ。 「ありがどうごじゃいます!!!ありがとうございまずぅ!!!」 大号泣しながらマンハッタンカフェに縋りつく彼女の頭を、マンハッタンカフェはやさしく撫でる。 そのまま歓喜の涙を流す彼女に 「俺がトレーナーなんだけどなぁ」 と苦笑いをし、トレーナーは立ち尽くす。
5 21/06/22(火)00:07:09 No.815724091
わんわん泣き散らかすレッドディザイアを、トレーナーとマンハッタンカフェ、2人の暖かい視線が包み込んでいる。 奇しくも今回の秋華賞、マンハッタンカフェが菊の女王となった舞台と同じ場所・同じタイミング・同じような状況だった。 そしてレッドディザイアの戦法もマンハッタンカフェ同様、差しだった。 三女神の想いの継承は、10万個の虹色の宝石より価値があるという。 それは三女神の想いの継承なくして、今のウマ娘のレースは考えらないからだ。 だがそんな三女神の想いも、これまで受け継いできたウマ娘とトレーナーの力なしでは継承されることはなかったはずだ。 過去、何千何万の、ウマ娘達とトレーナー達の、血と汗と涙をなくして、今日のレースはあり得ない。 そしてそんな想いを継ごうとする、ウマ娘とトレーナーたちが、明日の伝説を、明日の想いをまた創る。
6 21/06/22(火)00:07:54 No.815724345
マキバオーのあの名文いいよね
7 21/06/22(火)00:08:36 No.815724565
こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する マンハッタンカフェの怪文書はこれにておしまいです ありがとうございました fu101826.txt
8 21/06/22(火)00:13:42 No.815726463
すごいよかった.......
9 21/06/22(火)00:22:40 No.815729774
完璧に走り抜けやがった… 面白かったぞ!
10 21/06/22(火)00:23:49 No.815730211
怪文書ってか…小説だよこれ!
11 21/06/22(火)00:25:02 No.815730684
レースの描写が毎回本当にすごかった…
12 21/06/22(火)00:31:44 No.815733035
素晴らしい・・・
13 21/06/22(火)00:35:14 No.815734185
いい作品だった... 先生の次回作が楽しみです
14 21/06/22(火)00:59:40 No.815740986
カフェ好きだからここまで良質なの見せてくれて本当にありがたい… 本実装も楽しみだね
15 21/06/22(火)01:00:32 No.815741183
やべぇ最終回を最初に読んじゃった... でもここまでに至る話を読めると考えればお得かもしれない
16 21/06/22(火)01:00:55 No.815741278
いい読後感だ…
17 21/06/22(火)01:03:37 No.815741891
いい文章だった…
18 21/06/22(火)01:05:26 No.815742328
イチから読めて良かったと思える文章だった 最初のアザレア杯後の関係性から本当に成長したよなぁ…