虹裏img歴史資料館

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21/06/21(月)00:32:06 「いや... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1624203126314.jpg 21/06/21(月)00:32:06 No.815424507

「いやあ~大漁大漁!」 朝のトレーニングをサボることに決めて正解だった。早朝から釣りに繰り出した私自身の慧眼を褒めざるを得ない。 私とトレーナーさんで食べきれる分だけを持ち帰って、あとはリリース。今日はトレーナーさんに捌いてもらおうか。それとも一緒に捌こうか。 ルンルン気分でトレセン学園──今の時間から帰ればちょうど正午くらい。トレーナーさんはトレーナー室で作業中だろう──に帰る帰路。 「トレーナーさーん、セイちゃんが来ましたよー……あれ?」 読み通り正午にトレーナー室にに帰って来て、異変に気付いた。 「トレーナーさん?いないんですかー?」 いるはずの主がいなかった。何か用事があったのか、それとも単にまだ来ていないのか。 お腹は減っている。だがこの魚たちはトレーナーさんと一緒に食べるために買ってきたものだし。 結局、備え付けの冷蔵庫に魚を入れてトレーナーさんの匂いがかすかに残るソファで寝て待つことにした。 夕方になって目が覚めてもトレーナーさんは戻って来なかった。

1 21/06/21(月)00:32:23 No.815424609

『おかけになった電話をお呼びしましたが……』 ため息を吐いて通話ボタンを切る。トレーナーさんは戻らない。通話には出ない。いつもなら私が掛ければすぐに出てくれる彼が音沙汰がないとなれば流石に不安が募る。サボり?私と違ってそうではないだろう。 なら体調不良か、そう思い来たのはトレーナー寮。 「やっほ~警備のおっちゃん」 「ん?おお、スカイちゃんか。今日はどうしたんだい?」 「トレーナーさん、今日は出てない?」 「朝早くから出て行ったけど、会ってないのかい?」 あてが外れた。 「そうなんですよー電話しても出なくって」 「へえ、あの真面目そうな新人がねえ、セイちゃんのサボりが写っちゃったんじゃあないかい?」 トレーナーさんに限ってそんなことありませんよ、と二人で笑ったあと帰って来た他のトレーナーさんに話を聞いて貰う、とお願いしてトレーナー寮を離れた。 ふつふつと、焦りが湧き始める。湧き出る感情をかき消すように、蓋をするように、走り出す。 どこにもいなかった。

2 21/06/21(月)00:34:05 No.815425120

フラフラと、夜中中ずっと走り回って疲弊しきった身体を引きずって未明にトレーナー室を訪れたのは、もしかしたら私とトレーナーさんが入れ違っているかもしれないだなんて、そんな一縷の希望に掛けたからだった。 「あはは……いないよね、そりゃあ……」 スマホにトレーナーさんからの通知はない。かわりに、ヒシアマさんからの通知が鬼のように来ていた。普段から通知が貯まりすぎると返信が面倒くさくなる私だ。肉体的にも、精神的にも疲弊した今、なおさら返す気にはなれなかった。 「捨てられた……んだろうなあ」 心当たりはいくつもある。仕方ない、と思ったもののそれは一瞬のことで、すぐに押しつぶされるような悲しみが私を襲った。そんな資格はないというのに。 いくつも大粒の涙が流れた。声を上げなかったのは、なけなしの自制心が働いた結果かもしれない。どうせなら、涙も一緒に止めて欲しかったけれど。 喪失感に、しばらく泣いて。ようやく落ち着いたのは日が昇り始めたころのことだった。

3 21/06/21(月)00:34:35 No.815425254

ここにいてもトレーナーさんが戻ることはない。ようやくその事実を受け入れられるようになって来ると、いい加減寮に戻ろうという気持ちが湧いた。泣くのは存外疲れる──静かに眠りたかった。 入って来た時よりも重い足取りでトレーナー室を出ようとしてドアを乱暴に開けた。 「うわっ」 途端、ドアの目の前にいた誰かと私はぶつかって、二人とも床に転がった。 ぶつかった誰かに目をやって、目を見開いた。 「いたた……セイ?なんでこんな時間にトレーナー室にいるんだ?」 「トレー、ナー、さん」 彼が、いた。

4 21/06/21(月)00:34:53 No.815425340

捻挫しちゃってさあ、と杖と足に巻かれた包帯を見せながらトレーナーさんは苦笑い。 「たまたま通りかかった人に治療して貰ってさ、今までその人の家でゆっくりしてたんだよ。寮に戻ってもそんなにゆっくりする時間があるわけじゃないから、直接ここに」 ところでセイはなんでこんな時間に?と話し掛けてくる彼に、拍子抜けすると同時に安堵した。最近夢見が悪かったから、少々悲観的になりすぎていたのかもしれない。 「セイちゃんは姿を見せないトレーナーさんを探して街中を駆けまわってたんですよー……スマホ、見ました?」 「あー……いつもズボンのポケットに入れてるんだけど、こけた時打ちどころが悪かったようで壊れて……」 「はぁ……。もーセイちゃん心配して損しちゃいましたよ。ずーっとトレーナーさん探してたんですから今日は代わりにゆっくりさせてください。というか今日はずっと寝ます」 「ずっとって、夜中も?……それは悪いことしたな、ごめん。うん、代わりに今日はゆっくり休んでくれ」 「……そうだ。こけたってどこでこけたんですか?学園内なら保健室とかでも。それに連絡だってスマホがなくても」

5 21/06/21(月)00:35:26 No.815425496

「ああ、山の中でこけてさ。で、遭難しかけてた。というかほとんどしてたんだけど。足が痛くて動けないし陽が落ちかけて来たしこれはヤバイ!ってなった時に助けて貰ってさ」 時が止まった。 トレーナーさんがわざわざ山に行く理由なんて一つしかない。私を、探して。それだけだ。 顔が熱くなる。息がし辛い。目の前にいるはずのトレーナーさんが遠くに見える。視界が歪んでいる。私はなんて、なんてことを。 私の行動が彼に迷惑を掛けたことは幾度もあったけれど。でもそれでも私が彼に傷をつけたことはなかった。でもしてしまった。それに、あわや遭難だなんて、何かが違っていれば、命が失われていたって。 「セイ?どうした?顔色悪くなってるぞ?」 「ご、ごめ……」 ごめんなさいと言おうとして言葉が出ないことに気付いた。喉が異常に乾いている。そういえば、昨日の朝から何も口にしていなかったと、やっと気づいた。 「セイ?」 ダメだ、ダメだ。もうダメだ。私はもう彼の隣にいる資格はない。彼の隣にいてはいけない。今すぐ、一分一秒でもはやく、彼の前から消えなければ。

6 21/06/21(月)00:36:10 No.815425704

焦って立ち上がろうとして、体力の限界が来たのかすっ転んだ。いや、限界なのは心の方か。どちらにしても自業自得だ。 「セイ!」 「ダメ!」 無様にこけた私に驚いて片足を引きずって駆け寄ろうとするトレーナーさんを静止する。謝罪の言葉は出てこないのに、こんな言葉は私の意志にしたがって出て来る。 「ダメ!……トレーナーさん、私のせいで、なのに」 「……何言ってるんだ。こけたのは俺の責任でセイが悪いことなんてないだろう」 「ある!だってトレーナーさん私を探しに来たんでしょ?じゃあ!」 言いながらもトレーナーさんは近づいて来る。私の身体にだけ重力が重く掛かっているように、私は動けない。 「……言わんとしていることは分からないでもないけど。でもセイのサボりを矯正しようとしてないのは俺だし、必要があるとも思ってないからな」 動けないでいる内にトレーナーさんは傍まで来てしまった。大きな手で頭を撫でられると、彼の体温と優しさが伝わって、私の心が溶かされていく。ダメだ、また彼に甘えてしまう。 「納得行かないって顔だなあ……じゃあ、一つ罰をセイに与えるから、それで今回のことは手打ちってことで。いいな?」

7 21/06/21(月)00:36:28 No.815425775

罰、という言葉の響きにときめいた私はもう末期だろう。 「セイは一人で悩まないこと、トレーナーの俺に相談してください。以上!」 「そ、そんなの罰じゃないよ」 言った私に、しかしトレーナーさんは返答を返さず、倒れたままの私を担いだ。 「いやあ。罰だと思うなあ結構えぐめの」 「どこが」 トレーナーさんは私をソファに寝させると、空いた所に自分の身体を滑り込ませて、私を抱いた。 「セイが言いたくない事。プライベートの事も全部、悩みであるなら話せってことだからな。赤裸々だぞ?普通ならセクハラで一発アウト」 トレーナーさんの両手が、私の顔に添えられる。 「でもこれは罰だからな。それにセイは悪いことをしたんだよな?じゃあ償わないといけないよな?」 トレーナーさんの両手から伝わる熱で、至近から浴びせられる声で、頭がぼうっとしてくる。そうだ。トレーナーさんの言う通りだ。償わないと。償うために、全部全部曝け出さないと。

8 21/06/21(月)00:36:38 No.815425841

「トレーナーさんのことが、好きです」

9 <a href="mailto:s">21/06/21(月)00:37:22</a> [s] No.815426047

>このウンスがサボってるのを迎えに行く途中で行方不明になっちゃうトレーナーみたい気持ちもあります >ちゃんと最後には帰ってくる前提で 書きました セイちゃんの性格上トレーナーさんが帰って来るならこうかなって思いました

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