虹裏img歴史資料館

1 21/06/21(月)00:08:10 No.815417190

「え……？」 　すごく、後悔したんだ。お兄ちゃんの隣には、アケボノさんがいて。二人でにこにこしていて、驚くよりも考えるよりも先に、自分の目を疑った。 　だって、うそだ。あんなに楽しそうに買い物をするお兄ちゃんなんて知らない。カレンとだってあんなに幸せそうな顔してくれない、見たことない。 　隣の芝は美味しいみたいなことわざがあるけれど、あんなの見間違えるもんか。お兄ちゃんの笑った顔、嬉しそうな顔、二人で一緒に選んでるもの、女物のかわいいスカーフとリボン。わたしじゃなくても気に入っちゃうだろう、洋服の数々。 「あ、う」 　苦しい。心がぎゅってなって窒息しそう。棚の陰で胸を押さえた。どうしてこんなにざわざわするんだろう。違うよきっとあれはカレンのためのもの。アケボノさんのものでもなければ、知らない子のものでもない。絶対そうだって分かってるのに、なんでか自信が持てない。おにいちゃん、いかないで。カレンだけのものであって欲しくて、気持ちが勝手に喋りだす。

2 21/06/21(月)00:08:39 No.815417358

「え、カレン？」 　あ、お兄ちゃんがこっちを向いた。 　いやだ。 　こっち、みないで。 　あれ。なんで、いやなんだろう。 　よく、わかんない。 　カレンほっぽいて二人でデートするんだ。浮かぶ、問い詰める言葉。ねえねえ二人で何してるの。出掛ける、質問の台詞。もしかして、もしかして。アケボノさんと、実は…… 　いやだ。こわいよ、こわくて、何も言えない。 「カレン、待ってくれ！」 　映画みたいなセリフを背中に乗せたまま、わたしは真相を確かめる気も沸かず、ただその場から走って逃げた。誰も追い付けない、追い付かせたくなくて。スタミナが切れてしまうまでずっと、ずっと、全部見なくてもいいところまで走り続けた。

3 21/06/21(月)00:09:02 No.815417514

「はあ、はあ、はあ……」 　走って、走って、走り過ぎて。ああ、夕焼けのまぶしさが目に痛い。頬をなぜていく風が痛い。ずきずきする苦痛に堪えかねて、足が止まる。周りを見れば、いつかの河川敷まで走ってきてしまったらしい。ポーチからスマホを取り出す。ウマスタとは別のポップアップ、お兄ちゃんからのメッセージが何件か入っているみたいだ。着信、着信、メッセージ。もうひとつ着信があって、新着はとっても短い文章だった。 「いま、どこだ。かあ……」 　既読だけ付けてスマホの電源を切った。返したって、意味ないよ。あーあ、ずうっと必死に追い掛けて、ようやくつかまえたような気がしていたのに。やっぱり届かないのかな、星はきらきらしてるだけで、つかめないのかな。ぱつ、ぱつぱつ。空は晴れてるのに、不思議だなあ。暗い画面に雨が降り積もる。降って、降って、降り続ける。止まない、止まないよ、どうしよう。諦めようかな、止みそうに、ないや。 　ねえ、お兄ちゃん。 　どうして、なの。 　もしかしてさ、すきって、いってればよかったのかな。

4 21/06/21(月)00:09:37 No.815417719

　なんでだろう。二人三脚で頑張ってきたトレーニングもレースも日常も、何もかもがただ懐かしく思えて、じわじわゆっくり涙腺をゆるませていく。泣いちゃうなんてカレン、かっこわるいなあ。負けないぞって思えないなんて、カワイクないなあ。そう思ってるのにこの涙は一つだって止められない。裏切られたとかあり得ないとか、そういう暗い気持ちより先に、物凄く、物凄く悲しい。カレンはお兄ちゃんのことが大好きで、お兄ちゃんも一緒だってそう思ってたのに。実はそうじゃなかったみたい。予約しておいた電車の席は、いつの間にかキャンセルされていたんだ。あははは、とってもせつないや。 「はあ……」 　カレン、いままで何をしてたのかな。ため息に後悔を乗せても誰も答えちゃくれないから、つま先に当たった小石を蹴飛ばした。かつん、かつんと地面を転がって、電柱に当たって動きを止める。 「けっきょく……」 　結局さ、お兄ちゃんはカレンのことを応援してくれるマネージャーさんでしかなかったんだ。ずっと一緒にいたのに、あなたの隣はカレンだけのものだと思っていたのに。決めつけは良くないけどさ、やさぐれちゃうよ。

5 21/06/21(月)00:10:06 No.815417869

　わたし、なんか悪いことしたのかな。胸よりもっと奥の方で、自分にも良く分からない気持ちが熱く渦巻いてずきずきうめいている。 「くるしい、なあ……」 　明日からどんな顔して会えばいいんだろうなあ。全然整理がつかないよ。帰り道をとぼとぼ歩けばもう寮の部屋の前に立っていて、仕方ないから取っ手に手を掛けてドアを開けた。扉を開けてすぐには部屋に入れなくて、ぐるっと部屋を見回した。 「カレンさん？」 　椅子に座って本を読んでいたアヤベさんが振り向く。当たり前、だと思う。カレン、部屋に入ったらいつもただいまって言ってるんだもん。アヤベさんに気付いて貰いたくてこんなことをしてるって分かってる。だから情けなくて、苦しくて、誰かに慰めて貰いたくてたまらなくて、わたしの言葉は勝手に震えた。 「アヤベ、さん……」 「どうしたの、ひどい顔よ」 「カレン、カレンね……」 「…………カレン、おいで」

6 21/06/21(月)00:10:33 No.815418012

　手を広げてくれたアヤベさんに思いっきり抱き付いて、泣きじゃくって、今一時だと思いたい悲しみと辛さから目を逸らす。ああ、結局、プレゼント何も買えなかったな。お兄ちゃん悲しむかな、怒ってどっか行っちゃうかな。わかんない、マヤちゃんに聞けば分かるのかな。何も、わかんない。震えているスマホのことなんて気にかける余裕もない。カレンにいま出来ることは、とっても少ない。優しいアヤベさんにただ甘えて、明日のための用意をする。それぐらいしか、出来ないし分からない。 「おにいちゃん……」 　何してるのって聞けば良かったのに。そしたら、アケボノさんと一緒に明日のプレゼントを用意してただけだよって言われるだけかも知れなかったのに。もしそうじゃなかったら、そんな意味もないこと考えちゃったせいで逃げちゃったのかな。わかんない、わかんない、てんで何も分からなくて、つらいの。

7 21/06/21(月)00:11:37 No.815418379

　アヤベさんが頭を撫でてくれるたびに、カワイクない嗚咽と涙が溢れ続ける。カレン、きっと一目と見れないような顔してる。ごめんね、ごめん、ごめんなさい。誰に謝っているのかも分からないけど、私の口からは悲しみに濡れた謝罪の言葉がぽろぽろ漏れ出す。 「大丈夫……大丈夫だからね……」 　アヤベさんに慰められながら、明日からのカレンを想像する。悲しみも辛さもどこかへ捨て去って、お兄ちゃんと一緒にスターダムを駆け上がるわたしを。そうだよね、泣いてばっかりもいられないよね。明日は必ず来るんだ。リセットしきれない気持ちのまま明日を迎えて、そこでお兄ちゃんが悲しむのはとても嫌だから、わたしはカレンだけの一等星から手を離そう。諦めたくないけど、あの優しさを手放そう、そう決めて。きみが好きだって書いた手紙を胸にしまって、私はもう一回だけ、大きな声で泣いた。

8 21/06/21(月)00:13:20 No.815418932

どう考えてもカレンチャンへの……

9 <a href="mailto:s">21/06/21(月)00:13:23</a> [s] No.815418950

カレンはこんなに弱くないだろって思いつつも誤解してるところが見たかったごめん 誤解とくよ編は気が向いたら

10 21/06/21(月)00:14:04 No.815419153

幸せ可愛いカレンチャンが見たいんだが？

11 21/06/21(月)00:15:36 No.815419626

カレンチャンは賢いから勘違いな可能性もちゃんとわかってるんだ それでも年頃の乙女心は納得できないんだ

12 21/06/21(月)00:16:11 No.815419794

カレンチャンお兄ちゃんには掛かりすぎな所あるからな… カレンチャン以外はすぐ分かるような誤解もしちゃうかもしれん

13 21/06/21(月)00:17:00 No.815420042

ボーノに絶対入らないサイズの洋服手にとってそうな…

14 21/06/21(月)00:17:42 No.815420251

今すぐ気が向いてくれ！

15 <a href="mailto:s">21/06/21(月)00:35:19</a> [s] No.815425455

俺も解釈違い感でもやもやするから明日あたりに幸せにするやつ出力しとくよ手癖で

16 21/06/21(月)00:40:32 No.815426942

ひとしきり泣いたあとに根性を発揮してもいいんだ