虹裏img歴史資料館

1 21/06/19(土)02:33:29 No.814693706

「～～っ！」 勝ちたい。もっと勝ちたい、テイオーに勝ちたい。できるかな、トレーナーさん…アタシはもっと走れるかな。 「勝てるさ」 心の中でそう呟いたとき、何処からかはっきりと兄貴の声が聞こえてきてアタシを強い風が包んだ。風と共に宙を舞う芝生に思わず目を細めると、ふとその中にトレーナーさんがいてこちらを見つめていた。アタシに笑いかけた後背を向けて空へと消えていく。 「あに…き…？」 さらに強く吹いた風に思わず瞼を閉じて、開けるころにはその姿は消えていて青の中に消えていく緑たちをただ見送っていた。

2 21/06/19(土)02:33:46 No.814693757

「ねぇ、大丈夫？ 良い走りだったね！」 「え？ あ、ども…」 ふと一緒に走った先輩の声で我に返ると慌ててスタンドに向き直る。観客席には商店街の皆が飛び上がって声をかけてくれていた。手を振るとさらに旗まで振ってくれる、たった少し話しただけなのに、みんな優しすぎる。アタシなんかに期待しちゃってもう。 でもこれでいいんだって、そう思える。テイオーみたいに自信を持てないけど、みんなが、トレーナーさんが信じてくれる。それを背負って走るんだ、それがアタシのやり方で一歩一歩、これからやっていくのだ。 トレーナーさんのお陰だよ、そう言って笑いたいのに見渡しても見渡しても何処にもいない。こういう時は叫ぶほどにアタシの名前を呼ぶはずだろうに、まさか遅刻か？ それともどこかで感動して泣いているのか、遅刻だったら…どうしよう怒れない。 でもまぁ、一生脅せるネタができるわけだし、それはそれで…一生というのもなんか可笑しいな。落ち着けアタシー初の重賞勝利でなんか変なテンションになってんぞー…。 「ウィニングライブよろしくねー、また走ろうねネイチャちゃん！」 「あ、はい！ よろしくお願いします！」

3 21/06/19(土)02:34:11 No.814693825

周りに挨拶をして地下バ道に入っていくと、その隅に一人イクノディクタスが蹲っているのが見えた。どこか悪いのかと思って、近づいてみたけど嗚咽が聞こえてきて思わず足を止めてしまう。 「ごめんなさい…ごめんなさい…兄さん…貴方に、勝つって約束したのに…」 あの子がこんなに泣いて、悔しがることを表に出すところなんて見たことがなくて声をかけるべき悩んでいると、あちらからこちらに気づいたようだった。 涙を拭い、メガネをかけて立ち上がって、アタシを見るときにはもういつも通りのイクノディクタスになっていて、違う所といえば少しだけ目の下を赤くしているだけ。なんと強い子なんだろうと、思ってしまう。 「見苦しいところをお見せしました。いい走りでしたね」 「あ、いや…その…ごめん」 「謝らないでください。ネイチャさん、貴方の実力が私を上回ったそれだけです。とても良い練習を重ねられたのですね」 「あ、ありがとう…でもイクノも凄かったし、レース中の気迫とか後ろからビリビリと感じるくらい。あに…イクノのトレーナーさんは？ 来てないの？」

4 21/06/19(土)02:35:15 No.814693989

「はい、どうしても急用で。ですが、彼が見ていなくても私は100%を出し切ったと断言できます。完敗です、ですが次は負けません。次が…あれば、ですが」 「えっ？ それって…？」 「あ、やっと見つけた！ イクノディクタスさん！」 その言葉の意味が分からなくて、尋ねようとしたときスタッフの一人が息を切らしながらイクノの方へと走ってきた。会話を打ち切ってイクノがそちらに顔を向けると、スタッフさんは携帯電話を差し出した。 「学園からお電話が緊急ということで、病院から連絡があったらしく…」 「……っ！」 それを聞いた瞬間、イクノは瞳孔を開くとらしくなく携帯を乱暴なまでに奪い取った。そして震える指でスピーカーのボタンを押すと、「イクノディクタスです」と怯えた子供のようにな声で答えた。

5 21/06/19(土)02:35:50 No.814694086

「イクノ…どしたの、病院って…」 「はい、本人です兄さんに何か…」 「兄さん、兄さんって上の兄貴だよね、なんで病院で…」 「うるさいっ！ 黙って！」 余裕のない、怒りのままの気迫に思わず後ろに下がるとスピーカーからこちらにも声が聞こえてくる。 「イクノディクタスさん？ あぁよかった、緊急連絡先がお兄さまとされていたのですが、しかしそちらにお電話したところイクノディクタスさんが全て応対しているということで…レース場を調べまして…」 「…？ 話が見えません、つまり兄さんに何かがあったわけではないのですか？」

6 21/06/19(土)02:37:04 No.814694261

「いえ、違います。その弟さんです、交通事故に遭われまして近くの病院へと搬送されたと…」 「え…？ はっ…！ ネイチャさん待ってください！」 イクノの声が後ろに聞こえた。でも止まれなかった、地下バ道を走って走って外へと出ていく。制限速度なんて気にしてられなかった。ダメだと思っていても止められなかった。 大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫。きっと無事だ、ちょっとぶつかったぐらいだ。足を痛めたぐらいだろう。 そうだ、肩透かしになるんだ、アタシが来るとベッド座っていてごめんってアタシに申し訳なさそうに謝るんだ。そしてアタシは泣きながら抱きしめたりして、そうしてまた合宿に帰るんだ。 きっとそうだ、そうに違いない。世界はもっと都合よくできているんだ、貴方がそう教えてくれたんだ。 そうだよね、そうだよね？ アタシを一人になんかしないよね。約束したもんね。

7 <a href="mailto:s">21/06/19(土)02:38:07</a> [s] No.814694449

また遅くなりましたし長くなりました次こそは次こそは…全部スリーゴッデスのせいです私は悪くありません

8 21/06/19(土)02:40:57 No.814694857

ハッピーエンドで終わるんだよね？よね？

9 21/06/19(土)02:42:16 No.814695091

地獄の門が開いたな…

10 21/06/19(土)02:42:49 No.814695175

「美しいものが、嫌いな人がいるのかしら？」

11 21/06/19(土)02:43:33 No.814695292

救いはないのですか…

12 21/06/19(土)02:43:56 No.814695356

>「美しいものが、嫌いな人がいるのかしら？」 それが死んでゆくのを見るは悲しいことです…

13 21/06/19(土)02:44:06 No.814695378

例え不慮の事故で死目にも会えず突然の死を迎えたとしても 大切な人に一言残して逝けるくらいには都合よくできている世界だ

14 21/06/19(土)02:44:53 No.814695518

シラオキ様…シラオキ様助けて…

15 21/06/19(土)02:44:54 No.814695527

ふたり共って毒電波を受信した気がしたが気のせい気のせい・・・

16 21/06/19(土)02:45:05 No.814695552

心臓がヤバい兄！ 事故った弟！ ベストマッチ！ Are You Ready？

17 21/06/19(土)02:45:19 No.814695592

主人公はネイチャに見せかけて兄貴だよなこれ

18 21/06/19(土)02:45:43 No.814695650

胃が痛くなる展開本番開始って感じだわ…

19 21/06/19(土)02:45:45 No.814695656

>Are You Ready？ ダメです……

20 21/06/19(土)02:48:38 No.814696112

>主人公はネイチャに見せかけて兄貴だよなこれ 出てくる人ネイチャ以外主人公気質な感じだしこっからネイチャが主人公になるまでの話がなんだろうか

21 21/06/19(土)02:49:22 No.814696217

いやだいやだ夏合宿の時みたいなウマ娘同士トレーナー同士の群像劇みたいな日常が見たかったんだよ ずっとそんな平和な光景を見ていたかったんだよ でもこの地獄キメるのやめられないの…

22 21/06/19(土)02:50:35 No.814696423

目眩がしてきた…これ丸く収まるかなぁ！？収まんのかなぁ！？

23 21/06/19(土)02:51:35 No.814696575

ギリギリ一命を取り留めるもほぼ植物人間状態で快復の可能性はとても低く半年くらいで衰弱死する程度のダメージで加減しておいて 弟の回復の奇跡に賭けて高確率で兄弟揃って死ぬか 弟を見捨てて確実に兄だけは助かる心臓移植かをネイチャに選ばせるとか

24 21/06/19(土)02:52:18 No.814696680

前回死亡フラグ乱立して結局姉だけだったからって今回殺意高くない？

25 21/06/19(土)02:53:27 No.814696863

上兄貴にドナーの名前伏せたまま手術して後で絶望してほしいな