虹裏img歴史資料館

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21/06/06(日)19:22:41 モルモ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1622974961154.png 21/06/06(日)19:22:41 No.810478925

モルモット君と気まずい、こんなことは今までなかったことだ。 彼女は物心ついた時から既に私の従僕として付き従ってきて、私生活を疎かにしがちな私の手足のように働いてくれていた。 そんな彼女と会うのがはばかられるというのは初めてのことだ。だからどうすればいいのかわからないというのが正直なところである。 きっかけはテイオーのトレーナーと会ってから。人心に敏いモルモット君のことだ、私の中の迷いを見抜いているのだろう。 かのトレーナーは25%のリスクを乗り越えれば私は成長できると言った。モルモット君にとってはそれは過大なリスクで、私にとってはそうではない。 プランAのためには必要なリスクだ、しかしモルモット君の方針に真っ向から反対する、そんなこと今までしたことがなかった。 いつもモルモット君は私のために最善を尽くしてくれていて、それが間違っていたことはなかった。

1 21/06/06(日)19:22:58 No.810479021

こうしてモルモット君を連れずに人目を忍んで校舎裏に来るなんてことも初めてのことだ。 普段は頼りになるモルモット君の情報網が今は厄介だ。見知らぬ生徒であろうと私の目撃情報を聞き出して居場所を特定してくるだろう。 しかしどうしてこんなところに小ぶりながらテントが建っているのだろうか、三角錐の頂点に空いた穴からは煙が立ち昇っている。 材質はウシ科動物のなめし革、軸には木の杭を使っている。入り口らしき幕の部分には偶蹄目の動物、恐らく革の持ち主のものであろう蹄がぶらさがっている。まるで民族博物館の一角に迷い込んだようだ。 知的好奇心を刺激され、テントを眺めていると、足音が聞こえる。見れば黒い服に金のラインが入った黒鹿毛のウマ娘が近づいてくるのがわかった。 すぐに反対側に逃げようとするが、そちらからも足音が聞こえてくる。進退窮まり、テント内の住民が匿ってくれることに一縷の望みを賭けて中に入ることにした。

2 21/06/06(日)19:23:28 No.810479219

テントの主、黒鹿毛のウマ娘は奥に正座してパイプ煙草を吸っていた。房が大量についた衣服には色鮮やかな幾何学模様の刺繍が入っている。自然素材の布に、恐らくテントと同じ革のブーツ、外観も博物館のものなら、住民も同様だった。展示物がそのまま抜け抱いてきたような空間だ。強烈な薬草の匂いが鼻を突く。 テントの床も壁と同じ動物素材の皮革が使われ、真ん中の焚き火周辺は地面が露出しており、ケトルが火にかけられている。 本当にここは現代なのだろうか、2、3世紀ほど過去にタイムスリップしてしまったのだろうかと突拍子もない考えが頭をよぎる。 突然入ってきた私にテントの主人はゆっくりとした動作で自分の右手側に手をかざす、そこに座れ、ということだろうか。 「すまない、少しの間…」 事情を説明しようとした途端、手の平で押し止める仕草。話すな、ということだろう。一先ず口を閉じる。

3 21/06/06(日)19:24:21 No.810479602

「君、あまりものを知らないと見える。ティピーの主の許しもなく上がり込み、言葉を待たずに口を開く。これはマナー違反というものだよ。  事情があるというのなら、君の言葉を聞こう。座って。」 穏やかで優しいが、しっかりとした声。思考が混乱していたのが自覚出来るようになり、それが落ち着いていくのがわかる。 テントの主の右側、入り口から見て左側に、真似して正座する。 「失礼した。人目に付きたくなくて、つい逃げ込んでしまったんだ。」 「それはどうしてかな?君は図らずも私の大いなる神秘との対話を邪魔してしまった。  私には理由を聞く権利があると思うんだが、君、どうかな?」 細められた目の奥には鋭い眼光。私は何か大事な儀式を邪魔してしまったようだ。それに見合う理由かはわからないが、黙秘をして彼女の怒りや不興を買うのは得策ではなさそうだ。

4 21/06/06(日)19:24:40 No.810479737

「それは……、私の、モルモ…いや、トレーナーとの仲がうまく行っていないんだ。  彼女はいつも私のために最善を尽くしてくれている、けれど今回ばかりは彼女の方針と私の望みが食い違っている。  こんなことは初めてで、どうすればいいかわからない。だから顔を合わせづらいんだ。そして彼女は学園に広い情報網を持っていて、誰かに見られたら私の居場所をすぐに見つけ出してしまう可能性が高い。」 「そういうわけか、ならば少しの間ゆっくりしていくといい、、アグネスタキオン。君が私の友となってくれるのならばもっと気持ちよく歓待出来るのだけれど。」 「どうして私の名前を?」 「その質問をされるのは少々心外だ。私は専属トレーナーを持たない子達のトレーニングを担当しているここの教師なんだよ。  君はすぐに専属が着いたし、そもそも授業の出席率が低いから覚えていないのも無理もないが。さぁ、お茶を飲むと良い。」 使い込まれた金属製のカップに、濃い茶色の液体が注がれる、知らない香りのそれはかなり熱くなっていて、何度も息を吹きかけながら一口飲む。 すると、ぽかぽかと体の内側から暖まる感覚を覚える。

5 21/06/06(日)19:25:11 No.810479939

おぼろげな記憶を掘り返す、黒鹿毛に、この薬草の匂い、そしてこの服装……強烈な印象は覚えがある。名前が……ええと… 「ああ、ええっと……インディアナカーヴ先生…?」 「よく思い出してくれたね、タキオン。さて、君のトレーナーというとアグネスセレーネーだね。どういった意見の相違があるのか聞かせてもらえるかな。  君は私の授業をついぞ受けてくれなかったけれど、君たち皆の教師なんだ。そして、私は私のティピーに入ってきた者とは皆友になりたいと思っている。」

6 21/06/06(日)19:25:32 No.810480106

寄り添うような暖かい声に、心を解きほぐすような柔和な表情に、ゆっくりとお茶を飲みながら気づけは私は全てを話していた。 脚に不安があること、テイオーのトレーナーに頼めば改善出来るかもしれないこと、そしてそれはモルモット君、いや、姉さんの意にそぐわないこと。 それを先生はパイプを吹かしながらじっと聞いていた。 「ふむ、彼女も妹離れの時か…。」 煙とともに小さく呟いた声はよく聞こえなかった。次の言葉を待つ。 「そのことに関してだが、私から言えることは何もないよ、タキオン。」 「えぇー!?」 「君はもう答えを持っている。君が欲しいのは背中を押して、責任を取ってくれる言葉だ。しかし、それは君が取るしかない責任だ。  それを他者に背負わせようとするのは、君、卑怯というものだよ。セレーネーに会ったら、君の考えを言ってご覧、きっとセレーネーは受け入れてくれる。その責任は君が取らねばならないがね。」

7 21/06/06(日)19:25:55 No.810480286

責任、故障のリスク、それを選ぶのは他でもない私だ。今までの研究でもそれぐらいのリスクはあった、ただモルモット君が肩代わりしてくれていただけだ。 おかげで彼女は様々な副作用をその身に受けている。私がテストの被検体となる時が来た、ということかもしれない。 「感謝する、先生。姉さんと話し合ってみるよ。」 決意とともに答えると、先生は鷹揚に笑って、垂れた目尻を更に押し下げた、人の良い笑いだ。 きっとこの笑顔で、沢山の生徒と友になってきたのだろう。 「そうするといい、もし駄目だったらまたおいで。しかし、次来る時はティピーの前で咳払いをするように、いきなり開けるのは、君、無作法なんだよ。」 先生に感謝の言葉を言ってから空になたカップを返し、ティピーというらしいテントを出る。 あの薬草の香りとお茶にに鎮静作用があったのか、あるいは先生の言葉か、いつか検証の必要があるな。どちらにせよ私は晴れ晴れとした気分でティピーとやらを出て、今度はこちらからモルモット君を探す番だ。

8 21/06/06(日)19:26:48 No.810480680

……⏰…… ティピーの前で咳払いの声、今度は手順を知った客だが、怒っているようだ。 「構わないよ、おいで。」 私が答えるか答えないかのうちに、入り口のバッファローの革を持ち上げて入ってくる小柄な黒い人影。 その体躯に見合わない威圧感を放ちながら、私の左手側に座る。さて彼女の怒りをどう解きほぐすか考えながら、パイプを吹かす。 「どうしたのかな、リョテイ。」 「トレちゃんよう、あんな礼儀知らずをなんで入れた?いや、入れただけならまだいい、何やら相談に乗ってやったみてえじゃねぇか、どういうこった?」 「礼儀知らずは昔の君も同じだったじゃないか、今君が怒りながらも手順を守ってくれていることに私は感動さえ覚えているよ。  誰もが最初は無礼で、傲慢で、わがままだ。それを省み、改めることが出来るかどうかが…「オレが聞きたいのは。」 「何を話してたってことだよ、トレちゃん。」 私のパイプを奪い取り、自分も飲むキンイロリョテイ、少々強引とはいえパイプを回し飲みした以上私達の会話は大いなる神秘と繋がっている、嘘偽りや誤魔化しは許されない。

9 21/06/06(日)19:27:26 No.810480940

「私は懐に飛び込んできた幼子と友になっただけだよ、リョテイ。私は誰とでも友になりたいと思っている。  罪を犯した者、清廉に生きる者、私を憎む者、私を愛する者、親しい者、会ったこともない者、その誰もと私は友となり、助けてあげたいと思っている。  だが今回彼女、アグネスタキオンには私の手助けは必要無かった、答えを既に持っている者に私が教えることは何もない、ただ思い出させるだけで良かった。  大いなる神秘にかけて、君が心配しているようなことは何もなかったよ。我が伴侶よ。」 我が愛する夫からパイプを受け取り、煙を吸い込む。彼女はとても不器用でひねくれ者で、それでいて嫉妬深い。 ティピーに生徒を招く度にこうして詰問を受ける羽目になる。 「そっか、なら、いいんだけどよ……。」 そして決まってバツが悪そうに言葉を濁らせるのだ。

10 21/06/06(日)19:28:00 No.810481187

「さて、我が最愛の夫よ。無実の妻に無用な疑いをかけた事に申し開きを聞きたいね。」 「それは……悪かったよ、トレちゃん…。」 「足りないよ、君、足りないな。私は愛を試されたんだ、君の愛を聞きたいね。パイプを回し飲みしたからには真実の言葉を告げてもらおうか。」 真実のみ、こうして強要してあげなければ私の夫は愛の言葉を囁いてもくれないのだ。もちろん、彼女がそれを言わざるを得ない状況に自分を追い込んでいる部分もあるのだけれど。 「あ、愛してる…オレにはお前しか居ないんだよ、でもオレ……この通りガサツだし、気性悪いし…お前の仕事もあんま手伝えてないし……もし、インディアナに愛想尽かされたらって思ったら…怖くて……。」 弱々しくしだれかかってくる、誰にも弱みを見せない彼女が、気を許す相手――私ぐらいのものだが――と二人きりになった時にだけ見せてくれる姿。 羽根のように軽く小さな夫を抱えあげると、入り口の覆いを紐で縛り付けて開けられないようにしておく、この姿は私だけのものだ、今度ばかりは無作法者に邪魔されるわけにはいかない。

11 <a href="mailto:sage">21/06/06(日)19:30:12</a> [sage] No.810482097

前回までのログです fu63932.txt ついに主人公が一切出てこない話を書いてしまいました 低気圧にやられて寝込んでいるので明日は連載出来ないかも知れません キンイロリョテイとのオリジナルアメリカインディアン百合夫婦ウマ娘、どうです?

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