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有馬記... のスレッド詳細

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21/05/20(木)20:11:29 No.804716394

有馬記念に出たい。彼女がそう言った時点で、止めるべきだったのだろうか。 勝ちたい。彼女が初めてそう思ったのを、へし折るべきだったのだろうか。 最後方にぽつんとひとり。それでも必死に、他のウマ娘が全てゴールしたあとも、ずっと。ハルウララががんばる姿から、目を覆うことすらできなかった。 彼女の脚は芝に適していないことなど、分かっていた。彼女の身体は2500mを走れるようにできていないことなど、分かっていた。 一人のトレーナーとして、当たり前のように分かっていた。それでも。 彼女には夢の舞台に登る権利がある。彼女には勝利を求める資格がある。 …彼女のトレーナーとして、当たり前のように彼女を信じていた。それでも。 現実は、冷たく。痛々しい。俺はどんな顔をして、ハルウララを迎えればよいのだろう。 「はあ~っ!トレーナー、ただいまっ!」 「おかえり、ウララ」 それでも、彼女は笑っていて。こちらも釣られて笑顔になる。 「あのねっ、すごかったんだよ!走ってる間ずっとね、声が途切れなかったの!」 ウララの走りはいつもみんなを元気にする。今日も、それは変わらなかった。 「全部聞こえてたの!ウララちゃんがんばってーって!」

1 21/05/20(木)20:12:09 No.804716631

「うん」 「それでね、前の子を追い抜こう追い抜こうって、すごくがんばったの!」 前を走るウマ娘は果てしなく遠く。ライバルの背中すら、見えなかったけれど。 「走ったの!けどねぇ、すっごく速くてね、追いつけなかったんだあっ」 果たして俺が同じ立場に立ったとして、彼女の見た景色が幸せなものだったと言えるだろうか。 「あともうちょっと、わたしの脚が長かったらね、きっと追い抜いてたんだよ!」 夢と現実。その差を知っていたはずの俺は、トレーナーとして止めるべきだったのか。一人のファンとして、俺は彼女の勝利を信じていた。 「それでね、それでねっ……」 ウララの目が潤む。桜色の瞳が、無色の泡をぽたり、ぽたり。 「ぐすっ……」 この気持ちを知れたことは、ウララにとって得難い経験だっただろう。でもそれは。 「あ、あれぇ?へんだなぁ」 この先も、ウララは走り続けるのだから。そのために、彼女はまだまだ成長しなければならないし、きっと成長できる。けれど。

2 21/05/20(木)20:12:45 No.804716885

「すっごく楽しくて、もっとずーっと走りたいって、ぐすっ、思ってたのに」 大粒の涙が、落ちる。 無垢な桜の花に、泥の味を教えるその行為は。ヒトとして、許されるものだったのだろうか。 「頑張ったな、ウララ!」 ウララを労う。この場に二人、何一つ間違っていない存在は、彼女だけ。だから彼女は尊ばれるべきなのだ。 「……っ!うええぇぇ~ん!」 涙の痕が決壊する。きっと、彼女は今知ったのだ。本気で走るということの意味を。悔しいという感情を。 間違いなく、成長した証だ。 彼女が落ち着くよう、背中を撫でてやる。泣きじゃくる彼女を、優しく抱き止める。 彼女は全てをかけて、いのちのかぎり走った。 そして、心に傷を負った。それでも、走ることを投げ出したりはしないだろう。だけど。 俺はトレーナーとして、彼女を見届ける権利があるのだろうか。 URAファイナルズは間近に迫っている。ハルウララは今度こそ、その脚に向いたダートで、短距離で。晴れ舞台のセンターだって夢じゃない。でも。

3 21/05/20(木)20:13:04 No.804717002

そこに至る罪の糸。 "自分はハルウララを有馬記念で負けさせた"。 その事実は、赦されないような気がした。 …ウララの涙は落ち着いたようだ。彼女は確かに強くなった。それを実感した。 「大丈夫か?」 きっと、大丈夫だろう。 「…うんっ、ありがとう。トレーナー」 大丈夫じゃないのは。 「ライブ、行ってこい。ウララ」 送り出す。ウイニングライブのバックダンサー。有馬記念ともなれば、それも大役だ。 「…うん!見ててね、トレーナー!」 客席へと、自分も向かう。心の靄は、黒く、暗く。

4 21/05/20(木)20:13:23 No.804717101

「あっ、ウララちゃんのトレーナーさん!」 ステージの客席へ向かうと、ウララをいつも応援してくれた商店街の人たちに捕まった。 「お疲れ様でした。ウララちゃんを有馬記念に出走させてくれて、ありがとうございます」 そんなことを言われた。そうだ。ウララが有馬記念に出走したのは、やはり俺のせいなのだ。 何故、自分は感謝を述べられているのだろう。 何故、自分は責められていないのだろう。 何故、自分は赦されようとしているのだろう。 「おっ、出てきた!ウララちゃーん!」 わっと周りから歓声が。ライブが始まり、ウマ娘たちがステージに躍り出た。 もちろん今日の主役はハルウララではなかったし、ファンの数だって決して他と比べて多いとはいえない。 それでも、いつも皆を元気にする。それがハルウララというウマ娘だ。…そのトレーナーとして、自分は相応しいのか。 わからなく、なっていた。

5 21/05/20(木)20:14:09 No.804717358

「…それでね、スペちゃんがね…」 時間はあっという間で。ハルウララと二人、帰路につく。ウララはすっかり元気になっていた。 けれど、悔しさを忘れたわけじゃないだろう。そしてその道は、皆とは違う。 ハルウララが有馬記念を走れるのは、きっとこれが最初で最後だった。その一回を、俺は敗北で迎えた。なら、なら。もう俺は─ 「…トレーナー。少し、お願いがあるの」 その時。ハルウララがそう言って、歩みを止めた。 「約束して。どこにも行かないって」 「どうしたんだ、急に」 「約束して。ぜったい、いっしょだって」 はぐらかすトレーナーに向けて、わたしは約束だけを言い続ける。 「うーん、一人になりたい時もあるしなあ」 わかる。わからないけど、わかる。わかるようになった。トレーナーのおかげで。 なんとなくヘンだった。このままじゃ、トレーナーがどこかへ行ってしまう気がした。それはぜったいな気がして。でも、そんなの嫌だった。

6 21/05/20(木)20:14:45 No.804717565

「約束できない…?」 「そうだなあ、わからないなあ」 ウソだ。わかる。わたしでもわかるんだから、トレーナーはきっとわかってる。 「…トレーナー、ちゃんと、正直に話して。隠してること、あるよね」 わたしのトレーナー。そう、"わたしの"トレーナーだ。 「…なあ。ウララは悪いことをしたいと思うか?誰も見てなかったとしても、だ」 気づけば俺たちは川辺に座り、二人で夜空を見上げ。話を始めていた。 「…それは、いやだよ。わたし、悪い子になりたくないもん」 「…じゃあ、悪いことをして、バレなくて。謝ることすらできなかったら、どうする?」 「…あやまったら、だめなの?」 「謝ったら、相手を嫌な気持ちにさせちゃうんだよ。だから、それは悪いことで、謝れない」 「…うーん、むずかしい…」 「ごめんごめん。とにかく謝ったら、悪い子になっちゃう時。謝らなくても、悪い子になっちゃう時。どうしたらいい?」

7 21/05/20(木)20:15:18 No.804717774

「…どうしても、悪い子なの?」 「そう、そういうことだ」 これが、今の俺を縛る罪の糸。誰も知らない罪を密やかに積み上げている。 わかっていて、わからなくて。ハルウララを有馬記念に出走させた。 負けさせた。 「…あ、わかった!ならひとつ、いい方法があるよ。 …この答えがあってたら、隠してること。教えてね?」 「ああ、いいよ」 板挟みになって。俺の出した答えは一つだった。"逃げてしまえばいい"。もっと大きな罪を重ねれば、小さな罪は潰れて見えなくなってしまうのだから。 ウララもその答えが分かったのだろうか。分かったとしたら、俺は正式にウララのトレーナーを辞めることにしよう。全てを伝えて。 「…えーっとねー…」 少し、考えている。嬉しい。悩むだけ、俺はウララのそばにいられる。 トレーナーが言っている話は、もしかするとトレーナーが今悩んでいることを、ちょっとだけ言ってくれたのかもしれない。力になりたい。わたしはそう思った。だって、今までトレーナーは、わたしの力になってくれたのだから。 そう、だから。答えはひとつだ。 「謝られる人が、嫌な気持ちをしなければいい!」

8 21/05/20(木)20:15:42 No.804717901

「…どうかな、トレーナー?」 予想外の答えだった。 「でもね、わたし思うんだ」 声が出てこない。彼女の言葉を聞き続ける。 「好きな人の言うことなら、なんでもしあわせだって!だから、わたしもトレーナーの言うことなら。なんでも聞いちゃうよ? …ねえ、聞かせて?トレーナーのおなやみ」 ふぅ、と息を吐く。本当に、彼女は。俺が思っていたより、ずっと成長していた。 「ありがとう、ウララ」 なら、俺が言うべきなのは。 「…実は有馬のことで一生懸命だったから、言わないようにしてたんだが。来年明けにはURAファイナルズがある。覚えてるか?」 "こっちだ"。 「ゆーあーるえーふぁいなるず?」 ウララの頭上にハテナが浮かぶ。 「そう!ある意味ではGⅠより大変かもしれないな。ウララの得意なダートの短距離。そこで一番のウマ娘を決める!…それに向けて、これからの練習。それを一緒に考えたいなと思ってたんだ」 「…これから。なら、トレーナーはどこにもいかないってこと!?」

9 21/05/20(木)20:16:49 No.804718313

「ああ、そうなる─うわっ!」 ウララが横から思いっきり抱きついてきて、痛いほど締め付けられる。気づけば、彼女はまた泣いていた。 「…よかった、よかったぁ~!あのね、トレーナーがなんだかどこかに行っちゃう気がして、なんでかわからないけど、さっきからずっとで…」 「心配ない、どこにもいかないよ」 …また泣かせてしまったな。いつも笑顔な彼女を、2度も。でも、逃げられない。ひしりと捕まってしまったし。 ハルウララは俺の担当ウマ娘で、俺はハルウララのトレーナーだ。今まで通り、これからも。 そう、心の中で描いた言の葉を咀嚼する。 「ごめんな、何度もウララを泣かせて」 ぽんぽんと、背中をまた撫でてやる。ウララの小さく力強い身体は、より俺の身体にしがみつく。 「…むー。…そうだ!泣いた分、もういっこお願いを聞いてよ、トレーナー! …眼を、つむってほしいなー…?」 逆らえるわけがない。意図もわからず、眼を瞑る。 沈黙。どうしたんだろう、でも眼を開けるわけにはいかないし…。一言声をかけようか、迷う。そして、口を開く。その時だった。

10 21/05/20(木)20:17:07 No.804718422

柔らかい感覚が、開かれた口を塞ぐ。声は出せない。驚きで、すこしも動けない。 感覚は離れて。ウララは何事もなかったかのように、言葉を紡ぐ。 「…えへへ、トレーナー!これからもよろしくね!」 月明かりに照らされたその顔は、桜桃のように真っ赤だった。

11 21/05/20(木)20:21:09 No.804719929

中山の芝ぜんぶむしってくる

12 21/05/20(木)20:29:41 No.804723312

抱けーっ!!!

13 21/05/20(木)20:38:19 No.804726429

あああああああああああああああああ

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