21/05/18(火)00:08:19 「今年... のスレッド詳細
削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。
21/05/18(火)00:08:19 No.803864914
「今年もまた暑いねえ」 「……そうだなあ」 「今日はどうするの?」 「うーん……ちょっと混むかもだけど日中はプールでトレーニングして、日差しが落ち着いてきたら練習場でスパートの掛け方を……」 「そーじゃなくて」 「……まずはアイスでも食うか」 「はーい、さんせ~」 ベッドに寝転んだまま窓の方、ベランダの外を見やる。白いレースのカーテンからは夏の暑さが透けて見える。晴天、薄手の雲、遠くに新緑、飛行機の音。暑い、けれどまだ耐えられるし、何よりまだ朝だからエアコンをつけるのは止めておいた。 スカイはベッドから抜け出し、勝手知ったる様子でリビングへと歩いていった。俺の視界から完全に消えると同時に遠巻きからがさごそと音がして、一分もせずに止む。それから素足が鳴らすひたひたなんて音と共に、また寝室へと戻ってくる。音を追うように目線をやろうとして、ひやり。俺の頬に冷たい霜の感触が伝わった。
1 21/05/18(火)00:09:11 No.803865180
「はいよっと。バニラ&コーヒー味。トレーナー、好き……だったよね?」 スカイからスプーンとアイスを受け取り、蓋を開ける。無機質な冷凍庫の匂いを断ち切るようにふわり、バニラエッセンスとコーヒーの香りが広がった。ほんの少し、頬がゆるむ。 「まあ嫌いな味なんて買わんけど、そうだな。好き、だよ。スカイは?」 「にゃはは、もーいちご味しか残ってなかったよ。まあ、好き、だから別にいいけど」 蓋のゴミはとりあえず、ベッドサイドのテーブルに置いて、冷たい香りを出し続けている白と茶のそれを、スプーンで掬い上げ口に放り込む。 「甘い」 「だねえ」
2 21/05/18(火)00:09:35 No.803865313
さして広くもないベッドの上で、俺たちは背中を合わせてカップアイスを頬張る。見ているものなんて単純で、俺は窓を、スカイはドアを。Tシャツ越しに感じるのは、とくんとくん鳴るスカイの鼓動、そして熱。それ以外は感ぜられない。いや、感じるのが難しいのかも知れない。アイスを咀嚼して、それで冷えてくれるのはそれこそ口ぐらいだ。背中は熱い、頭も冷えない。くっ付けあった場所は乾くことなく湿っていく。離れた方が快適なのは明快だけど、この時間は何物にも代えがたいから、少なくとも俺は離れられなかった。 隣で肩を並べ合うのは、俺たちの距離感ではない。背中を預けて、後頭部で互いの熱を感じあって、ぼんやりと部屋の隅や窓の外を見つめながら、どうでもいいようなことをだらだらと話す。ひどくもどかしいし、しち面倒臭くも聞こえるだろうが、これが俺たちの間柄で、俺たちの付き合い方なのだ。 「エアコン、まだつけないの?」 「まだ朝だからなあ」 「そっかあ、これからすぐ出なきゃだもんねえ」 「そうそう。冷えてきたら出ないとだから」 「出たくなくなる、ってわけだもんね」 「そういうこと。そいつは避けなきゃな」
3 21/05/18(火)00:09:56 No.803865443
「だね~……ふう、美味しかった」 「ん。俺も……」 空になったカップをテーブルに置いたとき、よれたTシャツが何らかの力でぱつんと張り詰めた。なんだろうと思い、力が加わっているだろう脇腹の辺りに視線をやれば、彼女の後ろ手がそこにあった。 「どうした?」 「こっちむいて」 願いに応えるために半身で振り向いてすぐ。中高生が夢見るような、唇を合わせるだけの静かなキスが、俺たちの世界のすべてになる。目を閉じて、息を止めて、互いの気持ちを伝え合う。陰の香りも水っぽさも何もない一、二秒のあと、俺たちはゆっくりと唇を離した。 「えへへ」 スカイは悪戯っぽくはにかんで、リップクリームを広げるみたいに唇を内側に丸めた。舌先がちろりと顔を覗かせて、そこで味を確かめていたのかと知った。自分の頬が暑さとは別の火照りを持ち始めて、目線をうろうろさせるのも恥ずかしかったから、照れ隠しがてらに襟足を押さえた。
4 21/05/18(火)00:10:31 No.803865651
「なんか恥ずかしいな……」 「そうお? いやあ甘くて……にがいなあ」 「ん、もしかして、唇ベタベタだったか……?」 「だったらどうする~?」 「……食べ方、汚いとか言わないでくれると、うれしい」 「んふふ、言わないよ~」 鼻と鼻を突き合わせているような距離で俺たちは子供みたいに笑い合う。しばらく笑って、笑い合いが落ち着いて。小鳥のさえずりだけが窓越しに聞こえる、ひどく静かなベッドの上で、スカイはためらいがちに呟いた。 「……好き」 「……少し、寂しくなったか?」 「そんなことないけど……何か言いたくなって、さ」 そう口にしながら、スカイはベッドの上をのそのそと動いて俺の隣に座った。日向の匂いがする。懐かしい心地がする。ああ、どうしてだろう。なぜだか少し、寂しくなる。 「トレーナーはなんかある? 言いたいこととか」 「一生、一緒、とか?」 「あはは、バカだなあトレーナーは」 こつん、俺の肩に心地の良い温もりがぶつかる。ぴたり、俺の手にスカイの繊細な指先が寄り添う。布団を掴んでいた手をひっくり返し、指先を確かめあう。そして、ゆっくり彼女の小さな手を抱き締めるように握った。
5 21/05/18(火)00:10:54 No.803865767
「ね、エアコン、ちょっとだけつけようよ」 「そうだな……もう、ちょっとだけ……」 リモコンを押すと小気味良い音と共に、エアコンから冷ややかな空気が流れてくる。俺たちは特に何も話さず、窓の外をぼんやりと眺める。遠くに見えていた飛行機雲が、少しずつ少しずつ辺りの空に散っていく。 「なあスカイ」 「なあにトレーナー」 「好き……だ」 「にゃは、嬉しいなあ……」 エアコンを付けたのに、なんだかひどく暑い日だ。ともかく、あと五分だけこうしていよう。そう思いながら、俺たちは握った手をもう一度ぎゅっと握り締めた。
6 <a href="mailto:s">21/05/18(火)00:11:55</a> [s] No.803866088
昨日今日と夏色の幻覚を見せられたので投下
7 21/05/18(火)00:12:31 No.803866258
甘いなスカイちゃん 甘々や
8 21/05/18(火)00:12:37 No.803866288
素晴らしい幻覚だもっと見せろ
9 21/05/18(火)00:16:09 No.803867402
夏の日差しが眩しすぎる…
10 21/05/18(火)00:18:37 No.803868206
これは夏色青雲の空
11 21/05/18(火)00:25:51 No.803870506
傍にいるだけで心地いいみたいな関係好き
12 21/05/18(火)00:26:16 No.803870634
>「……好き」 >「……少し、寂しくなったか?」 俺も好きとかじゃなくてこういう返しするのホントに ア”ッ”
13 21/05/18(火)00:28:18 No.803871227
夏の暑さと空ってどうして寂しくなるんだろうね
14 21/05/18(火)00:30:12 No.803871813
最近ウンスの幻覚が増えてきて嬉しい 先陣を切った甲斐があった
15 21/05/18(火)00:31:22 No.803872160
そろそろ夏だからな カラッとした怪文書が増えてきて俺の性癖も喜んでるよ
16 21/05/18(火)00:33:25 No.803872774
甘ぁい