虹裏img歴史資料館

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21/05/03(月)00:09:30 トレー... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1619968170877.jpg 21/05/03(月)00:09:30 No.798728267

トレーナーの自室に入ってまず鼻につんと来たのはアルコールを含んだ香りだった。 しっとりと濡れた燻製の煙の匂いだ。酒を口にしたことはないがその香りの正体は知っていた。 両親がたまに晩酌で口にしていたからだ。今嗅いでいるものとは少し風合いが違ったが。 「あら、まあ…」 ついそんな呟きが口をついて出た。それがあんまりにも珍しい姿だったから。 トレーナーがいた。だが私に気づいた様子は勿論、ぐったりとして意識さえ無いようだった。 いつもはレース研究のための膨大な資料が占拠している机にトレーナーが突っ伏して寝ていたのだ。 傍らにはグラスについた水滴のせいで水たまりを作っているグラス。 ウィスキーのボトルは既にかなりの量減っていて、残り3分の1も無い。 ぐっすり眠っているトレーナーからも相当アルコールの香りがする。どうやらかなり飲んだようだった。 こんなふうに酔い潰れてるところなんて初めて見る。ただ、その理由はすぐに察しがついた。 卓上の小さなテレビが動画を再生し終えて一番最後のシーンで停止している。 そこに映っていたのは私だ。笑顔の私だ。中山の直線を1着で駆け抜けた私だった。

1 21/05/03(月)00:09:48 No.798728373

どうやらこれを酒の肴にして繰り返し見ていたらしい。 いつものように隅々に目を行き渡らせて分析をするのではなく、勝利する私を見て気持ちよく酔っ払っているのが目に浮かんだ。 ───今年最後の大一番、有マ記念。 焦げ付くようなデッドヒートを制して頂点に立ったのは私こと、グラスワンダーだった。 本当に僅差だったけれど。それでも、一番最初にゴール板を捉えたのは私だったのだ。 「もう、トレーナーさんたら。私には『おめでとう』だなんて淡白なことしか言わなかったのに。  心の内ではこんなにはしゃいでいたんですね。ずるい人」 彼の肩にタオルケットをかけながら私は苦笑した。 きっとトレーナーはこのタオルケットがどこに仕舞われているか知らないだろう。すっかり彼よりもこの部屋について詳しくなっている。 困った人だ。時にこの私が怖くなるくらい物凄い勝利への執着心を見せたかと思えば、私生活ではどこか抜けているのだ。 でも、今はただそんな私のトレーナーが私の勝利を心から喜んでくれていたのが嬉しくてたまらなかった。 この数ヶ月、有マ記念のためにお互い全力を尽くした。彼の指導にも熱がこもっていたのが身に沁みて分かった。

2 21/05/03(月)00:10:01 No.798728467

昼間は私の指導やトレーナーとしての業務をこなし、夜は微に入り細を穿つような対戦相手の解析をする。 彼がそういう過酷な生活を送っていたことを間近で見てきた。『何故』と一度だけ問うた。彼は照れ臭そうに答えた。 『報われないかもしれない努力。身についているかも分からない積み重ね。そういうのをね、してはいけない理由もないだろう?』 その通りだ。レースには勝つか負けるかしか無い。私は勝つ側でありたい。そのためならば魂なんてとうの昔に売り払っている。 芝の2500メートルを何本走ったって無駄に終わるかも知れない努力の意味を彼は分かってくれたし、その狂気へ一緒に飛び込んでくれた。 嬉しかったし、当然だという自信と自慢があった。 『私は扱いにくいウマ娘ですよ』という忠告に『それがいいんだよ』と言ってくれた私のトレーナーはそういう素敵な人だ。 そんな彼が前後不覚になるまで酔うほどに私が勝ち取った努力の成果を噛み締めてくれている。 …私はトレーナーの隣にまで椅子を運び、彼を起こさないようにゆっくりと座った。 寮の門限は22時。忘れ物を取りに来ただけの私に残された余裕は15分ほどしか無かったが、今はそれで十分だ。

3 21/05/03(月)00:10:17 No.798728577

眠りこける彼の肩へ頭を乗せるようにしてぴったりと身を寄せる。 耳には安らかな寝息。…はい。今はゆっくりと休んでください。貴方はとても頑張ってくださったのですから。 ああ───肩を寄せ合っているこの姿をもし誰かが見たら、きっとそれは比翼連理の恋人同士にしか見えないだろう。 私らしくもないそんな生ぬるい妄想にくすりと微笑みながら、頬の痩けた彼の横顔に私は微笑みかけた。 「お慕いしています。トレーナーさん」 将棋でも、レースでも、私には及びもつかない深い洞察力を発揮する貴方であろうとこれは悟っていないでしょう。 私の貴方に対する強い信頼感はとっくに慕情へと変わっているんですよ。 だいたい『君が果てを目指すというなら、僕はそれに人生を賭けるよ』だなんて。殆ど口説き文句ですよ。全く、もう。 歩いていきましょう。ふたり一緒に。まだ貴方は私のことをそういう目では見てくれていないのは知っていますが…。 道中で振り向かせてみせます。ええ、必ず。 なんせ私は一度決心したら道を変えることのない、貴方が愛した扱いにくいウマ娘ですから。 外はいつの間にか雪が降っていた。12月28日。年の瀬が迫る夜のことだった。

4 21/05/03(月)00:11:43 No.798729085

良い雰囲気だ…

5 21/05/03(月)00:14:29 No.798730019

いいねぇ...

6 21/05/03(月)00:15:42 No.798730425

ほとんどうまぴょいですよ

7 21/05/03(月)00:19:00 No.798731523

こういうトレグラ大好物なんだ

8 21/05/03(月)00:20:48 No.798732163

グラスの見せる湿っぽさいいよね

9 21/05/03(月)00:21:02 No.798732243

このトレーナーは不退転(ビリィ)不退転に動じなさそうだ

10 21/05/03(月)00:21:25 No.798732400

何回も何回も観て時々泣いたりしながら呑んだんだろうなあ…

11 21/05/03(月)00:22:54 No.798733005

>このトレーナーは不退転(ビリィ)不退転に動じなさそうだ 将棋がめちゃ強くて元プロバスケプレイヤーで今は義足のトレーナーでバツイチだからな

12 21/05/03(月)00:23:56 No.798733395

>>このトレーナーは不退転(ビリィ)不退転に動じなさそうだ >将棋がめちゃ強くて元プロバスケプレイヤーで今は義足のトレーナーでバツイチだからな ごちゃ混ぜじゃねーか

13 21/05/03(月)00:26:55 No.798734434

杖をついた書生風の優男のイメージだった 不退転の意思は負けず劣らず

14 21/05/03(月)00:32:17 No.798736214

藤田和日郎の『夜に散歩しないかね』の主人公みたいな…

15 21/05/03(月)00:32:38 No.798736343

グラスの迷走も黙って見守っていそう

16 21/05/03(月)00:36:12 No.798737512

こういう内に秘め合う繋がりってグラスが求める和の精神でいいねえ

17 21/05/03(月)00:42:59 No.798739883

割れ鍋に綴じ蓋デース

18 21/05/03(月)00:49:09 No.798741971

担当ウマ娘が有馬で一着取ったらそら一晩ぐらいバカやって悦に入りたくもなるよな 誰だってそうなるしそうする

19 21/05/03(月)00:50:46 No.798742523

美しい…

20 21/05/03(月)01:01:32 No.798745973

好意を秘め合うのが大和撫子…

21 21/05/03(月)01:04:58 ID:GTDzgSb2 GTDzgSb2 No.798746826

>好意を秘め合うのが大和撫子… https://img.2chan.net/b/res/798745366.htm

22 21/05/03(月)01:05:40 No.798747034

私このトレグラシリーズ好き!!! たまにしかスレに遭遇できないけど

23 21/05/03(月)01:08:22 No.798747764

ここでキスとかせずに言葉で伝えるのはグラスっぽさが凄い

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