虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/04/23(金)23:30:02 No.795692417

    冷たい風に身を任せた雨が、南国の樹木にざーざーと降り注ぐ 時折ぴゅうと音を立てて吹く突風は、肌寒さと春の訪れを感じさせる とはいえ、シンオウだと初夏のような気温のはずだけど、ここ常夏のアローラでは肌寒く感じる日が続く すっかりアローラの気候に順応してしまった自分の身体に人体の不思議を感じる

    1 21/04/23(金)23:30:18 No.795692541

    「毎日雨だねぇ」 いつもより閑散としたアイナ食堂は、外の薄暗さも相まってどこか物寂しい そんな陰鬱な雰囲気を紛らわすかのように、わたしはマオさんと食後の世間話に花を咲かせていた 元々広大なジャングルを有するなど湿潤な土地ではあるけれど、春先にこんなに雨がつづくのは珍しいとのこと 「こんな雨の中色々持ってきて貰ってごめんねムーンちゃん」 「いえ、美味しい料理を御馳走になりましたから」 頼まれていた薬膳のレシピと調合薬を届けたお礼に、昼食をふるって貰った 「なんか毎日どんよりした天気だと、気持ちまでどんよりしてきちゃうな」 「そうなんですね」 「ムーンちゃんはそんなことないの?」 「わたしは別に」 元々夜が好きだし、こういう薄暗い日も嫌いじゃない とはいえ、連日の雨続きだと、太陽が恋しい気持ちもちょっとはあったり―

    2 21/04/23(金)23:30:30 No.795692619

    「マオさーん!運び屋サンです!お届け物お持ちしました!」 ジメっとした空気を吹き飛ばす無駄に元気な声が店内に響き渡る 「サンくんも雨の中お疲れさま!あっハンコ取ってくるね、タオルどうぞ!」 「おっありがとうございます!いや~毎日雨だから参っちまうぜ…リザードンで移動できなくなっちまうからよう」 濡れた身体をタオルで拭きながら、今日も元気いっぱいというテンションで 「ん?お客さんもいたのか!アローラ!」 「相変わらず元気そうね」 ジメジメした日にはこういう煩いのがムードメーカーになってくれるかも

    3 21/04/23(金)23:30:47 No.795692713

    「本当雨続くよねー、はいハンコ!」 「ほい!まるで梅雨みてーだ」 「梅雨?」 「なんでえお客さん梅雨知らねえのかよ」 むっ… 「勿論知識としては知ってるわ、ただシンオウには梅雨に該当するシーズンがなかったから経験したことないだけで」 「まさにツユ知らずってか?」 まったく上手くない 「さて、二人のおかげで材料も集まったし、早速明日試食会やってみようと思うんだけど、予定はどう?」 マオさんがわたしたちに提案してくる 「わたしは大丈夫ですよ、運び屋さんは?」 「明日はえーっと、多分昼過ぎにゃ仕事終わってんな」 「じゃあ明日2時にやろっか、無料でご馳走するよ!」 「マジ!絶対行く!!」 相変わらず無料に弱い運び屋さん

    4 21/04/23(金)23:31:01 No.795692809

    「運び屋さん今日はもう仕事上がり?」 「あと3件だな、カキさんたちはもうすぐ終わるっぽい」 この雨の中、運送業者は大変ね… 「サンくん傘か雨合羽貸そうか?」 「ヘーキヘーキ!こんなのしょっちゅうだし」 「風邪ひいちゃうわよ…」 「大丈夫だって!濡れてもエンに乾かしてもらってるしさ」 吞気そうに笑う運び屋さん 「もう…まあ何とかは風邪ひかないっていうしね」 「そうそう!…ん?」

    5 21/04/23(金)23:31:12 No.795692866

    「アハハハ相変わらず息ピッタリだね、残りもアーカラ(こっち)?」 「いや、後はメレメレ島だよ」 「じゃあ途中まで一緒ね、ほら傘貸してあげるから港まで行きましょう」 行きにさしてきた傘を運び屋さんに差し出す 「別にいらねえって」 「いいえ、折角タオルで拭いたんだから」 「でもお客さんはどうすんだよ」 「あ、じゃあいま傘用意するね!」 「大丈夫ですよ、わたしもう一本持ってますので」 鞄から折り畳み傘を取り出す 「用意が良いねえ」 「当然です」

    6 21/04/23(金)23:31:32 No.795693005

    アイナ食堂を出て、港に向かって足を進める 雨脚は相変わらず弱まる様子はない 「明日の試食会楽しみね」 「昼までに仕事終わってると良いんだけどなあ、でも仕事入っても嬉しいしな…」 「相変わらず仕事の鬼ね」 「ポケリゾートの建設費まで、まだまだ必要だからな」 はじめて出会った時は、島を買い戻すために1億円貯金を目標に頑張っていた 今は一歩進んで、本来の夢であるポケリゾート建設のための資金集めに精を出している だけど、建設費となると、1億円どころじゃないはず 5年間必死に貯めてきた1億円、それよりももっと大きな額を必死に貯めようとしている それを思うと、ふとあなたの身が心配になる これから先、あなたはいつまでこんな忙しい生活を続けるの―?

    7 21/04/23(金)23:31:51 No.795693118

    「お客さんどうしたんだい?」 「え?」 「急に小難しい顔して黙っちまったからさ」 「ううん、なんでもないわ」 思っていても、口にはできない きっとそのことはあなた自身がイチバン分かっているだろうから それでもあなたは辛い顔ひとつ見せず、毎日仕事に励んでいる それを、どうしてわたしが物知り顔で言えるって―「きゃっ」 ビュウッと突風が吹き抜ける 「うおっ!強い風だったな…あっ!?」 「あー…」 今の突風でわたしの折り畳み傘の骨がバキバキに折れてしまった

    8 21/04/23(金)23:32:07 No.795693205

    「やっぱり、傘借りておけば良かったかも…」 運び屋さんと一本の傘を共有しながら、見通しの甘さを反省する 「まあ良いじゃねえか、お店の傘がバキバキになってたかもしれないんだしさ」 「それもそうね…」 運び屋さんの珍しいフォローが嬉しいような恥ずかしいような 貸した傘に入れてもらっているという情けない現状が惨めな気分をより際立たせる 「…あのさ、お客さん」 ふいに運び屋さんが話しかけてきた 「お客さんはいつまでアローラにいるんだい?」 「そうね、状況が落ち着き次第だから断言はできないけど、早くて1年、長くて5年とかかしら」 「まあそんなもんだよなあ」 真っ直ぐ前を見ながらそんなことを呟く運び屋さん

    9 21/04/23(金)23:32:19 No.795693286

    「どうして?」 「お客さんがいるうちにさ、ポケリゾートに招待できるかなってよう…ちょい厳しいかもな」 カラッと明るくも、どこか自嘲的な雰囲気で語る 「招待してくれたら行くわよ」 「本当かい?」 「早くしてくれないと、わたしも大忙しになってるかもしれないけどね」 「うぐっ…なんとか時間つくって来てくれよう、一番最初の“お客さん”で予約しとくからさ」 「楽しみにしてるわ」 「へへ…おっ」 空に手をかざす運び屋さん

    10 21/04/23(金)23:32:31 No.795693355

    「あら、大分弱くなってきたわね、…ってちょっと」 急に傘をわたしに預けて走り出す運び屋さん 「もうこの天気なら大丈夫だ!行ってくら!」 ライドウェアに着替えてスタコラサッサと行ってしまう 「もう…どうしてそう落ち着きがないの」 港に着くと、小粒ながらジェットでメレメレ島に向かう運び屋さんの姿が見えた 「一番最初ねえ」 特に順番なんて気にしないけど、運び屋さんなりの気遣いなのかな? ふむ、明日なにか栄養のあるもの作ってあげようかしら そんなことを思いながら、メレメレ島行きの船に乗り込むのだった

    11 21/04/23(金)23:32:54 No.795693488

    ============= その日は朝からひどく悪天候だった 吹き付ける風雨は昨日の比じゃない、春の嵐 『ムーンちゃん今日はひどい天気だし辞めておこう、ごめんね!』 昼前にマオさんから試食会中止のお知らせが入った 『サンくんにも伝えておくね』 「別件のこともあるのでわたしから連絡しておきますよ」 運び屋さん残念がるかな、次参加できるか分からないでしょうし そう思いつつ電話をかけてみるが、繋がらない お仕事中なのかな?…この天気の中? 外は雷雨が時折室内を明るく照らしている とりあえずメッセージだけは入れておきましょう

    12 21/04/23(金)23:33:30 No.795693748

    ======== マオさんの連絡から2時間が経つけれども、未だに運び屋さんからの音沙汰はない 既読もつかず…どうしたのかしら? 外は昼前から風が弱まってきたものの、雨は依然として強い …カキさんに聞いてみようかしら 『―そうだな、アーカラ・ウラウラ(こっち)は天候をみて中止にしたな、勿論サンと相談してだが』 「そうですか…」 一応運び屋さんもこの天気の中で職員を働かせるのは控えたようね ……職員は? 「運び屋さんの担当は…」 『メレメレ島はどうだろうな…いや、流石にひとりでこの天気の中……』 「………」 運び屋さんの性格を考えれば有り得なくはない、とふたりして思い至る

    13 21/04/23(金)23:33:45 No.795693859

    「カキさんからも連絡してもらっても良いですか?」 『分かった…』 運び屋さんに電話を掛けるカキさん しかし… 『…つながらないな』 「……今日のメレメレ島の仕事リストを教えてください」

    14 21/04/23(金)23:34:31 No.795694193

    雨合羽を着ながら、出かける準備をする 『ムーン、気をつけるロト!』 「ありがとう、まったく世話の焼ける…」 『アイツは本当に!!』 博士にも応援を要請し、手分けしての運び屋さん捜索が始まった 地盤が緩んだ場所で足を取られたり、土砂崩れ、洪水、強風に煽られて高所からの転落…様々な可能性が脳裏をよぎる こんな危険な日にわざわざ働かなくなって… 普通はそう思うけれども、彼の今までの人生がそれを許さなかったのだろう、 雨の日も、風の日も、大怪我をしていたって、運び屋さんは1億円のために身を粉にして日々働いていた その生活は、多少環境は変われど、これからも続いていく 一度身に着いた習性は、なかなかなおるものじゃない 今はただ、無事を祈りつつ、あなたの名前を呼ぶのだった

    15 21/04/23(金)23:34:55 No.795694367

    ========= …テテテ、…ん?オレっち何やってんだ? 目を覚ますと、知らねえ道端?で倒れてた …あー確か風が弱まってたから行けると思って出発して……落雷が近くに落ちたんだったけな? とりあえず、事故で動けなくなってることはなんとなく察しがついた 身体は動くか?…なんとか行けるか…? このまま放置されてたらマズいかもな…野生のポケモンに襲われたら一溜りもねえ 大分長い間雨に打たれてたのか、身体が冷え切ってら…これは結構ヤベェかもな けど、こんなとこで倒れてる暇はねえ…!早く身体を起こさねえと… 持ち前のガッツで朦朧としていた意識をしっかりとさせ、両手両足の隅々にまで神経を行き渡らせる

    16 21/04/23(金)23:35:07 No.795694449

    「ふっ…ぐ……!」 力を全身に込めてみるが、思うように力が入らねえ チクショウ…せめて雨に当たらねえ場所に移動しねえと… 冷え切った身体には冷たすぎる雨が頭上から延々と降り注ぐ 「はあ…はあ…」 ゆっくり這いずり回りながら、雨宿りが出来るところを探す が、どこにも見当たらねえ そうこうしていると、また雨の勢いが強くなってきちまった …いま何時だろうな、もう試食会は終わっちまったかな? いや…こんな天気じゃやってねえかもな そんなことを思う矢先、お客さんの顔が脳裏に浮かぶ …いやいや、ムシが良すぎるぜ きっと、お客さんがいてくれたらどうとでもなるんだろうな…なんて思っちまった自分に腹が立つ けど…

    17 21/04/23(金)23:35:52 No.795694727

    …?あり? 急に違和感を感じる 冷たい雨がオレっちの周りだけやんでる…? まるで、傘の中にでもいるように 「今日もずぶ濡れね」 聴こえてきたのは、いまイチバン聴きたかった人の声 「お…客さん」 見上げると雨合羽を着て、オレっちに傘を差しだすお客さんがそこに立っていた 「探したわよ、運び屋さん」

    18 21/04/23(金)23:36:07 No.795694817

    「―ええ、大丈夫です、後はわたしが治療しておきますので」 誰かと話してる様子のお客さん どうやらオレっちの捜索隊が組まれていたらしい 「へへ…やらかしちまったな」 「まったくよ!」 お客さんが声を荒げる 「心配ばっかりかけて…」 「…すまねえ」 応急処置を受けながら、お客さんの説教をただただ大人しく聞いていた 「でも助かったぜ、もう大丈夫だ!」 「ダメよ、わたしの家に行きます」 「でもまだ仕事の途中…」 「仕事が大事なら身体を大切にしなさい!!」 「あう…はい」

    19 21/04/23(金)23:36:21 No.795694923

    ========== 「じゃあまずは服を脱いで」 「え!?」 「体が冷えてるからしっかりと温めないと…それにボロボロじゃない、洗濯してあげるからこの着替えの服を着て待ってて」 そういって着替えの服一式を渡される 「次わたしも入るから、早く入ってちょうだい」 …オレっちのせいで色々迷惑かけてんのに、ここまでしてもらうのはひたすら申し訳ねえ気持ちでいっぱいになる 浴槽に浸かりながら、冷え切った身体が回復してくのを感じる 「どう?温まる成分入れておいたからホカホカでしょ」 「おう!生き返るたぁこのことだな!」

    20 21/04/23(金)23:36:35 No.795695016

    風呂から上がると、ホットミルクと温かい料理が用意されてた 「じゃあお風呂交替ね、これ食べてて、あと髪の毛はしっかり乾かすこと!」 「はいよ」 出されたメシをあっという間に平らげて、ふうと一息つく なんつうか、スゲー幸せな時間だ 身体もあっという間に元気になっちまった …お客さんと生活したら、毎日こんな感じなのかな? って何考えてんだオレっちは……ん?

    21 21/04/23(金)23:36:52 No.795695142

    シャワーから戻ると、部屋に運び屋さんの姿はなかった あれ?お手洗いかしら 空っぽのお皿とまだ温もりの残るコップが置いた机には、外からの日差しが差し掛かっており― 日差し?…もしや…! そう思い外に出てみると、案の定ライドウェア姿の運び屋さんがリザードンに乗って飛んでいこうとしていた 「晴れてきたからよ、ちょっと行ってくら!」 「ちょっと!」 「色々サンキューなお客さん!もう大丈夫だ!」 「ダメよ!まだ安静にしないと…」 と、わたしの話も終わらない内に飛び去って行く 「もう!」

    22 21/04/23(金)23:38:30 No.795695882

    「あ、お客さん!」 飛んでいった運び屋さんが近くに戻ってくる 「どうしたの?」 「約束のことさ」 やくそく…? 「早めに叶えるからさ!待ってておくれよ!!」 そう言い残して再び大空へ飛び立っていった 「約束…叶える?……あ」 『なんとか時間つくって来てくれよう、一番最初の“お客さん”で予約しとくからさ』 そっか…それでこんなにも…… バカね、いつまでだって待ってあげるわよ… あ…わたしが『早くしないと』なんて言ったから…?

    23 21/04/23(金)23:39:35 No.795696351

    部屋に戻り、まだ少し温かみが残るカップを持ちあげる 次第に冷えていく空のカップは、先ほどのあなたの姿を想起させる あなたは誰かのために、どこまでも無理をしてしまう 太陽のように大きく、アツい情熱をもって でもそんなことを続けていたら、その情熱を出し切ってしまったら、このカップのように冷え切ってしまう 身も心も だから、誰かがあなたを温めてあげないと 外側から、包み込むように 冷たさを人肌で温めるように、カップをギュッと握りしめ、ただ静かに祈る ―どうか、あなたの努力が報われますように

    24 21/04/23(金)23:40:32 No.795696760

    ======== 「ぶえっくしょい!!」 「言わんこっちゃない…」 翌日、高熱で寝たきりの運び屋さんを看病しながらニヤニヤとみつめる あれだけ忠告したのにね、ザマーミロ 「お客さん…」 「なに?」 「…ごめんよう」 「じゃあ早く元気になってね」 薬膳粥を口に運びながら、弱弱しいあなたにそっと微笑むのだった 「…うめえ」 「当然です」 後日運び屋さんに風邪をうつされたのは一生の不覚 おわり

    25 21/04/23(金)23:40:44 [s] No.795696849

    以上です

    26 21/04/23(金)23:41:00 No.795696957

    お疲れ様です ムーンの母性的な部分が出てきて凄く良かったです

    27 21/04/23(金)23:42:51 No.795697735

    さっきと高低差デカ過ぎない…?

    28 21/04/23(金)23:47:23 No.795699355

    やっぱサンムーンというヒーラーいるからか良く怪我するな…

    29 21/04/23(金)23:48:00 No.795699533

    運ムン最高!

    30 21/04/23(金)23:48:51 No.795699865

    やはりムーンの当然ですの返しは安心する

    31 21/04/23(金)23:52:27 [s] No.795701158

    挿絵です 最近寒かったので書きました 最初は一日目の話だけだったんですがなんか直前になってもう少し欲しくなって2日目の話を追加した結果遅くなってしまいました

    32 21/04/23(金)23:54:23 No.795701930

    ちょい足しして間に合わせる怪文書作家の鏡だ…

    33 21/04/24(土)00:00:42 No.795704124

    そういえばシンオウに梅雨無いのか…

    34 21/04/24(土)00:00:46 [s] No.795704166

    挿絵です 需要は分かりませんがとりあえずオッ勃ったらブッコくの精神で書いてるので今後も思いついたら金曜夜22時に奉納していきます

    35 21/04/24(土)00:03:31 No.795705147

    >挿絵です >需要は分かりませんがとりあえずオッ勃ったらブッコくの精神で書いてるので今後も思いついたら金曜夜22時に奉納していきます この書き方見習いたい

    36 21/04/24(土)00:12:09 No.795708350

    いい…

    37 21/04/24(土)00:13:29 [s] No.795708777

    挿絵です