虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

21/04/22(木)03:25:24 #6 共... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

21/04/22(木)03:25:24 No.795121516

#6 共同墓地は村を見下ろす高台にある。 そこへ続く坂道は、晩に降った雨でぬかるんだままだ。長靴を履いてきて正解だった。上ったばかりの太陽が、まだ空に残った雲を下から朱に照らしている。今日は晴れそうかな。一応持ってきた傘は使わずに済みそう。途中、足を止めて道端の花を摘む。名前は分からないけど、黄色いのと赤いのを何輪か。坂を登りきると、それまで立ち込めていた草いきれが綺麗に消えて、冷たい朝の匂いだけになった。 私の家族のお墓がここにあるわけじゃない。ただ、これまでの悲劇で亡くなった人を悼む慰霊の塚に、時たま花を置きに来ている。思い出したい時に。語りかけたい時に。あるいは、心を落ち着けたい時に。 いるだろうなと思っていた先客は、やっぱりいた。豊かな黒髪が垂れた長身の背中。驚かせないように気を付けて声をかける。 「おはよ~ございます」 私の声に反応して、スミレさんが振り返る。低く落ち着いた、大人の声で挨拶が返ってくる。 「北上さん。おはようございます」

1 21/04/22(木)03:27:32 No.795121666

私が近付くと、一歩どいて塚の前をあけてくれた。束になって置かれている花の上に、さっき摘んだ花を置く。私が手を合わせると、スミレさんも同じようにしてくれた。目を閉じると、徹夜明けの虫の声がよく聞こえた。 「しばらく本部詰めなんですか」 「はい。主に事務仕事で」 船も車も、大きいのも小さいのも操縦できるスミレさんは、人や物資の輸送のためにいつも色んな所に出かけている。私も何かモノを動かす時にお世話になることが多い。立場的には指示を出すだけでもいいはずだけど、人手が足りないからかよく現場に出ている。あるいは、単に運転や操縦が好きなのかもしれない。 しばらく前に鉢合って、本部で仕事がある間のスミレさんがよくここに来ていることを知った。何のためにここへ来るのかは分からない。さすがの私でも、何て言って聞いたものか躊躇ってしまう。そのくらいここにいる時のスミレさんは、深く何かを悼んでいる感じがする。 「行きましょうか」 「ですね」 お互い、仕事が始まれば戦争のように忙しいから、誰にも邪魔されずに来れるのは早朝のこの時間だけ。それでもゆっくりはしていられない。私達は並んで墓地を後にした。

2 21/04/22(木)03:27:48 No.795121693

--- 「あふ!あっふぁ!!」 「あーあーあー」 夜。今日はサクラの部屋で晩ご飯を食べている。 「う、あっつい。喉が焼けた」 「なんで一息にいったん。言うたやん熱いって」 「仕方ないじゃん。湯豆腐なんて滅多に食べないんだから」 食べている豆腐は、サクラのお兄さんが村の人からおすそ分けで頂いたものを、さらにサクラが分けてもらったらしい。こういう料理らしい料理は食べ慣れてなくて、つい勢いよくいってしまった。 宿舎も同じサクラとはよくご飯を食べる。それこそヴンダーで同じ部屋だった時から私達はこうしてきた。歳も近いサクラとは基本的に何でも喋る。世間の噂。人間関係。欲しい物。やりたいこと。話題は何だってよくて、話していられることがとにかくありがたいのだ。それでつい、愚痴になってしまった。

3 21/04/22(木)03:28:17 No.795121742

「…そしたらマコトも『お前が決めることだ』とか言って、どっか行っちゃったわけ」 「へぇ」 「もうホントにムカついて。そうでしょ?だって。シゲルもマコトも疫病神のことは責めたくないんだよ。それは別に勝手だけど、でも私は許せないわけ。それで話は済んでるのに、なんか説得しようとしてくるのがムカつくんだよね」 「そっかぁ…うーん」 話しながら、上司の愚痴のつもりだったのに、ミスったな~と思っていた。話があの疫病神の事になると、サクラはどうにも落ち込んでしまうんだった。多分、ヴンダーであいつに銃を向けた出来事を未だに引きずってるんだと思う。規則上何も問題なかったし、事実お咎めはなかったんだから、気にしないでいいじゃんって何度も言ってるんだけど。 サクラは黙りこくってしまって、私もなんだか話を続けられなくなった。会話がなくなると急に静まり返ってしまって、部屋にはただ雨音が響いている。夜から降り始めた雨が段々と強くなっているみたいだ。とにかく話題を終わりにしたくて、何気なく頭に浮かんだことを口にした。

4 21/04/22(木)03:29:10 No.795121812

「とにかく私は、ヴンダーで飲んでた再生水みたいで嫌なの。元々はおしっこだもん。綺麗になった所で、嫌なもんは嫌でしょ」 「こっちに戻ってきた時、山から引いてきた水を飲んだでしょ。あれ、マジでおいしかった。あれがホントのきれいな水で、もう再生水を飲まなくて済むんだって思ったら、スッキリしたよね」 そんなの至極当たり前の気持ちで、サクラだって分かるでしょ。そう思ったのに、 「うーん… そうなん?」 さくらの反応は意外なものだった。 「え」 「だって。山の水だって、大きく見れば元は誰かのおしっこも混じっとるわけやし」 「いや… そうかもしれないけど… 明らかに違うっしょ」 言ってみたものの、何がどう違うのか、うまく言葉に出来ない。なんだかイライラして、

5 21/04/22(木)03:29:27 No.795121833

「サクラも、疫病神のことは許せるって言いたいわけ」 つい言ってしまった。でもサクラはきょとんとして、 「ちゃうよ。えっと… 再生水は汚いけど、山の水はきれいっちゅう区別ゆうか、境目があるわけやん。ミドリの中には」 「うん」 「でも私は、ちゃんと化学処理されて、何層もフィルターを通してる再生水がそんな汚いとは思っとらんわけ。怪我の治療とかにも使うもんやし。せやから、ミドリとは境目が違うんよ」 「…うーん」 「だからそのあんたの境目って、自分自身で決めたもんなんちゃうかな。日向さんが言ってるのも、そういうことなんかな… って思ったんやけど」 「…」 「ごめん、自分で言っててもなんかよう分からんわ。はは」 「…全然わかんないよ」 本当は、一瞬何かに納得しかけた。でもそれが何なのか分からなかったので、それだけ言って。今度は私が黙りこくってしまった。再び、雨音が部屋を満たしていった。(続)

6 <a href="mailto:s">21/04/22(木)03:32:34</a> [s] No.795122086

北上さん中心にシンエヴァその後を想像してみる話その6です 前回までのはこちら fu36329.txt あと2~3回で終わるような気がしてきましたが気のせいかも

7 21/04/22(木)03:44:10 No.795122944

重い女再び!

8 21/04/22(木)03:50:09 No.795123312

来たか! 重い女良いよね…

9 21/04/22(木)04:15:57 No.795124767

カタログが歪んだと思ったら重力女が出てきた

10 21/04/22(木)05:26:54 No.795127345

いい…

11 21/04/22(木)06:55:24 No.795131029

長良さんのバックボーンが知りたい…

12 21/04/22(木)07:06:32 No.795131760

医療用に使ってるからボーダーが違うってのはうまい

13 21/04/22(木)08:02:33 No.795137322

>長良さんのバックボーンが知りたい… この話では運転であらゆるところを駆けずり回ってるから 行った先や道中で人が生活していた痕跡や生き死にの現場を誰よりも目の当たりにしてるんだろう

14 21/04/22(木)08:19:48 ID:B5VRNaB2 B5VRNaB2 No.795139653

>医療用に使ってるからボーダーが違うってのはうまい https://img.2chan.net/b/res/795134937.htm

↑Top