21/04/05(月)01:25:31 空から... のスレッド詳細
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21/04/05(月)01:25:31 No.789932452
空から霧吹きで地面をべったり濡らすような、そんな細かい雨粒が朝から夜まで降り続いていた。 このくらいの雨なら悪天候のレースに慣れるためにも屋外トレーニングは量を減らされつつも実施される。 そんなわけでぐちゃぐちゃ泥濘む芝の上を泥んこになりながら走ってきたボクは冷えた身体をお風呂で温めて実にいい気分だった。 スキップスキップ。まだ湿っている髪をタオルで拭いながら自室に戻る。天下無敵なトウカイテイオー様のお帰りだぞ~。 「たっだいま~。…あれ。どうしたのマヤノ」 そんなボクがドアノブを引いて最初に見つけたのは、ベッドに腰掛けてぼんやりしているルームメイトの姿だった。 心ここにあらず、といった様子だ。行儀よく膝を揃えて座ったまま、何をしているというふうでもない。 ふと連想したのは今空に浮かんでいる雨雲だった。どす黒く染まって大粒の雨を降り注いでくるやつじゃない。 ちょうど今降ってるみたいな霧雨をさらさらと溢していく、風が吹けば飛んでしまいそうな綿みたいな雨雲だ。 ボクに気づくのさえやや遅れた。後ろ手にドアを閉めたあたりでようやくボクが帰ってきたことに気付いたみたいにきょとんと顔を向けてきた。
1 21/04/05(月)01:25:43 No.789932487
「…あ。おかえり、テイオーちゃん」 …まあ、マヤノトップガンのことを雨雲みたいだなって感じる時点でだいぶ様子がおかしいよね。 いつだって次々にいろんな事を思い付いてはキラキラと輝いてみせる、歩く花火大会みたいな子なんだから。 けれどその時のボクはマヤノがそんなふうになっている理由に心当たりが無いでも無かった。 ボクらはレースで速さを競い合うウマ娘だからさ。思い悩むこといえばやっぱり一番にはレースのことなんだ。 「まだ一昨日のレースのこと気にしてるの?気持ちは分かるけどさ~」 手早く入浴用具を片付けながらボクは遠慮なく言った。わざわざ遠巻きにするような関係じゃ無い。 というのも、先日のレースでマヤノは5着に沈んでしまったのだ。ギリギリの入賞だった。 ちょっとしたミスをしたのだ。それでいて致命的なミスを。瞬間、観戦していたボクも思わず「あっ」と呟いてしまったくらいの。 それで一気にあの子をマークしていたバ群に取り込まれた。本当にマヤノにとって苦しいレースだった。 抜け出すのも一苦労という重いバ群からむしろよく抜け出してなんとか5着に滑り込んだものだ。
2 21/04/05(月)01:25:54 No.789932525
しかし、ボクはマヤノの様子に違和感を覚えていた。 落ち込んではいたが、今朝まではここまで深刻では無かったはずだ。悄気返ってはいたが、寒々と張り詰めた顔はしていなかった。 全然似合わない表情。薄幸さなんて雰囲気が漂っていい子じゃあ無い。 「…何かあったの?」 こくり。黙ってマヤノが頷いた。 「そっかぁ。ボクで良ければ話くらいは聞いたげるよ。マヤノがそんな湿気た顔してちゃボクの調子も狂うしね」 ボクもベッドの脇に座り、落ち込むマヤノと向き合った。 もう一度黙って頷くと、彼女は座ったまま膝を抱えて縮こまった。淀んだ視線は自分の膝小僧に向けられている。 しょんぼりしているのとは違った。ギリギリまで水を張ったコップみたいだ。僅かな刺激で水が溢れてしまう。 「あのね、テイオーちゃん」 「うん」 「…マヤね。トレーナーちゃんと喧嘩しちゃった」 あ~。 なるほど~。 そう来たか~。
3 21/04/05(月)01:26:05 No.789932560
そりゃ落ち込むな~。ある意味じゃきっとレースに負けた時以上に。 マヤノトップガンとそのトレーナーが凄く仲良しなのはボクも知るところだった。ホントに相思相愛なのだ。 同室の子のトレーナーだからね。ちょっとは話したこともある。 キャリアの無い新人の女トレーナーだ。なんだかいまいち頼りげの無い小学校の新任教師みたいな人だなぁ、なんて思ったっけ。 最初は大丈夫なのかなぁともちょっぴり心配になったけれど、その後は着実に勝利を積み重ねているんだからマヤノの目は正しかったということだろう。 しかしいつもべったりくっついて仲睦まじいにも程があるって感じのあの人とマヤノが喧嘩か。ボクには想像出来ないな~。 「レースで負けたのは、いいんだ。悔しいけどマヤが一瞬わかるのが遅かったってことだから、納得はしてるの。 でもトレーナーちゃんがね。ずっとめそめそしてるの。マヤが勝てなかったのは私の責任だって。ごめんね、ごめんねって。 レースが終わってから俯いてばっかりでマヤと目を合わせてくれないんだ。それ見てたら急にむかむかーって来ちゃって…」 「うわ、わわ」 ボクはびっくりしてしまった。
4 21/04/05(月)01:26:15 No.789932588
大きな両目の端に涙の玉がぷっくりと現れて、それがみるみる内に大きくなっていくのだ。 マヤノが泣いているところを見たことが無いわけでは無かったけれど、こんなふうに泣くのを見るのは初めてだった。 「…そんなトレーナーちゃんなんか大嫌い、って言っちゃった。 そんなならもうトレーニングもしないしデートもしない、レースにも出ないって…それだけ言って飛び出してきちゃった…」 膝小僧に鼻先を擦りつけているマヤノはもう鼻声だった。瞬きする間に涙の雫は決壊し、後から後から頬を伝っていく。 鼻先をくすぐったのは水の匂いだった。雨と涙の匂い。 「…トレーナーちゃん、マヤのこと嫌いになっちゃったかなぁ…! だってトレーナーちゃんは凄いんだもん…!マヤにいつだって新しいキラキラを教えてくれるんだもん…! めそめそしてて欲しくないんだもん…!トレーナーちゃんはちゃんとマヤのこと見ててくれなきゃヤなんだもん…! でもあんなこと言っちゃったら、トレーナーちゃんはマヤから新しい子のところへ行っちゃうかなぁ…! レースで負けたのはトレーナーちゃんのせいじゃないのに!マヤわかんないよ、トレーナーちゃんのこと…!」
5 21/04/05(月)01:26:26 No.789932626
おいおい。さすがのトウカイテイオー様でも困っちゃうぞぅ。 マヤノがそんなふうに目を真っ赤に腫らして大粒の涙をぼろぼろ溢してたらどうしたらいいのか分からなくなっちゃうぞぅ。 うーん、とボクが唸っている間もマヤノは時折鼻を啜りながらしくしくと泣いていた。 外のささやかな雨音と灯りのついていない薄暗い部屋。少女の小さな嗚咽。なんだかドラマのワンシーンみたいだった。 それでも慎重にボクは言葉を選んだのだが、やっぱりどう考えてもそれしか回答は用意出来なかった。 当たり障りの無い言葉で慰めて、っていうのはボクらしくない…かな?どうだろう分からないけれど、それはボクがマヤノに取るべき態度じゃないもんね。 「それは…もっと喧嘩するしか、ないんじゃないの?」 ぱちぱち。カメラのシャッターを連続で切ったみたいに素早く閉じたり開いたりするマヤノの瞼。 「もっと…?もっと喧嘩したら、もっと仲悪くなっちゃうかもしれないのに…?」
6 21/04/05(月)01:26:37 No.789932660
「うん。だって喧嘩するってことはお互いに考えていることや大事にしてることがすれ違ってるってことでしょ? そのへんなぁなぁにして誤魔化して付き合う関係もあるんだろうけど、でもウマ娘とトレーナーは二人三脚なわけじゃん。 少なくとも…ボクは嫌だね。ボクもトレーナーにはボクのことだけをずっと見てて欲しい。だから食い違ったらとことん喧嘩するよ」 「テイオーちゃん…そんなにトレーナーと喧嘩するんだ?」 「するする!なんなら今日もしたよ!病院で検査をするしないで軽く1時間は揉めたね!」 ボクは病院は嫌だって言ってるのにボクのトレーナーたら全然話聞かないんだから。 仕方ないから折れてやったよ。感謝するんだぞトレーナー、トウカイテイオー様の海より広い心に。ぐすん。 ボクの言葉の消化に手間取っているのか、しばらく涙目でボクをじっと見つめてじっとしていたマヤノだったけれど…。 やがて瞬きを繰り返すたびに光が宿っていった。涙の膜が光を反射するぬめった光じゃない、雲の切れ目から差し込んでくるみたいに瞳の奥から溢れ出てくる光だ。
7 21/04/05(月)01:26:49 No.789932694
「そっかぁ…。マヤわかった…。 いつもみたいに“わかる”んじゃなくて、頑張って“分からなきゃ”いけないことだったんだね…。 トレーナーちゃんと喧嘩して、お話して、それでちゃんと埋めなきゃいけなかった隙間をこれまで埋めてこなかったんだね…」 「と、ボクは思うけどね~」 なんてボクが適当に相槌を打った途端だった。 いきなりマヤノが跳ね起きた。白兎みたいになってる目のまま、がばっと部屋着を脱ぎ捨てた。 そうして目を白黒させているボクの目の前で半裸のマヤノはジャージを引っ掴んであっという間に着替えたのだ。 「ま、マヤノ?」 「テイオーちゃん!マヤ行ってくる!」 「行くってどこに、って今の話じゃひとつしか無いや!でももう門限過ぎて」 「関係無いよっ!今行かなきゃいけないってマヤわかったの!だから行ってくる!トレーナーちゃんのところへ!」 ちょっと待って、ってボクは言おうとしたよ。 言おうとしたんだけど口を開いた時には背を向けていたマヤノはつむじ風みたいにドアを開けて出ていったよ。
8 21/04/05(月)01:26:59 No.789932727
おいおいおい。…まぁでも、この方がマヤノらしいかな。ボクだってさっきみたいな調子のマヤノと今晩を過ごすのは勘弁して欲しいしね。 「…お互いにお互いのことを魔法使いだと勘違いしてるんだよね~」 なんでも出来てどんな夢も叶えてくれる凄い魔法使い!そんな魔法使いの手を離さないように追いかけるのでお互い必死っていう。 それに気付けないくらいにはマヤノたちは上手く行き過ぎてたし、仲が良すぎたのだ。 初々しいな~。ま!ボクとトレーナーのが絶対に最強で最高な関係だけどね!そこらへんマヤノにだって負けやしないよ。 「さぁて、寮長にはなんて言おうかな。そっくりそのまま話したほうが納得してくれそうかな~」 ボクはマヤノのあまりにも堂々とした寮則破りのフォローをするべく、マヤノが飛び出していった部屋のドアノブに手をかけた。 だって親友だからね。トウカイテイオーはトモダチのピンチを見捨てないのだ。
9 21/04/05(月)01:32:05 No.789933691
テイオーはいい子だなぁ…
10 21/04/05(月)01:32:38 No.789933783
風邪にかかってしまわないといいのですが
11 21/04/05(月)01:33:01 No.789933856
馬場は不良となっております
12 21/04/05(月)01:34:30 No.789934141
この後の仲直りに注目です!
13 21/04/05(月)01:34:56 No.789934230
ずぶ濡れのマヤノ
14 21/04/05(月)01:36:45 No.789934578
少しかかり気味では無いでしょうか? お互いの未来には合っていますね
15 21/04/05(月)01:38:53 No.789934988
>キャリアの無い新人の女トレーナー >そんなならもうトレーニングもしないしデートもしない 同性同士というのは生産性に欠けているのではないでしょうか? ですが私の性癖には合っていますよ
16 21/04/05(月)01:39:46 No.789935139
科学技術の発展による同性での生産性の向上に期待ですね
17 21/04/05(月)01:41:30 No.789935467
ストーリー自体が本当にさらさらと雨の降る日のイメージでいい… 上手く程よいしっとり感が出てるなあ
18 21/04/05(月)01:45:39 No.789936200
仲良すぎるが故の齟齬いいよね
19 21/04/05(月)01:46:43 No.789936405
この空気めっちゃ好き…
20 21/04/05(月)01:48:29 No.789936742
私が応援しているカップリング 頑張ってほしいですね
21 21/04/05(月)01:51:40 No.789937375
湿ってひんやりしてたのに最後で物凄い勢いで換気された
22 21/04/05(月)01:51:43 No.789937384
偶然にもお隣と立場が逆になってる どちらが助ける立場のバージョンでも優しい世界である、同室の関係いいな
23 21/04/05(月)01:55:06 No.789938003
マヤノにもテイオーにも泣いてほしくないよ…
24 <a href="mailto:s ">21/04/05(月)01:59:49</a> [s ] No.789938796
>バイト制限で削った文 割とスタイルは良くてさ~。胸は多分会長よりもうちょっとだけ大きいかな。テイオー調べ。
25 21/04/05(月)02:02:22 No.789939220
バスト制限に見えてちょっとビックリしちゃったバイト制限だった
26 21/04/05(月)02:25:31 No.789942625
この後一杯喧嘩した
27 21/04/05(月)02:33:42 No.789943659
マヤのトレーナーが自分の才能には自信がない感じなのいいよね
28 21/04/05(月)02:38:44 No.789944310
何でもわかっちゃうマヤがわかんない!ってなるのは雨が降るよね
29 21/04/05(月)02:52:27 No.789945804
元気な子が泣いてるといいよね…
30 21/04/05(月)03:07:38 No.789947236
いい…
31 21/04/05(月)03:16:49 No.789948029
天気よくなるといいですね
32 21/04/05(月)03:22:19 No.789948463
やまない雨はないんだ
33 21/04/05(月)03:26:54 No.789948828
>科学技術の発展による同性での生産性の向上に期待ですね ウマ娘同士で子供作れるようになっちゃったら人類は駆逐されない?
34 21/04/05(月)03:35:30 No.789949421
>ウマ娘同士で子供作れるようになっちゃったら人類は駆逐されない? 何か問題が?
35 21/04/05(月)03:59:13 No.789950906
そもそもウマソウル問題があるからウマ娘同士の子供でも普通の人間になるって可能性を忘れがちである