ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/03/15(月)00:51:11 No.783544241
まるで紅葉が湖の上へ浮いているかのようにコースは茜色で美しく染まっていた。 「はっ、はっ、はっ…!」 夕暮れの光に燃える芝の上をディープインパクトが颯爽と駆けている。 水面の上を滑るように飛ぶ水鳥のような、宙に浮いているのではと錯覚させる艶やかな走り方だった。 彼女のトレーナーでも無いのにようやくここまで来たという奇妙な感慨が胸にある。 それくらいディープインパクトにとってこれまではひたすら我慢の日々だった。 彼女の本能めいた走ることへの執着とそれを押さえつけて肉体改良に取り組む姿の慎重さはまるで爆弾解体でもしているかのようだった。 ともすれば破裂しそうになる彼女が壊れてしまわないように、本数を定めて適度に疾走させるガス抜きの全てに付き合ってきた。 苦だなんてまるで思わなかった。暗闇の中を全力で駆けるディープインパクトの姿は何よりも凄烈に映った。 気高く、美しく、澄み切ったものと向き合っている。トレーナー冥利に尽きる。まだ新人だけれど。 だがそんな日々もきっと残り僅かだ。 積み上げ続けた努力は彼女を裏切らなかった。 前はすぐ怪我していたのに、今はもうあんなに全力で走っても揺るがない。
1 21/03/15(月)00:51:23 No.783544296
ディープインパクトにレースの出走へ耐えうる身体が出来上がったことの証だった。 彼女が公式戦へデビューする日は間もないはずだ。だがそこに一抹の寂しさも感じてしまう。 (ディープがデビューするってことはあの子の練習に付き合ってきた日々も終わるってことなんだよな…) この子の才能は本物だ。その走りを見ればどんなトレーナーだって放っておかないだろう。 自分のようなまだ誰も手掛けたことのない新人トレーナーにこんな大器のお鉢が回ってくるはずも無かった。 出来ることといえば、せめてその日までに彼女が故障しないよう見守ってあげるくらい…。 …そんなふうに感傷混じりにコースを眺めていたから、声をかけられるまで横に立った気配にまるで気づかなかった。 「凄いな、彼女の走りは。まさに疾風迅雷。これほどの才は百年にひとりと言っても過言ではないかもしれない」 「えっ!?」 急に声がしたのにも驚いたし、慌てて顔を向けた先にいた人物にも驚いた。 緩くカーブを描く長髪を夕陽で輝かせるそのウマ娘はトレセン学園で知らぬ者はいない有名人だったのだ。 彼女は先程の自分と同じように目を細めてディープインパクトを見つめていた。
2 21/03/15(月)00:51:33 No.783544349
「何より目を奪われる。見る者の心を強く揺さぶる華が彼女の脚にはあると感じないか?」 「あ、ああ…。そうだな。同感だ…」 取り立てて他と違う特徴があるわけでも無いのに彼女が着ていると学生服さえ凛とした衣装に見えてくるから不思議だ。 トレセン学園の生徒会長、シンボリルドルフはそんな静かな威厳をいつも纏っていた。 「急にすまない。ただ君たちのことはよく生徒会室から見ていたんだ。 いや、それを責めに来たというわけでは無いよ。ただ一度は間近で見てみたいとそう思ってね」 …こっそりやっていたガス抜きだが、会長にはバレていたらしい。 コースの柵に腕を乗せ、ディープインパクトの飛ぶような走りをシンボリルドルフが見つめている。 夕陽の加減のせいかその目には稚気が宿っているようだった。子供が大空を征く鳥の美しさに燥ぐような。 「美しいな…。美しく、速い。大舞台を一着で駆け抜ける様が目に浮かぶようだ」 「うん。ディープになら三冠だって決して夢ではない、そんな気がするよ」 「…三冠か」 ウマ娘ならば誰もが一度は思い描く最高の栄冠のひとつ。三冠ウマ娘。 数えるほどしかいない達成者のひとりはしみじみと呟いた。
3 21/03/15(月)00:51:43 No.783544393
「三冠を成し得たようなウマ娘の内にはね、常に鬼が住んでいるんだ」 「鬼、ですか」 「ああ。自分を根こそぎ焼き尽くしてしまいそうなほどの煮え滾る何かだ」 柵に身体を預けて見学するシンボリルドルフの表情は陰になっていて見えなかった。 「それは味方でもあるが、時に敵にもなる。 ふとした瞬間に容赦なく自分自身へ牙を剥く。何処かで必ず折り合いをつけることになる。 もし彼女の内にもそんな鬼が住んでいるのだとしたら…。 ひとりでは乗り越えられないそれと向き合う時、彼女を支えてやれるのはきっとトレーナーである君の責務になるだろう。 どうか視座を共有してあげて欲しい。果たせずともその姿勢はきっと彼女の一助となるはずだ」 「…ディープのトレーナーになると決まったわけじゃないよ」 「おや、そうだったかな」 こちらを向いて悠然とシンボリルドルフは微笑んだ。丁度その時だ。ディープインパクトが戻ってきたのは。 走り出す前はいなかった会長の姿が不思議だったのか小さく小首を傾げた。 「…?こんにちわ、会長。私に何か御用でしょうか」 「やぁ、ディープインパクト。そうだったね。大事な用事があるのを思い出したよ」
4 21/03/15(月)00:51:55 No.783544467
そう言ってシンボリルドルフが懐から取り出したのは一枚の用紙だった。 記載されている内容にディープインパクトは目を丸くした。 「これって…選抜レースへの登録用紙…でも今回はもう締切を過ぎていたんじゃ…」 「その通り。だが君は一度見送っている身であることだし、事の次第によっては私が推薦して出られるようにしよう。 聞きたいことはひとつだ───ディープインパクト。君はレースに出てももう大丈夫か?」 トレセン学園の生徒会長は静謐な眼光でこちらを見据えた。 ディープインパクトの体躯の問題のことは把握済みなのだろう。真剣な表情だ。 傍らの彼女と視線が合う。目の奥まで覗き込むような交錯の後、小さく頷いた。 なら答えはひとつだ。 「大丈夫だディープ。───もう我慢の必要はないよ」 その時ディープインパクトの目の中で何かが動いた。ごう、と揺らめいたそれは炎のようだった。 ふ、と微かな笑い声が耳に届く。シンボリルドルフの唇からそれは漏れていた。 「記載項目を埋めて明日中に持ってきてくれ。君の活躍に期待する、ディープインパクト」 用紙を渡し踵を返してその場から立ち去ろうとする彼女の背へつい問いかけていた。
5 21/03/15(月)00:52:05 No.783544512
「シンボリルドルフ。その鬼は君の中にもいたのか?」 横顔だけ振り返った三冠ウマ娘は困ったように──力強く──微笑んでいた。 「それについては秘密だ。あまり堂々と人へ教えられるほど立派なものでは無かったからね」 涼やかに歩き去っていく“皇帝”の後ろ姿にディープインパクトがありがとうございますと言ってぺこりとお辞儀をした。
6 21/03/15(月)00:52:18 No.783544584
これまで su4685389.txt
7 21/03/15(月)01:01:47 No.783547526
どうした急に
8 21/03/15(月)01:03:00 No.783547851
プイ文書
9 21/03/15(月)01:13:53 No.783550589
カイチョー!?
10 21/03/15(月)01:22:08 No.783552613
最近かっこいい会長のほうが希少になりつつある
11 21/03/15(月)01:28:53 No.783554390
プイ…
12 21/03/15(月)01:40:25 No.783557099
続ききてた
13 21/03/15(月)01:47:06 No.783558559
書き込みをした人によって削除されました
14 21/03/15(月)01:47:21 No.783558615
プイ文書ありがたい…
15 21/03/15(月)01:50:16 No.783559246
2歳新馬戦のぶっちぎり方はヤバかったですね
16 21/03/15(月)01:52:23 No.783559678
ここ暫くディープインパクトのプイ文章…いや待てプイ文章ってなんだ
17 21/03/15(月)01:53:49 No.783559996
いつまでも思うけどプイプイって呼び方がかわいい