虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    20/06/06(土)00:59:41 No.696696886

    「…何?任務があるんでしょ?私に構ってる暇はないと思うんだけど。ちゃんと自分の仕事をしなきゃ。私もその為に来たんだから」 嗜めるようにはっきりと口にする。それなりに刺のある言い方だったと思うのだが、目の前の彼は意に介する様子はない。 「ごめんごめん、ちょっと休みに来ただけ」 屈託なく笑う彼の顔に、こちらの言葉が届いた様子はない。 こういう人間なのはわかっていた。サーヴァントを道具ではなく、対等な仲間として扱う。それが彼流のやり方だと。 けれど、それを私にまで適用されては困る。サーヴァントとマスターの関係は契約の上でのみ成り立つ。そこに私情の介在する余地はないはずだ。 それに何よりも、私が慣れないのだ。まるで同年代の異性のような、気安い関係に。 「ねえ、私ちゃんと忠告したよね。サーヴァントは道具なんだから、きちんと一線を引かなきゃ駄目だって。 だから私なんかよりも、もっと一流のサーヴァントにリソースを割いて」 はっきりともう一度口にする。しばらく黙りこんだ彼を見て、流石に言い過ぎたかと思っていたが、返ってきたのは意外な言葉だった。

    1 20/06/06(土)01:00:00 No.696696995

    「エリセは真面目だね。なんだか懐かしいなぁ」 「…」 馬鹿にしているのか、と言い返そうとしたが、言葉を呑んだ。彼は私を通して、何か手の届かないものを眺めているようだった。 「…ここに来る前は普通に学校に行って、エリセみたいな年の近い友達もいてさ。よく言われたんだ、あなたは抜けてるところがあるんだからしっかりしなさいって… こんなこと話しても仕方ないな。ごめんね、エリセが嫌ならちゃんと言う通りにするから」 訥々と話す彼の顔は、どこか寂しげだった。 「…別に、サーヴァントと話すのが悪いことだとは言ってない。あんまりベタベタしすぎるのはよくないから、気を引き締めるために言っただけだよ。 だから…たまになら、話しに来てもいいよ」 「ありがとう。エリセと話すの楽しみにしてたから、嫌だって言われたらちょっと残念だった」 「君も物好きだね…ほんとに、しょうがないな…」 口元が綻ぶのは、彼がいなくなるまで努めてこらえた。 そっか。君は、私にいてほしいんだ…

    2 20/06/06(土)01:00:39 No.696697224

    「これって…」 ある日、マスターから渡されたそれを見て、私は少なからぬ動揺を覚えた。 もっとちゃんとしたサーヴァントに資源を使えという常套句は、過去のものになって久しい。一緒に時間を過ごしている人から贈られる物も、いつしか躊躇わずに、素直に好意の証として受け取れるようになっていた。 けれど、今手にしているものは別だ。これはいくらなんでも、あっさりとは受け取れない。 「聖杯、だよね」 「うん。ちょっと加工してもらったけど」 それは、大量の魔力が込められていると一目で判るが、見た目は可愛らしい髪飾りだった。 手の込んだ代物とすぐわかる、精巧な装飾と造詣。嵌め込まれた翡翠は、私の思い上がりでなければ、私の首飾りに合わせてしつらえたものだろうか。 彼がここ最近、忙しなさそうに何かを頼んで回っていた姿が脳裏に浮かんだ。

    3 20/06/06(土)01:01:50 No.696697550

    「いいの、私なんかに、こんな──」 封印していたはずの遠慮の言葉が、すっと浮上してくる。いいのだろうか。半人前の自分がこんなものを貰って。もっと上手く使える人がいるのではないか── 「エリセはもう半人前なんかじゃない。これを受け取るのに相応しい、立派なサーヴァントだよ」 「…本当に?私、ちゃんと君の役に立ててる?」 「うん。だから、精一杯できるお返しがしたかったんだ」 手にしたブローチがとても重く感じる。けれど、とても温かい。 「…きっと、エリセの欲しかったものじゃないけど。でも、エリセに受け取ってほしかったんだ。俺にできる、一番大切な贈り物だから」 そう言った彼の眩しい笑顔は、逡巡は を喜びにかき消してくれた。 「…ううん、嬉しい。ありがと、マスター」 彼の気持ち。私を必要としてくれる、私を大切にしてくれる、偽らざる気持ち。 それが今、はっきりとこの手の中にある。 ああ── ここに来て、よかったな。

    4 20/06/06(土)01:02:32 No.696697753

    「そんな、あなたはそんなことを、今までずっと──」 彼の口から聞かされた言葉が、頭の中で反響する。 異聞帯。世界の生き残りを賭けた生存競争。 世界を救うために、別の世界を切り捨てる、残酷極まりない運命の話が。 「うん…失望した?」 そう言う彼の声からは、笑顔を絶やさぬ快活な少年らしさは少しも感じ取れない。 「そんなこと…!仕方、ないよ。自分の居場所を、世界を、守るためには」 覚束ない思考を纏めて、頭の中を漁って必死で見つけた言葉をなんとか絞り出す。

    5 20/06/06(土)01:02:43 No.696697804

    「本当にそう?本当に、それでいいのかな。 自分たちが生きる為になら、他の人たちを傷つけても、本当にいいのかな──」 有り体な弁護しかできない自分が本当に腹立たしい。そんな正論など、何の慰めにもなりはしないのに。 「…っ…! でも、なんで今になって…」 「…本当はずっと言わないでおこうと思ってたんだ。エリセの夢を壊したくなかったから。 でも、もう誤魔化すのは無理。次の出撃は、きっと次の異聞帯だから。 それに、エリセをこれ以上、騙したくない」

    6 20/06/06(土)01:03:18 No.696697970

    自分の頬を思い切り打ちたくなった。私が英霊たちに囲まれて浮かれていた時にも、彼はこんなにも苦しんでいたのか。 私のために、必死で苦痛に耐えて。 「…ごめんなさい。私の、せいだよね。私に同情する権利なんてないよね」 いっそ、そうだと肯定してくれればどんなに楽だったか。彼が私を責めてくれたら、この惨めな気持ちもいくらか晴れたろうに。 でも、彼は残酷なまでに優しかった。 「…ううん、ありがとう、心配してくれて。謝るのはこっちのほう。エリセのこと、裏切って、嘘ついて」 悲しいほど小さな、自分を責める声。 そんな彼の手を握ることしか、私にはできなかった。

    7 20/06/06(土)01:03:31 No.696698029

    「お願い、これだけは忘れないで。 …私は、あなたにいなくなってほしくない」 弱々しい声だったけれど、自分の偽りない想いを告げた。例え誰が何と言おうと、私には彼が必要なのだ。 「…本当にありがとう、エリセ。 ごめんね、どうか泣かないで。悲しませたかったわけじゃないのに──」 癒してあげたいのに。慰めてあげたいのに。 その当人に、同情されている。 そんな自分がどうしようもなく情けなくて、また涙が零れた。

    8 20/06/06(土)01:03:47 No.696698101

    朗らかに笑っていたあの人の背中が、その日を境に、ひどく痛ましく見えた。 無理をして笑っていたのではないか。今までも、そしてこれからも。 そう思うと、もういたたまれなかった。助けたかった人たちを皆のために切り捨てる痛みは、私も少しは知っているから。 あの人の背負っていた物が判って、子供のように泣いていた。 ひどいね。本当に辛いのは、泣きたいのは、あの人のはずなのに。 言葉が虚しく空を切った。たかが一四の小娘がこんな重い使命を背負っている人を慰められる言葉なんて、持っているはずがないのだから。 でも、あの人だって子供だ。何の力も責任も負う必要なんてない、ただの善良な子供なのに。 運命は本当に残酷だ。 何の罪もない人を、求めてもいない試練に放り込んで、愉しそうに眺めている。 ああ、どうして── どうしてあの人を、こんなにも苦しめるのですか──

    9 20/06/06(土)01:04:37 No.696698310

    あの日からしばらく、彼と話せていなかった。顔を合わせるのも気まずくて、自然と距離を取るようになった。 そうしているうちに、次の作戦の日が迫っていた。 「…あのさ、今日の夜は暇? じ、じゃあさ、私にちょっと付き合ってよ」 人を誘うなど初めてだったから、ひどく震えた声だったに違いない。 それでも彼は、優しく応じてくれた。 自分の寝室のベッドに腰かけて、ベッドサイドの照明だけを点ける。柔らかな光が暗い部屋に、私たちの影をそっと浮かび上がらせた。

    10 20/06/06(土)01:04:49 No.696698375

    「お願いがあるの。 次の出撃は、私も連れていって。 これからは嫌なことがあったら、私に言って。あなたがしたくないことは、私がやるから」 私にできるのは戦うことだけだ。偉大な芸術家たちのように人の心を動かすことも、王たちのように奮い起たせることもできない。 なら、私は私のできることをしなくては。 「…エリセに、そんなことさせられない」 「…優しいね。ありがとう」 それだけで、私は戦える。 「でも、私は君のサーヴァントだから。マスターの苦境を救うのが、立派なサーヴァントの使命でしょ?」 こう言えるようになったのも、君が私を見てくれたからだ。 だから、今度は私が頑張らないと──

    11 20/06/06(土)01:05:13 No.696698488

    なげぇ!? ありがとう!?

    12 20/06/06(土)01:05:40 No.696698623

    彼の表情は、まだ暗いままだ。私の決意も彼の心を楽にしてあげるには到底足りないのではないかと、不安が過る。 抑えきれない想いが、言葉になって溢れだした。 「…ねえ、立香は、どうして私と一緒にいてくれるの? 本当に、私でいいの?」 私の問いかけに、彼がはたと顔を上げた。 「私は、あなたと一緒にいたい。私なんかがあなたの苦しみを軽くしてあげられるとは思えないけど、それでも一緒にいたいんだ。だって──」 私とあなたは、同じだったから。 あなたは、私を必要としてくれたから。 「あなたは英雄じゃない。偉大な魔術師でもない。 でも、それでいい。私には、それで十分だよ。 あなたは、私の、大切な人だから──」 そっと抱きしめた彼の体は、思った以上に軽かった。 ──こんな小さな体に世界を背負って、今までずっと戦っていたのか。 嗚咽で息が詰まりそうになる。でも、言わないと。伝えないと──

    13 20/06/06(土)01:06:09 No.696698746

    「…だから、どこにもいかないで。 ずっと、私のそばにいて──」 消えてしまいそうな彼を繋ぎ止めたくて、耳元でそっと囁いた。 「エリセ── ごめん、俺、ずっと…ごめんね…!!」 泣いていた。私も、彼も。 寂しいものどうしが二人寄り添って、ずっと、泣いていた。 「今更、かもしれないけど… 本当に、私でいいの?」 先刻の言葉を、もう一度問い返す。彼の心がまた曇ってはいないかと、確かめるように。 でも、彼ははっきりと私の目を見つめ返してくれた。 「──エリセがいい。エリセに、そばにいてほしい」

    14 20/06/06(土)01:06:20 No.696698790

    「そっか。私、ここにいていいんだね…」 私もあなたも、もう独りでは生きていけない。 だから、いいよね。 今だけは、こうしていても。

    15 20/06/06(土)01:07:54 No.696699192

    長くなったのは反省している 後輩の視線に耐えられなくなって弱音吐いちゃうぐだと優しくされて絆されたところに重いもの背負ってるって知ってもう放っておけなくなるエリちいいよね怪文書です su3951309.txt

    16 20/06/06(土)01:08:12 No.696699257

    いい…

    17 20/06/06(土)01:09:19 No.696699550

    20歳くらいの男とJCの傷の舐め合いいいよね…

    18 20/06/06(土)01:10:31 No.696699869

    歳も経験もリアル後輩は貴重

    19 20/06/06(土)01:14:32 No.696700989

    自分だけが普通じゃなかった者と自分だけが普通だった者の組み合わせいいよね…

    20 20/06/06(土)01:19:59 No.696702436

    >自分だけが普通じゃなかった者と自分だけが普通だった者の組み合わせいいよね… いい…二人で悩み抜いてほしい…

    21 20/06/06(土)01:23:04 No.696703200

    美しいものを見た

    22 20/06/06(土)01:25:29 No.696703757

    ある意味では誰よりも聖杯を意識して生きてきてたからね…

    23 20/06/06(土)01:31:54 No.696705137

    この二人には取り返しのつかないところまでいってほしい

    24 20/06/06(土)01:41:17 No.696707187

    曇るか曇らないかで言ったらエリちは絶対に曇るからな…