虹裏img歴史資料館

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20/05/19(火)21:24:01 ――その... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1589891041592.jpg 20/05/19(火)21:24:01 No.690986414

――その人が、ジェシカさん… あの時、自分が発することの出来た、たった一言。 無事ですか? ではなく。 助かって良かったですね、でもなく。 言われた側からすれば、あってもなくても変わらないような、そんな一言。無意味な言葉。 いや、きっとそれは口にした私自身にとっても、無意味な言葉だ。だって、なにも聞いていないのと同じだから。 聞けなかった、その勇気がなかったという事実を、この上なく突きつけてくるものだから。 …自分で自分にかけてしまった、呪いのようなものだから。 火の精霊の助力を得ることに成功し、私達はオアシスの村まで戻ってきた。 時刻は既にシェイドの刻を回っており、砂漠の夜は危険だというホークアイとニキータの言葉に従い、私達はここに留まることになった。もっとも、あの二人は時刻に関係なく、ジェシカさんを休ませるためにこの村を目指していたのだけれど。

1 20/05/19(火)21:24:57 No.690986815

――もし、それでも先を急ぐと私達が言い張っていたら、彼はどうしただろう? ジェシカさんの様子を見守るために、ここに残ると言っただろうか。 いや、とかぶりを振る。その問題は、仮定になっていない。だって、明日の朝にでも直面する事になるかもしれないのだから。 彼の目的は、あの少女を助けることだった。死の首飾りという古代の禁呪から解き放ち、美獣の手から救い出すことだった。そしてそれは、どうにか果たすことができた――彼の二人の仲間の命と引き換えに。 だから明日もし、彼がここに残ると、そう告げたら。その時、私は―― 考えたくもない事が、ぐるぐると頭の中で巡っている。自分の情けなさ、彼がいなくなってしまうかもしれない不安、そして彼にとって大切な存在なのであろう、あの少女。 こんな状態で眠れるはずがないと判断し、私はベッドから下りた。立てかけてあった槍を掴み、外へと出る。 こんな時は、一心に槍を振ろう。それでくたくたになってしまえば、きっと何も考えずに眠ることができる。悩みがある時には、昔からずっとそうしてきた。 ――単に悩む事を放棄しているだけのような、そんな気もしたけれど。

2 20/05/19(火)21:25:18 No.690986978

「あれ、リース? 寝たんじゃなかったのか?」 宿を出てすぐに、声をかけてきたのはデュランだった。隣にはケヴィンの姿も見える。 二人ともかなりの軽装だったけれど、うっすらと汗をかいているのが見て取れた。特にデュランの方は剣を持っているので、なにをしていたのかすぐに見当がつく。 「ええ、その…眠れなくて。鍛錬なら、ご一緒してもいいですか?」 「ああ、もちろん。つっても、寝る前の整理体操みたいなモンだけどな」 時刻を考えれば、そうなのだろう。この二人が並んでこうしている姿を見るのは、別に珍しいことでもない。 ――しばし、三人とも無言だった。得物が空を切る音だけが響く。 たぶん、私のせいだ。意外に鋭いところのあるこの二人は、私の振るう槍に迷いのようなものがあるのを感じ取ったのだろう。 「あー…その、なんだ。一応、ホークアイも誘ったんだがな」 素振りの手を止めることなく、デュランが口を開く。私の動きが少しだけ(本当に少しだけだ)鈍くなった。

3 20/05/19(火)21:26:05 No.690987320

「ずっとあの子の傍にいたって疲れるだろうし、あのニキータってのと交代で看たらどうだ、って言ったんだけどな」 彼はそこで言葉を濁らせた。別にその先は、言われなくともわかる。 …自分が疲れていようが、それでもジェシカさんを放っておけないのだろう。今日までに何度も目にした彼の必死な顔を思い起こせば、まったくもって当然の結論だった。 「…に、にしてもホークアイのヤツ、こういうのには付き合い悪いんだよな! 今までにも何度か誘ったんだぜ?」 またしても私の動きからなにかを悟らせてしまったのか、デュランは急に声色を変えて言ってきた。…ちょっと、申し訳ない。 彼の言う通り、デュランとケヴィン(それから私もだ)が旅の間にこうして鍛錬に励んでいる姿は何度も目にしたものの、他の三人がそれに加わったところは見た記憶がない。 まあアンジェラとシャルロットは、魔物と対峙した際の役割というものをきちんと理解した上で、前線は完全に私達四人に任せるべきだと割り切っているのだろう。それが最も効率的なのだと。私としてもその方針に異論はない。 けれど、ホークアイは――

4 20/05/19(火)21:26:24 No.690987478

「腕が立つのは間違いないんだが、なんなんだろうな。俺達に見つからないようにしてんのか?」 確かに、変だ。彼の短刀捌きは間違いなく鍛錬を積んだ者のそれで、そして彼は別段、努力が嫌いというわけでも、それを隠すことに美学を見出しているわけでもない。 にも関わらず、私は彼が実戦以外で武器を振るっている姿を見たことがなかった。料理の時に刃物を握っているくらいだろうか。 思わず武器を振る手を止め、私とデュランが首を傾げていると。 「た、たぶん、なんだけど…」 それまで無言で拳を突き出していたケヴィンが、口を開いた。二人して彼の方を見る。 「オイラなんとなく、ホークアイの考え、わかる」 「え?」 ケヴィンが? という我ながら失礼極まりないと思う言葉は、どうにか口に出さずに済んだ。 デュランにしても彼の言葉は意外だったらしく、聞き返す。 「あいつの考えって――どういうことだ?」 「えっと…オイラ、説明するのニガテだから、うまくできないかもしれないけど」 ケヴィンもまた動きを止め、たどたどしく後を続けた。

5 20/05/19(火)21:26:51 No.690987651

「デュランの剣と、リースの槍。どっちもすごい。きっと、昔から練習してきたから。だから二人とも、それを…えっと、自信にできてる」 私はデュランと顔を見合わせた。ケヴィンの言う通り、私の槍術は物心ついた時から身に着けてきたもので、それが少なからず自分という人間そのものに根差している。拠り所のひとつ、と言ってもいい。それはデュランの剣術も同じだろう。 「オイラも、今は…獣人王から叩き込まれた、格闘術。結構、自信になってる」 …微妙な言い回しだった。私やデュランの目から見れば、ケヴィンの体術は結構なんていうレベルじゃない。超人的とさえ言っていい程だ。それこそ、獣人と人間の身体的能力差を差し引いたとしても。 「でもオイラ、昔は、そんなふうに思えなかった。なにも考えずに、ただ、獣人王の教えを吸収するだけで…カールと、会うまでは」 そこで彼の表情が僅かに歪んだ。…あまり、思い出したくない部分に触れてしまったのだろう。 「えっと、だから…うまく、言えないんだけど。ホークアイも、同じなんじゃない、かな」 「同じ…?」 「うん。きっと、ホークアイ、自信…違う。そうじゃなくて…」

6 20/05/19(火)21:27:18 No.690987843

「――誇り、か?」 ケヴィンの言葉をデュランが繋ぐ。ケヴィンはあっと唸り、 「そう、それ! 誇りに、思ってない」 彼の言葉に。 思い当たる節が、ないわけではなかった。ホークアイが、恐らく幼い頃から叩き込まれた技術。ナバール忍軍の、ひいてはナバール盗賊団の一員として、身に着けざるを得なかった経験と知識。 それらはつまるところ――何かを盗むか、あるいは誰かを殺すためのものなのだから。 私やデュランの武術とは、根本的に異なる――かどうかはわからないけれど、少なくとも彼はそう思っている。だから、決してそれを誇ったりしない。それは彼の中にあるナバール盗賊団への帰属意識とは、また別の問題なのだろう。 ――沈黙が訪れる。私もデュランも、何を言うこともできなかった。 けれど、私の中で一つ。はっきりしたことがあった。これまでになんとなく感じていたものの、あまり考えないようにしていた疑問と、その答え。 彼は。ホークアイは。 私達との間に、決して越えさせようとしない、明確な一線を引いているのだ、と。 それを、改めて思い知らされて、私は―― どうして…脚が、震えてるんだろう。

7 20/05/19(火)21:27:31 No.690987945

みたいな怪文書を誰かが書いてくれるとありがたいと思いつつもどんどん長くなってきて申し訳ないとも思う次第です

8 20/05/19(火)21:27:38 No.690987992

だからお前が書くんだよ! 書いてた!いつもありがとう!

9 20/05/19(火)21:29:21 No.690988785

脳筋パーティっぽいのにめっちゃ気を使ってる…

10 20/05/19(火)21:30:39 No.690989372

割と気遣いはできる連中だし…

11 20/05/19(火)21:31:17 No.690989689

>みたいな怪文書を誰かが書いてくれるとありがたいと思いつつもどんどん長くなってきて申し訳ないとも思う次第です 多分こっちが書かない分ネタがそちらに流れていると思うので頑張って欲しい

12 20/05/19(火)21:34:28 No.690991220

怪文書かくこともあるけどこんなに完成度高いの俺には無理だよ…

13 20/05/19(火)21:35:26 No.690991671

怪文書っていうかSSじゃん…いつもありがとうございます…

14 20/05/19(火)21:41:57 No.690994532

今日もありがとう…

15 20/05/19(火)21:52:32 No.690999143

最近の生きがいありがとう…

16 20/05/19(火)21:53:40 No.690999685

毎日この完成度の怪文書投稿するのほんと尊敬するしありがたい…

17 20/05/19(火)21:56:41 No.691001007

今日は朝からホークリが多くて幸せだ…

18 20/05/19(火)22:02:34 No.691003646

ホークアイが超えさせようとしない一線を超えて幸せにしてくれリース…

19 20/05/19(火)22:09:14 No.691006771

ローラント仕込みの技でホークアイを幸せにしてくれ

20 20/05/19(火)22:20:35 No.691012249

>ホークアイを幸せにしてくれ うn >ローラント仕込みの技で うn?

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