虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    20/05/10(日)23:52:21 No.687945922

    「はーいそれではただいまより、メンバーとのチェキ会に入りまぁーっす」 ステージの上に立つあの人の声が拡声器越しにフロアに響いて、周囲の喧騒も合わせて高鳴る。 …私の胸も、高鳴る。 勿論、ここまでの流れである彼女達のライブに熱くならなかったわけじゃない。 けれどそれとはまた別。高揚じゃない別の何かが私の胸を更に高鳴らせる。 (でも、どうしよう。あの話、本当なのかなぁ?) 私が悩んでいる内に、周りの人達は各々の推し…彼女達の元へ向かい、それぞれ列を作り始める。 一人、また一人。 立ったまま動かない私だけが異質のように、忙しなく人歩いて行く。 そうして皆が列に並んで、私一人だけが列から離れた場所に居て、ようやく私も決心が着いた。 自分の鞄に手を入れて、がさりがさり。 (あれ!?も、持って来たよね?あれぇ!?) 家を出る前に散々確認した物を、焦りすぎて見つけられない。 「……あった!」 あっ…と口を塞いだけれど、最早手遅れ。周りから送られる視線と恥ずかしさから、しなしなと萎縮してしまう。

    1 20/05/10(日)23:52:49 No.687946078

    下を向いて萎縮の原因である鞄を握りしめていれば、自然と周りの興味も移っていく。 迂闊さと自分の顔の熱さに、小さく小さく溜め息一つ。 正直恥ずかしくて、もう帰りたい。だけど、このまま帰れない。 (…うん、大丈夫。もう落ち着いた……っ!?) ようやく取り戻した冷静さが、顔を上げたのと同時に何処かへ再度旅に出た。 目が合った。あの人と目が合った。 彼女達がそれぞれの場所でチェキを撮っている中、今もステージ上から会場を見守る彼。 高い身長、赤いチョッキ、黒のジャケットに胸ポケットのゲソ。 そして目をサングラスで隠した、彼。 彼と、目が合った。 彼がこっちを、私を見ている。 それだけでもうどうにかなっちゃいそうなのに。私が視線に気付いたのを見て、彼は薄く笑ってくれた。 (来て、良かったぁ…) 皆が推しに近づくために並んでいる中、私も推しに気付いてもらえた。もう、天に昇ってしまいそう。 …まぁ、私は彼とチェキを撮ったわけでは無いけれど。

    2 20/05/10(日)23:53:03 No.687946161

    軽く彼に手を振って、満足感に胸を満たされながら会場を後に。 ……しそうだった。危なかった。 彼と目を合わせてくれた幸せの鞄にもう一度手を入れて、今度こそ目当てのものを取り出す。 持って来ていた、彼女達のブロマイド。 胸の前で目を皿にして、枚数をしっかり確認。 1、2、3、4、5、6、7。 しっかり7枚。彼女達全員と撮った、大事な大事なブロマイド。 (あの噂が本当なら、これで…!) 『彼がプロデュースする彼女達全員とブロマイドを撮ると、彼が特別なファンサービスをしてくれる』 そんな根も葉もない噂話に縋っちゃうのも、彼とお近づきになる機会が無いから。 誤解して欲しくないのだけど、私は彼女達が好き。明るく、強い彼女達を心から応援してるし、皆大好き。 なんて、誰に向けたわけでもない言い訳を目の前のブロマイドにこっそりと。 「……よし」 ちょっとだけ気が楽になった。ありがとう皆。大好きだよ。 とはいえやっぱり緊張するもので、震えた手でブロマイドを小さく掲げた私はかなり滑稽だったと思う。

    3 20/05/10(日)23:53:16 No.687946229

    顔の前に掲げたブロマイドに、彼は気付いてくれているだろうか。 なんせブロマイドが邪魔で彼が見えない。我ながら、バカ。 ……何秒掲げたかな。体感ではもう5分くらいは経っているけれど。 ゆっくりそぉっと、構えた腕をそのままに横から顔を出してみる。 変わらずステージ上に立っている彼。表情も変わっていない……そこはかとなく、呆れてるように見える。 (あっ…消えたい。恥ずかしい。消えたい。帰ろう) 勘違いの期待がすり抜けていった羞恥で頭が真っ白。 足先がサラサラと砂になっていく感覚。指先が痺れて力が入っているかもわからない。 そんな私を見て、彼が動いた。 呆然としている私を見ながら腕を上げて、右手を顔へ。 開かれていた彼の手が、人差し指と中指を残して閉じられた。 くっ付いてピンと立っている二つの指が、彼の顔へ近づいていく。 指のお腹で唇へ。今も薄く曲がっている唇に。 やがて唇に触れたその指は、唇から離れて。 そして、私に向けられた。

    4 20/05/10(日)23:53:30 No.687946335

    「ひゃ…ぁ…」 反応しようとしたけれど、掠れた情けない声がなんとか口から出ただけ。悲鳴も上げられなかった。 彼の行動に、彼の指に、彼の唇に、釘付け。 どうしよう。今、私、顔真っ赤だ。 隠し切れないし、隠せない。 悪戯っぽく笑う彼しか、もう、見えない。 …そうして、いつまでボーっとしてたんだろう。 周りの喧騒が一際華やいだタイミングでようやく我に返って、どうしようか。 お礼。お礼だ。最高のファンサービスに、お礼しなきゃ。 慌てて彼へ頭を下げる。もう背中が曲がって戻れなくなっちゃうんじゃないかってくらい、深く曲げてお辞儀。 (感謝の気持ち…彼に届いて…!) 何度も何度も念を送って、いっぱい感謝をして、顔を上げる。 ニコニコ笑う彼が軽く会釈をしてくれたのと、彼の背後に誰かが居るのが全く同時に視界に入った。 ……あれは、一号ちゃんだ。 彼と同じように、彼女もニコニコ笑っている。怖いくらいにニコニコしてる。

    5 20/05/10(日)23:54:09 No.687946583

    一号ちゃんは笑顔のまま、彼の肩を叩いた。 後ろへ振り向いて一号ちゃんを見た彼の動きが止まり、一号ちゃんは更に笑みを深くする。 何故か後ずさる彼の腕を掴んで、私に会釈してから、ステージ裏へと彼を引き摺って消えてしまった。 (…なんだったんだろう?) 緊急の用事だったのかな?と周りを見ても、特に何も事件は起きていない。 強いて挙げるなら、弐号ちゃんも三号ちゃんもステージを向いて、やれやれと首を振っているくらい。 その所作も長くはしてなくて、ファンの人が来たら輝く笑顔に早変わり。 それに、すぐに一号ちゃんも戻って来た。待たせてしまった分、少し忙しそうに今もチェキを撮っている。 ……何だったのか、やっぱり、よくわからない。 (…まぁ、いっか) 今の私は、これ以上無い程に上機嫌。 今でも本当に起きた事なのか自分でも疑っちゃうけど、あの噂は本当だった。 そして彼の“リップサービス”は最高だった。 それで、もう十分。 友達に自慢したい!なんて逸る気持ちを抑えながら、今日もグッズを買って家路に着くのだった。

    6 20/05/10(日)23:55:02 No.687946979

    し…死んだ…

    7 20/05/11(月)00:00:11 No.687948741

    グラサンはさあ…ガチ恋勢生み出す人?

    8 20/05/11(月)00:18:50 No.687954825

    リップサービスってそういう…