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20/05/10(日)17:35:28 砕蜂は... のスレッド詳細

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20/05/10(日)17:35:28 No.687808811

砕蜂は歩いていた。 目的もなく、行く宛もなく、ただ一人どこまでも歩いていた。 大前田に不気味がられようと、大粒の豪雨が視界を阻もうと、彼女は口を真一文字に結んで歩き続けた。 砕蜂は懸命だった。 暇を持て余した師から言い渡された修行、高速移動と鍛練と戦闘の禁止を忠実に実行していた。 その三つを封じられた途端にやる事を無くしてしまう己の呆気なさを嫌悪しながら、砕蜂はそんな己を引きずってどこまでも歩き続けた。 誰も彼女の傍には寄り付かなかった。おおかた何か事情があるらしい事を察し、苛立ちの火の粉が自らに降りかかる事を恐れ、豪雨の中を進む小さな影を、隊舎の内から見送った。

1 20/05/10(日)17:36:17 No.687809056

その頃マユリ様はしゃぶしゃぶを食べていた

2 20/05/10(日)17:36:43 No.687809164

歩を進める砕蜂の小さな両手には、不釣り合いに大きな番傘が握られていた。隊長用に拵えられたその傘は、彼女の視界をすっぽりと覆ってしまう不便なものだった。 周囲から砕蜂の顔は見えず、砕蜂からも周囲を伺う事はできない。彼女は視線を落とし、足元で跳ねる泥を見ながら一人で歩いた。 いつまで続くのだろう、と砕蜂は再び思った。足元の泥はいつまでも泥のまま、番傘を喧しく叩く雨音が途絶えることも無い。歩きながら停滞を続けるうち、砕蜂は自らが陰鬱な絵画の中に捕えられたようにすら錯覚した。 それでもひたすらに歩き続けた。変わらない景色の中を、変わらないスピードで彼女は歩き続けた。

3 20/05/10(日)17:41:56 No.687810720

両手に感じていた番傘の重みが不意に消えた瞬間、砕蜂は初めて歩みを止めた。 彼女の手を離れた番傘は、男の大きな片手にすんなりと収まっていた。 番傘を奪い取った男、黒崎一護は不思議そうに砕蜂の不機嫌な顔を眺めて事情を問うたが、答えはない。 砕蜂に下された修行の内容は、口外を固く禁じられていた。その方が面白くなりそうだから、と師は笑って言った。 奪い返しもせず、悪態もつかず、ただ返すよう要求し続ける姉弟子の姿の奥に、一護は夜一の意地悪な笑顔を見た。そしてその他大勢と同じように彼女の事情を察し、その上で番傘を返しはしなかった。 砕蜂は怒りに任せ、その理由を執拗に問い詰めた。アンタがあんまりつまんなそーにしてっから、としか彼は言わなかった。

4 20/05/10(日)17:47:40 No.687812504

必死の抗議も受け入れられない事を悟った砕蜂は一護に背を向け、豪雨の中へと歩き出す。 一護もまた、無言のまま同じ方向へ歩き出した。無理に事情を語らせようとするほど強引でもなければ、見捨てるほど薄情でもないのが黒崎一護という男だった。 彼は誰にも言えない事情を抱えたまま歩く姉弟子の在り方を寛容して寄り添う事を、半ば無意識的に選んでいた。 豪雨の中を進む足音は、ふたつ。傘の重みから開放された砕蜂の両手が軽快に揺れる。視界は相変わらず豪雨の壁に閉ざされていたが、見上げれば番傘に施された豪奢な装飾が星空のように煌いている。 砕蜂はいつの間にか自分があの陰鬱な絵画から助け出されていた事に気付き、ほんの少し一護に視線をやった。彼は、ずっと砕蜂の方を見て微笑んでいた。 代わり映えのしない雨音をBGMに、一護はごく自然に喋り始める。どれも他愛のない話だった。 最近食べて美味かったもの、愉快な仲間の奇行、これからやりたいこと。彼の話の一つ一つに、砕蜂は耳を傾けた。時たま問いを投げかけ、またいくつかの問いにも答えた。

5 20/05/10(日)17:49:52 No.687813183

隊舎の前の広場まで辿り着いた時、砕蜂は不意に一歩を大きく踏み出した。 その細身が雨粒に曝される寸前、慌てた一護が差し出す番傘が彼女を護る。 身勝手にも雨中へ投げ出した己の体をなおも濡らさぬよう足掻く弟弟子の懸命に、口元は自然と緩んでいた。 彼女は少しばかりステップを加えて、傘から逃れるように前後左右へ跳ね続ける。一護は困惑しながらも、なんとか彼女の動きに喰らいつこうと奮闘する。 いつまでも続けばいい、と砕蜂は初めて思った。閉ざされた世界の内側で、赤い番傘の天蓋の下、二人は疲れ果てるまで踊り続けた。 それから砕蜂は肩で息をする一護を隊舎に招き、いつの間にかずぶ濡れになっていた彼に贅沢な湯浴みをさせ、膳を突き合わせて飯を食べ、律儀に礼を言って帰路につこうとする彼に無言で番傘を突き出した。 意図を察した彼が傘を持つと、砕蜂はさも当然のように番傘の半分を陣取り、再び雨の中へと歩き始めるのだった。

6 20/05/10(日)17:52:44 No.687814071

一砕をお許し下さい 虚圏の神よ

7 20/05/10(日)17:53:30 No.687814313

いい…

8 20/05/10(日)17:53:35 No.687814342

>一砕をお許し下さい >虚圏の神よ いいよ

9 20/05/10(日)17:54:07 No.687814501

ありがとう

10 20/05/10(日)17:54:41 No.687814675

バラガンなんかホカホカする!

11 20/05/10(日)17:56:53 No.687815256

月島さんの能力って挟むたびにこんな文章考えないといけないのか…意外と大変だな

12 20/05/10(日)17:59:19 No.687815934

>隊舎の前の広場まで辿り着いた時、砕蜂は不意に一歩を大きく踏み出した。 >その細身が雨粒に曝される寸前、慌てた一護が差し出す番傘が彼女を護る。 >身勝手にも雨中へ投げ出した己の体をなおも濡らさぬよう足掻く弟弟子の懸命に、口元は自然と緩んでいた。 バラガンここすき!

13 20/05/10(日)18:02:03 No.687816767

>少しばかりステップを加えて さらっとネタが込められている….

14 20/05/10(日)18:05:44 No.687817856

久々に一砕怪文書見た

15 20/05/10(日)18:13:22 No.687820067

最高かよ…

16 20/05/10(日)18:15:19 No.687820703

17 20/05/10(日)18:18:02 No.687821501

井上…黒崎くんの優しさにつけ込みやがってと思っているかもしれないがそんなことはないぞ… 砕蜂も姉弟子として頑張っている…

18 20/05/10(日)18:22:48 No.687822965

>… ペェ~~~ット黙れよお前の仕事は黙って一砕怪文書を読む事だ

19 20/05/10(日)18:24:59 No.687823643

これ確かSS編と破面編半ばくらいのエピだったよね 20巻代半ばくらいの

20 20/05/10(日)18:29:04 No.687824756

月島さんの能力よくよく考えたらまんまギャルゲのルートシステムだな…

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