虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

20/03/02(月)22:23:37 No.667879920

壁際のテーブル席から、男の重いため息が聞こえる。 背負い続けた苦悩は今やすっかり彼の一部となってしまった。これまでもこれからも、終わりなく彼を苦しめ続けるのだろう。 投げ出す事すら許されない宿命を背負った彼のために、せめてストロングゼロを振舞おう。 端の欠けたカウンターで自己嫌悪に耽る女はひどく思いつめている。堂々巡りの考えは螺旋を描いて心を荒らし、己の墓を深く掘る。 抜け出す事さえ許されない牢獄に囚われた彼女のために、やはりストロングゼロを振舞おう。 果てない未来に、男の青い目が澱む。届かぬ過去に、女の赤い髪が揺れる。 いっそ忘れてしまおうか。安い酒ならたんとある。やつれた顔を突き合わせれば、愚痴でお経が書けそうだ。 騒いで滅ぶもいいだろう。不味いつまみならたんとある。愛も絆も投げ捨てて、欲を重ねてしまいたい。 男も女も、誰も彼もが疲れていた。何もかもがどうでもよかった。 どうでもいいから、七色に輝く退廃すら見過ごされた。疲れた体に鞭打って、二人は二つの世界へ帰る。 幸いな事に、私の酒場は賑やかさとは無縁だった。とりあえず、今日のところは。